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霊獣のリーダールプス
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辺りを警戒するあかりたちに、霊獣の声が聞こえた。
『人間たちよ、ここは我らのテリトリーだ。即刻立ち去れ、さすれば命は助けてやろう』
霊獣の声に対して、ゼノは声を張り上げて言った。
「わしらはお主らと話をしにきたのじゃ。どうじゃ姿を見せてくれんかの?」
ゼノの言葉に森の奥から、大きな一頭の狼が現れた。その狼の頭にはツノが生えていた。狼の霊獣だ。狼の霊獣の周りには、いつの間にか三頭の霊獣が集まっていた。ツノを持つ大きなクマ。翼が生えた雄々しい雄鹿。背中に翼を持つ牡牛。大きな狼はおごそかに言葉を発した。
『我が名はルプス。霊獣のリーダーだ。我らは人間となどは馴れ合わぬ、もし退かぬというなら、力ずくでもそうさせるまでだ』
霊獣のリーダー、ルプスの言葉にあかりはショックを受けた。確かに霊獣たちは人間が憎いかもしれない。だけどゼノは他でもない霊獣の為に行動しているのだ。あかりはたまらずアポロンの背から降り、ゼノの横に立った。ルプスは、急に人間の娘が現れた事に驚いたようだ。
「聞いて、霊獣のリーダーさん。このゼノおじいちゃんは、あなたたち霊獣の為に働いているの。お願い話を聞いて?!」
『なんだ人間の娘、お前には魔力をちっとも感じない。無力な娘よ、早くこの場から去れ。戦闘に巻き込まれるぞ』
あかりは悲しい気持ちでいっぱいになった。ゼノは優しくあかりの肩に手をおいて言った。
「すまんのぉメリッサ。どうやら対話では無理なよぉじゃ。しばらくじっとしててくれんかの?すぐに終わらせる。ティグリス!グラキエース!メリッサを守るのじゃ!」
ゼノの言葉にティグリスは大きな虎になってメリッサの前に立ち、グラキエースはメリッサの側によった。ゼノはアスランとアポロンの名を呼んだ。アスランはアポロンの背に乗り上空に飛んで行く。あかりは震えながら確信した。まもなく戦闘が始まるのだ。
ゼノはノーマを呼んだ。ノーマはゼノの肩に乗り、土魔法を発動させた。すると、見る間に沢山の大きなツタが伸び出し、ゼノとルプスを隠してしまった。ゼノとノーマは霊獣のリーダーと勝負するつもりなのだろう。
あかりが空を見上げると、雄鹿の霊獣と、アポロンに乗ったアスランが戦っていた。アポロンは風魔法の弾丸を相手にぶつけ、アスランは氷の刃を雄鹿に放つ。雄鹿は炎のシールドで、アポロンとアスランの攻撃魔法を防いだ。どうやら雄鹿は炎の魔法を使うようだ。アポロンとアスランと雄鹿の戦いに、牡牛の霊獣が混じった。アスランとアポロンが劣勢になる。それをジリジリしながら見ていたグラキエースは声を上げた。
『ええい、アポロンとアスランめ、何をもたもたしている。わしがさっさと片付けてやる!ティグリス!メリッサから離れるなよ』
グラキエースはそれだけ言うと、森を飛び出し、上空で元の姿の巨大なスノードラゴンになった。グラキエースの大きな咆哮は森一帯を震わせる。グラキエースは雄鹿と牡牛に容赦のない氷の刃を放った。雄鹿は炎の防御魔法で、牡牛は水の防御魔法でグラキエースの刃を防いだ。だがグラキエースの猛攻は止まらない。グラキエースの氷の刃があかりたちの所まで飛んでくる。ティグリスは炎の防御魔法で、あかりを氷の刃から守った。あかりはティグリスにありがとうと言う。ティグリスは唸りながら言った。
『あのクソジジィ、メリッサを危険にさらしやがって!張り切りすぎだ!』
あかりたちがいる場所の近くの林が、ガサリと音を立てた。あかりはびくりと身体を震わせる。そこにはクマの霊獣がうなり声をあげていかくしていた。ティグリスは舌打ちをしてからあかりに言う。
『メリッサ、セレーナを呼べ!絶対だぞ?!すぐ戻るからな』
そうティグリスは叫ぶと、クマの霊獣
に飛びかかった。クマと虎は激しくもみ合う。あかりは目をつむり、手を組んで祈った。ティグリス、みんな、どうかケガをしないで。あかりは目を開くと、自分のほほをパンッと叩いた。自らに気合を入れるためだ。あかりは目の前に高くそびえるツタの壁を、もうぜんと登り始めた。あかりは小さな頃から木登りは得意だ。ねじれたツタを足場にスルスルと登って行く。
あかりは、この人間と霊獣の戦いをとても悲しいと思った。だけど同時に、確信している事があった。この戦いは無意味だ。霊獣のために奮闘するゼノと、霊獣を人間から守ろうとするルプス。二人が争う事など一つもないのだ。あかりはこの戦いを止めなければいけない。例え自分の命が危険にさらされる事になっても。
地上からかなり離れた所まで登ると、あかりが通れそうな隙間が空いていた。あかりは身をよじって、その隙間にもぐりこんだ。あかりがツタの壁の中を見ると、そこはメチャクチャだった。ツタの壁の内側には、沢山の焦げた切り傷があった。あかりの目の前を、鋭い雷の光が飛び交う。どうやら狼の霊獣ルプスは、雷の魔法を操るようだ。あかりが視線を下に向けると、ゼノとノーマがルプスの雷魔法を、鉱物防御魔法で防いでいた。そしてノーマの土魔法で、ルプスの足元に鋭いツタを出現させる。ルプスは鋭いツタを、軽やかに飛び越えた。一進一退の攻防が続く。
あかりは身をよじってツタの壁の内側に入ると、ゆっくりと足場を探して降り始めた。木登りは、登る時は案外簡単なのだ。だが降りる時は慎重にしないと、足を滑らせれば地上に真っ逆さまだ。あかりは下を見て、ゴクリとツバを飲み込んだ。あかりのいる場所はかなり高い。だがゼノたちとルプスは、自分たちの戦いに集中して、あかりには気づいていないようだ。あかりはゆっくりとツタの壁を降りて行った。
あかりはやっと地面に降り立った。あかりの目の前にはゼノとノーマ、ルプスの戦いが繰り広げられていた。あかりは震えそうになる足を叩いて、気合いを入れた。そしてタイミングをはかって走り出した。戦いの真っ只中に。あかりはゼノたちの前に立つと、手を大きく広げルプスに向かって叫んだ。
「やめて!霊獣のリーダーさん!」
突然現れたあかりに、ゼノとノーマ、ルプスは驚きの声をあげた。
「メリッサ、なんでここに!危ないから離れるんじゃ」
『メリッサ、危ないじゃないか』
『そこをどけ!人間の娘』
彼らは口々にあかりに退けと言う。だがあかりは一歩も引く気はなかった。あかりはルプスに向かって叫んだ。
「聞いて霊獣のリーダーさん!ここにいるゼノおじいちゃんはね、ケガした霊獣たちを保護して助ける活動をしているの。リーダーさんが人間を信じられないのもわかるわ。だって人間はあなたたちに対してあまりにもひどい事をするんですもの。誰かを信じるのって難しいわ、信じて裏切られたら悲しいもの。だけどお願い、ゼノおじいちゃんの事だけは信じて?」
それまであかりの言葉を黙って聞いていた狼の霊獣ルプスは口を開いた。
『人間の娘、この人間の老人を信じるに値する証拠はあるのか?』
あかりはくちびるを噛みしめた。あかりはこの世界に転生して、動物と話せる力以外、何の能力もない。あかりはただのちっぽけな村娘なのだ。だが今この戦いを止めなければ、霊獣たちにとって、これからもっとひどい事になるだろう。
あかりは大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。あかりが持っているもの、それはあかり自身しかない。あかりは大声で叫んだ。
「証拠はないわ!だからもし、リーダーさんがゼノおじいちゃんに騙されたと思ったら、私を殺して!」
ゼノとノーマ、ルプスが息を飲むのがわかった。ゼノがうめくように言う。
「やめるのじゃ、メリッサ」
あかりはひるまなかった。あかりは言葉を続ける。
「リーダーさんからしたら、私の命なんて価値がないだろうけど、私はこれしか持ってないの!ゼノおじいちゃんの事を信じてくれるなら、私は命を捨てたって構わないわ」
狼の霊獣ルプスが再び問う。
『人間の娘、何故そこまでする?』
あかりは息をふぅっとはいてから答えた。
「私には、霊獣のお友達がいるわ。その子たちはとっても強くて、そしてすごく優しいの。この世の中に苦しんでる霊獣がいるなら、私はその子達一人一人を救いたい。だけど私は一人じゃ何にもできないわ、私はただの村娘だもの。だけどゼノおじいちゃんたちは違うわ、ゼノおじいちゃんと孫のエイミーは召喚士だし、バートは優秀なテイマーよ。きっとリーダーさんの力になってくれるわ!」
あかりはハァハァと息を吐きながらルプスを見た。ルプスは目をつむって何かを思案していたようだが、大きくため息をついてから答えた。
『娘、我らの負けだ。ゼノとやら、我らと共に、霊獣のために尽力してくれるか?』
ルプスの言葉に、ゼノはつめていた息をはいて言った。
「ああ、共に力を合わせよう」
あかりは身体全身がブルブル震えるのがわかった。戦いが終わったのだ。ゼノとルプスは共に霊獣のために手を取るのだ。あかりは緊張の糸がぷっつりと切れ、泣き出してしまった。最初は涙がポロポロ溢れ、次第にわんわんと声をあげて泣き続けた。ゼノもノーマも、ルプスも驚いてしまい、あかりに声をかけられないでいた。あかりは早く泣き止まなければと焦っていた、ゼノたちが困っているのに。だがあかりの涙は中々止まってくれなかった。あかりはどうにかしたくて、思わず呟いた。
「セレーナ」
あかりの前に、突如美しいヒョウの霊獣が現れた。彼女はあかりの契約霊獣だ。セレーナは優しくあかりに言った。
「どうしたのメリッサ」
あかりは泣きじゃくりながらセレーナに言った。
「セレーナ、ご、ごめんなさい。早くな、泣き止まなきゃいけないのに、涙が止まらないの」
『メリッサ大丈夫よ。私がついてるわ』
セレーナは優しくあかりにすり寄る。あかりはセレーナの首に抱きついた。セレーナはそんなあかりを慈愛に満ちた目で見てから、キッと目を鋭くして周りをにらんで言った。
『私の可愛いメリッサを泣かせたのは誰?!男がこんなに顔を付き合わせて、こんな女の子を泣かせて、恥ずかしくないの?!』
突然現れた女傑に、男連中はタジタジになった。ゼノはモグモグと何か言おうとしたが、ノーマはゼノの胸ポケットに入って出てこない。ゼノはノーマにいいつのる。
「おい!ノーマ出てこい!そしてこの霊獣のご婦人に説明するのじゃ、わしたちはメリッサを泣かせてないって」
ゼノの言葉を聞いたルプスはギクリと身体を固くさせる。ルプスの態度に、セレーナはキッとルプスをにらむ。あなたがメリッサを泣かしたの?と問いただす顔だ。ルプスはため息を吐いて答えた。
『ああ、その娘を泣かせたのは私だな。多分。娘、済まなかった。そして感謝する。私は同士を傷つける所だった』
ルプスの言葉に、セレーナはまだ納得していないようだったが、何も言わなかった。
『人間たちよ、ここは我らのテリトリーだ。即刻立ち去れ、さすれば命は助けてやろう』
霊獣の声に対して、ゼノは声を張り上げて言った。
「わしらはお主らと話をしにきたのじゃ。どうじゃ姿を見せてくれんかの?」
ゼノの言葉に森の奥から、大きな一頭の狼が現れた。その狼の頭にはツノが生えていた。狼の霊獣だ。狼の霊獣の周りには、いつの間にか三頭の霊獣が集まっていた。ツノを持つ大きなクマ。翼が生えた雄々しい雄鹿。背中に翼を持つ牡牛。大きな狼はおごそかに言葉を発した。
『我が名はルプス。霊獣のリーダーだ。我らは人間となどは馴れ合わぬ、もし退かぬというなら、力ずくでもそうさせるまでだ』
霊獣のリーダー、ルプスの言葉にあかりはショックを受けた。確かに霊獣たちは人間が憎いかもしれない。だけどゼノは他でもない霊獣の為に行動しているのだ。あかりはたまらずアポロンの背から降り、ゼノの横に立った。ルプスは、急に人間の娘が現れた事に驚いたようだ。
「聞いて、霊獣のリーダーさん。このゼノおじいちゃんは、あなたたち霊獣の為に働いているの。お願い話を聞いて?!」
『なんだ人間の娘、お前には魔力をちっとも感じない。無力な娘よ、早くこの場から去れ。戦闘に巻き込まれるぞ』
あかりは悲しい気持ちでいっぱいになった。ゼノは優しくあかりの肩に手をおいて言った。
「すまんのぉメリッサ。どうやら対話では無理なよぉじゃ。しばらくじっとしててくれんかの?すぐに終わらせる。ティグリス!グラキエース!メリッサを守るのじゃ!」
ゼノの言葉にティグリスは大きな虎になってメリッサの前に立ち、グラキエースはメリッサの側によった。ゼノはアスランとアポロンの名を呼んだ。アスランはアポロンの背に乗り上空に飛んで行く。あかりは震えながら確信した。まもなく戦闘が始まるのだ。
ゼノはノーマを呼んだ。ノーマはゼノの肩に乗り、土魔法を発動させた。すると、見る間に沢山の大きなツタが伸び出し、ゼノとルプスを隠してしまった。ゼノとノーマは霊獣のリーダーと勝負するつもりなのだろう。
あかりが空を見上げると、雄鹿の霊獣と、アポロンに乗ったアスランが戦っていた。アポロンは風魔法の弾丸を相手にぶつけ、アスランは氷の刃を雄鹿に放つ。雄鹿は炎のシールドで、アポロンとアスランの攻撃魔法を防いだ。どうやら雄鹿は炎の魔法を使うようだ。アポロンとアスランと雄鹿の戦いに、牡牛の霊獣が混じった。アスランとアポロンが劣勢になる。それをジリジリしながら見ていたグラキエースは声を上げた。
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グラキエースはそれだけ言うと、森を飛び出し、上空で元の姿の巨大なスノードラゴンになった。グラキエースの大きな咆哮は森一帯を震わせる。グラキエースは雄鹿と牡牛に容赦のない氷の刃を放った。雄鹿は炎の防御魔法で、牡牛は水の防御魔法でグラキエースの刃を防いだ。だがグラキエースの猛攻は止まらない。グラキエースの氷の刃があかりたちの所まで飛んでくる。ティグリスは炎の防御魔法で、あかりを氷の刃から守った。あかりはティグリスにありがとうと言う。ティグリスは唸りながら言った。
『あのクソジジィ、メリッサを危険にさらしやがって!張り切りすぎだ!』
あかりたちがいる場所の近くの林が、ガサリと音を立てた。あかりはびくりと身体を震わせる。そこにはクマの霊獣がうなり声をあげていかくしていた。ティグリスは舌打ちをしてからあかりに言う。
『メリッサ、セレーナを呼べ!絶対だぞ?!すぐ戻るからな』
そうティグリスは叫ぶと、クマの霊獣
に飛びかかった。クマと虎は激しくもみ合う。あかりは目をつむり、手を組んで祈った。ティグリス、みんな、どうかケガをしないで。あかりは目を開くと、自分のほほをパンッと叩いた。自らに気合を入れるためだ。あかりは目の前に高くそびえるツタの壁を、もうぜんと登り始めた。あかりは小さな頃から木登りは得意だ。ねじれたツタを足場にスルスルと登って行く。
あかりは、この人間と霊獣の戦いをとても悲しいと思った。だけど同時に、確信している事があった。この戦いは無意味だ。霊獣のために奮闘するゼノと、霊獣を人間から守ろうとするルプス。二人が争う事など一つもないのだ。あかりはこの戦いを止めなければいけない。例え自分の命が危険にさらされる事になっても。
地上からかなり離れた所まで登ると、あかりが通れそうな隙間が空いていた。あかりは身をよじって、その隙間にもぐりこんだ。あかりがツタの壁の中を見ると、そこはメチャクチャだった。ツタの壁の内側には、沢山の焦げた切り傷があった。あかりの目の前を、鋭い雷の光が飛び交う。どうやら狼の霊獣ルプスは、雷の魔法を操るようだ。あかりが視線を下に向けると、ゼノとノーマがルプスの雷魔法を、鉱物防御魔法で防いでいた。そしてノーマの土魔法で、ルプスの足元に鋭いツタを出現させる。ルプスは鋭いツタを、軽やかに飛び越えた。一進一退の攻防が続く。
あかりは身をよじってツタの壁の内側に入ると、ゆっくりと足場を探して降り始めた。木登りは、登る時は案外簡単なのだ。だが降りる時は慎重にしないと、足を滑らせれば地上に真っ逆さまだ。あかりは下を見て、ゴクリとツバを飲み込んだ。あかりのいる場所はかなり高い。だがゼノたちとルプスは、自分たちの戦いに集中して、あかりには気づいていないようだ。あかりはゆっくりとツタの壁を降りて行った。
あかりはやっと地面に降り立った。あかりの目の前にはゼノとノーマ、ルプスの戦いが繰り広げられていた。あかりは震えそうになる足を叩いて、気合いを入れた。そしてタイミングをはかって走り出した。戦いの真っ只中に。あかりはゼノたちの前に立つと、手を大きく広げルプスに向かって叫んだ。
「やめて!霊獣のリーダーさん!」
突然現れたあかりに、ゼノとノーマ、ルプスは驚きの声をあげた。
「メリッサ、なんでここに!危ないから離れるんじゃ」
『メリッサ、危ないじゃないか』
『そこをどけ!人間の娘』
彼らは口々にあかりに退けと言う。だがあかりは一歩も引く気はなかった。あかりはルプスに向かって叫んだ。
「聞いて霊獣のリーダーさん!ここにいるゼノおじいちゃんはね、ケガした霊獣たちを保護して助ける活動をしているの。リーダーさんが人間を信じられないのもわかるわ。だって人間はあなたたちに対してあまりにもひどい事をするんですもの。誰かを信じるのって難しいわ、信じて裏切られたら悲しいもの。だけどお願い、ゼノおじいちゃんの事だけは信じて?」
それまであかりの言葉を黙って聞いていた狼の霊獣ルプスは口を開いた。
『人間の娘、この人間の老人を信じるに値する証拠はあるのか?』
あかりはくちびるを噛みしめた。あかりはこの世界に転生して、動物と話せる力以外、何の能力もない。あかりはただのちっぽけな村娘なのだ。だが今この戦いを止めなければ、霊獣たちにとって、これからもっとひどい事になるだろう。
あかりは大きく息を吸って、ゆっくりと吐いた。あかりが持っているもの、それはあかり自身しかない。あかりは大声で叫んだ。
「証拠はないわ!だからもし、リーダーさんがゼノおじいちゃんに騙されたと思ったら、私を殺して!」
ゼノとノーマ、ルプスが息を飲むのがわかった。ゼノがうめくように言う。
「やめるのじゃ、メリッサ」
あかりはひるまなかった。あかりは言葉を続ける。
「リーダーさんからしたら、私の命なんて価値がないだろうけど、私はこれしか持ってないの!ゼノおじいちゃんの事を信じてくれるなら、私は命を捨てたって構わないわ」
狼の霊獣ルプスが再び問う。
『人間の娘、何故そこまでする?』
あかりは息をふぅっとはいてから答えた。
「私には、霊獣のお友達がいるわ。その子たちはとっても強くて、そしてすごく優しいの。この世の中に苦しんでる霊獣がいるなら、私はその子達一人一人を救いたい。だけど私は一人じゃ何にもできないわ、私はただの村娘だもの。だけどゼノおじいちゃんたちは違うわ、ゼノおじいちゃんと孫のエイミーは召喚士だし、バートは優秀なテイマーよ。きっとリーダーさんの力になってくれるわ!」
あかりはハァハァと息を吐きながらルプスを見た。ルプスは目をつむって何かを思案していたようだが、大きくため息をついてから答えた。
『娘、我らの負けだ。ゼノとやら、我らと共に、霊獣のために尽力してくれるか?』
ルプスの言葉に、ゼノはつめていた息をはいて言った。
「ああ、共に力を合わせよう」
あかりは身体全身がブルブル震えるのがわかった。戦いが終わったのだ。ゼノとルプスは共に霊獣のために手を取るのだ。あかりは緊張の糸がぷっつりと切れ、泣き出してしまった。最初は涙がポロポロ溢れ、次第にわんわんと声をあげて泣き続けた。ゼノもノーマも、ルプスも驚いてしまい、あかりに声をかけられないでいた。あかりは早く泣き止まなければと焦っていた、ゼノたちが困っているのに。だがあかりの涙は中々止まってくれなかった。あかりはどうにかしたくて、思わず呟いた。
「セレーナ」
あかりの前に、突如美しいヒョウの霊獣が現れた。彼女はあかりの契約霊獣だ。セレーナは優しくあかりに言った。
「どうしたのメリッサ」
あかりは泣きじゃくりながらセレーナに言った。
「セレーナ、ご、ごめんなさい。早くな、泣き止まなきゃいけないのに、涙が止まらないの」
『メリッサ大丈夫よ。私がついてるわ』
セレーナは優しくあかりにすり寄る。あかりはセレーナの首に抱きついた。セレーナはそんなあかりを慈愛に満ちた目で見てから、キッと目を鋭くして周りをにらんで言った。
『私の可愛いメリッサを泣かせたのは誰?!男がこんなに顔を付き合わせて、こんな女の子を泣かせて、恥ずかしくないの?!』
突然現れた女傑に、男連中はタジタジになった。ゼノはモグモグと何か言おうとしたが、ノーマはゼノの胸ポケットに入って出てこない。ゼノはノーマにいいつのる。
「おい!ノーマ出てこい!そしてこの霊獣のご婦人に説明するのじゃ、わしたちはメリッサを泣かせてないって」
ゼノの言葉を聞いたルプスはギクリと身体を固くさせる。ルプスの態度に、セレーナはキッとルプスをにらむ。あなたがメリッサを泣かしたの?と問いただす顔だ。ルプスはため息を吐いて答えた。
『ああ、その娘を泣かせたのは私だな。多分。娘、済まなかった。そして感謝する。私は同士を傷つける所だった』
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