蠱惑の瞳の神子

ジカハツデン

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プロローグ

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助けを求めたって、現状に絶望を感じたって、誰も自分を助ける人はいない。そもそも自分は人に助けられる価値がある人間では無い。

それはここに来てから幾度となく自分自身に言い聞かせている言葉だった。
自分を助けてくれる存在などいないと、最初から期待しない方が良いことは幼い頃から嫌という程分からせられてきたのだ。
今更淡い期待など抱いて、その後残酷な現実を突きつけられる方がよっぽど苦しい。
それならば端から期待せず、全て仕方の無いことだと割り切った方が幾分か心が楽になる気がしていた。

身体は不健康なほど痩せ細り、雪のように白い肌にいくつもの傷を散らした少年、千草瑠璃ちぐさるりは虚ろな目で男に揺さぶられながらまた自分に言い聞かせた。

少年特有の甘い声、しかし苦しさから掠れた小さな声が断続的に瑠璃の耳に届く。
それは瑠璃自身の声であり、目の前の息を荒らげた大柄な男に無体を働かれているせいで半ば強制的に喉を震わせていた。

下半身の律動に合わせて声帯が震えるせいで勝手に声が漏れてしまうだけだ、決して自らの意思で出ている声では無いのだと言い聞かせ心と体を切り離すように天井を見つめながら、早く終われ、早く終われ、と祈っていた。

「おい、こいつ今日はやけに静かじゃないか?」

瑠璃の上に覆いかぶさり荒い息を吐いて腰を振っていた大柄な男が、すぐ近くで退屈そうにしているもう一人の男へ声をかける。

「……そいつ、もう壊れちまってんだよ。大袈裟に反応するのがご希望ってんなら、あの言葉を言ってやりゃあいい」

問いかけられた男は瑠璃達から顔を背けたまま吐き捨てるように言った。
毎日瑠璃の監視をさせられ、泣き叫ぶ瑠璃の姿も段々と反応がなくなっていく姿も、それに群がる雄の無様な姿も見続けているせいで辟易としているのだろうか。

瑠璃の上の男は、そうだその手があった、とでも言うように口角を醜くニヤリと吊り上げた。

「おい」

下卑た笑みを浮かべたまま、瑠璃の前髪を掴みあげ、目をのぞき込む。

長く伸びて野暮ったい印象を与えていた前髪を取り払うと、そこには瞳孔まで真っ青に染まった人間には有り得ないサファイアブルーの瞳が鎮座しており、人形のような顔貌が隠されていた。
感情を閉じ込めて虚ろに見える今でも、薄暗い部屋にうっすらと差し込む光すら取り込んで輝くその瞳は、正しく宝石のようであった。

瑠璃のその目と視線が交錯した男は、その瞬間より一層笑みを深くし、自身の下半身をさらに硬くさせた。

「お前、あのお綺麗な神子様に同じことさせてぇのか?前も言ったよな、お前が出来ないなら次はあの神子様だってな」

その言葉をぼんやりと聞いていた瑠璃は、みるみるうちに瞳に恐れの感情を宿し、肩を震えさせる。

「ぇ、あ……」

宝石のような目がこぼれ落ちてしまいそうなほどに大きく見開き、途端にボロボロと涙を流し始めた。

「ぁ……っだ、だめっ……!ごめ、んなさい、!ちゃんとやります、ぼくが、っぼくがぜんぶやるから、っ!」

男の肩に両手で縋りついて必死に言葉を紡ぐ。

ーだから、

「あの子には、っ!しろには、酷いことしないでっ……!」

瑠璃は自分の身よりの事がなによりも大事だったのだ。
傷付けられるのも、理不尽な扱いを受けて良いのも自分だけだと、震える声を押さえ付けてなお男に懇願する。

「はっ、じゃあどうしたらいいか分かるよな?」

男は怯える瑠璃の様子を見て更に嗜虐心を煽られたようで、嘲笑を浮かべた男はわざと瑠璃に言葉の続き言うを促す。

「ち、ちゃんと、きもちよくなります……っごほうし、します、っ」

数多の傷が散らされた白い肌を羞恥から赤く染めて、瑠璃は男の目の前で地に頭をつけてひれ伏す。

こんな言葉、自分の意思で言いたい訳が無い。
ここを訪れる男達は嫌がる瑠璃に無理やり自ら求めるような言葉を言わせて心を徹底的に潰そうとしているのだ。

せめて心は屈服したくないと、自ら求める言葉を言わないように拒む瑠璃に、男達は無情にも瑠璃の大切な存在を傷つけるという脅しを行使するのだ。

「分かってんじゃねえか。おら、続きやるぞ」

男が再度瑠璃に覆いかぶさった。
言葉こそ冷静を保っているように聞こえるが、男の目はどこか焦点が合わず、しかし不気味なほどギラギラと情欲を募らせたその目はとても正気とは思えなかった。

男がおかしくなってしまった原因は瑠璃のこの瞳だ。
そして瑠璃がこの場所に連れてこられた原因でもある。

瑠璃と目が合ったものは総じて理性を失ってしまう。
ここに来てから気づいたことだが、その症状は人によって違うらしく、酷く発情してしまう人間もいれば、ただ只管に瑠璃へ加虐心を向ける人間もいる。

今日の男はどうやら前者だったらしい。

普段は前髪で目を隠しており、他人と目を合わせてしまうことを避けていたが、ここでは目を隠すと必ず折檻をされた。
長年の癖から咄嗟に前髪で目を隠してしまうことが多かった瑠璃はここに来た当初は頻繁に折檻を受けて、その度に心はすり減って行った。

ここで瑠璃が受ける仕打ちは無論折檻だけでは無い。
男達を満足させるありとあらゆる行為がここでは行われる。
今この瞬間も行われているこの行為に何の意味があるのか瑠璃には分からない。

毎日体が大きい男が代わる代わる訪れては、瑠璃に暴力や性的な行為を強要する。
この薄暗い部屋からは一度たりとも外に出して貰えたことがない。

薄暗い部屋に閉じ込められ、味わったことの無い地獄を幾度となく味わわせられ、瑠璃の心はとっくに壊れてしまったのかもしれない。

助けを期待しても自分が苦しくなるだけだと言い聞かせても、どうしても願わずにはいられない。

誰か、この地獄から僕を助けてください、と。
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