究極魔女の魔法教室 ~私の魔術のつかいかた~

ラウンド

文字の大きさ
2 / 7
断片章1:彼女はここに居た

1時間目:魔術の基本・座学(初級)

しおりを挟む
 ロゼルが、次の授業を行う教室の扉を開けて入ると、そこには、十六名の若い男女が緊張した面持ちで席についていた。いずれも授業を受ける準備を済ませており、後はその時を待つだけと言った風情だ。
「お早う御座います、皆さん」
 彼女は、そこに向けて挨拶の言葉を口にし、にっこりと微笑んだ。
 すると、その声に反応した生徒全員が、一斉にガタガタと席を立ち、気を付けの姿勢を取る。
「お早う御座います! 先生!」
 そして、各々の出来る限りの声で、挨拶を返した。
 ロゼルは、その声を横に、ブーツの音を小さく響かせながら教壇へと上がり、教科書となる書物を台に置くと、全員の顔を見渡した。
 特に欠席者は居ないようで、席は全て埋まっている。
「着席!」
 ロゼルの視線が、定位置に戻ったことを確認した委員長が指示を出すと、合わせて、生徒全員がガタガタと席に着き直した。
「みんな、今日も元気そうで何よりです。それではさっそく、魔術の勉強を始めましょうか」
 ロゼルの言葉と同時に、教室中の空気が程よく弛緩し、教科書と筆記具を広げる音に包まれた。

 授業が始まった。
 本のページを捲る音と、鉛筆で物を書く時の乾いた音とが、教室の各所から聞こえる。全員が、黒板とノートとを交互に見ながら、何かを書き写しているようだ。
「黒板の内容は写したわね? それじゃあ、今日は“属性のおさらい”と、“攻撃術の基本”を勉強します。さて、さっそく問題。現在確認されている基本属性は?」
 音が止むのを確認したロゼルが、教室全体に通る声で発問する。
 即座に、積極的な数人から手が挙がる。ロゼルは、その内から一人の男子を指名し、起立させた。
「基本的な属性は、地、水、火、風の自然属性四つと、天、魔、無の概念属性三つの、計七つです、先生」
「はい、その通り。有難う。今答えてもらったように、現在確認されている基本属性は七つ。そして、これらを組み合わせたものが、複合属性と呼ばれるものね」
 そう口にし、チョークで黒板に『基本属性』の項目と『複合属性』の項目を書き込む。次いで、下に属性の名前も書き込んでいく。
「次の質問。この複合属性は、例えば、火と風属性を組み合わせて雷属性を発生させますが、全てで何種類あるか答えられる?」
 一度チョークを置き、教室を見渡す。
 しかし、今度は誰も手を挙げず、首を傾げたり、頭を捻ったりしていた。
「うん。そうなるわよね。ちなみに試験では『未だ判明していない』と答えるのが正解ね」
 口にした言葉を、黒板に設けた『複合属性』の文字の横に書き込む。
 同時に、先ほど挙げた例の一つである雷属性の作り方の他に、複合属性の他の例についても書き込んでいく。
「火と風で雷を発生させ、水と地で植物を操る等々、余りにも数が多くて、未だ答えがはっきりしていない。属性を組み合わせる順序でも変化するし、複合属性同士の組み合わせもあるから、本当に煩雑ね」
 生徒たちが黒板の内容を書き写す様子を見渡しながら、ロゼルは、次の内容へと進めるべく教科書のページを捲った。
 鉛筆を動かす音が各所で聞こえ、時たま相談する声が聞こえる。
「さて。書き終わった人は、次のページを開いて黙読しといてね」
 ロゼルは、指示を出しつつ教壇から降りると、教室内を巡る机間指導を始めた。

 数分後。
「はい。次に行くわね。皆お待ちかねの、攻撃術式の基本を始めるわ」
 机間指導を終えたロゼルは、再び教壇に上り、教科書のページを進めた。
 教室中から、軽く歓声が起こった。
「はーい、静かにね。さて。教科書を見るまえに質問ね。みんなって、攻撃魔術と聞いた時に、まずは何を思い浮かべるかな?」
 ロゼルがそう言うと。
「やっぱ炎を派手に飛ばす魔術だな!」
「吹雪を叩きつける魔術も良いと思うわ」
「当然、雷のドカンと落とす魔術ですわ!」
「いやいや。そこは風の刃で切り裂く魔術だろう!」
 等々。多種多様な意見が飛び交い始めた。

 そして、ある程度意見の提出が落ち着いてきた頃合いを見計らい、ロゼルは全体の騒然とした空気を制した。
「なるほど。みんな派手好きね。と言っても、確かにそう言う印象が強いわよね。特に十年前の戦いだと、そう言う魔術が飛び交っていた……と言われていたからね」
 黒板の空いた空間に『攻撃術式の基本』と書き込み、全員から出た意見の一部を抽出し、追記した。
「ただ、期待を裏切るようで申し訳ないけど、みんなが初めに習得する攻撃術式は、これ」
 そう言うと、ロゼルは開いた手の平に、光の粒子を集めるようにして魔力を集束。青い光を放つ魔力の矢を、一本だけ作り出して浮かべた。
「基本中の基本。“魔力の矢マジックアロー”ね」
 それを見ていた生徒たちからは、最初こそ歓声が上がったものの、直ぐに何とも言えない微妙な空気が広がっていった。
「まあ、さっき挙がった例からすれば地味だね。とても地味。でもね。これは全部の攻撃術式の基本が詰まった、究極の術式の一つと言われてるの」
 教室中から「えー」「本当ですかー?」と言ったような反応が返ってくる。
「何故、そう言われているのか。じゃあ教科書を見て。そこに書いてあることの最初から三行目までを……うん。そこで一番がっかりした表情を浮かべた君に、読んでもらおうかな?」
 ロゼルは視線を、教室の一番後ろに居た男子生徒に向ける。
 すると、男子生徒は「すんません」と一言謝った後で、立ち上がって読む準備を整えた。
「えー。魔術とは、術者の有する魔力に方向性を与えて、術者の望む結果を得るという技術である。その中でも攻撃術式は、それがより身近に実感できる系統の一つである。何故ならば、魔力を一つに集め、そこに対象を攻撃するというイメージを直接投影するからである」
 そこまで読んで、男子生徒はロゼルの顔色を窺った。
 彼女は、その顔に対して優しく微笑んでいた。
「はい、有難う。座って良いわ。今読んでもらった通り。攻撃術式とは、自分のイメージする攻撃方法を、魔力を使って現実に再現するもの。だから魔力の矢マジックアローは練習に最適なのよ」
 そう言って、黒板に大事な部分を赤文字で書き込む。
「矢での攻撃は、炎や風を纏めて攻撃するよりはイメージしやすく、吹雪や雷を制御するよりは安全で、試しやすい。まあ危ないことには、変わりないけども」
 そこまでの要点のみを書き込んでチョークを置いた。
 教室を見渡すと、生徒たちは口々に「なるほど」「確かにそうだ」などと呟きながら、ノートに内容を書き込んだり、教科書に線を引いたりする作業を始めた。
「要するに、イメージが簡単で制御しやすいものを作る練習をして、感覚を掴むことが大事と言うわけね。これは、どの系統の術式でも言えることだから、覚えておくように」
「はい、先生!」
「分かりましたわ!」
 生徒全員の反応を見渡しながら、ロゼルは満足そうに、うんうんと頷く。

「さて、今日の内容は終わりになりますが、何か質問はありますか?」
 すると、その言葉に一人の生徒が手を挙げた。その生徒は授業中、あまり積極的に手を挙げる人物ではなかったので、ロゼルはその生徒を指名することにした。
「はい。えっと、先生。魔術はイメージの投影という事ですけど。もしも『世界の破滅』をイメージすれば、そうなるのでしょうか?」
 その質問に、周囲の生徒がざわつき始める。
「良い質問だね」
 しかし、ロゼルはにっこりと笑い、特に動揺は見られなかった。
「確かに魔術は、自分のイメージを投影し、現実として具現化する技術ではあるけれど、その幅には限界がある。これを『構築限界』っていうんだけどね」
 黒板の空き空間に、チョークで『構築限界』の文字と概要を書き込んでいく。
「例えば。この中で”世界の破滅”を、具体的にイメージできる人はいるかな?」
 その言葉に、教室内が更にざわめく。
 曰く「星が降ってきたら」とか、曰く「世界が炎に包まれたら」とか、曰く「大地が一瞬で裂けたら」とか、端から聞いていれば、頭の具合を不安がられそうな会話が繰り広げられている。
 しかし、互いに顔を見合わせて、ああでもない、こうでもないと言い合いはするものの、結局誰も手を挙げることはなかった。
 それら全ての反応に、ロゼルがうんうんと頷く。
「まあ、そう言う反応になるよね。それで、この『構築限界』と言うのは、”自分のイメージが追いつかないものは具現化できない”という理論なの」
 そして、律義に起立し続けていた生徒に向けて、そう解説してみせる。
 すると、その生徒は納得した様子で、頬を紅潮させながら頷いた。
「な、なるほど。何をして”世界の破滅”とするかの具体的なイメージが出来ないと、それを形にすることすら出来ない、ということなんですね」
「そう。知らないものや、考えが追いつかないものは、再現しようがないからね。それこそ世界を滅ぼす方法なんて、かの闇の領域の王ですら実行出来なかった」
 ロゼルは、何故か懐かしそうに語ったあと、再び、ふっと笑った。
「ああ、そうそう。この理論自体は、とある研究者が行った実験による証明もあるから、信頼できる理論だと思う。興味があれば調べてみて。他の人もね」
「はい!」
「さて、と……」
 そこまで話をして、彼女はふと、教室内の時計へと目をやった。
「そろそろ時間だね。じゃあ、この話は、また今度説明するとして。次回の予告をしておくね。次回は、実際に魔力の矢マジックアローを使う授業をするわ。皆にも使ってもらうから、そのつもりで」
 その言葉に、黒板の内容をノートに記入し終えた生徒たちから「おお」と言う期待に満ちた声が上がった。
「それでは、今日の授業はここまで」
「終了挨拶。全員、起立!」
 ロゼルの授業終了宣言に、クラス委員長が凛とした声で応じる。
 そして、直後に鳴ったチャイムの音と共に、終了の挨拶を交わすのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

妹が嫁げば終わり、、、なんてことはありませんでした。

頭フェアリータイプ
ファンタジー
物語が終わってハッピーエンド、なんてことはない。その後も人生は続いていく。 結婚エピソード追加しました。

わたし、不正なんて一切しておりませんけど!!

頭フェアリータイプ
ファンタジー
書類偽装の罪でヒーローに断罪されるはずの侍女に転生したことに就職初日に気がついた!断罪なんてされてたまるか!!!

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

処理中です...