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特訓

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 吸血鬼による店の襲撃の後、響はある決意をした。もっと強くなりたかった。もし響が襲ってきた吸血鬼よりも強かったら、あんなに店を破壊される事はなかったはずだ。

 響が強ければ、ジュリアにあんな悲しい顔をさせなくて済んだはずた。響はジュリアに頼んだ。

「ジュリア。俺を鍛えてよ。俺、他の吸血鬼を撃退できるくらいに強くなりたいんだ」

 ジュリアは心配そうな顔をしたが、響の決意が固い事を見て取ると、うなずいてくれた。

 現在は仕事を探している最中で、時間があるのだ。コンビニのオーナーは、バイトの響に多めの退職金をくれた。その金で何とか食いつなぐ事ができた。

 ジュリアは響を裏山に連れて来た。ジュリアはなおも響に攻撃する事をためらっているようだった。響はジュリアにはっぱをかけるように言った。

「大丈夫だよジュリア。俺は吸血鬼になったから死なないんだろ?思いっきり攻撃して来てくれ!」

 響がそう言葉を発した瞬間、目の前からジュリアが消えていた。次にジュリアが姿をあらわしたのは、響の目の前だった。ジュリアの右足が響の顔にめり込んだ。

 響はジュリアに蹴られて吹っ飛んでしまった。響は大木に背中を強打してやっと止まった。

「キャアッ!響、大丈夫?!」

 響は全身の身体の痛みに呼吸もままならなかった。ジュリアが駆け寄って、響を抱き起こそうとすると、首がガクリと傾いた。ジュリアは困った顔で言った。

「嫌だ、首の骨が折れちゃった」

 どうりで呼吸がしづらいと思った。響はジュリアに何か言おうとしたが、しゃべる事ができなかった。ジュリアは響の頭を支えながら言った。

「大丈夫よ響。首が千切れたわけじゃないから、じきに回復するわ。ゆっくり呼吸をして?身体中の回復力を高めるイメージをするの」

 響はジュリアの歌うような言葉に耳を傾けて、ゆっくりと呼吸を開始した。身体中の細胞、血液、骨が癒合していく。

 どのくらい時間が経過しただろうか。とても長かった気もしたが、短かったようにも感じた。響はゆっくりと息を吐いた。ようやく呼吸がしやすくなった。

 ジュリアは微笑んで言った。

「首の骨がくっついたわ。もし頭と胴体が離れちゃっても慌てないでね?頭をくっつけてしばらくすればくっつくから」

 どうやら響の身体は粘土のように簡単な作りになってしまったようだ。響がようやく起き上がれるようになると、ジュリアが言った。

「さぁ、訓練の続きよ!」

 響は今日はもう終いにしてほしいと懇願した。
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