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冒険者グリフ

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 グリフがその少女を見かけたのは偶然だった。冒険者協会に来る人物を何気なく見ていたら、その少女がいた。何故かその少女に視線がくぎ付けになった。後で思えば、その少女が自分と同じ黒い髪と黒い瞳を持っていたからだろう。

 グリフは中堅どころの冒険者だった。冒険者レベルは103、職業は魔法使い。専門にしている研究は特になく、霊獣語や精霊語にいたる人外語学や、魔法薬学など多岐にわたっていた、つまり器用貧乏なのだ。そしてグリフが最も得意とするのが、鑑定魔法サーチだった。この魔法は地味だがとても役に立つ。自分がこれから戦おうとする者の魔力が自分よりも高ければ逃げてしまえばいい。グリフはそうやって世の中を渡ってきた。

 グリフが目を止めた少女は、とても魔力が弱かった。だが少女を取り巻いてる者たちは只者では無かった。少女の側には金髪の若者がいた。どう見ても兄妹ではない、だが恋人同士という感じでもなかった。甘さかちっとも感じられないのだ。だがこの若者と少女は確かな信頼関係を築いているようだ。その若者の魔力はずば抜けて高かった。そして背中に背負った剣、体格、筋肉のつき方からいって、剣術もたいしたものなのだろう。

 少女にぴったりとつきそうのは霊獣の子虎、この霊獣も潜在魔力が計り知れない。そして小さなドラゴン。見た目には可愛いドラゴンだが、サーチが使えるグリフには、恐ろしいまでの魔力を持ったドラゴンだという事が分かった。

 それに若者が連れている白馬も霊獣で、強い魔力を持っていた。実におかしな一行だった。この中で黒髪の少女だけがすこぶる魔力が低く、だがこの一行の中心は間違いなく彼女なのだ。どうやら彼女は子虎の霊獣とドラゴンを使役しているようだ。グリフはこの少女を手に入れたいと思った。この少女を手に入れられれば、強大な力を我が手におさめる事ができるからだ。

 グリフは少女を観察する事にした。少女はどうやら駆け出しの冒険者のようだった。冒険者協会の入り口周辺をウロウロしているとはたして少女が現れた。少女と若者は依頼書を確認していた。突然少女が大声をあげた。グリフは依頼書のファイルを読むふりをしながら、注意深く少女たちを観察した。若者が慌てて少女を連れて冒険者協会を出たのを確認すると、受付の女性に話しかけた。

「やぁリズ!あいかわらず美人だねぇ」
「やぁねぇ、グリフ。お世辞ばっかり言うんだもの」
「俺は嘘はつかないぜ、正直者なんだ」

 受付の女性、リズにかるくウィンクをする。彼女もまんざらじゃなさそうに笑った。グリフはすかさず少女の事を聞いた。

「なぁリズ、さっきの黒髪の女の子、エッタって名前じゃねぇ?多分俺の知り合いの娘さんだと思うんだ」

 リズは冒険者ファイルをめくりながら言った。

「いいえ、エッタじゃないわ。メリッサっていうみたい。職業はテイマーね」

 リズは美人で胸が大きいが、口が軽い。グリフはその事をとても感謝している。グリフが質問を続ける。

「あれぇ、そうなんだぁ。エッタによく似てたけどなぁ。メリッサってコのとなりにいた背の高いのは誰なんだ?」
「ああ、アスランよ。冒険者レベル32の駆け出し冒険者ね。あの人ハンサムなんだけど、どこかぼんやりしているのよねぇ。あっ、グリフの方がハンサムよ?!」

 グリフは苦笑しながら礼を言った。


 あの少女、メリッサにどうやって近づこうか。できるだけ自然な形がいい。ならば、少女に何か目印をつけなければ見失ってしまう。目印の魔法はいけない。アスランという若者に気づかれるだろう。何かグリフの持ち物をメリッサに持たせたい。メリッサはアスランと共に定期的に城下町にある冒険者協会に顔を出しているようだった。

 ある時絶好のチャンスがおとずれた。アスランがメリッサに通信用の魔法具を持たせようと話しているのが聞こえたのだ。そうとなれは話は早い、グリフにはアスランのこれから行く場所に検討がついたのだ。グリフはその場所に先回りをした。

 城下町にある巨大なマーケットには何でも売っている。その一角にある小道のマーケット。通称魔法使い通り。魔法使いたちが魔法具を買い求める場所だ。アスランは魔力が強いので、魔法具の良し悪しの目利きができるはずだ。グリフはフードをまぶかにかぶり、即席の露店を出した。露店には高価だが質の良い魔法具を置いた。はたしてアスランはグリフの店にやって来た。

「いい魔法具をそろえていますね」

 アスランの言葉にグリフはフードの下でニンマリと笑った。グリフはあらかじめ用意していた木箱を開く、メリッサの顔が驚きの笑顔になる。女の子が好みそうなペンダント型の通信用魔法具だ。メリッサは目移りしながら一つのペンダントに目をとめる。ハート型のペンダントだ。ここでメリッサはアスランにわがままを言い出した。おそろいのペンダントをつけようと、男のアスランは勿論嫌がる。メリッサはアスランの表情を横目で観察しているようだった。自分がどこまでわがままを言っても許してくれるのか確認しているようだった。アスランはメリッサのわがままに困っているようだったが、怒ってはいないようだ。グリフは他人の人間関係を推し量る事も得意だ。どうやらこのメリッサとアスランは、信頼関係で結ばれてはいるが、まだ出会って日も浅いようだ。これならグリフが付け入る隙もありそうだ。

 メリッサは早々に意見を変え、アスランに似合いそうな、シンプルなペンダントを指差した。アスランは納得して二つのペンダントを購入した。ハート型のペンダントをメリッサにつけてやっている。メリッサはグリフの魔法具を身につけた。これで目印をつけられる。アスランも魔力の入っている魔法具だから、グリフの目印がついていていてもあまり気にしないだろう。グリフはアスランとメリッサたちが立ち去ると、すぐに露店を片付けた。

 グリフは人気のない所に腰をすえ、地図を取り出した。トランド国の地図だ。その地図には赤い点がついている。その点はわずかだが動いている。この点がメリッサの居場所だ。驚いた事に、どうやらメリッサたちはトランド城に向かうようだ。冒険者協会の受付、麗しのリズ嬢からこの話は聞いている。城が王の依頼を請け負う冒険者を探していると。どうやらアスランとメリッサは王の依頼を受ける候補に選ばれたようだ。

 アスランの冒険者レベルを聞けば、納得する者は少ないだろうが、鑑定魔法が使えるグリフに取っては、何ら不思議のない事だ。グリフがしばらくしてからもう一度地図を開くと、メリッサたちは東のポンパという街を目指しているようだった。


 グリフがメリッサたちを追ってポンパに着くと、メリッサたちはある男と一緒にいた。一見人が良さそうだが、人を見分ける事が得意なグリフはピンと来た、こいつは詐欺師だ。グリフの予想通り男とメリッサたちは食堂に入り、男は何かの書類を取り出した。アスランは書類を読んで納得して署名をしようとしていた。

 グリフは我知らずため息をついた。アスランという若者は、見た目通りのぼんくららしい。詐欺師の書類は二枚つづりになっていて、一枚目は安心できる内容なのに、二枚目には納得しがたい理不尽な内容になっている。だが著名をすると一枚目だけではなく、二枚目まで著名が写されてしまうのだ。おおかた理不尽な契約を結ばされてしまうのだろう。

 グリフに取ってはいいチャンスだ。アスランがおかしな契約をさせられて、身動きが取れなくなれば、メリッサを連れ出しやすい。グリフはこの状況を傍観する事に決めた。だがこれから起こる事を何も知らないメリッサのあどけない顔を見ていると、どうにも我慢がならなくなり、メリッサたちが座っている席まで大股て近づいた。

 
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