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番外編
正義の理想と現実 ②
しおりを挟む(ベルツリー侯爵side)
『巨大ドラゴン出現に際しての、対応が素晴らしかった!』と、貴族・平民問わず王家の人気は急上昇。
そんな時期に『訳の分からない主張をして、【王政批判】をしている者達がいる。』とお忍びで城下を視察されていた王太子殿下から連絡があった。
『見た目の良い騎士数名で向かわせてくれ。
相手は稀人で花畑の住人だ。』
ああ…なるほど、そういう事ですか。
そうして捕獲した女は、今の情勢も分かっていない、花畑の住人だった。
厄介な事に副団長の威圧にも、臆しないし……
自分の正義に酔いしれ、人の話をまったく聞かない。
稀人の中でも、非常にタチの悪い人間ですね。
特別取り調べ室のドアがノックされ、
取り調べ中の女のお望み通り、もっと上の身分の方がいらっしゃった。
ユイナーダ王国次期国王、アラン王太子殿下。
この度の『巨大ドラゴン戦』の総指揮をとられ国王不在の今、その代理を務めていらっしゃる現時点の最高権力者です。
その王太子殿下自ら尋問されるとは…どうやらこの女は、随分とお怒りを買ったらしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
(アランside)
「ですから【民主主義】と【奴隷解放】というのはこの様に、素晴らしい世界をもたらす物なのです!」
ようやく喋り終わったか……
この女のくだらない話を、延々と聴かされ続ける事2時間以上……
よく喉を痛めないものだな。
「あの…聴いていらっしゃいます?」
「ああ…聴いているよ。」
「貴方の様な立場の方に、私達の考えを理解して頂けるなんて、ありがたいですわ!」
理解ねー。
一応、話は聴いてやったが、相変わらず独善的な女だ。
「言いたい事はそれだけかな?
ナギワ・アキホさん…… 」
冷めた目で見ながらそう言うと、女は驚いて俺の方を見た。
「えっ!?どうして私の名前を!?」
そりゃあ前世で君を【名誉毀損】で訴えたからな。
「それで…私がお前の考えを理解したって?
まったく理解できんな!!
何が【民主主義】に【奴隷解放】だ?
この世界でそんな事したら、たちまち国が崩壊する!
そんな事をして我々に、何の利益があるんだ?
この世界はお前が元居た世界の様に、甘くないんだよ!
それに【奴隷解放】?
お前はこの国の奴隷がどんな者達か知っているのか?
彼らは犯罪奴隷か借金奴隷だ。
罪の無い者が奴隷になる事など、あり得ない。
むしろ元の世界より、冤罪率は低い。
簡易だが判定魔法もあるからな。」
俺の話を聞いた女…ナギワ・アキホは、かなりショックを受けた様だ。
「そ…そんなはず……
だって皆んな、優しくて親切だったわ!」
「稀人は利用価値があるからな。
特にこっちに来たばかりの、何も知らない者は……
お前…冒険者ギルドや神殿に行った事ないだろう?
普通はそこで鑑定してもらって、教育係りにこの世界やこの国について教わるものだ。」
彼女はこれだけ言っても、まだ『信じられない!』といった表情をしている。
「ああ…それから、お前の罪状だが……
【無許可での奴隷解放】【王侯貴族への不敬罪】【国家騒乱罪】【身分詐称】いろいろあるなぁ…… 」
「あなたが言っている事が本当なら、私は何も知らずに、利用されていただけじゃない!
納得出来ないわ!!」
「別に君が納得しようがしていまいが、関係ない。
我が国は、法治国家であり、絶対王政だ。
だから国王陛下不在の今、一番権力を持っているのは私だよ。」
彼女の顔色は真っ青だ。
「元の世界で、誰かに言われなかったか?
『無知である事は罪である。』って。
世の中知らなかったじゃ済まされない事はいっぱいあるんだよ。
だが私も鬼じゃない。
特別に死ぬまで苦しめにしてやろう。
ありがたく思え!」
そう笑顔で伝えてやると、彼女はホッとした顔をした。
「あ…ありがとうございます…… 」
言いたい事を言ったので、後は第四騎士団を任せて、取り調べ室を後にした。
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