振り返らない前の席の男子

織賀光希

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振り返らない前の席の男子

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 男女関係なく、くじ引き。それが、今回の席替えのルール。男女を分けない。それは、イマドキかと思う。

 ただ、紙切れを使ったくじ引き。箱から、紙を引くというくじ引きだ。デジタル時代に、背くやり方。これは、どうかと思う。

 イマドキ、こんなことするか。孤立を、生み兼ねないというのに。誰かが絶望に落ちたら、どうするんだ。

 仲良しで、近くにいたい。仲良しで、一緒に勉強したい。仲良しと一緒なら、勉強がはかどる。それは、今も昔も変わらないものだ。







 孤立した。完全に孤立した。一番左の、一番後ろの席。カーテンと日差しと、仲良くするしかない席だ。

 すぐ、ベランダに出られる。そんな席だ。そんな席だった。一年前までは。でも中学になって、ベランダがないタイプになった。絶望だ。小学校は、あったのに。

 校庭はある。でも、殺風景だ。何にもない。淀み色のみ。授業に飽きたとき、どうしよう。妄想の種になるようなもの。そんなのは、何もない。



 女子だったら良かった。まわりに、女子がいたらよかった。そしたら、耐えられた。誰ともまんべんなく、話したことがあるから。

 全員と、合計で分超えの話をしてきたから。でも、男子だけだ。男子としか、接していない席だ。

 ため息をした。吸わずに吐いて、一分は吐き出せる。そんなくらい、モヤモヤがあった。女子と、テレパシーで繋がれる別世界に、身を置きたかった。

 男子の高い壁の奥に、女子が集まっている。塊になって、雑談してる。雑と名の付く話。それでも、うらやましい。丁寧談なんて、ないだろうが。

 楽しそうに、話している。女子と、隣同士になっていない女子は、私だけだ。落ちゲーだったら、しばらく消えない。消えられない。そんな、寂しい存在だ。



 前には、無口な男子。右には、関わりたくない、お調子者男子。ななめ右前には、真面目すぎる眼鏡男子。相性が、少し悪い。

 限界だ。まだ初日なのに、もう疲れた。気軽が欲しいのに。普通が欲しいのに。どこにも、落ちていない。

 ちょうどいいのが、ひとりもいない。上と下は、男子に接していない。床と天井だ。そこが、鏡張りなら。寂しさが、減ったかもしれない。

 いや、駄目だ。喋れないと、意味がない。すべての男子と、相性が悪い訳ではない。話せる男子は、結構いる。

 恋バナできる男子とか。美容とドラマに、ハマっている男子とか。でも、遠い場所にいる。繋がれない場所にいる。







 二日目になった。前の無口な男子は、もちろん。右のお調子者男子も、話し掛けてこない。私に、人見知ってる気がする。

 お調子者男子は、相変わらずだ。私以外のすべてのクラスメートに、本領を発揮してる。でも、私には会釈するばかりだ。

 恋バナ男子は言った。昨日の放課後、私に言った。そのお調子者男子が、私を好きなんじゃないかと。あり得る気はする。0ではない、気がする。

 でも、そんなことはあるだろうか。だって、違う女子を目で追っている。ずっとずっと。ふと見ると、決まって、クラスのマドンナを見つめている。だから、違う。



 前の男子が、まだ振り返ってきていない。言葉もくれない。ここは、私から喋り掛けた方が、いいかもしれない。

 でも、気を付けないといけない。悪い癖が出てしまうから。今は、おさまっている。だが、いつ再発するか分からない。

 背中に、手を伸ばす。そうすると、シャーペンを刺したくなる。かなり、刺したくなってしまう。もちろん、芯をしまった状態でだ。

 声だけでは、振り向かせられない。そうなると、肩を叩くことになる。だから、手を伸ばす。その手にはなぜか、シャーペンを持ってしまう。

 シャーペンツンツンを、起こしたなら。その後、何をしても嫌われそう。だからもう、諦める。

 シャーペンの芯を、一日一本分け与えても。毎日毎日、背中をさすって、労り続けても。逆効果だろう。

 だから、最初から、何もしない。静かにしておくのが、一番だ。



 ずっと、振り向いてくれない。でも、仕草や行動から、優しさが汲み取れてきた。

 プリントを、優しく回してくれたり。落とした消しゴムに、すぐ気づいて、拾って渡してくれたり。

 ペコペコと、こちらに挨拶してくれたり。可愛さと優しさが、滲んでいた。

 ただ、どれも後ろ姿のままだ。横顔もない。頬も見せてくれない。

 前を向きながら、気遣いをくれる。そんな姿に、心が揺れた。

 キュンキュンした。
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