悪の組織は正義の味方 〜 それは怪人製造ガチャポンから始まった 〜

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新生ジャスティス

第14話 黒い棺

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 激しい雨の中、ズブ濡れになりながら、俺が道路に横たわっていると、突然、降り注いでいたはずの雨がピタリと止む。

 目を開けると、そこには真っ黒な傘を俺に傾け、顔を覗き込んでくる女がいた。

「ヒーロー戦隊バードラーのレッドさんですよね?」

「誰だよ、あんた」

 俺はぶっきら棒に尋ねた。

「フフフ……
 あなたを探しておりました。
 ぜひ、お話がしたくて」

 黒いローブを身に纏い、すっぽりかぶったフードから覗かせた怪しい眼光は、俺をしっかりと捉えて離さない。

 時折見せる胡散臭い笑みは、その眼光とはアンバランスで、それがかえって不気味さを増していた。

 無視しようと一瞬だけ考えはしたが、なんとなく気になり、俺は女に返答してしまった。

「なんの用があるってんだい?
 おれなんかナンパしても、なんもいいことないぜ?
 金が欲しいなら他を当たりな」

 こんな俺に話しかけるなんて、とんだ変わり者か、良からぬことを企んでいるかのどちらかに違いない。

 俺はその女を軽くあしらうことにした。

「あなたのお力をお借りしたいと思いまして……
 フフフ」

 またこの笑いかよ……

 気持ち悪い女だな。

「あいにくだったな。
 俺はもうヒーロー戦隊じゃねえ。
 俺にはなんの力もねえよ」

「それは存じ上げてます」

 女は冷静に答えた。

「なんだ。
 知ってたのかよ。
 だったら、からかってんじゃねえよ。
 バカにしたいだけなんだろ?」

 俺はゆっくりと立ち上がり、その女に背を向けると、背中で手を振りその場を離れようと歩きだした。

「じゃあな。
 あばよ」

 俺がフラフラと二、三歩進んだとき、女がまた口を開いた。

「両親の復讐をしたいんでしょ?
 私たちと手を組みませんか?」

「!?」

 俺はゴクリと唾を飲み込み、その場でピタリと足を止めた。

 この女は何者なんだ?

 復讐だと?

 なぜ俺の過去を知っている?

 俺は振り返り、キッと女を睨みつけてやった。

 無表情だった女の顔は、ニンマリとした笑顔に変わってゆく。

 ジッと女の顔を凝視していると、フードの中の口角は、さらに鋭い角度に吊り上がっていった。

「人の口角って、こんなに鋭く上がるものなのか?」

 生まれて初めて見た表情に、恐怖と興味を覚え、思わず俺はボソリと呟いた。

 その笑みは、不気味さを通り越して、人を飲み込む力があった。

 魅力とは少し意味が違う。

 しかし、その笑みは見たものからノーという言葉を奪う。

 この誘いを断ってはいけないと思わせるだけの、不思議な力があった。

 断るべきだ。

 ろくなことにならない。

 俺の本能は警鐘を鳴らしている。

 しかし……

 それとは裏腹に、俺の首はコクリと縦に頷き、女に一歩二歩と近づいて行った。

「それではご一緒に……」

 女がスッと俺に手を差し出した。

 気がつくと、俺は女の手を取っていた。

 まるで時間がとまったかのように夜の空気までもが固まっている。

 いつしか雨はやんでいた。

 夜更けの街には俺たちの足音だけが、正確に脈打つ秒針のようにコツリ、コツリと響き渡る。

 それはまるで、地獄の扉が開くまでのカウントダウンのようだった。

 やがて、一言もしゃべらないまま、俺たちは街外れの墓地の前にやってきた。

 この時間は鉄格子でできた墓地の入り口の門は閉ざされている。

 墓荒らしの対策とのことであろうが、気休めにしかならない。

 俺の肩ほどの塀なんて、子供でも乗り越えられるのだから。

 墓地の中に目をやると、風が吹く度に通路脇に植えられた、ヒノキが枝をゆらしてざわついている。

 俺たちを歓迎しているのか?

「墓地で話をするのかい?」

「いえ、いえ。
 あまり目立ちたくなかったので、人気がない場所に馬車を待たせております」

 俺は少しだけホッとした。

 決して夜中の墓地が怖いわけじゃない。

 ただ、こんな得体の知れない女と、真夜中の墓地でデートなんて、考えただけでもゾッとしただけだ。

「こちらでございます」

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、女は急かすように墓地の裏手へと案内した。

 墓地の裏手に到着すると、そこには一台の真っ黒い馬車が停まっていた。

 装飾品もなく、もちろん家紋なんかも施されてはいない。

 例えるなら、それは大きなコフィン……

「真っ黒い棺かよ……
 結局、墓場行きじゃないか。
 へへへ……」

 俺は苦笑いをした。

 御者台に目をやると、黒いマントにシルクハットをかぶり、カラスのマスクをつけた大男が黙って座っている。

 その前方には、真っ黒の甲冑を纏った巨大な馬が、静かに出発の合図を待っていた。

「この馬車へお乗りください。
 フフフ」

 ここへきて、またこの笑いかよ。

 この馬車に乗ったらもう引き返せない。

 人々から忌み嫌われるとか、人として外道であるとか、そんな次元の話じゃないんだ。

 恐らくは……

 ここで俺の人間としての人生は終わりだろう。

 なんとなく結末は俺には見えている。

 でも、もう他に残された道はない。

 俺は促されるまま馬車へ……

 いや、黒い棺に乗り込んだ。

 静かに扉が閉じられる。

 御者がニヤリと笑ってから、馬を走らせたことを、俺は知らなかった。

 このとき無理にでも飛び降りれば、まだ引き返せたのかもしれない。

 しかし……

 俺にはどうすることもできなかった。

 破滅への道だとはわかっていつつも……

 黒い馬車は、やがて白い霧の彼方へ溶け込み、消えて行った。
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