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コングと花雪

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「伊織!花雪!」

 哲太とコングが伊織の所に駆け寄って来る。どうやらコングは、伊織の指示通り哲太を守ってくれていたようだ。

 伊織はコングに向かって言った。

「コング、哲太のお守りありがとう」
「何だよ!お守りって!」

 哲太が伊織に噛みつく。伊織はため息をつきながら答えた。

「何って、哲太は死ぬ所だったんだぞ?コングに礼を言え」
「・・・。コング、守ってくれてありがとう」

 哲太は気恥ずかしそうにコングに礼を言った。コングは嬉しそうにうなずいた。そこで哲太は伊織に向きなおってせっつくように言った。

「おお、そうだ伊織。コングは沢山の銃撃を受けたのに、傷一つついていなかった。なぜだ?」
「俺が人形と同調している間、人形の攻撃力と防御力を底上げする事ができる」
「そうか!伊織の操りの能力はすごいな!」

 哲太は関心したというように、しきりにうなずいた。伊織はチラリと哲太を見てから、せき払いを一つして言った。

「それに、だな。哲太の作った人形の性能がいい事も理由の一つだ」

 伊織の言葉に、哲太は一瞬ポカンとした顔してから、みるみる満面の笑顔になって、そうかと答えた。どうやら哲太は自身の作る人形を、誇りに思ってくれたようだ。

 伊織たちは依頼主である蛭間の屋敷に戻る事にした。

 吉田組の組長である蛭間剛三は、すでに伊織の活躍を耳にしていたようで、機嫌良く伊織たちを迎えてくれた。

「やぁ、聞きましたよ?高梨さん。アンタ凄腕の人形使いだったって」
「恐縮です」

 伊織の謙虚な返事に、剛三はうんうんとうなずいてから言った。

「どうでしょうね?高梨さん。アンタこのままウチの用心棒になっては?」

 伊織は内心面倒だと思いながら、表情はさも神妙に、答えた。

「いえ、私は天賀家の人間です。上司が吉田組への出向を認めるのでしたら」

 伊織は天賀家の飼い犬だ。天賀家が死ぬかもしれないやくざの抗争の助っ人に行けといえば行かざるを得ない。

 剛三はあごに手を当てて考えるそぶりをした。伊織を抱え込むのが得策か、事がある時に用心棒として呼ぶのがよいか思案しているようだった。

 剛三は伊織たちを食事に招待してくれた。伊織は早く帰りたかったのだが、図々しい哲太はごちそうになっていこうとうるさいので、しぶしぶ夕食に呼ばれた。

 用意された食卓はとても豪華なものだった。いつも質素な食事の伊織と哲太がおいそれと食べれるものではなかった。

 剛三は酒もふんだんに振る舞ってくれた。伊織は仕事中を理由に酒を辞退しようとしたが、酒好きの哲太は大喜びで酒を飲んで言った。

「おい、伊織。この酒メチャクチャ美味いぞ!お前も飲んでみろよ?」

 伊織は、剛三の手前断る事ができなくなった。伊織は恨みがましそうに、酒を飲んでごきげんな哲太をにらんだ。

 

 

 
 
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