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第4章 狐畏憚
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「ところでアヤメさん!
アヤメさんはどうして瑕疵物件ばかり勧めるの?」
という私の質問に、アヤメさんはバツの悪そうな顔でこう答えた。
「私のおじさんが不動産屋やってて、紹介した人が契約してくれるとお小遣いくれるのよね。」
なるほど……いわゆる副業なんですね。
それにしても、瑕疵物件ばかりというのは?
「ここだけの話…瑕疵物件って一回誰か住んじゃえば次の人に『ここは瑕疵物件です。』って伝えなくても良いのよ。」
「「「「「えっ!?」」」」」
アヤメさんのそのセリフに、皆んな一瞬でドン引きした。
「だって毎回伝えてたら、借りてや買い手が付かないでしょ?」
「た…確かにアヤメさんの言う通りね。」
うわぁマジかぁ……不動産業界の裏話怖っ!!
「そ…そんな部屋借りて、大丈夫なんですか?」
と、かなえさんが不安げに言って来た。
無理もない…事情を知らない人が聞いたら、かなりヤバイ物件にしか聞こえないもの。
「大丈夫じゃない?前の住人が出て行ってから、まったくそんな話聞かないし……
私も試しに即売会の修羅場の時に、友達と泊まったけどなんともなかったよ。
たぶん幽霊が付いてたのって、前の住人だったのよ。
とりあえず、敷金とか礼金の事はなるべく掛からない様におじさんと話付けとくから♪
じゃ、私もう時間だから仕事行くね!」
そう言ってアヤメさんは、二人の返事を聞かないでさっさと行ってしまった。
彼女の推測は正しい……
実際、幽霊(妖)が付いていたのは前の住人だった三波さん一家だったから。
「ほんとにその部屋大丈夫なんでしょうか?」
かなえさんは不安げに、ヒロシ狐を見つめている。
「大丈夫だよ!何があっても、かなえは俺が守ってやるから…… 」
「ヒロシ君♡」
ハイハイ、いちゃつくのは良いけどそろそろチェックインしてもらって良いかな?
「とりあえず、チェックイン済ましてくれるかな?
その話は後からで…… 」
「「あっ!すみません。」」
呆れた徳さんに言われて、二人は慌てて宿帳に記載を始めた。
「あ、そこはかなえさんの名前書かないで《同行者一名》で良いよ。」
宿帳って別に、全員の名前書かなくても問題無いのよ。
それにもし追手が来た時、少しは時間稼ぎが出来ると思うし……
そもそも向こうもまさかMMORPG内で知り合った恋人と駆け落ちすると思ってないだろうから、ヒロシ狐の本名なんかを把握していないだろうし……
彼の名前だけなら解らないでしょう。
『そもそも個人情報だから、宿帳を見せる必要ないんだけどね。
でも相手は金持ちらしいから、どんな権力を使って来るか解らないから念の為だ。』
とは徳さんの談。
確かに捜査令状でも持って来られない限り、宿帳を見せる必要はない。
もし、令状を持って来られても多少は時間稼ぎが出来る。
いざとなったら、豆狸と妖狐の神通力で足止めしてその間に逃げれば良いのよ!
その日の夕方、アヤメさんの叔父さんがやって来て、ヒロシ狐と借家契約を結び意気揚々と帰って行った。
その間、かなえさんは部屋で待機してもらった。
用心の為、なるべく人に見られない方が良いから。
物件の案内は明日、夜勤明けでアヤメさんがしてくれるそうだけど疲れてるだろうに大丈夫かな?
☆☆☆
それから数日は何事もなく過ぎて行き、『追手と思われる連中が、町にやって来たらしい。』という情報が入って来たのは、二人がウチに来た日から二週間程過ぎた頃だったわ。
教えてくれたのは、町中に有る《フルムーンパレス》の従業員で常連客のおばさん達。
「それでねぇ~その人達、清掃スタッフの私らにお金渡して『このホテルにその家出した娘さんが泊まってないか?』って聞いてきたのよ。」
ストロベリームーン名物の酒粕入りチーズケーキとコーヒーの準備をしていると、ちょうど帰り掛けていた秋山さんがおばさん達とそんな話をし始めてた。
「えぇっ!?お金渡して来たんですか?」
うわぁ典型的な金持ちの調べ方ね。
やだなぁ……
その『家出した娘さん』って、かなえさんの事だよね?
因みにヒロシ狐達が来た日は土曜日だったので、秋山さんは二人と面識は無い。
「それってまずくないですか?」
「そうなのよ。」
「もちろん誰も受け取らなかったけどねぇ。
そもそもそんな人知らないし。
知ってたって教える訳ないじゃない。」
「だいたいそんなの会社にバレたら、直ぐクビよ。」
そりゃそうよね、服務規程違反だし……
この片田舎の町でそんな事したら、次の就職先無くなる。
「その人達ウチで情報掴めなかったからその後、藤乃屋さんや和泉屋さんにも行ったそうよ。」
「向こうでも同じ事して、叩き出されたって。」
藤乃屋や和泉屋は、今は無き満月屋に並ぶ老舗旅館。
そんな調べ方したら、女将さん達の逆鱗に触れて旅館を叩き出されるのは当たり前。
特に藤乃屋の大女将はとても厳格で、そういうのが大嫌いな地域でも有名な女将。
これでもう正式な捜索以外で、旅館やホテルを内緒で調べるのは無理になったわね。
「秋山さん時間大丈夫?」
と徳さんがいつも通り声を掛ける。
「あら?たいへん!子供が帰って来ちゃうわ!
じゃあ、また明日ねぇ~♪」
そう言って秋山さんは慌てて帰って行った。
ところが安心していたのもつかの間、まさかまだ諦めてなくてウチにまで調べに来るなんて思わなかったわ。
★★★★
※1
町で一番大きな外資系ホテル。
※2
町の昔話に出てくる老舗旅館。
数年前にある理由で閉館し、現在跡地にはフルムーンパレスがある。
アヤメさんはどうして瑕疵物件ばかり勧めるの?」
という私の質問に、アヤメさんはバツの悪そうな顔でこう答えた。
「私のおじさんが不動産屋やってて、紹介した人が契約してくれるとお小遣いくれるのよね。」
なるほど……いわゆる副業なんですね。
それにしても、瑕疵物件ばかりというのは?
「ここだけの話…瑕疵物件って一回誰か住んじゃえば次の人に『ここは瑕疵物件です。』って伝えなくても良いのよ。」
「「「「「えっ!?」」」」」
アヤメさんのそのセリフに、皆んな一瞬でドン引きした。
「だって毎回伝えてたら、借りてや買い手が付かないでしょ?」
「た…確かにアヤメさんの言う通りね。」
うわぁマジかぁ……不動産業界の裏話怖っ!!
「そ…そんな部屋借りて、大丈夫なんですか?」
と、かなえさんが不安げに言って来た。
無理もない…事情を知らない人が聞いたら、かなりヤバイ物件にしか聞こえないもの。
「大丈夫じゃない?前の住人が出て行ってから、まったくそんな話聞かないし……
私も試しに即売会の修羅場の時に、友達と泊まったけどなんともなかったよ。
たぶん幽霊が付いてたのって、前の住人だったのよ。
とりあえず、敷金とか礼金の事はなるべく掛からない様におじさんと話付けとくから♪
じゃ、私もう時間だから仕事行くね!」
そう言ってアヤメさんは、二人の返事を聞かないでさっさと行ってしまった。
彼女の推測は正しい……
実際、幽霊(妖)が付いていたのは前の住人だった三波さん一家だったから。
「ほんとにその部屋大丈夫なんでしょうか?」
かなえさんは不安げに、ヒロシ狐を見つめている。
「大丈夫だよ!何があっても、かなえは俺が守ってやるから…… 」
「ヒロシ君♡」
ハイハイ、いちゃつくのは良いけどそろそろチェックインしてもらって良いかな?
「とりあえず、チェックイン済ましてくれるかな?
その話は後からで…… 」
「「あっ!すみません。」」
呆れた徳さんに言われて、二人は慌てて宿帳に記載を始めた。
「あ、そこはかなえさんの名前書かないで《同行者一名》で良いよ。」
宿帳って別に、全員の名前書かなくても問題無いのよ。
それにもし追手が来た時、少しは時間稼ぎが出来ると思うし……
そもそも向こうもまさかMMORPG内で知り合った恋人と駆け落ちすると思ってないだろうから、ヒロシ狐の本名なんかを把握していないだろうし……
彼の名前だけなら解らないでしょう。
『そもそも個人情報だから、宿帳を見せる必要ないんだけどね。
でも相手は金持ちらしいから、どんな権力を使って来るか解らないから念の為だ。』
とは徳さんの談。
確かに捜査令状でも持って来られない限り、宿帳を見せる必要はない。
もし、令状を持って来られても多少は時間稼ぎが出来る。
いざとなったら、豆狸と妖狐の神通力で足止めしてその間に逃げれば良いのよ!
その日の夕方、アヤメさんの叔父さんがやって来て、ヒロシ狐と借家契約を結び意気揚々と帰って行った。
その間、かなえさんは部屋で待機してもらった。
用心の為、なるべく人に見られない方が良いから。
物件の案内は明日、夜勤明けでアヤメさんがしてくれるそうだけど疲れてるだろうに大丈夫かな?
☆☆☆
それから数日は何事もなく過ぎて行き、『追手と思われる連中が、町にやって来たらしい。』という情報が入って来たのは、二人がウチに来た日から二週間程過ぎた頃だったわ。
教えてくれたのは、町中に有る《フルムーンパレス》の従業員で常連客のおばさん達。
「それでねぇ~その人達、清掃スタッフの私らにお金渡して『このホテルにその家出した娘さんが泊まってないか?』って聞いてきたのよ。」
ストロベリームーン名物の酒粕入りチーズケーキとコーヒーの準備をしていると、ちょうど帰り掛けていた秋山さんがおばさん達とそんな話をし始めてた。
「えぇっ!?お金渡して来たんですか?」
うわぁ典型的な金持ちの調べ方ね。
やだなぁ……
その『家出した娘さん』って、かなえさんの事だよね?
因みにヒロシ狐達が来た日は土曜日だったので、秋山さんは二人と面識は無い。
「それってまずくないですか?」
「そうなのよ。」
「もちろん誰も受け取らなかったけどねぇ。
そもそもそんな人知らないし。
知ってたって教える訳ないじゃない。」
「だいたいそんなの会社にバレたら、直ぐクビよ。」
そりゃそうよね、服務規程違反だし……
この片田舎の町でそんな事したら、次の就職先無くなる。
「その人達ウチで情報掴めなかったからその後、藤乃屋さんや和泉屋さんにも行ったそうよ。」
「向こうでも同じ事して、叩き出されたって。」
藤乃屋や和泉屋は、今は無き満月屋に並ぶ老舗旅館。
そんな調べ方したら、女将さん達の逆鱗に触れて旅館を叩き出されるのは当たり前。
特に藤乃屋の大女将はとても厳格で、そういうのが大嫌いな地域でも有名な女将。
これでもう正式な捜索以外で、旅館やホテルを内緒で調べるのは無理になったわね。
「秋山さん時間大丈夫?」
と徳さんがいつも通り声を掛ける。
「あら?たいへん!子供が帰って来ちゃうわ!
じゃあ、また明日ねぇ~♪」
そう言って秋山さんは慌てて帰って行った。
ところが安心していたのもつかの間、まさかまだ諦めてなくてウチにまで調べに来るなんて思わなかったわ。
★★★★
※1
町で一番大きな外資系ホテル。
※2
町の昔話に出てくる老舗旅館。
数年前にある理由で閉館し、現在跡地にはフルムーンパレスがある。
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