ここは地獄の一丁目=マッチングアプリは甘い罠

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第九トラップ 直也という男

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 ―― あっ!

 河田の金、忘れてた……

 永松代議士との密談があまりにもスムーズにいきすぎて、河田の件が今の今まで、すっぽりと抜け落ちていた。

 俺はひとりフフフッと声を漏らし、ハンドルに突っ伏す。

 そういえば被害者リストの中に河田の名前もあったんやったわ……

 あいつはまだ、騙されたことに気づいてないみたいやけどな……

 いや、なんぼなんでも、少しは気づいてるかな?

 でも、河田やしなあ……

「まあ、ここまでお膳立てできたら河田の件はどないでもなるな」

 俺は、楽観的に考え、永松の屋敷を出ようと車のエンジンをかける。

 ブルルルル

 スマホが振動し、チカチカと光りだす。

 着信画面を見て、再度笑いがこみ上げる。

「……やっぱりコイツかい!
 タイミング良すぎんねん!」

 俺は、スマホ画面にツッコミを入れたあと、一呼吸おいてから電話に出た。

「おい、面太郎、今どこにおるんや!
 みんな直也んとこ来とるねんで。
 今日は今後のこと話する言うてたやろ!」

「わかってるって。
 そやけど、まだ約束の時間には早いやろ……」

「そんなんわかってるけど、お前以外全員集まっとんねんで。
 油売ってんと早よこんかいな」

 ……ほんまこいつだけは……

 ひとの苦労も知らんとお気軽なやっちゃなあ……

 そのとき、電話のうしろから畠山の声が割って入る。

「河ちゃん先輩、あきませんて。
 面太郎さんが油売ってるわけないでしょ!」

「せやかて、もうみんな集まっとんねんから!
 早よ来いって教えたってるだけやんけ」

「せやから、それが迷惑なんですって!
 面太郎さんは河ちゃん先輩と違って忙しいんですって!」

「なに言うてけつかんねん!
 そんなん言うたら、まるで俺が暇人みたいやんけ!」

 いつものバトルが始まった。

 河田の暴走に畠山が待ったをかける。

 そして、河田が逆ギレする。

 いつも通り正常運転や。

「その通りやないですか!
 いっつも、昼間っからパチンコしてるか、風俗行ってるかどっちかやないですか!」

「どアホ!
 ちゃんと仕事もしとるわ!」

「遊びの合間、たまに仕事場顔出してるだけですやん。
 いつも、若いもんに仕事任せてフラフラしてからにって、この間、奥さん嘆いてましたよ!」

 ほんまおもろいな、こいつら。

 ニンマリしながら、電話の向こうのバトルに聞き耳をたてる。

「もう!
 ふたりともええかげんにしときや!
 ここは病室やで!
 河ちゃん、ちょっとスマホ貸し!」

 おっ、マリがスマホ取り上げたみたいや。

「面ちゃん、聞こえてんねやろ!?
 どうせそっちでおもしろがって笑っててんやろ!
 ちゃんとバトル止めてえや!
 目の前におるこっちは堪ったもんやないわ!」

「ハハハハハハ。
 そう怒んなって。
 いつものことやないか」

「笑い事やないで、ほんまに!
 ほんで、そっちのほうはどうやったん?
 話はついたん?」

 マリが真面目なトーンに変わる。

「おう。
 なんの問題もない。
 俺の話に乗ってくれはったわ。
 全面協力してくれるってさ。
 あとは表からと裏から……
 どんなお仕置きするかだけや」

 俺はニンマリと笑う。

「面ちゃん、今悪い顔したやろ?
 電話のこっちからでもわかるわ。
 Sっ気全開なってんで」

 まるで隠しカメラでもあるかのように、こいつは俺のことが手に取るようにわかるみたいや。

 怖い怖い……

「ハハハ、すまん、ついな」

「ほんまに、
 Sっ気出すんはベッドだけにしときや」

「……お前、突然なにぶっ込んでくんねん……」

「冗談やんか
 まあ、たまにMになるときもあるけどな」

「お前、その話はもうええ!
 続きはふたりっきりのときにせえ!」

「ほんま、照れてからに。
 そういうとこかわいいなあ」

「あのなあ……」

「冗談はこれぐらいにして、ほんま早よ来てな。
 病室ワチャワチャなってもうてるから」

 ほんまこいつときたら……

 自分で話し脱線しといて、いきなり戻しよる。

「お、おう、わかった……
 あと三十分ぐらいで着くと思うから。
 あんじょう、ふたりのお守りしといてくれや」

「なんで私がふたりのお守りせな……」

 マリが電話の向こうで、まだ文句を言っていたが、俺はスマホをプツリと切った。

「またあとで文句言いよんな……」

 俺はアクセルを踏み、軽く門番に右手をあげ、永松の屋敷をあとにした。

 ―― そこからきっちり三十分後……

 俺は病室の前で直也に確認することを整理する。

 返金は当たり前として、そのあとの制裁を直也はどう考えているのか……

 長い付き合いや、答えはわかってる。

 でも、ちゃんと聞かなあかん。

 あの姉妹が最終的に行き着く結末はわかってる。

 永松の息子に手を出したんや。

 楽には死ねんやろ……

 でも、直也は表の人間や。

 俺が段取りできるとこまでは、あいつの希望通りにシナリオを進めたらなあかん。

 ええ思い出だけ残したらなあかんねや。

 大きく息を吸い込み、ドアノブを回す。

 ガチャリ

 みんなが待つ病室の中へ。

「面ちゃん!」

 マリが泣きそうな顔で俺に駆け寄る。

「もうこいつら嫌や!
 あれからもずっと喧嘩やで。
 直也さんは、それ見て笑ってるだけやし……」

 ―― 直也……

 笑えるまで回復してんなあ……

「直也……
 やっぱりお前は、そういう顔してるときが一番や!」

 俺のその一言で先程から騒いでいた、河田と畠山もダンマリする。

「面太郎、ありがとう……
 畠山、河ちゃん、マリ……
 みんなみんなありがとうな。
 俺はもう大丈夫やから……
 お前らがおってくれるから……」

 先程まで笑っていた直也が目に涙を浮かべ頭を下げた。

「なにしてんねん直也。
 今さっき、お前は笑うとけ言うたとこやないか!
 お前がそんなんしたら……
 そんなんしたら……」

 俺も半泣きになりながら、直也の頭を軽く張っ倒す。

 畠山も河田もマリも泣いていた。

 どれくらい経ったやろうか……

 ピーポー ピーポー

 窓の外から聞こえる救急車の音で、再び時間が動きだした。

「あかん、あかん……
 しんみりするんは全部終わってからや」

 パチンッ パチンッ

 俺は両手で自分の頬を二回叩いた。

「今日は現状報告とこれからについてやったな。
 こっからはおちゃらけ無しでいくで!」

 俺の言葉に全員がゴクリと唾を飲み込む。

「結論から言う。
 詐欺師を追い詰める準備は整った。
 直也の金も必ず戻ってくる。
 アジトのほうも抑えとる。
 本名やなんかも調べはついとる」

「マジか面太郎!?
 お前、この短期間で何をどうしたらそんなことができるんや」

 河田が腕組みしながら感心しきりにこちらに視線を送る。

「だから、言うたでしょ。
 面太郎さんは河ちゃん先輩とは違うって」

「ほんま畠山、お前、俺と面太郎の扱いめっちゃ差あるよな」

「まあ、河ちゃん先輩のおちゃめなとこ、俺は好きっすけどね」

「お前、ええやっちゃなあ。
 このあと酒おごったるからなあ」

 単純な男である。

 そんなやり取りを他所に、直也は力強く俺の手を握ってきた。

「ありがとう面太郎。
 ありがとう、畠山、河ちゃん、マリ……」

「それでや、直也。
 お前に確認しとかなあかんことがある。
 金が返ってくるんは当然として……
 そのあと、お前はあの女どうしたい?
 警察に突きだすんか、それともお前が受けた以上の苦しみを味あわせたいんか……」

「俺は……」

「俺は?」

「金さえ戻ってたらそれでええ。
 俺の中での志代しよさんは、ええ思い出のまま残しとく……」

「こんなことまでされて、先輩!
 それでいいんですか!」

 畠山が声をあららげる。

「畠山、やめとけ。
 こいつはこういうヤツや。
 せやからこそ、お前はこいつを慕ってるんちゃうんか?」

 俺は直也に掴みかかろうとする畠山を静止した。

「……」

 沈黙のあと、直也が口を開く。

「なんぼ騙されても、せやからいうて俺は復讐とかできひんわ。
 根性ないねんわ。
 ハハハ……」

 直也が恥ずかしそうに笑う。

「そうですよね。
 先輩ってそういう人でしたわ」

 畠山に笑顔が戻る。

「面太郎、俺は法律のことようわからん。
 今回の件はお前に全部任せてもいいかなあ?」

「わかった……
 お前は体調を元に戻すことだけ考えとけ。
 復讐を考えてないんやったら話しは早い。
 事務的に返金手続きするだけや。
 お前は口座に金が戻ってくるんを待っといたらええだけや」

「おおきに。
 面太郎」

「ほな、俺はすぐに手続きの続きをせなあかん。
 行くぞ、マリ」

「はーい。
 ほんじゃあね。
 直也さん」

 マリは手を振り、俺の左腕に両手を回した。

 ガチャリ

 病室のドアを開ける。

「あー、それから、河ちゃん……
 あの良子いう女なあ……
 あいつも詐欺師やったみたいやで。
 ほんならなバイバイ」

 俺は背中越しに手を振り病室をあとにした。

 ……河田の時間だけが止まる。

 後に畠山に聞くと、河田は10分間放心状態だったらしい……
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