見習い動物看護師最強ビーストテイマーになる

盛平

文字の大きさ
10 / 118

霊獣アポロン

しおりを挟む
 あかりたちはウーヨ討伐を終えて、王都に戻る事にした。帰りもスノードラゴンのグラキエースの背中だ。あかりは行きでグラキエースの背中から、振り落とされそうになったので不安げに乗り込む。帰りもアスランが風魔法の防御ドームをはってくれたので、あかりは振り落とされる事はなかった。ただアスランの元気がない事が気がかりだった。

 冒険者協会に着くと、アスランはウーヨ退治の報酬の手続きをした。盗賊団退治ほどではないが、それなりの金貨が手に入った。冒険者協会を出ると、アスランは真剣な顔であかりに話し出した。

「メリッサ、これから君をテイマーの学校まで連れて行こうと思う。まだこの金額では学費には足りないが、僕が今までに稼いだお金でまかなえると思う」
「アスラン、どういう意味?」
「メリッサ、僕は冒険者を辞めようと思う。最初からこうすればよかったんだ。僕は冒険者になんか向いていない、僕につき合わせた結果、アポロンにケガをさせてしまった。アポロンと森で畑を作りながら暮らす事にするよ」
「勇者の称号はどうするの?」

 あかりの言葉にアスランは弱々しく笑って言った。

「アポロンに聞いたんだね?そう、僕は勇者の称号に固執していた。それも皆父親を畏怖していたからだろう。僕が郷里に帰らなければ、父は僕がどこかでのたれ死んだと思うだろう」

 アスランの言葉にアポロンは激しく反発する。あかりに自分の言葉を伝えてくれとうったえていた。

『アスラン、ダメだ。メリッサ、アスランに伝えてくれ、私はアスランの足かせなんかにはなりたくないんだ!』

 あかりはアスランとアポロン、双方から一方的に話をされて、へきえきしてしまった。あかりは二人をいったん落ち着かせようと思った。そしてあかりの横でパタパタと飛んでいる、可愛いドラゴンにお願いした。

「グラキエース、アスランを眠らせて」

 グラキエースはこくりとうなずくと、魔法を発動させた。アスランはフラフラしだしてその場に倒れそうになった。すんでの所であかりがアスランを受け止める。だが成人男性のアスランを、少女のあかりが支えるには無理があった。見かねた子虎の霊獣が、魔法でアスランをアポロンの背中に乗せた。

 アスランは面倒くさいので、そのまま宿屋のベッドに転がしておいた。あかりたちは今後どうしたら良いか、会議をする事にした。城下町の真ん中にある噴水の側のベンチにあかりは腰をかけた。その横には白馬のアポロン、アポロンの背には子虎が乗り、目の前には小さな翼を一生懸命パタパタさせている小さなドラゴンがいた。動物好きのあかりにとってはたまらない光景だ。まずはあかりが意見を言う。

「アスランはアポロンと離れたくないのよ。だけどアポロンはこのままではアスランといたくはないのね?」

 アポロンはうなずいて答える。

『ああ、私はアスランの役に立ちたいのだ。私のせいでアスランがやりたい事を諦めてほしくないのだ』
「アスランのやりたい事って?」

 あかりの質問にアポロンが答える。

『アスランは自分の力を世のために使いたいのだ。決してこのまま埋もれてしまうような者ではないのだ』
「ならなおの事アポロンはアスランの側にいなければいけないわ」

 それまで黙っていた虎の霊獣のティグリスが言葉を発した。

『なぁ、アポロンって今いくつなんだ?』
『ああ私は今年で二十八歳になる』
「ええっ!二十八歳?」

 アポロンの年齢を聞いて驚きの声をあげたのはあかりだった。通常馬の寿命は三十年だ。だがアポロンの若々しさは驚異的だ。あかりを乗せて盗賊を飛び越えたり、盗賊団のアジトに行くために高い崖を駆け下りたりと、とても高齢な馬とは思えなかった。アポロンの年齢を聞いてティグリスはしたり顔で言った。

『やっぱりな。アポロン、お前はきっともっと長生きするぞ。それでな、これは提案だがな。俺は自然界の中で生まれた霊獣だ。多くの霊獣がそうだが、中には例外がある。最初は動物として生まれて、長い年月を経た動物はごくまれにだが霊獣になる事がある。俺はアポロンは霊獣になれる素質があると思う。なぁジジィどう思う?』

 ティグリスに質問されて、今まで黙っていたグラキエースが口を開いた。

『うむ、わしもアポロンには霊獣の素質があると思う。だが確証はないのだぞ?もし失敗すればその時は』
「失敗するとどうなるの?」

 口ごもるグラキエースにあかりはせっついて続きをうながす。グラキエースはためらいがちに答えた。

『アポロンが霊獣になるためにはある試練を突破しなければならない。だがもしアポロンがその試練に失敗すれば、それは死を意味する』

 グラキエースの言葉に、あかりはヒュッと息を飲んだ。グラキエースは言葉を続ける。

『わしは、アスランがそれでいいと言うのならば、アポロンとのんびり余生を過ごすのも悪くないのではないかと思う」

 一同はシンッと静まりかえった。その沈黙を破ったのはアポロンだった。

『もし私がアスランの役に立てる存在になれるのなら、その試練を受けたい』

 あかりはたまらず言った。

「アポロン、アスランはあなたの事が本当に大好きなの、アスランの事も考えて?」
『アスランの事を思えばこそだ。私の決心はゆるがない』

 アポロンの決意は固く、あかりは取り付く島もなかった。あかりの心配をよそに、話はあれよあれよと進み、アポロンは霊獣になるための試練を受ける事になってしまった。



 あかりたちは風の精霊がいるといわれる大きく切り立った崖の谷間を見おろしていた。崖の谷間の底は真っ暗で、下は見えなかった。この崖から落ちたなら命はないだろう。谷間からは風がビュービューと吹いていて、まるで怪物がうなり声をあげているようだった。あかりはゴクリとツバを飲み込んだ。

 これからアポロンはこの谷間に飛び込む。そして、アポロンが霊獣になる素質があるのなら、アポロンは生還するだろう。だが霊獣の素質がなければ。あかりは、その先を想像する事ができなかった。あかりはグラキエースに頼んで、アポロンの背中で寝こけているアスランを起こしてもらった。

 アスランは、ここはどこなのかも、自分は何故こんな状況なのかもわからないのだろう。キョロキョロと辺りを見回していた。アスランはあかりに目を向けて、状況の説明をしてほしそうだった。あかりは覚悟を決めて話し出した。

「アスラン落ち着いて聞いて?」
「ぐるぐる巻きにされた状態のままかい?」

 この時のアスランの状態は、身体全体をロープでぐるぐる巻きにされていた。これはアスラン自身を守るためのものだ。あかりは言葉を続ける。

「ええそうよ。そのままで聞いて。この場所は風の精霊の住まう谷なの。長い年月を生きた動物が、霊獣になる事を望み、その身を谷に投げるならば霊獣になれる可能性があるのよ」

 アスランは息を飲んだ。誰が谷に身を投げるかわかったからだろう。

「まさかアポロン、君がやるんじゃないだろうな?」

 アスランは動きづらい身体を愛馬アポロンに向けて、厳しい表情で言う。

「僕は許さないぞ。絶対にダメだぞアポロン」

 厳しい表情のアスランを、アポロンは慈愛に満ちた顔で見つめる。あかりはアポロンのとなりに立った。アポロンの言葉を代弁するためだ。あかりが言葉をつまらせながらアスランに話し出す。

「アスラン、これから私が話す言葉はアポロンの言葉」
『アスラン、私は君が立派に成長した事を嬉しく思っている』
「アスラン、私は君が立派に成長した事を嬉しく思っている」
『アスランには、もっと自分のやりたい事を実現させてほしい』
「アスランには、もっと自分のやりたい事を実現させてほしい」

 アスランは、これから愛馬が深い谷に飛び込もうとしている事を知って、目に涙を浮かべながら、首を振っている。

『アスラン、君は私の誇りだ。君を心から愛している。もし私がどのような結末を迎えようとも、君のせいではない。ではさらばだ』
「アスラン、・・・。き、きみはわたしのっ誇りだ。君を、こ、心から愛している。もし、わたしがどのような、結末を、迎えようとも、君のせいではないっ。・・・では、さらばっだ」

 あかりは泣いていた。おえつでうまくアポロンの言葉を代弁できなかった。アポロンは、あかりがアスランにアポロンの言葉を伝えきったとわかったのだろう。すぐさまきびすを返して、谷に向かい、何のためらいもなく谷に飛び込んだ。

「嫌だアポロン!」

 全身をぐるぐる巻きにされたアスランは、その場に倒れこんだ。ぐるぐる巻きにしたのは、アスランがアポロンの後を追って、谷に飛び込まないようにするためだ。アスランはもぞもぞとイモムシのようにのたうち回っていた。

 あかりはアスランの痛ましい姿を見る事ができず、目をつむった。するとティグリスとグラキエースの鋭い声が聞こえた。やめろ、アスラン。と、あかりが目を開けると。アスランが一目散に崖の谷間に走っていってしまった。アスランは自分の魔法で、縄を切って抜け出したのだ。あかりは悲鳴をあげた。

「きゃああ!アスラン!グラキエース、ティグリス止めて!」

 あかりの言葉もむなしく、アスランは崖の谷間に消えてしまった。あかりはその場にしゃがみこんでしまった。アポロンは帰って来ず、アスランはアポロンの後を追ってしまった。最悪の結末だ。あかりは泣き出してしまった。もっと他に選択肢があったのではないか。あかりがもっと強く止めていればよかったのではないか。後悔の念があかりに襲いかかった。あかりが泣き続けていると、ティグリスの声がした。

『見ろ!メリッサ!』

 あかりの泣きはらした目の前に、美しい翼を持った天馬が現れた。その天馬はアポロンだった。そして、アポロンの背中にはアスランが乗っていた。アポロンは試練を見事突破し、霊獣になったのだ。あかりの涙は、喜びの涙になった。

 アスランは、アポロンの首にしがみつき泣きながらアポロンの名前を呼んでいた。アポロンは泣きじゃくるアスランを、優しく自分から下りるようにうながした。アスランはアポロンの背から下りると、アポロンの目を涙ながらに見つめた。アポロンがアスランに言う。

『アスラン、私の名を呼んでくれ』
「アポロン、アポロン」

 アスランはうわごとのようにアポロンの名前を呼び続けた。アポロンは慈愛に満ちた声で言う。

『真の名において契約する。アスラン、私が君をずっと守る事を誓う』

 アポロンが言葉を言った途端、二人を淡い光が包んだ。アポロンとアスランの契約が結ばれたのだ。アスランは泣きながら笑って言う。

「アポロン、これからもずっと一緒だよ?」
『ああ、アスラン。私はずっと君の側にいて、君を守るよ』
「あれ、変だな。アポロン、君の言葉がわかる」
『おかしな事などない。私とアスランは真の名において契約したのだ。私とアスランはずっと一緒だ』

 アスランはアポロンの首に抱きついて泣いた。きっと喜びの涙なのだろう。あかりは二人の姿を微笑んで見つめた。あかりの側にはティグリスとグラキエースがいた。ティグリスは得意げに言った。

『な!俺の言った通りだっただろう?アポロンは霊獣になれるって』

 自信満々なティグリスをグラキエースは憎々しげににらみ、言い返す。

『わしだってアポロンが霊獣になれるとわかっとったわい!』

 あかりは二人を抱きしめながら言った。

「いいじゃない。終わりよければすべて良しよ」





 
 
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

不倫されて離婚した社畜OLが幼女転生して聖女になりましたが、王国が揉めてて大事にしてもらえないので好きに生きます

天田れおぽん
ファンタジー
 ブラック企業に勤める社畜OL沙羅(サラ)は、結婚したものの不倫されて離婚した。スッキリした気分で明るい未来に期待を馳せるも、公園から飛び出てきた子どもを助けたことで、弱っていた心臓が止まってしまい死亡。同情した女神が、黒髪黒目中肉中背バツイチの沙羅を、銀髪碧眼3歳児の聖女として異世界へと転生させてくれた。  ところが王国内で聖女の処遇で揉めていて、転生先は草原だった。  サラは女神がくれた山盛りてんこ盛りのスキルを使い、異世界で知り合ったモフモフたちと暮らし始める―――― ※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...