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盛平

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アスランとエルナンデス子爵

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 アスランは心配顔で自分を見つめる愛馬アポロンに振り向いて言った。

「大丈夫だよアポロン。アポロンは僕らが戦っている時のフォローを頼むよ。外にはメリッサたちがいる、メリッサたちに危害がおよばないようにしてくれるかい?」

 アポロンは仕方なくうなずいた。アスランはアポロンの顔を優しく撫でた。アスランがエルナンデス子爵を見ると、彼はあごをしゃくった。アスランに、どうするのだ、とたずねているのだ。アスランは厳しい顔で外へとうながした。

 館の外に出て、アスランは剣を構えた。エルナンデス子爵も魔法で剣を取り出した、とても大きな剣だった。エルナンデス子爵が、アスランに剣を振り下ろす。

 アスランは初手を剣を流して避けた。だがエルナンデス子爵の剣は虚空を斬っただけで地面に亀裂が入ってしまった。これでは地上戦をしていては館が壊されてしまう。アスランは自身の身体に風魔法を施した。アスランはまるで見えない階段を駆け上がるように空中に飛び上がった。エルナンデス子爵も遅れをとる事なく、空に飛び上がる。アスランはある程度上空まで来ると、再び剣を構えた。エルナンデス子爵もアスランと同じ高度を保ち、剣を構える。

 アスランはエルナンデス子爵に剣を振り下ろした。エルナンデス子爵は難なくアスランの剣を受けた。アスランが斬りこもうとしてもビクともしない。アスランは体制を立て直して、エルナンデス子爵の首元に斬りつけた。エルナンデス子爵はこともなげに自身の剣でそれを防いだ。エルナンデス子爵は自身の剣に力を入れると、アスランの剣をなぎ払った。

 アスランは身体ごと空中に吹っ飛ばされた。アスランは地上に落下しそうになるのをすんでの所でこらえた。自身の剣を見てみると、剣が刃こぼれをおこしていた。アスランは土魔法で自身の剣を修復した。そして離れた距離から、エルナンデス子爵を見た。

 アスランは自分が満面の笑みを浮かべている事を自覚していた。アスランは身体全身で喜びを感じていた。自分よりも強い相手に初めて出会ったのだ。アスランはエルナンデス子爵に遠慮なく剣を打ち込んでもいいのだ。

 アスランは風魔法ですぐさまエルナンデス子爵の間合いに入り、ものすごい速さで剣を振り下ろした。首、肩、胴、打ち込んだ全てをエルナンデス子爵は剣で防いだのだ。アスランがエルナンデス子爵の顔を見る。彼は笑っていた。人間離れしたトカゲのような容姿になっても、喜んでいる事が見て取れた。人間だった時に浮かべていた笑みよりも、よっぽど人間らしかった。アスランもつられて笑った。

 アスランはエルナンデス子爵と剣を交えて、まるで旧知の友と戦っているような錯覚におちいった。本来ならばエルナンデス子爵は、子鹿の霊獣エラフィから守護者を奪った悪い人間だ。だが、エルナンデス子爵は同時に剣を愛する人間でもあった。エルナンデス子爵がアスランに剣を打ち込む、一手一手が岩のように重い。アスランはエルナンデス子爵の剣を受ける度、手に心地いい痺れを感じた。エルナンデス子爵は笑いながらアスランに言った。

「貴様は面白い男だな。貴様の名は」

 アスランは素直に答えた。

「はい、アスラン・カルヴィンといいます」
「貴様、勇者エリオスの息子か!それで合点がいった。貴様も剣一本で世界を旅しているのか」

 エルナンデス子爵の言葉に、アスランは口ごもってしまった。アスランは常に自信がなかった。旅をする事すらも不承不承で、勇者の称号を手に入れたらすぐにでも旅をやめたいくらいなのだ。アスランは正直に答えた。 

「私は旅を苦痛に感じています。私は他人を傷つける事が怖いのです。貴方は剣の求道者だ、和解する道はありませんか?」

 アスランの言葉にエルナンデス子爵は一瞬顔をしかめたが、再びニヤリと笑って言った。

「笑止!貴様は何故いつわりの聖人の仮面を被っているのだ?俺と同じ魔物を心の中に飼っているというのに。もっと自分に素直になれ、俺を叩きのめしたくて仕方がないのだろう?」

 エルナンデス子爵の挑発に、アスランは口をつぐんでしまった。エルナンデス子爵はフゥッと苦笑した。その顔は出来の悪い弟にどうやって真意を伝えようかと思案するようにも見えた。エルナンデス子爵は地上に視線を移して言った。

「ならばアスラン、貴様が剣を振るいやすくしてやろう。あの中で黒髪の魔法使いが一番だ弱だ」

 エルナンデス子爵の視線につられて、アスランが地上を見ると、そこには愛馬アポロンと、グリフ、グリフの契約霊獣がアスランたちを見上げていた。どうやらグリフたちは、館の使用人たちの避難を終えたのだろう。アスランがエルナンデス子爵の意図がわからず、彼に視線を戻すと、エルナンデス子爵は人差し指をグリフに向けていてた。そしてその指から、高速の攻撃魔法が飛び出した。その攻撃魔法は防御魔法も間に合わず、グリフに当たった。グリフは地面にあお向けに倒れた。



 グリフはエルナンデス子爵の使用人たちを館から避難させ、外で防御ドームの中に入れた。使用人たちは皆一様に、訳がわからない様子だったが、執事のトーマスがなだめてその場に待機する事を約束させた。そしてグリフと霊獣ノックスは、アスランとアポロンが戦っているであろう場所へ急いだ。

 グリフたちが館の前に戻ると、驚いた事にアスランとエルナンデス子爵は空中で剣を振るっていた。彼らの剣技はとても速く、グリフは肉眼で彼らの動きを追う事はできなかった。グリフは、となりで心配そうにアスランを見上げている霊獣アポロンにたずねた。

「なぁアポロン、お前のご主人は人間なのか?魔物と契約した人間と、対等に戦っているけど?」
『ああ、アスランは正真正銘人間だ。だが特別な人間だ』

 グリフはアポロンから、アスランたちに視線を向ける。何故かアスランとエルナンデス子爵は剣を交えて愉快そうだった。グリフには分からない、否わかりたくもない心境なのだろう。グリフは少し不安になってもう一度アポロンに質問した。

「なぁアポロン、お前のご主人エルナンデス子爵に、呪いの解除法聞くって覚えてるかな?」
『も、勿論アスランは覚えているぞ。・・・、多分な』

 グリフが不安になりかけていると、アスランとエルナンデス子爵は剣を休めて話し始めた。これで呪いの解除法を教えてもらえればいいのだが。と、グリフが考えていると、エルナンデス子爵の視線が動いた。怖い事にその視線は自分に向けられているのではないかと思った瞬間、グリフは左肩に焼けつくような痛みと衝撃を感じ、あお向けに倒れた。
 
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