上 下
39 / 64

剣の戦い

しおりを挟む
 女剣士はもう然とカイルに斬りかかった。カイルは女剣士の一太刀を軽く受け流し、彼女の剣の方向を変えた。彼女は驚いた顔でカイルを見た。まるで雲を斬るような手応えの無さだったのだろう。

 女剣士は気を取り直して、再びカイルに剣を打ち込んできた。カイルは先ほどと同じ要領で、女剣士の剣の方向を少しだけ変えて、すべて受け流した。

 カイルは彼女の剣の技術を冷静に見定めていた。剣の腕は悪くない。おそらく小さな頃から、しかるべき剣の師匠について学んだのだろう。だがよくも悪くも教科書通りといったところか。

 女剣士は、自分の剣が一度もカイルにまともに打ち込めない事に焦り出し、やたらめった斬り込んで来た。当然意識は上半身だけに向いている。カイルは女剣士の右足を外側からけった。

 彼女は突然のカイルの攻撃に意識がいっていなかったらしく、キャアッと可愛らしい悲鳴をあげて転倒した。カイルは起き上がろうとした彼女の首に剣を突きつけて言った。

「俺の勝ちだ」

 女剣士は悔しそうな顔をしたが、ゆっくりとした動作で立ち上がって言った。

「仕方ない。ガキ、お前を雇おう」

 女剣士の言葉に、カイルではなくサイラスが怒鳴った。

「おい!さっきからなんで偉そうなんだよ!俺たちはまだ依頼を受けるとは言ってないぞ!」
「お前じゃない。このガキに言っている」

 涼しい顔の女剣士にサイラスは顔を真っ赤にして怒る。カイルはため息をついてから言った。

「依頼を受けるかは内容による。どんな依頼なんだ?」

 カイルが女剣士に聞くと、女剣士は途端に口をゆがめてから、うめくように答えた。

「私の、父の仇討ちを手伝ってほしい」
「かたき?ではお前の父親は誰かに殺されたのか?」
「ああ。そいつは暗殺集団の一員だ。集団の名は、ブラックスコーピオン」
「ブフゥッ」
「ブフォッ」

 女剣士の発言に、カイルとサイラスは同時に吹き出した。そんな二人を女剣士は不思議そうに見つめた。

 女剣士の名前はレベッカといった。どうやら本当はいい所の令嬢のようだ。レベッカが幼い頃、父親の書斎に殺し屋がやって来た。レベッカはいつも父親の書斎に勝手に出入りしていたので、父親が殺し屋に殺されるところを目撃してしまったのだ。

 レベッカはドアの陰から父親と侵入者の会話を聞いていた。侵入者は父親を殺しに来た暗殺者のようだった。父親は、家族に手を出さないでくれるなら、喜んで命を手放そうと言った。

 レベッカはすぐさま父親の所に駆け寄りたい気持ちと、恐怖で一歩も動けない気持ちにさいなまれていた。暗殺者は父親が恐怖しない事をつまらなく思ったのか、自分はブラックスコーピオンという殺し屋集団の人間だと名乗っていた。

 父親は早く自分を殺せと、暗殺者をせかした。きっとぐずぐずしていると、娘のレベッカがやってくるかもしれないと思ったのだろう。暗殺者は攻撃魔法で父親を殺した。その後暗殺者は窓から出て行ってしまった。

 レベッカはだいぶ時間が経ってから父親の遺体に触れた。父親の身体はまだ温かかった。レベッカは父親のなきがらにすがり、号泣しながら誓った。必ず父親の仇を討つと。



 

しおりを挟む

処理中です...