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辰治2

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 辰治は一度の吸血に三人の人間の血を吸う。一人の人間から沢山の血を取っては危険なので、少しずつ吸うのだ。二人は身体の大きな男、最後の一人は女と決めている。

 男は血を吸った後、そこいらに放置する。男なら酔っ払って寝っ転がっていても平気だと思うからだ。だが若い女はそうはいかない。若い女が倒れていれば、犯罪に巻き込まれるかもしれない。

 辰治は女の血を吸った後、交番かコンビニの前においていく事にしている。

 辰治たち同族の吸血鬼は、独自のテリトリーを持っている。獲物がかぶらないようにするためだ。だからあの時も、吸血鬼になりたての男を見つけたので、クギを刺そうとしておどかしたのだ。

 その吸血鬼になりたての男は、辰治を吸血鬼にしたご主人さまが選ばないような男だった。若く男前で、将来に希望がありそうに思えた。

 辰治が吸血鬼の男をおどかすと、なんと女の吸血鬼が現れた。どうやらこの男を眷属にした吸血鬼のようだ。この男は辰治と血を分けた吸血鬼ではなかったのだ。

 女の吸血鬼はやたらめったら強かった。このまま辰治は殺されてしまうのではないかと思った。だが男の制止に女の吸血鬼はすぐに応じた。辰治はそのすきに逃げる事ができた。

 あの女吸血鬼は、純血の吸血鬼のようだ。辰治のご主人さまと同じように、人間を吸血鬼に変える力を持っているのだ。

 辰治はご主人さま以外の純血の吸血鬼を初めて見た。きっと辰治の目を通して、ご主人さまも女吸血鬼を見た事だろう。

 辰治が高いビルの上から地上を見下ろしていると、背後から声がした。

「お前が出会った吸血鬼。純血なのだな」
「はい、エグモントさま。貴方さまと同じかと」

 辰治は振り向かずに答えた。振り向かなくても分かる。辰治と主人であるエグモントは心がつながっているのだから。辰治のご主人、エグモントはおうように言った。

「ついに見つけた。あの女が私の花嫁だ。引き続き偵察を続けろ」
「はい」

 そこでご主人の気配は消えた。辰治はフウッと息を吐いた。

 
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