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4章 インターハイ予選開始!
023話 運命の人と、オーダーと ①
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SIDE:MIO
「いやー、強い強い」
シングルスを終えた莉愛が帰ってくる。負けて当然といった感じが見ていて辛くなる。
いくら相手が元北海道王者でも、本当の莉愛は二年間ブランクがある相手に負けるような強さじゃなかったんだ。
下手な私たちしかいなくて、いつも四割くらいの力でしか練習できなかった莉愛。
あの最強カットマンだった莉愛をこんなに弱くさせてしまって私はただただ悔しかった。
「さ、美青ちゃん。切り替えてダブルスいこっか」
試合前の、莉愛の言葉を思い出す。
相手の副将、私のシングルスの対戦相手は莉愛に憧れてカットマンになった子らしい。三年間、莉愛のカットを打ち返し続けた人間として絶対に負けられない。
そのためにも、ダブルスは絶対に取る。
「うん。莉愛、絶対ダブルス取ろう」
***
SIDE:YUNO
試合前のラリーが始まる。
ダブルスというのが信じられないくらいスムーズにラリーを行う先輩と稔里ちゃん。それに対し、相手は佐藤さんがカットマン特有の柔らかい返球でさすがという返球をするが、パートナーの中村さんはこの四人の中ではやはり一段劣っているようで、先程からラリーのスピードについていけなくてミスをしていた。
実力通りなら負けるわけがないダブルスだけど、それでも次のシングルスの相手ということでしっかりと相手のスタイルを分析しなければ。
「ラブオール」
絵東先輩が台の下で小さくサインを出す。
卓球のダブルスは交互に打たなければいけないため、どの方向へどの回転のサーブを打ち、その後どのような打ち合いをする、などかなり細かいサインプレーが要求される。のだけれど、先輩と稔里ちゃんは阿吽の呼吸で意思疎通ができているらしく、ごく基本的なサインしか出していない。
サイン通りのロングサーブに対し、相手の佐藤さんはフォアに回り込んでカットを打つ。自分でもあのコースならバックで待たずにフォアに回り込むので同じ考えだ。
フォアカットに対し稔里ちゃんがループドライブを放つ。見るからに回転量の多そうなドライブに対し相手の中村さんはラケットを被せるがループドライブの上回転を抑え込めずにボールはコートをオーバーする。こちらが幸先よく先制する。
その後数回のラリーが続き、序盤戦は6-2とこちらが大きくリードする。佐藤さんは私の勝手に抱いていた『どんなボールもカットで拾い続ける』とまではいかないものの、時折もの凄い回転量のカットを打ち稔里ちゃんのミスを誘っている。
対して、中村さんはオールラウンダーで割と器用に何でもできるけど、いかんせんこの四人の中では実力的に劣るものがあって、ほとんどが彼女のミスによる失点だ。
ダブルス特有のコースが重なってしまい、という失点はほとんど無いが、稔里ちゃんのドライブに打ち負けていることが多い。
「ねえ、ゆの」
「何?」
試合中の二人には気付かれない声の大きさで美夏がひそひそ話をしてくる。
「相手、カットマンが一人のダブルスだけど、コース全然被ってなくね?」
「たしかに」
先日美夏に話した、片方がカットマンのダブルスだとカットマンの動きが独特でパートナーと動きが被ってしまうという現象が相手のダブルスにほとんど起きていなかった。
「工藤さん、鈴原さん。相手の二人はダブルスの動きをかなり練習しています。応援するのとは別に、相手を見てダブルスの動きを学んでください」
「はいっ」
前原先生の声に頷く。私と美夏のダブルスで先輩と稔里ちゃん相手にあそこまで良い試合はできない、というかそもそも試合になるような動きにならない。
卓球はラケットを振る、ラバーでボールを回転させるという動きも大事だが、そもそもの前後左右のフットワークという動きも大切だ。一回戦のダブルスから色々と学ばせてもらっている。
そして相手側の立場で見れば尚更に絵東・有栖川コンビのダブルスの強さが際立つ。結局終わってみれば11-4、11-6、11-2のゲームカウント3-0、完勝だった。
「三対ゼロで札幌山花高校の勝ちです。礼」
「ありがとうございました!」
試合が終わって礼をする。
団体戦で勝利の礼をするのなんていつ以来だろう。こんなに嬉しいものだったなんて。
「りありー久しぶりの試合楽しかったよ」
「雪ちゃん次マリ女にも勝ってね」
団体戦の試合後は、普通は礼をして終わりだが、相手チームに知り合いがいるときは軽く一言二言交わす人もいる。今も昔クラブが一緒だったという絵東先輩と相手チームの佐藤さんが話していた。
その佐藤さんが、私の方にやってくる。
「キミがカットマンの子?」
「は、はい! 鈴原です」
急に憧れの人に話し掛けられて声が上ずってしまう。
「雪ちゃんから話聞いてるよ。マリ女相手にも、拾って拾って、拾いまくってやってね」
「……はいっ!」
「いやー、強い強い」
シングルスを終えた莉愛が帰ってくる。負けて当然といった感じが見ていて辛くなる。
いくら相手が元北海道王者でも、本当の莉愛は二年間ブランクがある相手に負けるような強さじゃなかったんだ。
下手な私たちしかいなくて、いつも四割くらいの力でしか練習できなかった莉愛。
あの最強カットマンだった莉愛をこんなに弱くさせてしまって私はただただ悔しかった。
「さ、美青ちゃん。切り替えてダブルスいこっか」
試合前の、莉愛の言葉を思い出す。
相手の副将、私のシングルスの対戦相手は莉愛に憧れてカットマンになった子らしい。三年間、莉愛のカットを打ち返し続けた人間として絶対に負けられない。
そのためにも、ダブルスは絶対に取る。
「うん。莉愛、絶対ダブルス取ろう」
***
SIDE:YUNO
試合前のラリーが始まる。
ダブルスというのが信じられないくらいスムーズにラリーを行う先輩と稔里ちゃん。それに対し、相手は佐藤さんがカットマン特有の柔らかい返球でさすがという返球をするが、パートナーの中村さんはこの四人の中ではやはり一段劣っているようで、先程からラリーのスピードについていけなくてミスをしていた。
実力通りなら負けるわけがないダブルスだけど、それでも次のシングルスの相手ということでしっかりと相手のスタイルを分析しなければ。
「ラブオール」
絵東先輩が台の下で小さくサインを出す。
卓球のダブルスは交互に打たなければいけないため、どの方向へどの回転のサーブを打ち、その後どのような打ち合いをする、などかなり細かいサインプレーが要求される。のだけれど、先輩と稔里ちゃんは阿吽の呼吸で意思疎通ができているらしく、ごく基本的なサインしか出していない。
サイン通りのロングサーブに対し、相手の佐藤さんはフォアに回り込んでカットを打つ。自分でもあのコースならバックで待たずにフォアに回り込むので同じ考えだ。
フォアカットに対し稔里ちゃんがループドライブを放つ。見るからに回転量の多そうなドライブに対し相手の中村さんはラケットを被せるがループドライブの上回転を抑え込めずにボールはコートをオーバーする。こちらが幸先よく先制する。
その後数回のラリーが続き、序盤戦は6-2とこちらが大きくリードする。佐藤さんは私の勝手に抱いていた『どんなボールもカットで拾い続ける』とまではいかないものの、時折もの凄い回転量のカットを打ち稔里ちゃんのミスを誘っている。
対して、中村さんはオールラウンダーで割と器用に何でもできるけど、いかんせんこの四人の中では実力的に劣るものがあって、ほとんどが彼女のミスによる失点だ。
ダブルス特有のコースが重なってしまい、という失点はほとんど無いが、稔里ちゃんのドライブに打ち負けていることが多い。
「ねえ、ゆの」
「何?」
試合中の二人には気付かれない声の大きさで美夏がひそひそ話をしてくる。
「相手、カットマンが一人のダブルスだけど、コース全然被ってなくね?」
「たしかに」
先日美夏に話した、片方がカットマンのダブルスだとカットマンの動きが独特でパートナーと動きが被ってしまうという現象が相手のダブルスにほとんど起きていなかった。
「工藤さん、鈴原さん。相手の二人はダブルスの動きをかなり練習しています。応援するのとは別に、相手を見てダブルスの動きを学んでください」
「はいっ」
前原先生の声に頷く。私と美夏のダブルスで先輩と稔里ちゃん相手にあそこまで良い試合はできない、というかそもそも試合になるような動きにならない。
卓球はラケットを振る、ラバーでボールを回転させるという動きも大事だが、そもそもの前後左右のフットワークという動きも大切だ。一回戦のダブルスから色々と学ばせてもらっている。
そして相手側の立場で見れば尚更に絵東・有栖川コンビのダブルスの強さが際立つ。結局終わってみれば11-4、11-6、11-2のゲームカウント3-0、完勝だった。
「三対ゼロで札幌山花高校の勝ちです。礼」
「ありがとうございました!」
試合が終わって礼をする。
団体戦で勝利の礼をするのなんていつ以来だろう。こんなに嬉しいものだったなんて。
「りありー久しぶりの試合楽しかったよ」
「雪ちゃん次マリ女にも勝ってね」
団体戦の試合後は、普通は礼をして終わりだが、相手チームに知り合いがいるときは軽く一言二言交わす人もいる。今も昔クラブが一緒だったという絵東先輩と相手チームの佐藤さんが話していた。
その佐藤さんが、私の方にやってくる。
「キミがカットマンの子?」
「は、はい! 鈴原です」
急に憧れの人に話し掛けられて声が上ずってしまう。
「雪ちゃんから話聞いてるよ。マリ女相手にも、拾って拾って、拾いまくってやってね」
「……はいっ!」
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