究極魔女の魔法教室 ~私の魔術のつかいかた~

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断片章1:彼女はここに居た

放課後:魔女ロゼルの交友(断片章1・終)

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 中庭での一件の後、ロゼルは自分の個室兼研究室へと戻り、趣味の読書に勤しんでいた。
 支給された机の上には、彼女が趣味で集めた魔術書を始め、魔術の研究書や小説が積み上げられている。その全てにしおりが挟めてあり、適度に目を通していることが窺えた。
「うんうん。この研究書は当たりだね。内容と文章の濃淡が程よくて」
 そのような事を呟きつつ、楽しそうにページを捲っている。

 そして、手に取っている本をある程度読み終えた頃。コンコンと、部屋の扉がノックされる音が、彼女の耳に届いた。
「ロゼル先生、私です。入ってよろしい?」
 その後に、耳馴染みのある、フェルシアの声が続いた。
「残念ながら、しっかり開いてますよ」
 本当に残念そうな表情を浮かべつつ本を閉じ、そっと椅子から立ち上がった。
 同時に扉が開き、廊下に満ちていた涼しげな空気と共に、フェルシアが部屋の中へと足を踏み入れた。
「残念ながらって、それはどう言う意味かしら」
 後ろ手で扉を閉め切った直後。フェルシアは、額に軽く青筋を立てながら微笑みを浮かべた。
「そのままの意味です。せっかく旧友が訪問してくれたのに、ちょうど趣味を楽しむ時間が重なったと言う意味で」
 ロゼルは、部屋に備え付けの給湯室から、ティーポットと二人分のカップを載せたトレイと共に彼女の前に姿を現した。そしてそのまま、応接用のテーブルへと運んでいく。
「それは、どっちが残念なのかによるわね。読書の方なのか、訪問の方なのか」
「何を言ってるんですかー。十年以上もの付き合いのある旧友の訪問を、歓迎しないわけがないじゃないですかー」
 そう言いながらロゼルは、応接用のソファに座ったフェルシアの前に、紅茶を注いだカップを置く。その後に自分の分を用意した。
「そこはかとなく棒読み風味なのが気になるけど。まあ良いわ」
「細かいことは良いじゃないですか。それで、何か用事ですか? フェル」
 同じくソファに腰を下ろし、ロゼルがフェルシアに目を向ける。
「別に重要な用事ではないわ。さっきのお礼と、雑談に来ただけだから」
「お礼? 何かしましたっけ。私」
「ほら、中庭のあれ。貴重な妖精の話をしてくれたって、生徒たちが喜んでいたわ。お陰で精霊枝の設置も直ぐに終わったしね。これでシルフェドの影響を受けなくなるわ」
 そう言って、フェルシアが嬉しそうに微笑した。

 『精霊枝』とは。
 土に、自然を司る精霊の印を刻み付けた木の棒を挿すことにより、妖精シルフェドに対して、ここの管理は、その精霊の名のもとに厳重に行われているので、何も問題は無いという事を伝えるための技術である。
 なお、これは精霊の力を借りる契約魔術の一種であるため、術者は力を借りる代償として、精霊枝を設置している期間中は、一日一時間の祈祷・儀式を行う義務を負うことになる。

 そしてフェルシアと同じように、ロゼルも微笑を浮かべ、茶を含んで一息つく。
「それは何よりですね。ちょうどいい機会だからと、蘊蓄うんちくを垂れた甲斐がありました。門外漢ですけど」
 そのうえで、手をひらひらさせながら、大したことではないと言う風情で彼女の礼に応じてみせた。
 それを受けたフェルシアは、思わず苦笑を浮かべて溜息をつく。
「門外漢? 冗談。そんじょそこらの専門家より詳しいでしょうに。ところで」
「はい?」
「いつまでその丁寧口調で喋るつもり? ちょっと気持ち悪いくらいなんだけど」
「気持ち悪いって……」
 フェルシアから率直な感想をぶつけられ、ロゼルもまた苦笑を浮かべて溜息をついた。
「意識していたら、急な切り替えが出来なくなっただけ。ここからは普通に喋るよ。これで良い?」
「そうね。そっちの方が私も話しやすいわ」
 そう言って、フェルシアはカップに口を付け、一息ついた。

「それで、ここからは個人的な話になるんだけど……」
「ええ」
「貴方、生徒たちに、攻撃術式の授業で曲芸を披露してるそうじゃない。話題になってたわよ。大火球ファイアボールで花火を打ち上げたとか、魔力の矢で空中ショーとか」
「ああ、あれね。まあ確かに曲芸かも知れないね。あ、誰からか、何か言われてた?」
 そこまでのフェルシアの表現に引っ掛かりを覚え、ロゼルは首を傾げて見せる。
「いや、そう言う事じゃないわ。確かに、一部で苦言を呈する先生もいたけれど。生徒達には好評だし、学園長も嬉しそうにされていたから問題ないわ。ただ……」
「ただ?」
「皆が認める魔女である貴方が、何でそう言う事をしているんだろうって思ってね。私は最初、魔女ロゼルの後継者を育てるための、教導魔術師入りだと思ってたんだけど」
「……」
 その言葉と共に、二人が同時にカップを置いた。その後に数秒程の沈黙を挟む。
 そして。
「確かに、後継者を育成すると言う目的もあるね。ただそれは、魔女ロゼルの力の後継者ではなくて、私の思想を受け継ぐ魔術師の育成のためと言う意味だけど」
 ロゼルは優しげな微笑を浮かべ、そう答えた。
「どう言うこと?」
「私はね、フェル。攻撃術式を、単に攻撃に使うだけじゃなくて、他の用途にも応用できるような発想を持つ魔術師を育てたいの。その一例が、大火球の花火と空中ショーね」
 そう言うとロゼルは、開いた手の平の上に魔力を集束させて、ごく小さな炎の球体を生み出して浮遊させる。それは、しばらくの間そのまま停滞していたが、最後には弾けて、小さな火花となって消えた。
 見届けた彼女は目を閉じる。
「今の魔術には、戦いの道具としての力しか求められていない。私の持つ魔術の力も同じようにね。魔力の矢の座学の時に見えた生徒の反応からしても、そう思う」
 その目を閉じた暗闇に、先日の授業の時に見られた、がっかりした雰囲気を漂わせていた数人の生徒の表情が浮かぶ。
「まあ、派手な攻撃魔術への憧れは、分からなくもないけどね。ならせめて、その使い方の幅は広げてあげたいなと思ったんだ。もちろん、基礎基本からしっかり教えたうえで」
 そこで彼女は目を開け、ふっと笑みを浮かべた。
「なるほどねぇ。ま、お陰で皆楽しそうだし、良いんじゃないかな? でも十年前に使ってた最上級の術式を、英才教育で教え込むロゼルも見てみたいね」
「え? 天の雷メテオスウォームとか、劫火の剣ヘルズスォードとか、どれだけ丁寧に教えても魔力不足で使えないでしょ。付与系統にしても、基本の物体魔力付与エンチャントを教えてからじゃないと」
 フェルシアは、自身の揶揄からかうような口調に、諫めるように反論し始めたロゼルの反応を見て、苦笑を浮かべる。
「うーん。貴方って、基本は破天荒なのに、その辺り、しっかりしてるわよね」
「当然。教える以上、いざと言う時に使えないじゃ話にならないし、なまじ無理して使って、術式を暴走でもさせたら目も当てられないからね。その事故の怖さは、知ってるでしょ?」
 熱弁交えて語るロゼルは、先程までの笑みが消え、代わりに、教導魔術師としての誇りが垣間見える表情を浮かべていた。
「ともかく。教えるとしても、もっと後の話になるだろうね。まずは基礎基本と、幅広い使い方を広めることからだよ」
「ふぅん? それが、闇の領域の魔王をして最強と言わしめた魔女ロゼルの、今の目標ってわけね?」
「なに言ってるんだか。目標も何も。今も昔も、それが私の魔術の使い方さ」
 どこか呆れたように言って、その上で、ロゼルは優しげに笑うのだった。
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