究極魔女の魔法教室 ~私の魔術のつかいかた~

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断片章2:彼女の見ている世界

5時間目:魔術の応用(特別活動・Ⅰ)

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 ある日。ある山の街道を、魔術師見習いの外套を纏った魔術師三人と、教導魔術師の外套を纏った女性魔術師が一人、歩いていた。
「見えてきました。あれですね」
「おー、あれか。それにしても、まさかの依頼だったよな」
「それもだけど。途中から徒歩移動になるとも思ってなかったよね。途中、土砂崩れも崩落も起こってなかったのに。あー、なんかもう疲れてきた」
 四人が目指している道の先には、土砂崩れを起こして寸断された山道が見えている。
 その道路上には、土以外にも倒れた木や、上方から落ちてきたと見られる岩も転がっており、とても並大抵の人力で対応できる状態ではない。
「さあ、気合を入れて当たらないといけないね。準備は良い? 三人とも」
 そんな三人の背に向けて、女性の教導魔術師が明るく声を掛ける。
「はい先生。私は大丈夫ですが……。ジェーン、あなた大丈夫?」
 見習い魔術師の一人が、ジェーンと呼んだ隣の魔術師に声を掛ける。彼女は顔を上げると、苦笑を浮かべた。
「あー、大丈夫、大丈夫。気分的に疲れただけだからー。メリンやガルドの心配するようなものは、何も無いから」
「おう。気合いだぜ、ジェーン。不謹慎だけど、生徒に災害派遣依頼とか、こんな機会は滅多にないんだからな。しかも今回はロゼル先生の協力もあるんだぜ?」
「分かってるさー。これも将来の御飯のため! 気合入れていきますか!」
「貴方たちは、もう……」
 気合の掛け声らしいものを上げているガルドと、彼とは少々ズレた動機を口にして気合を入れるジェーン。そして、そんな二人を見て溜め息を吐くメリン。
 そんな個性派の三人を見守るように、後方からロゼルが付いていく。

 さて。そもそも何故、彼女達はそのような場所に来ているのか。
 説明するとごく単純な話で、学校の事業の一環である。

 ロゼルの所属する学校には、上級学年、卒業年次生向けの学外派遣事業が存在する。
 外部から依頼として持ち込まれた案件を、生徒が選択し、受注して解決に当たるというもので、将来の進路に関わる仕事に携われることから、生徒達にも好評の制度である。
 ただし、難度や危険度の高いものについては、教導魔術師が同行することになる。

 その学外派遣事業へ送られてきた依頼から、災害の復興支援を選んだメリン達は、ロゼルの協力の下、依頼の遂行に訪れることになったと、そう言う事だった。
「さあ、今からこの土砂を退けて、街道の安全を確保しないと!」
 メリンが、目の前に積み上がる土砂や木や岩を見ながら、早速魔術を使う支度をする。風の属性の魔力を練り上げ、術式を使う形を整えていく。
「よーし、まずはこの大きな岩を吹っ飛ばして……!」
 そう言いながら、ガルドが魔力を練り上げ始める。どう見ても、攻撃術式の構えを取っている。
「ガルド。それは不味いと思うなー。多分周りが崩れるよ?」
「そん時は、気合で押さえ込めば、何とかなるだろ!」
「ならないって……。巻き込まれは御免だよ。さ、木と岩を横に退けて、メリンの作業を援護するよー。まずは物体制御キネシスの準備ー」
「へーい」
 どうにも過激なガルドに対し、ジェーンは面倒臭がりながらも風の魔力を練り上げ、状況に合わせた、物体を浮かせて移動させるための術式を選択し、行使しようとしている。
(この三人、良いトリオだね。性格的にバランスが取れている)
 そんなことを思いつつ三人を見守りながら、ロゼルは、二次災害等の事態に備えて、複数の術式の準備を進めていく。

 この派遣事業において、同行する教導魔術師は基本的に支援役であり、依頼の遂行は、あくまで生徒の努力によって為されるべきであるとしている。もちろん、生徒の身に危険が及ぶと判断された場合は、その限りではない。

 それからの三人は、それぞれが担う役割を考えながら、各々の行動を決めて動いていく。
 ジェーンが木や岩を除去したら、土砂をメリンが退けていく。その間ガルドは、周辺の探査を進め、崩れなどが無いかを確認して回っていた。
「よーし。反対側の木と岩も退けたよー、メリン」
「分かりました。ガルド。そっちの坂道は、崩れとかはないですね?」
「おーう。見てきた限りじゃあな。だが、これよりもっと上となると、確信が持てねぇ」
「そうですね。ではそっちは引き続き警戒するとして。向こう側の土を退けましょうか」
「合点承知! やっと俺の技が火を噴くぜ」
「攻撃術式での一点突破は駄目よ。ジェーン、こっちに戻って。三人同時に風の集束球ウィンド・ボールを使って、一気に土砂を削りましょう」
「ほーい」
「ちぇっ。分かったよ」
 集まった情報をメリンが纏め、その指示の下でジェーンとガルドが動いていく。
 横一列に並んだ彼らが一斉に魔力の練り上げを行う。三人の構えた手の先で、それぞれが描く術式イメージの投影に反応するように、光の粒が渦を巻き始め、程なく空気の渦へと変換されていく。

(うんうん。三人とも息ピッタリだね。私の担当生徒じゃないから、どうなるかことかと思ってたけど。これなら作業自体は大丈夫そう)
 土砂を削り、塞がれた道を開放していく三人の様子に、ロゼルは微笑を浮かべた。しかし、その表情は直ぐに消え、鋭く細められた目が周囲の山へと向けられる。
(これだけの規模で土砂崩れを起こしているのに、他が崩落の気配すら無かったのは、何でなんだろう。嫌な感じだ……)
 メリン達が土砂を削り飛ばす音を聞きながら、ロゼルは杖を地面に刺して、その場で片膝をつくような体勢でしゃがんだ。そして目を閉じる。
術式結合コネクトマジックを発動。地霊同期リンク・ガイアエレメンタル環境探査フィールド・サーチを編成。複合術式の起動を開始!)
 魔力を練り上げ、頭の中で三つの術式を同時に組み上げていく。
 すると、術の発動と同時に、彼女の瞼の裏には、先程まで見ていたものとは違う景色が映り始める。それはまるで、地面を這って移動する蛇の視点のような、低い位置から森を見上げた時の景色だった。
(よし、上手く地の精霊と同期できた。さて、この場所の上はどうなっているのやら……)
 勝手に流れようとする視点の動きを操作しながら、周囲の状況を偵察していく。
 崩落した場所の様子から、それに巻き込まれた木々や動物たちの亡骸と言った災害の傷痕を見送りつつ、崩落した部分の頂点へと向かっていく。川の流れをさかのぼる魚のように、山の斜面を視点だけで登っていく。
そして、順調に頂点部分まで見えたときだった。
(うん? 何だろう、あれは)
 彼女は、そこで一つの違和感に気が付き、視点の移動を止めて観察に入る。
 崩落の頂点部分には、美しい黒い花が、まるで寄生するように咲いているイノシシの骸が転がっており、加えて崩落は、その足元から始まっていたからだ。
(黒い花? 動物の骸と崩落の始まり。まさか……)
 ロゼルは、その花について覚えがあった。
(この土砂崩れは、フェルの言っていた、狂ったシルフェドの仕業?)
 そこで、幾つかの情報が頭の中で再現される。

 この依頼の遂行に出立する前。見送りに来ていたフェルシアが、彼女に幾つかの情報を伝えていた。
『良い? もしも崩落に、少しでも違和感を覚えたら、周囲の探査を厳重にした方が良いわよ。そう言う時って、多分シルフェドが暴走して周囲を汚染した時だから』
『暴走? あの厳格なシルフェドが暴走するって言うのは、ちょっと考えられないんだけど?』
『ええ、普通なら有り得ないわ。でも、ここ最近で何例か、報告が上がってるの。一部では、魔王の力による影響ではないかって言われているわね』
『なるほど。見分ける方法とかはある?』
『ええ、一応はね。報告によれば、そう言う時には決まって、影響を受けた元凶には、美しい黒い花が咲いているそうよ。暴走した妖精の負の魔力が、そうさせているらしいわ』
『分かった。覚えておくよ』

 頭の中で思い起こされたやり取りに、ロゼルは苦笑を浮かべた。
(話を聞いた矢先にと言うのも、中々無いね。まあ幸い、直ぐに正常なシルフェドが暴走した個体を浄化するらしいから、汚染が広がらないことが救いね)
 ただ、そう解っていても不安は消えず、彼女の頭の片隅に滞留している。
(生徒を預かった手前、考えすぎかもね)
 そう思い、彼女が自身の不安の滞留を洗い流そうとした、その時だった。
(ん?)
 ロゼルの視界の端。件のイノシシの亡骸のある場所の近くに、もう一頭、別のイノシシが姿を現した。そして、その姿を見た彼女は、ハッと息を呑む。
(嘘でしょ!? ちょっと不味いね、あれは……!)
 そのイノシシの体にも、黒い花が寄生するように生えていた。
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