あやかし学園

盛平

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亜子と狐太郎

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 亜子は天狗の扇で大きな風を送り、大空に飛び立った。空を飛ぶのは久しぶりだ。亜子は焦りのため、何度も風を発生させ、ものすごい速さで空を飛んだ。

 もう少しであやかし学園の結界を出てしまうあたりで、亜子を呼ぶ声が聞こえた。

「亜子!」

 亜子が地上を見下ろすと、そこには探し求めていた、巨大な狼に乗った狐太郎の姿があった。亜子は嬉しくなって叫んだ。

「狐太郎くん!狼牙くん!」

 亜子は減速しようとしたが、扇の扱いを間違えて、大きな風を送ってしまった。

「キャァッ!止まらない!」

 慌てる亜子に向かって、狐太郎が叫んだ。

「落ち着け亜子!もう風は送るな!ゆっくり下降するんだ」

 狼牙に乗った狐太郎は、亜子を追うように並走した。狐太郎は胸元から札を取り出すと、術で縄に変えた。縄の先は丸くゆわえられていて、これで亜子を捕まえようとしているようだ。

 亜子は狐太郎の指示に従い、ゆっくりと下降を始める。狐太郎が投げ縄の要領で、縄をぐるぐる回しながら近づく。

 狐太郎が狙いをさだめ縄を投げると、亜子の身体にスポッと縄が入った。亜子はそのまま強い力で引っ張られ、狼牙に乗った狐太郎のひざの上におさまった。狐太郎は亜子の肩を掴んで、真剣な顔で亜子に言った。

「亜子!ケガはないか?!」
「うん、平気。狐太郎、会えて良かった!」

 亜子は嬉しくなって答えた。狐太郎がホッと息を吐く。狐太郎は急に困った顔になって言った。

「亜子、悪かったな。お前に何の説明もなく、術返しの術をさせてしまって」

 亜子は狐太郎の術を返した時の事を思い出した。あの時、亜子はとても怖かった。自分の手で狐太郎を殺してしまうかもしれないと思ったからだ。だが亜子は同時に狐太郎の事を強く信じていた。亜子は素直に狐太郎に言った。

「あの時、とても怖かった。だけど、狐太郎くんが私たちの事、本気で殺すなんて思っていなかった。きっと何か理由があると思ったの。狐太郎くんの事、信じてたから」

 亜子の言葉に、緊張ぎみだった狐太郎の表情がやわらいだ。その途端、亜子はある事を思い出した。

 亜子は術返しの術をした時、思いあまって狐太郎に告白してしまったのだ。あの時は、気が動転して、こわくて悲しくて、つい口から本心が出てしまった。

 しかも狐太郎も亜子の事を好きだと答えてくれたのだ。亜子と狐太郎は両思いになったのだ。

 亜子は突然、顔に火がついたように真っ赤になってしまった。チラリと狐太郎を見ると、亜子の赤面がうつったのか、狐太郎の顔も真っ赤だった。

 亜子と狐太郎は、顔を真っ赤にしたまま見つめあっていると、亜子たちを乗せている狼牙がガウッと鳴いた。

「そ、そうだな、狼牙。あやかし学園に帰るか」

 どうやら狼牙は、帰ろうと鳴いたようだ。亜子と狐太郎は狼の狼牙に乗り、あやかし学園を目指した。

 亜子たちがようやくあやかし学園に近づくと、校庭に人がいた。近づくにつれて、亜子たちのクラスメートたちだという事がわかった。

 皆、亜子たちに大きく手を振ってくれている。亜子も狐太郎も、大きく手を振り返した。狼牙はガウッと鳴いて、走る速度をさらに早めた。

 亜子たちはもうすぐ中学二年生になる。
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みんなの感想(1件)

ぱぴよん
2022.12.27 ぱぴよん

面白いです!
お気に入り登録させて頂きました〜

盛平
2022.12.28 盛平

ありがとうございます。これからも読んでいただけたら嬉しいです。

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