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翌日

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 日菜子はゆっくりと目を開けた。昨日カーテンを閉め忘れたようで、朝日が眩しかった。身体中が重くてだるかった。枕元のスマートフォンで時間を確認すると、もう起きなければいけない時間だった。

 日菜子は起き上がり、自室を眺めて叫んだ。

「何よこれ?!」

 部屋の床は水びたしになっていた。そこで日菜子は自室のドアが開いている事に気づいた。ドアの外を覗くと、母親が廊下で寝ていた。日菜子は駆け寄って叫んだ。

「ママ!ママ!何でこんな所で寝てるのよぉ」
「うぅん。あら日菜ちゃん。一人で起きれたのね?今何時?」
「七時」
「パパは?」
「知らない」

 母親は、自分が何故廊下で寝ていたのかわからないらしく首をかしげながら階段を降りて行った。その直後、母親の叫び声が屋内に響いた。

「キャアッ!パパ!いつまで寝てるの!?会社に遅刻するじゃない!」

 どうやら日菜子の父親も寝過ごしてしまったらしい。日菜子は首をかしげた。何か重大な事を忘れているような気がする。

 日菜子は朝食を食べてから大学に行った。大学の後、最近始めたバイト先のカフェに行った。するとバイト仲間の舞香が駆け寄って来て言った。

「大変だよ?!日菜子!響くん、バイト辞めちゃうんだて!」
「響くん?」
「ああん、もう。日菜子ったらショックすぎて響くんの事も忘れちゃったの?」

 カフェの店長は、日菜子が出勤したのを確認してから口を開いた。

「今日、潮山くんの彼女さんから電話がありまして、潮山くんはバイトを辞めるそうです。一体最近の若い者はどうなっているんだ。仕事を辞める時くらい自分で言いにこないか!」

 店長は、話しているうちに怒りが込み上げてきたようで、怒りながらホールに行ってしまった。舞香が心配そうに日菜子の肩に手を置いて言った。

「大丈夫?日菜子。貴女、響くんにぞっこんだったものね」
「・・・。響、くん?」

 日菜子には響という人物が誰なのかわからなかった。だがその人の名前を口にすると、どこか甘い響きがあった。響くん。日菜子はもう一度口の中でつぶやいた。
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