18 / 23
これは夢か現実か?
しおりを挟む
梨子から好きだと言われた。嬉しいはずなのにそんなはずはないと思う自分がいて梨子の言葉がイマイチ信じられない。長年の片想いを拗らせた結果だ。梨子は兄貴が好きなのだと固定観念があるあまりにどうしても好かれているという実感が持てなくて戸惑っていると、梨子からキスされそうになった。あと数センチというところでインターフォンに邪魔をされてしまったけれど、それがなければあのまま唇は重なっていただろう。梨子から、ちゃんと俺のことを雅弥であると認識された上でだ。ああ、心臓が痛い。俺は思わずシャツの胸元を握った。
インターフォンで店員とやり取りをした後、微妙な雰囲気の中俺たちは机の上に零したままになっていた烏龍茶をおしぼりで拭いてからそそくさと退室した。さっさと会計を済ませ、店を出る。
微妙な雰囲気から逃げ出したいような気持ちはあったものの、そのまま解散というわけにもいかず、だからと言ってカフェに行く雰囲気でもなく。結局俺のアパートに行くことになった。そして俺は梨子の手を引いて歩いている。互いに無言のままだ。
手から伝わってくる梨子の熱にどうしようもなくドキドキする。すでにセックスまでしたのに手を繋ぐだけでこれとか拗らせすぎにも程がある。想いが通じてから初めて触れ合うのだから仕方ないと思うことにする。
黙々と連れ立って歩いているうちに俺の住む『メゾン・ド・モマン』(旧名:竹井荘)が見えてきた。アパートの敷地内に入りかけたところで隣家から大家の竹井夫人が出て来る。買い物にでも出かけるのだろう。竹井夫人も俺に気づいたようで視線がぶつかった。俺は梨子に大家さんだと説明してから竹井夫人に黙礼をする。梨子もそれに倣った。
梨子の存在に気がついた竹井夫人はにまっとした笑顔を浮かべた。『うふふ。若いっていいわねぇ』とか思っていそうだ。竹井夫人は俺たちに手を振ると鼻歌を歌いながらスーパー方面へと歩いていった。次会った時に絶対に揶揄われるな……。
俺が竹井夫人の背を見送っていると服の裾を引っ張られた。
「……誰?」
「ここの大家さん」
「おお……雅弥がいつもお世話になってます」
梨子が遠くなっていく竹井夫人の背中に向け、改めてお辞儀する。俺の母さんか、お前は。
「いいから行くぞ」
「うん」
俺は再び梨子の手を引いて自分の居室を目指した。
◆
「どうぞ」
「お、おじゃまします」
俺が玄関の戸を開き入室を促すと、梨子が遠慮がちに言いつつ靴を脱いだ。
俺の部屋はバストイレ別の1Kだ。1Kと言いつつもキッチンは広いし風呂には洗面所も付いている。部屋自体も壁面収納付き12畳という謎の広さでエアコンまでついているのに学生の懐に優しい家賃設定。さらにたまに竹井夫人がお裾分けと称しておかずを恵んでくれる。賃貸契約の前に聞かされていた『ただの趣味で儲ける気はない』というのは事実だったようで、大変助かっている。正直ちょっと手厚すぎでは?も思うけれど。
広めな部屋とは言え、持ち込んだ家具は少ない。必要最低限のベッドやテーブル、二人掛けソファ、棚、テレビくらいか。寝たり課題をしたり食事をしたりするくらいで十分と言える。
梨子をソファに座らせキッチンで飲み物を用意する。飲み物を盆に載せ戻ると、梨子はソファに座ったまま殺風景ともとれる室内をキョロキョロと見回していた。それから目を閉じ、深呼吸をする。
梨子も緊張しているのだろうか?と思いつつテーブルの上に飲み物を置こうとした瞬間だった。
「……雅弥の匂いがする」
「!?」
ガシャン!!!!!
俺は手を滑らせ飲み物を盆ごとテーブルの上にぶちまけてしまった。
「え!?」
音に驚いた梨子が目を開けて、互いの視線がぶつかる。
「ま、雅弥、いまのきい、」
ブワッと梨子の顔が赤くなった。
「…………」
「…………」
二人で無言になり、室内に響くのはぼたぼたとテーブルからカーペットに滴る水音だけだ。
「って、うわ、」
俺は床に転がっていたティッシュ箱からティッシュをシュバババっと引き抜くと、カーペットに溢れた水分を拭い取る。梨子は同じくティッシュを引き抜いてテーブルの方の水分を拭ってくれた。おかげでカーペットは思ったより濡れずに済んだ。喧嘩が多かったとはいえ長年の付き合いがある幼馴染だからこそ為せるコンビプレーである。と、内心ドヤっとして顔を上げたら梨子の顔がむちゃくちゃ近かった。
「……雅弥」
「……何だよ」
平静を装おうとして、思ったよりぶっきらぼうな声が出た。梨子はそれに対し怒ることもなく真剣な眼差しをして俺を見ている。
「やり直しを要求します」
「……何を?」
こいつ主語が足りなさすぎでは?
インターフォンで店員とやり取りをした後、微妙な雰囲気の中俺たちは机の上に零したままになっていた烏龍茶をおしぼりで拭いてからそそくさと退室した。さっさと会計を済ませ、店を出る。
微妙な雰囲気から逃げ出したいような気持ちはあったものの、そのまま解散というわけにもいかず、だからと言ってカフェに行く雰囲気でもなく。結局俺のアパートに行くことになった。そして俺は梨子の手を引いて歩いている。互いに無言のままだ。
手から伝わってくる梨子の熱にどうしようもなくドキドキする。すでにセックスまでしたのに手を繋ぐだけでこれとか拗らせすぎにも程がある。想いが通じてから初めて触れ合うのだから仕方ないと思うことにする。
黙々と連れ立って歩いているうちに俺の住む『メゾン・ド・モマン』(旧名:竹井荘)が見えてきた。アパートの敷地内に入りかけたところで隣家から大家の竹井夫人が出て来る。買い物にでも出かけるのだろう。竹井夫人も俺に気づいたようで視線がぶつかった。俺は梨子に大家さんだと説明してから竹井夫人に黙礼をする。梨子もそれに倣った。
梨子の存在に気がついた竹井夫人はにまっとした笑顔を浮かべた。『うふふ。若いっていいわねぇ』とか思っていそうだ。竹井夫人は俺たちに手を振ると鼻歌を歌いながらスーパー方面へと歩いていった。次会った時に絶対に揶揄われるな……。
俺が竹井夫人の背を見送っていると服の裾を引っ張られた。
「……誰?」
「ここの大家さん」
「おお……雅弥がいつもお世話になってます」
梨子が遠くなっていく竹井夫人の背中に向け、改めてお辞儀する。俺の母さんか、お前は。
「いいから行くぞ」
「うん」
俺は再び梨子の手を引いて自分の居室を目指した。
◆
「どうぞ」
「お、おじゃまします」
俺が玄関の戸を開き入室を促すと、梨子が遠慮がちに言いつつ靴を脱いだ。
俺の部屋はバストイレ別の1Kだ。1Kと言いつつもキッチンは広いし風呂には洗面所も付いている。部屋自体も壁面収納付き12畳という謎の広さでエアコンまでついているのに学生の懐に優しい家賃設定。さらにたまに竹井夫人がお裾分けと称しておかずを恵んでくれる。賃貸契約の前に聞かされていた『ただの趣味で儲ける気はない』というのは事実だったようで、大変助かっている。正直ちょっと手厚すぎでは?も思うけれど。
広めな部屋とは言え、持ち込んだ家具は少ない。必要最低限のベッドやテーブル、二人掛けソファ、棚、テレビくらいか。寝たり課題をしたり食事をしたりするくらいで十分と言える。
梨子をソファに座らせキッチンで飲み物を用意する。飲み物を盆に載せ戻ると、梨子はソファに座ったまま殺風景ともとれる室内をキョロキョロと見回していた。それから目を閉じ、深呼吸をする。
梨子も緊張しているのだろうか?と思いつつテーブルの上に飲み物を置こうとした瞬間だった。
「……雅弥の匂いがする」
「!?」
ガシャン!!!!!
俺は手を滑らせ飲み物を盆ごとテーブルの上にぶちまけてしまった。
「え!?」
音に驚いた梨子が目を開けて、互いの視線がぶつかる。
「ま、雅弥、いまのきい、」
ブワッと梨子の顔が赤くなった。
「…………」
「…………」
二人で無言になり、室内に響くのはぼたぼたとテーブルからカーペットに滴る水音だけだ。
「って、うわ、」
俺は床に転がっていたティッシュ箱からティッシュをシュバババっと引き抜くと、カーペットに溢れた水分を拭い取る。梨子は同じくティッシュを引き抜いてテーブルの方の水分を拭ってくれた。おかげでカーペットは思ったより濡れずに済んだ。喧嘩が多かったとはいえ長年の付き合いがある幼馴染だからこそ為せるコンビプレーである。と、内心ドヤっとして顔を上げたら梨子の顔がむちゃくちゃ近かった。
「……雅弥」
「……何だよ」
平静を装おうとして、思ったよりぶっきらぼうな声が出た。梨子はそれに対し怒ることもなく真剣な眼差しをして俺を見ている。
「やり直しを要求します」
「……何を?」
こいつ主語が足りなさすぎでは?
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる