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予期せぬ出会い
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昼下がりのキャンパスは、授業と授業の合間のゆるい空気が流れている。
春は慣れない購買でパンを買い、中庭のベンチに腰を下ろそうとした——その瞬間。
視界の端に、1人の背中が映った。
秋。
彼の姿に気付いたのが先なのか、独特な彼の甘い匂いに気付いたのか、もはや分からない。
ただ、胸の奥が熱を帯び、体が勝手に反応してしまう。
(まさか、ヒート…? 薬、飲んでるのに…)
足元がふらつき、手のひらに汗が滲む。
呼吸が浅くなり、不安と衝動がないまぜになっていく。
「おい、大丈夫か?」
低く、少し掠れた声。
振り向くと、見知らぬ青年が心配そうに立っていた。
長身で、がっしりとした肩幅。
整った顔立ちに、どこか人懐っこい笑み。
けれどその目は真剣で、春の異変を見逃していなかった。
「顔、真っ赤だぞ。熱あるんじゃないか?」
そう言って腕を支えられた瞬間、ふわりと違う匂いが春を包む。
落ち着くような、温かい匂いだった。
「……平気、です……」
「いや、平気じゃないだろ」
揺れる体を支えられ、そのまま人影の少ない場所へ連れて行かれる。
青年は自販機で水と冷たいタオルを買って戻り、迷いなく春の額に当ててくれた。
じんわりと伝わる冷たさに、春の呼吸が少し楽になる。
「…お前、オメガだよな?」
彼が小声で呟く。
「俺、抑制剤飲んでるけど…それでも匂いがわかる。普通なら感じないはずなのに。なんでだろうな」
「……わからないです」
春は答えながらも、頭がぼんやりしている。
それでも、彼の匂いだけははっきりと感じられた。
——この人の匂い、悪くない。
その瞬間、胸のざわめきが少しだけ和らぐ。
「お前、辛そうだな。俺の家、近いから休んでいけ」
普通ならためらう提案も、彼の声が真剣で、春は抗えなかった。
——バタン。
玄関が閉じる音。
「俺、法学部1年の蓮。ベッドに座ってろ。すぐ楽になる」
「…春、です」
名を交わしただけなのに、不思議な安心感が広がる。
蓮は背中をさすり、水を手渡してくれた。
その温かな仕草に、春の緊張は少しずつ解けていった。
「ありがとう…」
そう呟いた春は、やがて静かに眠りについた。
眠る春の髪をそっと撫でながら、蓮は小さく呟く。
「なんなんだ、この感覚。手放したくねぇ」
——こうして、二人の出会いは始まった。
春は慣れない購買でパンを買い、中庭のベンチに腰を下ろそうとした——その瞬間。
視界の端に、1人の背中が映った。
秋。
彼の姿に気付いたのが先なのか、独特な彼の甘い匂いに気付いたのか、もはや分からない。
ただ、胸の奥が熱を帯び、体が勝手に反応してしまう。
(まさか、ヒート…? 薬、飲んでるのに…)
足元がふらつき、手のひらに汗が滲む。
呼吸が浅くなり、不安と衝動がないまぜになっていく。
「おい、大丈夫か?」
低く、少し掠れた声。
振り向くと、見知らぬ青年が心配そうに立っていた。
長身で、がっしりとした肩幅。
整った顔立ちに、どこか人懐っこい笑み。
けれどその目は真剣で、春の異変を見逃していなかった。
「顔、真っ赤だぞ。熱あるんじゃないか?」
そう言って腕を支えられた瞬間、ふわりと違う匂いが春を包む。
落ち着くような、温かい匂いだった。
「……平気、です……」
「いや、平気じゃないだろ」
揺れる体を支えられ、そのまま人影の少ない場所へ連れて行かれる。
青年は自販機で水と冷たいタオルを買って戻り、迷いなく春の額に当ててくれた。
じんわりと伝わる冷たさに、春の呼吸が少し楽になる。
「…お前、オメガだよな?」
彼が小声で呟く。
「俺、抑制剤飲んでるけど…それでも匂いがわかる。普通なら感じないはずなのに。なんでだろうな」
「……わからないです」
春は答えながらも、頭がぼんやりしている。
それでも、彼の匂いだけははっきりと感じられた。
——この人の匂い、悪くない。
その瞬間、胸のざわめきが少しだけ和らぐ。
「お前、辛そうだな。俺の家、近いから休んでいけ」
普通ならためらう提案も、彼の声が真剣で、春は抗えなかった。
——バタン。
玄関が閉じる音。
「俺、法学部1年の蓮。ベッドに座ってろ。すぐ楽になる」
「…春、です」
名を交わしただけなのに、不思議な安心感が広がる。
蓮は背中をさすり、水を手渡してくれた。
その温かな仕草に、春の緊張は少しずつ解けていった。
「ありがとう…」
そう呟いた春は、やがて静かに眠りについた。
眠る春の髪をそっと撫でながら、蓮は小さく呟く。
「なんなんだ、この感覚。手放したくねぇ」
——こうして、二人の出会いは始まった。
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