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劇の特訓

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 恭子に人形使いの能力を活かして、人形劇をしてみいないかと提案された時、結はためらった。

 劇をするには芸術的センスが必要なのだ。演劇の才能は、結にはなかった。恭子は自分も力になるからと言って、結を励まし、舞台演出の手伝いもしてくれた。

 役者の人形たちは、恭子が所有する人形たちがなった。唯一少年の人形であるアルベルトがロミオ役をやる事が決定したが、それ以外は女性の人形たちがやらなければいけない。これはもめにもめた。

 少女の人形たちは皆自分がジュリエットになりたいというのだ。仕方なく恭子の提案でくじ引きにした。四つのこよりを作り、一つだけ先を赤く塗っておく。四人の人形たちは一人づつこよりを引いていく。

 ジュリエット役を射止めたのはエラという亜麻色の髪が美しい人形だった。他の三人の少女人形たちは、しぶしぶ男装をする事になった。

 人形たちは言葉をしゃべらない。そのため、身体の動きだけで感情を表現しなければいけない。

 球体関節人形はその点、細やかな動きをする事ができた。結は人形一人一人に悲しみ、喜び、怒りという動きの表現をつけた。

 人形たち一人一人だけではなく、同時に三人もの人形を動かす場面になると、結の集中力は激しく疲れた。だが何度も人形たちとの練習を繰り返すうちに、人形たちは自分の動きを覚えてくれるようになった。

 そのため結が軽く指示を出すだけでも人形たちが自主的に動いてくれるようになったのだ。

 劇にさけるお金は少ないので、舞台道具や小物は結たちで作る事にした。ロミオは剣を振るう場面が多いため、人形たちが傷つかないように、厚紙にアルミホイルを貼って剣を作った。

 一か月の練習を経て、ついに劇を公演する事ができたのだ。見物にきてくれたのは、恭子のお店に来てくれるお客さんがほとんどだった。

 人形たちの劇はこの後も公演を予定している。評判がよければ、また別の劇もしようと恭子は言ってくれたのだ。結はとても喜んだ。

 
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