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とりひな

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本編

第23話 駒は動かされていることに気づかない

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 都村王子の取り巻きBこと松永寛也は憤っていた。勿論親衛隊の敵たる柏木柊夜に対してである。
 柏木柊夜は目障りな存在だ。ここのところ我が物顔(のように親衛隊のメンバーには見える)で愛する都村の隣に居座っていることに腹が立つ。これは都村親衛隊のメンバー全員の共通の感情だ。都村はみんなの都村であり、誰か個人のものにはなり得ない。
 都村は誰にでも同じ笑みを向け、同じように抱いてくれる。それが同性だろうと異性だろうと。都村は常に平等であり、特別は存在しない。そして干渉を好まない。都村は何かを強要されるとやんわりと、けれども確かな拒絶を見せる。過去に身体を繋げたからと言って都村に特別を強要した者たちは彼と離れることになった。都村の傍にいるためには彼の周りに侍る者たちを許容するしかない。それでもいいから傍にいたいと残った面子、それが都村親衛隊の現メンバーだ。都村といられれば他の面子がいても幸せ。待っていれば自分を愛してもらえる順番が定期的に回ってくのだから。そうして過ごしていく中で、柏木柊夜が現れた。現れた、と言っても講義が重なることもあり見知った顔ではあるが。
 柏木柊夜は松永にとって特に印象に残ることもない男だ。普段から都村と彼に群がる人間しか気にかけてこなかったこともあるが、目立つ人間ならもう少し印象に残っていただろう。しかし柏木柊夜に関してはこんな奴もいたな程度の存在だ。顔立ちは比較的整っているが、それだけだ。馬鹿騒ぎする輩でもないし、近寄り難い陰気さがあるわけでもないければめちゃくちゃ優秀だという評判があるわけでもない。視界のほんの片隅に一瞬入る程度の人間でしかなかったのに。それなのに、愛してやまない都村がその取るに足らない存在に構い始めた。正直な話目を疑った、都村が自分から積極的に誰かを構いにいくなんてなかったことだから。
 都村は長い付き合いのある加納美佐ですら構いにいくことはない。勿論用事があれば声をかけることもある。だが用もなく話しかけに行くことなどなかった。腹が立つ、生意気、抜け駆け野郎……なんで、そいつだけ。グルグルと気持ちの悪い感情が胸の内に渦巻く。それでも都村との時間を過ごせればその感情を一時でも忘れることができた。美佐からのメッセージを読むまでは。
 その日は都村と親衛隊のメンバーでBBQをする予定だった(自分達の中では)。しかし都村に用があるからと断られてしまったので親衛隊だけで決行したのだ。都村が欠席する時点で中止にしてもよかったけれど、せっかく予定を立てたのだからと集まることにした。親衛隊で集まってワイワイするのはそこそこ楽しい。都村を共有する仲間としての仲間意識が存在するから。

「加納さんもさぁ~あ~?来ればよかったのにねぇ~?この面子で集まるの楽しいのにぃ~」

 缶チューハイを片手に肉を焼きながら取り巻き仲間の瀬田明日香が言う。すでに二本は缶を空けており、その頬は真っ赤だ。

「カイチョーは用があるんだと」

 松永は肉を咀嚼しながら答える。

「残念だったよねぇ~一番残念なのはトーマくんが来ないことだけどさ~……ふえ~ん、とぉまくぅ~ん!」
「泣くな泣くな」

 明日香が泣き始めるのをダークブラウンで肩甲骨までのストレートヘアの織田吉乃が頭を撫でて慰めた。

「だってぇ~トーマくん不足なんだもん~!」

 けれど泣きたくなる明日香の気持ちも分かる。この場の皆が都村不足であることは間違いない。何せ先日『これからは体の関係を持たない』『二人で出かけたりしない』と都村からのお達しがあったのだ。定期的に都村と接触ができていたものができなくなってしまえば物足りなさを感じてしまうのも仕方がないことだった。

「まさか美佐と一緒とかねぇよな?」

 アッシュグレイの短髪で片耳に七つのピアスをしている長身男子ーー取り巻きDこと鷲見慶が疑いを口にする。

「いや、それはないよ。都村くんは加納さんと出かけるなら、そう言ってくれるよ。勿論加納さんもね。まあもう二人で出かけるのはやめになってしまったんだからそれもないだろう」

 鷲見とは対局ともいうべき黒髪短髪で縁なし眼鏡の色白男子ーー取り巻きEこと三井光成が指で眼鏡を押し上げながら答えた。皆納得だというように頷く。

「……それより柏木とかいう男、目障りじゃないか?」

 三井の眼鏡がきらりと光る。

「ホントそれ、マジでウゼェ」
「アイツ何?トーマくんの周りチョロチョロしててホントムカつく」

 三井の言葉を皮切りに柏木柊夜への罵詈雑言が始まる。それほどまでに親衛隊の中で柏木柊夜に対する鬱憤が溜まっていた。悪口を肴に酒がどんどん進んでいく。本人の知らないところで散々な言われ様だった。ある程度悪口を言いまくったところで多少気が晴れたのか、話題は今度都村とどこに行こうかという話にシフトする。ああでもないこうでもないと計画を立てるのは楽しい。上機嫌になった明日香が写真を撮ってみさに送ろうと言い出した。

「はいチーズ!」

 思い思いの決めポーズをして撮影する。何枚か写真を撮ると、メッセージアプリのグループチャットに『すっごく楽しいよ!加納さんもこればよかったのに』というメッセージと共に送った。するとさほど間をおかずに美佐から返事が入ってくる。

「みんなで楽しんでだって」
「外せない用事なら仕方ないよな」
「次回は一緒に行きたいな」

 各々が美佐に思い思いのメッセージを送る。親衛隊の面子は都村とは大学からの付き合いであり、それ以前から付き合いのある美佐は最古参と言える存在だ。美佐はとにかく都村を尊重し理解する女性で、都村もそんな彼女を傍に置くことが日常の様だった。それがある種特別のような気がして当初は嫉妬もした。しかし美佐は悋気に駆られた当時の松永たちに諭したのだ、彼を想って傍にいたいなら守らねばならないことを。彼女だけがそれを知っていれば、彼女だけが都村を独占できたかもしれないのに。それからは美佐への嫉妬心は薄れ、同志という認識になった。そんな経緯から親衛隊のメンバーは美佐に敬意すら抱いている。
 バーベキューコンロの火の勢いがなくなってきた。焼く肉や野菜も尽きたことだしそろそろお開きにするかと片付けをし始める。

「加納さんからの返事こないねぇ~」

 明日香が言う。確かに1回返信があったきり美佐からのメッセージは来ていない。未読のようだ。

「外せない用事があるって言っていたんだ、メッセージの確認なんてそうそうできないんじゃないか?」
「私ならすぐ返信するよ?」
「アンタ暇だからじゃん」
「皆酷ぉ~い!」

 明日香が嘆けばどっと笑いが起こる。そこに着信を告げる音が鳴った。

「お。噂をすりゃ美佐から…………あ?何だこれ」

 グループ画面を開いた鷲見が硬い声を出す。

「慶、どうした?」
「なになに?」

 鷲見の反応を訝しんで松永や他のメンバーもコミュニケーションアプリを立ち上げた。グループ画面を開けば枚の写真、ついで美佐からのメッセージが表示される。

「は?何これ。トーマくんと、」
「柏木……?」
「何でアイツと都村くんがっ」

 そこに映し出されていたのは楽しげに会話を楽しむ都村と憎き柏木柊夜の姿で。美佐からのメッセージに愕然とした。

『藤真くんにも特別ができたみたい』

「……は?特別?」
「そんな馬鹿な話あるかよ、藤真は俺たちの藤真だろ!?」
「そうだよ、こんなの許せない」
「大した存在でもないくせに都村くんを誑かすなんて……身の程も弁えない小蝿が生意気な」

 写真とメッセージを見た瞬間、全員が熱り立った。

「美佐は何で落ち着いてるわけ?トーマくんが盗られてもいの!?」
「加納は都村くんを尊重したいだけなんだろう……彼女が一番長く都村くんを想っていたと言うのに」
「健気なことだな。けどよ、俺たちは許せねぇ」
「でもさ、トーマくんはアイツのこと気に入ってるんでしょ?そんなん、どーにもなんないじゃん……私らが口出ししたらトーマくんに嫌われちゃうよ……そんなのやだぁ!でもトーマくん独占されるのも嫌!!絶対に嫌!!」 
「だったらバレないように排除すればいい、ヤツが彼の傍にいられない様に」

 松永の言葉に、一同顔を見合わせ、頷く。柏木柊夜に思い知らせてやればいいのだ、都村に近づいたらどうなるのかを。秘密裏にやればきっと、大丈夫。
 

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