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第1章 プロローグ
プロローグ0 及川紗夜香
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「♪甘くてハッピー それは魔法のストーリー」
三人の少女達が、可愛らしい振り付けでダンスをしながら歌を歌っている。
それぞれ赤、白、青のカラフルな衣装を着た三人は、「ひとつぶキャンディ拾い上げ」という曲の歌詞に合わせて、親指と人差し指で丸くキャンディを作って、それをそっと拾い上げるような可愛いポーズをする。そうかと思えば曲の間奏では一転、リズムに合わせて腕を突き上げ、「ハイッ!ハイッ!」と掛け声を上げて観客を煽る。
飛び散る汗。弾ける笑顔。
その姿は『アイドル』と呼ばれるものであった。
三人は、ダンスの動きがたどたどしかったり、歌の音程が怪しいところがあったりと、一見してテレビに出ているようなプロのアイドルではないことがわかった。しかし、三人は本当に楽しそうに、全力で歌い、踊っていた。
「♪届けみんなへ 魔法のストーリー」
歌い終わり、最後の決めポーズを取る三人。決して多くはない観客が、精一杯の盛大な拍手を送る。
「みなさん、ありがとうございました!」
涙ぐみながら観客に礼をする三人。名残惜しそうに客席に手を振りながらステージ袖に戻っていく。
「先輩、お疲れ様でした!」
舞台袖に戻ってきた三人を迎えたのは、眼鏡を掛けた後輩らしき少女だった。
「紗夜香(さやか)、どうだった、私たちのラストステージ?」
「はい……、良かったです!」
迎える側の紗夜香の目も涙で潤んでいた。これはただのステージではない、三人の最後のステージだった。
★
『♪届けみんなへ 魔法のストーリー』
それから一ヵ月後。
彼女、及川紗夜香は、部屋で一人、ライブ映像の動画を見ていた。
部屋の中には年代もののPCの他に、色々な雑誌やCD、DVDが置いてあった。そのどれもが可愛い衣装を着た笑顔の少女たち、いわゆる「アイドル」を取り扱ったものだった。
紗夜香が今いる部屋の入口には、『アイドル同好会』と書かれたネームプレートが掛かっていた。そして、ちょうど終わった動画の最後には「札幌南女子高校 アイドル同好会『Re-alize!』卒業ステージ」というテロップが入っていた。
そう、彼女達は高校の同好会としてアイドル活動をしていたのだった。
紗夜香の通っているこの高校は、北海道立札幌南女子高校という名前であり、地元の人からは「南女(なんじょ)」という通称で呼ばれている。
地元では屈指の名門進学校であると同時に、体育会系の部活も文化系の部活も全国大会出場経験があるという、公立の女子高にしては珍しい文武両道を行く高校である。そのような実績のある高校ということで、お堅い雰囲気もしくはいわゆるお嬢様学校かといえば、そういったところは全くなく、むしろ私服での通学が認められているといった自由な校風の学校だった。
そういった自由な校風の学校とはいえ、高校に「アイドル同好会」があるというのは珍しかった。実際、全国大会へ出場するような強豪の部活動が部室の広さ等を優遇されているため、紗夜香の今居るアイドル同好会の部室は、全部で五、六人が座れる程度の机と書棚が一つあるだけの小さな部屋だった。
その小さな部屋で、紗夜香は動画を見続けていた。『Re-alize!』というグループ名だった先輩達三人の歌やダンスの切れは、テレビに出ているようなプロのアイドル達から比べると全然未熟な、同好会と呼ぶに相応な出来だった。しかし、歌い踊っている彼女達の目の輝きだけは、プロのアイドルにも負けないものがあった。そして、紗夜香はその目の輝きを、憧れを持って見ていた。
動画に一度も出てこないように、紗夜香自身はアイドルをやってはいなかった。紗夜香の容姿も悪い方では決してないのだが、眼鏡を掛けて亜麻色の髪をハーフアップにまとめた顔は、アイドルよりも文芸部に居た方がよほど似合っている。紗夜香は衣装作りや事務作業といった裏方として同好会に所属していた。
しかし、自分ではやっていなくても、紗夜香はアイドルが大好きだった。普通の女子高生が光り輝く存在に変わる瞬間がたまらなく愛おしかった。衣装の作成という形でアイドルになる過程に参加していることを誇りに思っていた。
だから、今のこの現状を真剣に憂いていた。
アイドル同好会は、動画の中でライブをしていた『Re-alize!』の先輩達が三人とも三年生だったために、この三月で卒業してしまった。
新三年生は紗夜香一人、そして新二年生はいない。つまり、このままだとアイドル同好会は来年度紗夜香一人で、廃部の危機に直面していた。
紗夜香はPCの横に飾ってある、先輩達と一緒に撮った写真を見つめる。その中に写っている紗夜香の笑顔は、アイドルをやっていた三人にも負けないほど晴れやかだった。
「先輩……、アイドル同好会は、絶対になくしたりしません」
そう決意を持った目で写真を見ながらつぶやいた紗夜香は、明日からの新学期に備えて、新入生勧誘用のビラの最終確認を行った。
三人の少女達が、可愛らしい振り付けでダンスをしながら歌を歌っている。
それぞれ赤、白、青のカラフルな衣装を着た三人は、「ひとつぶキャンディ拾い上げ」という曲の歌詞に合わせて、親指と人差し指で丸くキャンディを作って、それをそっと拾い上げるような可愛いポーズをする。そうかと思えば曲の間奏では一転、リズムに合わせて腕を突き上げ、「ハイッ!ハイッ!」と掛け声を上げて観客を煽る。
飛び散る汗。弾ける笑顔。
その姿は『アイドル』と呼ばれるものであった。
三人は、ダンスの動きがたどたどしかったり、歌の音程が怪しいところがあったりと、一見してテレビに出ているようなプロのアイドルではないことがわかった。しかし、三人は本当に楽しそうに、全力で歌い、踊っていた。
「♪届けみんなへ 魔法のストーリー」
歌い終わり、最後の決めポーズを取る三人。決して多くはない観客が、精一杯の盛大な拍手を送る。
「みなさん、ありがとうございました!」
涙ぐみながら観客に礼をする三人。名残惜しそうに客席に手を振りながらステージ袖に戻っていく。
「先輩、お疲れ様でした!」
舞台袖に戻ってきた三人を迎えたのは、眼鏡を掛けた後輩らしき少女だった。
「紗夜香(さやか)、どうだった、私たちのラストステージ?」
「はい……、良かったです!」
迎える側の紗夜香の目も涙で潤んでいた。これはただのステージではない、三人の最後のステージだった。
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『♪届けみんなへ 魔法のストーリー』
それから一ヵ月後。
彼女、及川紗夜香は、部屋で一人、ライブ映像の動画を見ていた。
部屋の中には年代もののPCの他に、色々な雑誌やCD、DVDが置いてあった。そのどれもが可愛い衣装を着た笑顔の少女たち、いわゆる「アイドル」を取り扱ったものだった。
紗夜香が今いる部屋の入口には、『アイドル同好会』と書かれたネームプレートが掛かっていた。そして、ちょうど終わった動画の最後には「札幌南女子高校 アイドル同好会『Re-alize!』卒業ステージ」というテロップが入っていた。
そう、彼女達は高校の同好会としてアイドル活動をしていたのだった。
紗夜香の通っているこの高校は、北海道立札幌南女子高校という名前であり、地元の人からは「南女(なんじょ)」という通称で呼ばれている。
地元では屈指の名門進学校であると同時に、体育会系の部活も文化系の部活も全国大会出場経験があるという、公立の女子高にしては珍しい文武両道を行く高校である。そのような実績のある高校ということで、お堅い雰囲気もしくはいわゆるお嬢様学校かといえば、そういったところは全くなく、むしろ私服での通学が認められているといった自由な校風の学校だった。
そういった自由な校風の学校とはいえ、高校に「アイドル同好会」があるというのは珍しかった。実際、全国大会へ出場するような強豪の部活動が部室の広さ等を優遇されているため、紗夜香の今居るアイドル同好会の部室は、全部で五、六人が座れる程度の机と書棚が一つあるだけの小さな部屋だった。
その小さな部屋で、紗夜香は動画を見続けていた。『Re-alize!』というグループ名だった先輩達三人の歌やダンスの切れは、テレビに出ているようなプロのアイドル達から比べると全然未熟な、同好会と呼ぶに相応な出来だった。しかし、歌い踊っている彼女達の目の輝きだけは、プロのアイドルにも負けないものがあった。そして、紗夜香はその目の輝きを、憧れを持って見ていた。
動画に一度も出てこないように、紗夜香自身はアイドルをやってはいなかった。紗夜香の容姿も悪い方では決してないのだが、眼鏡を掛けて亜麻色の髪をハーフアップにまとめた顔は、アイドルよりも文芸部に居た方がよほど似合っている。紗夜香は衣装作りや事務作業といった裏方として同好会に所属していた。
しかし、自分ではやっていなくても、紗夜香はアイドルが大好きだった。普通の女子高生が光り輝く存在に変わる瞬間がたまらなく愛おしかった。衣装の作成という形でアイドルになる過程に参加していることを誇りに思っていた。
だから、今のこの現状を真剣に憂いていた。
アイドル同好会は、動画の中でライブをしていた『Re-alize!』の先輩達が三人とも三年生だったために、この三月で卒業してしまった。
新三年生は紗夜香一人、そして新二年生はいない。つまり、このままだとアイドル同好会は来年度紗夜香一人で、廃部の危機に直面していた。
紗夜香はPCの横に飾ってある、先輩達と一緒に撮った写真を見つめる。その中に写っている紗夜香の笑顔は、アイドルをやっていた三人にも負けないほど晴れやかだった。
「先輩……、アイドル同好会は、絶対になくしたりしません」
そう決意を持った目で写真を見ながらつぶやいた紗夜香は、明日からの新学期に備えて、新入生勧誘用のビラの最終確認を行った。
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