振り返らない前の席の男子

織賀光希

文字の大きさ
1 / 1

振り返らない前の席の男子

しおりを挟む
 男女関係なく、くじ引き。それが、今回の席替えのルール。男女を分けない。それは、イマドキかと思う。

 ただ、紙切れを使ったくじ引き。箱から、紙を引くというくじ引きだ。デジタル時代に、背くやり方。これは、どうかと思う。

 イマドキ、こんなことするか。孤立を、生み兼ねないというのに。誰かが絶望に落ちたら、どうするんだ。

 仲良しで、近くにいたい。仲良しで、一緒に勉強したい。仲良しと一緒なら、勉強がはかどる。それは、今も昔も変わらないものだ。







 孤立した。完全に孤立した。一番左の、一番後ろの席。カーテンと日差しと、仲良くするしかない席だ。

 すぐ、ベランダに出られる。そんな席だ。そんな席だった。一年前までは。でも中学になって、ベランダがないタイプになった。絶望だ。小学校は、あったのに。

 校庭はある。でも、殺風景だ。何にもない。淀み色のみ。授業に飽きたとき、どうしよう。妄想の種になるようなもの。そんなのは、何もない。



 女子だったら良かった。まわりに、女子がいたらよかった。そしたら、耐えられた。誰ともまんべんなく、話したことがあるから。

 全員と、合計で分超えの話をしてきたから。でも、男子だけだ。男子としか、接していない席だ。

 ため息をした。吸わずに吐いて、一分は吐き出せる。そんなくらい、モヤモヤがあった。女子と、テレパシーで繋がれる別世界に、身を置きたかった。

 男子の高い壁の奥に、女子が集まっている。塊になって、雑談してる。雑と名の付く話。それでも、うらやましい。丁寧談なんて、ないだろうが。

 楽しそうに、話している。女子と、隣同士になっていない女子は、私だけだ。落ちゲーだったら、しばらく消えない。消えられない。そんな、寂しい存在だ。



 前には、無口な男子。右には、関わりたくない、お調子者男子。ななめ右前には、真面目すぎる眼鏡男子。相性が、少し悪い。

 限界だ。まだ初日なのに、もう疲れた。気軽が欲しいのに。普通が欲しいのに。どこにも、落ちていない。

 ちょうどいいのが、ひとりもいない。上と下は、男子に接していない。床と天井だ。そこが、鏡張りなら。寂しさが、減ったかもしれない。

 いや、駄目だ。喋れないと、意味がない。すべての男子と、相性が悪い訳ではない。話せる男子は、結構いる。

 恋バナできる男子とか。美容とドラマに、ハマっている男子とか。でも、遠い場所にいる。繋がれない場所にいる。







 二日目になった。前の無口な男子は、もちろん。右のお調子者男子も、話し掛けてこない。私に、人見知ってる気がする。

 お調子者男子は、相変わらずだ。私以外のすべてのクラスメートに、本領を発揮してる。でも、私には会釈するばかりだ。

 恋バナ男子は言った。昨日の放課後、私に言った。そのお調子者男子が、私を好きなんじゃないかと。あり得る気はする。0ではない、気がする。

 でも、そんなことはあるだろうか。だって、違う女子を目で追っている。ずっとずっと。ふと見ると、決まって、クラスのマドンナを見つめている。だから、違う。



 前の男子が、まだ振り返ってきていない。言葉もくれない。ここは、私から喋り掛けた方が、いいかもしれない。

 でも、気を付けないといけない。悪い癖が出てしまうから。今は、おさまっている。だが、いつ再発するか分からない。

 背中に、手を伸ばす。そうすると、シャーペンを刺したくなる。かなり、刺したくなってしまう。もちろん、芯をしまった状態でだ。

 声だけでは、振り向かせられない。そうなると、肩を叩くことになる。だから、手を伸ばす。その手にはなぜか、シャーペンを持ってしまう。

 シャーペンツンツンを、起こしたなら。その後、何をしても嫌われそう。だからもう、諦める。

 シャーペンの芯を、一日一本分け与えても。毎日毎日、背中をさすって、労り続けても。逆効果だろう。

 だから、最初から、何もしない。静かにしておくのが、一番だ。



 ずっと、振り向いてくれない。でも、仕草や行動から、優しさが汲み取れてきた。

 プリントを、優しく回してくれたり。落とした消しゴムに、すぐ気づいて、拾って渡してくれたり。

 ペコペコと、こちらに挨拶してくれたり。可愛さと優しさが、滲んでいた。

 ただ、どれも後ろ姿のままだ。横顔もない。頬も見せてくれない。

 前を向きながら、気遣いをくれる。そんな姿に、心が揺れた。

 キュンキュンした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

身体交換

廣瀬純七
SF
大富豪の老人の男性と若い女性が身体を交換する話

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

橘若頭と怖がり姫

真木
恋愛
八歳の希乃は、母を救うために極道・橘家の門を叩き、「大人になったら自分のすべてを差し出す」と約束する。 その言葉を受け取った橘家の若頭・司は、希乃を保護し、慈しみ、外界から遠ざけて育ててきた。 高校生になった希乃は、虚弱体質で寝込んでばかり。思いつめて、今まで養ってもらったお金を返そうと夜の街に向かうが、そこに司が現れて……。

処理中です...