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ソマラの老人

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 レオンは魔界のカマキリを倒し、フウッと息を吐くと、アルスと老人の元に走った。

「アル!おじいさんは大丈夫?!」
「ああ、疲労はしているがケガはないぞ?オレ様が回復魔法をほどこしてやった」

 老人は、アルスから水を飲ませてもらっていたようで、ホウッと息をはいてから話し出した。

「危ないところを助けていただきありがとうございました。私はガサと申します」

 聞けばガサはソマラ村の村人だった。村にはよく魔界の昆虫が現れ、村人を襲うのだそうだ。レオンとアルスは老人にソマラ村まで案内してもらう事にした。

 老人と子供がいるため、ソマラ村に到着したのはとっぷりと夜が暮れてからだった。ガサは助けてもらったお礼といって、自分の家に招待してくれた。

 ガサの家に着くと、ガサの妻である老婆がこころよく出迎えてくれた。ガサの妻は、夫の命の恩人にお礼がしたいと夕食を作ってくれた。だがその夕食はとても質素で、豆が数粒入った薄いスープだけだった。

 アルスがら明らかに不満顔になったので、老婆は申し訳なさそうに苦笑してから言った。

「こんなものしかなくてごめんなさいね?この村は度々魔物に襲われて、とても貧しいの。若い人たちはこの村を捨てて出て行ったわ?でも私たち年寄りは、もうこの村を出る元気もないの。魔物におびえながら暮らしていくので精一杯なの」

 老夫婦は貴重な食料を、レオンたちにごちそうしてくれたのだ。レオンは感謝して豆のスープを食べた。この時ばかりは野菜嫌いのアルスも、文句を言わずににスープを飲みきった。

 老婆はレオンとアルスにベッドを用意してくれた。老夫婦の他に誰か家族がいたのか、その部屋は老夫婦の寝室とは別だった。粗末なベッドと衣装ダンスが置いてあった。定期的に掃除をしているらしく、居心地は良かった。

 レオンとアルスは久しぶりのベッドに入り、長かった旅の疲れも出て、ぐっすりと眠った。

 どれだけ時間が経ったのだろうか。レオンはアルスにゆり起こされて目を覚ました。

「アル、おしっこ?」
「もう、一人で行けるわい。おしっこではない。レオン、物音を立てずにドアに近寄ってみろ」

 レオンは、アルスが何故そんな事を言うのかわからなかったが、言う通りにした。ドアの隙間から灯りがもれている。老夫婦が起きている証拠だ。

 老夫婦は何やら小声で話しをしていた。老婆は何故か泣いているようだった。

「あなた、本気であの子達をあの方に差し出すつもりなの?」
「ああ、そうしないとわしらが危ないのだ」
「あんなに優しくていい子たちなのに?私には、あの子達が小さな頃のキダムに思えて仕方ないのよ」
「わしだってそうだ。あの子達はとてもいい子だ。だが、わしはキダムの気持ちを尊重したいのじゃ。キダムはわしらを守るために、命を落としたのじゃぞ?」
「あの子は私たちに生きてと言ったわ?でもね、小さな子供たちを犠牲にしてまで生きてなんて言ってないわ?」
「・・・。もういい!」

 カザは怒って妻との会話を打ち切ってしまった。キダムとは誰だろうか。レオンは物音を立てずに、ジッと耳をすましていた。どうやらレオンとアルスは危機的状況らしい。老人は、レオンたちを悪人に手渡す算段をしていて、妻である老婆が必死に反対しているようだ。

 アルスはレオンの肩をちょいちょい叩くと、手まねきをした。ベッドに戻れというのだ。

 レオンは不安な気持ちでアルスとベッドの中に入り寝たふりをした。
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