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第五章
第五十八話
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あかりの新鮮な表情に嬉しさを感じながら、俺もあかりに言わなければいけないことがあった。
「あかりさん、すみませんでした!」
声を張り上げ、頭を直角に下げる。
「どうした? 改まって」
「お袋に聞きました。過去の事件のこと、俺を雇ってくれた経緯、その他諸々も……」
「なに⁉ 聞いたのか⁉」
あかりが唾を飛ばし詰め寄る。
「……はい。すみません」
「…………そうか」
夜空に輝く月を見上げ呟く。
「まあ、遅かれ早かれ知ることだったからな。いいさ、それは」
そして、感傷に浸る。
しかし、それも束の間、あかりがふと俺を見据える。
「だがな、朱雀が疑われたことは正直物凄く癪に障ったし、神田のことを冗談抜きで殺してやろうかと思った」
がっはっはっはっ、といつも通りの笑いを見せるが、俺の背筋は凍っていた。
もしその言葉が一般的な人から発せられたものであったなら、俺も一緒に笑い合えただろう。
しかし、発言主はあの明楽あかりだ。
あらゆる冗談が冗談の枠を抜き出て現実となってしまうような人物である。
そんな人物から『殺してやろうか』と言われたのだから、無理もない。
「そ、そうなん、ですね、ははは」
乾いた笑い声を出しながら、顔面から血の気が引いていく。
あかりがひとつひとつ確認するように静かに口を動かす。
「確かに朱雀は何でも出来るハイスペックの持ち主だ。それでも、一人の女の子なんだ。悪く言われれば悲しむし褒められれば喜ぶ、心の通った一人の人間、私たちと同じなんだ」
彼女を感情のないロボットと呼ぶ人たちがいるということを片岡に聞いた。
友達と呼べる存在があかりしかいないこともその時知った。
「片岡に何を言われたのかは知らないが、私と朱雀は契約なんかで結ばれているのではない。もっと太くて強い絆で結ばれているんだ」
その言葉の欠片が集まり俺の中に入ってくる。
想像以上の重さに俺の心が悲鳴を上げる。
「神田なら分かってくれる、同じ苦しみを知っている神田なら、そう思った分だけ、疑われた時、悲しかったんだ」
「…………はい」
俺は間違っていた。
「でも、今は信じてくれるんだろう?」
「はい!」
「うむ。最終的に信じてくれたのであれば……もう、それでいい」
おそらく崇徳院朱雀という人物を彼女の立場や性格から疑ってかかり、悪く言う人が多かったのだろう。
朱雀は他人の言うことに激高して自ら戦っていくタイプではない。
悪口を言われたらそれを己の中に溜め込んでしまうタイプであることは少ししか接していない俺でも分かる。
あかりはそれを嫌というほど知っていた。
だからこそ、代わりに怒っていたのだ。
朱雀はそんな奴じゃない、と。
責任感が人一倍強いあかりのことだ。
朱雀の母を見殺しにしてしまった、という負い目がないと言えば嘘になるが、それ以上に朱雀のことを思い信じていたのだろう。
そこに下衆な打算や思惑はひとかけらも存在していなかった。
あかりの苦しみは過去の事件で朱雀に縛られていることじゃなく、純粋に朱雀が差別と偏見に晒され縛られることが原因だったのだ。
改めてあかりを見る。
清々しく晴れた表情。
その顔にもう苦痛はなかった。
前を向くと中国マフィアのボスがリチャードによって後ろ手に取り押さえられ、手下達は地面に伸びている。
対してこちらの陣営に負傷者はいない。
譲二に精神的なストレスは与えてしまったものの、聡子が生きていると知り今は泣いて喜んでいる。
結果。
崇徳院組は人質にされていた聡子、殺されそうになった朱雀を助けることができ、マフィアの言いなりにならなくても済んだ。
それ故、今後、やりたくもない非合法な取引をしなくてもよくなった。
一件落着。
実行困難と考えられた依頼は全て完遂した。
――誰もがそう思っていた時だった。
「あかりさん、すみませんでした!」
声を張り上げ、頭を直角に下げる。
「どうした? 改まって」
「お袋に聞きました。過去の事件のこと、俺を雇ってくれた経緯、その他諸々も……」
「なに⁉ 聞いたのか⁉」
あかりが唾を飛ばし詰め寄る。
「……はい。すみません」
「…………そうか」
夜空に輝く月を見上げ呟く。
「まあ、遅かれ早かれ知ることだったからな。いいさ、それは」
そして、感傷に浸る。
しかし、それも束の間、あかりがふと俺を見据える。
「だがな、朱雀が疑われたことは正直物凄く癪に障ったし、神田のことを冗談抜きで殺してやろうかと思った」
がっはっはっはっ、といつも通りの笑いを見せるが、俺の背筋は凍っていた。
もしその言葉が一般的な人から発せられたものであったなら、俺も一緒に笑い合えただろう。
しかし、発言主はあの明楽あかりだ。
あらゆる冗談が冗談の枠を抜き出て現実となってしまうような人物である。
そんな人物から『殺してやろうか』と言われたのだから、無理もない。
「そ、そうなん、ですね、ははは」
乾いた笑い声を出しながら、顔面から血の気が引いていく。
あかりがひとつひとつ確認するように静かに口を動かす。
「確かに朱雀は何でも出来るハイスペックの持ち主だ。それでも、一人の女の子なんだ。悪く言われれば悲しむし褒められれば喜ぶ、心の通った一人の人間、私たちと同じなんだ」
彼女を感情のないロボットと呼ぶ人たちがいるということを片岡に聞いた。
友達と呼べる存在があかりしかいないこともその時知った。
「片岡に何を言われたのかは知らないが、私と朱雀は契約なんかで結ばれているのではない。もっと太くて強い絆で結ばれているんだ」
その言葉の欠片が集まり俺の中に入ってくる。
想像以上の重さに俺の心が悲鳴を上げる。
「神田なら分かってくれる、同じ苦しみを知っている神田なら、そう思った分だけ、疑われた時、悲しかったんだ」
「…………はい」
俺は間違っていた。
「でも、今は信じてくれるんだろう?」
「はい!」
「うむ。最終的に信じてくれたのであれば……もう、それでいい」
おそらく崇徳院朱雀という人物を彼女の立場や性格から疑ってかかり、悪く言う人が多かったのだろう。
朱雀は他人の言うことに激高して自ら戦っていくタイプではない。
悪口を言われたらそれを己の中に溜め込んでしまうタイプであることは少ししか接していない俺でも分かる。
あかりはそれを嫌というほど知っていた。
だからこそ、代わりに怒っていたのだ。
朱雀はそんな奴じゃない、と。
責任感が人一倍強いあかりのことだ。
朱雀の母を見殺しにしてしまった、という負い目がないと言えば嘘になるが、それ以上に朱雀のことを思い信じていたのだろう。
そこに下衆な打算や思惑はひとかけらも存在していなかった。
あかりの苦しみは過去の事件で朱雀に縛られていることじゃなく、純粋に朱雀が差別と偏見に晒され縛られることが原因だったのだ。
改めてあかりを見る。
清々しく晴れた表情。
その顔にもう苦痛はなかった。
前を向くと中国マフィアのボスがリチャードによって後ろ手に取り押さえられ、手下達は地面に伸びている。
対してこちらの陣営に負傷者はいない。
譲二に精神的なストレスは与えてしまったものの、聡子が生きていると知り今は泣いて喜んでいる。
結果。
崇徳院組は人質にされていた聡子、殺されそうになった朱雀を助けることができ、マフィアの言いなりにならなくても済んだ。
それ故、今後、やりたくもない非合法な取引をしなくてもよくなった。
一件落着。
実行困難と考えられた依頼は全て完遂した。
――誰もがそう思っていた時だった。
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