また、いなくなった

織賀光希

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また、いなくなった

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 また、いなくなった。今回は、かなり早かったな。

 寝不足がヒドイ。起きているのか寝ているのか。よく分からない状態を、 4、5時間過ごした感じ。

 僕の隣に住む人。それが、なぜかすぐに引っ越してしまう。

 僕に原因が、あるのかもしれない。でも、それが何なのかは不明だ。

 右隣の人は大丈夫。何のしがらみもない。むしろ、仲良くやってる。

 左隣の人は、すぐいなくなる。女性も男性も。若い人も、年上の人も。

 その部屋は、呪われているのだろうか。僕の部屋を外から見たときの、左の部屋。そこは、呪われた部屋か。

 それとも、やはり僕との関係性が作りにくいからか。絡みにくい。そう、よく言われるし。

 最初の頃は、みんな笑顔だった。挨拶をすると、笑顔で返してくれた。

 でも、数日経ったとき。無視が現れはじめる。小走りも、出てきはじめる。

 たぶん、僕のせいだろう。確定だ。小走りが、決定打になった。




 新たな人が、引っ越してきた。かなりの美女だ。笑顔が自然だった。今まで、作り笑顔を見すぎている。だから、分かる。

「はじめまして。よろしくお願いします」
「あっ、どうも。あの。隣に引っ越してきたサクライです」
「あっ、どうも」

 挨拶に、笑顔で返してくれた。お辞儀的なものに、キレがあった。

 初対面では、好きにならないタイプ。でも、好意が沸き上がっていた。

 ノースリーブの三枚重ね。美女は、独特なファッションをしている。それもいい。




「あの。こんにちは」
「こんにちは」
「あの。今日は、何してたんですか?」
「休みだったので、お散歩に」
「あの。今日もいい天気ですね」
「そうですね。気持ちいいですね」

 文の頭に『あの』を入れないと喋れない人か。やや変わっているお人だ。

 美女の不思議は、大好きだ。インパクトがある方が、好きかもしれない。

 その日は、嬉しくて、ぐっすり寝られた。ストレスが、どこかに飛んでいったんだと思う。




 次の日は、また眠れなくなった。そのまま、夜中に入った。

『♪ピンポーン』
 玄関チャイムが鳴った。こんな時間に、来客なんて初めてだ。

 寝ぼけて、なかなか起きられなか
った。力を入れて、立ち上がる。そして、やっと扉を開けた。

『ガチャッ』
「あの、すみません。夜遅くに」
「櫻井さん?」

「あの。大丈夫ですか? 私に助けを呼びましたよね?」
「えっ?」

「あの、だって。ツラいですよね? チャイム鳴らしてから来るまで、かなり時間掛かりましたし」
「まあ、そうですけど」

「あの。壁をドンドン叩いてましたよね」
「あっ、それは。寝相が最悪なだけだと思います」

「あの。助けてほしい訳ではないんですね?」
「ごめんなさい、寝相です。ベッド下で起きたりすることも、たまにあるので」

 そうか。ここで気が付いてしまった。全てが重なった気がする。

 今までの、出ていった隣人さんのこと。無視や小走りが増えたこと。全ての原因は、ここにあったのだ。

 怖かったろう。たぶん、今までの人は、脅し壁殴りだと思ったのだろう。

 出ていった沢山の人たちに、心の中でごめんなさいと言った。




「お一い、お一い。聞いてますか?」
「えっ、何ですか?」

 まだ、いることを忘れていた。夜中に、ごめんなさいと改めて思った。

「あの。明日の朝に、何食べるかって話してたんですけど」
「そんな話、してましたっけ?」

 かなり変な人だ。美女だけど、変人だ。

「あの。どうしたんですか? 変な人を見るような顔してますけど」
「夜中に訪ねてきた人が、初めてだったから」

「あの。どういうことですか?」
「左隣の人から無視されたり、みんなすぐ引っ越しちゃって」

「あの。どうしてですか?」
「たぶんなんですけど、寝相悪くて壁をドンドンしていたのが。脅しだと思われたと、思うんですよ」

「ありえますね」
 そう言った美女は、最高の笑顔をしていた。
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