12 / 12
エピローグ
しおりを挟む
神戸屈指の住宅街……
小高い丘陵の坂道を頂きまで上がると、そこには白い壁に囲まれた広大な敷地が広がる。
まるで城か要塞か……
木造建築のその建物は威風堂々とこの地に構え、200年以上に渡り下界に住む者たちを見下ろしていた。
重厚な門の前に車を停車すると、外の空気さえも遮断していたその境界は、ゆっくり開かれていく。
いくつもの監視カメラやセンサーをくぐり抜けると、やがてそこには大きな池を中心とした日本庭園が現れる。
庭石や四季折々の草花に囲まれた車道を進み、駐車用に白線で囲まれた区画のひとつに車を停める。
屋敷の使用人に案内され、最奥の応接間の前で立ち止まる。
「先生、池様がおいでになられました」
「おう、開けたってやー」
障子の向こうから、この厳粛な空気におよそ似つかわしくない軽い声が返ってきた。
俺はまず廊下に正座し頭を垂れた。
「ご無沙汰しております」
「堅苦しい挨拶はええから、早よこっち入り」
応接間の大きなテーブルの向こうから手招きする人物こそがこの屋敷の主……
金融庁のみならず、各省庁にコネクションを持ち、警視庁捜査一課にも口出しできる男……
永松源蔵その人であった。
―― あれから一ヶ月……
そう、直也と河田の金を取り返し、金沢で詐欺姉妹が乗ったタクシーを見送ったあの日から今日でちょうど一ヶ月である。
俺は姿勢を正し、永松の前に促されるまま座る。
「今日はわざわざご苦労さんやな。
約束のもん渡そうおもてな」
永松が右手を軽く振ると、使用人がドンと俺の目の前に帯でまかれた札束を10個積み上げた。
「今回のお礼や。
うちのバカ息子がロマンス詐欺に遭うたって聞いたときは、ほんまどないしょうか思ったわ。
ワシら政治家は金も大事やけどスキャンダルが一番かなわん」
「おっしゃる通りですね。
足元を掬おうと手ぐすね引いてる輩はどこにでもいてますからね」
「その通りや。
未然に防げたちゅうのはキミに対しての大きな借りや」
この男、ただの権力者ではない。
誠実に付き合えば、ちゃんと恩を返す。
あくまでも、永松にとっての誠実であって、そこに善悪は関係ないのだが……
「あの姉妹な……
性格はアレやけど、見た目だけは良かったやろ?」
「おっしゃる通りですね。
性格はかなりアレですね」
直也に対して土下座したときのニヤリ顔を思い出し、少し嫌な気分になる。
「でな、ワシの知り合い筋に、メイドさんを探しとるヤツがおってのう。
姉妹のこと話したら、是非雇いたいと言いよってなあ」
金持ちの家にメイドとしてねえ……
にわかには信じられないな。
俺は、表向きは表情を変えず永松の話の続きを聞いた。
「あの飼い主やったら可愛がってくれると思うわ。
お陰でワシにはものすごい契約金が入ってきたわあ。
せやけど、メイドやいうても色々な仕事があるからなあ……
体より精神が心配やわなあ。
せいぜい壊れんようにせな……
ハッハッハッ」
やっぱりこの人はどこかネジが飛んでる。
なにがメイドや……
あのとき心から直也に謝っていれば、あるいは助かったかも知れない……
いや、永松の身内をペテンにかけた時点で遅かれ早かれ、ヤツらの人生は詰んでたのかもな……
地獄の一丁目に立ってたんは直也やない。
あの姉妹たちやったんや。
「それにしても、流石は池くんやな。
友人のピンチをキッチリと金に変えよった」
「友情とビジネスは別もんですから……」
さっきは、こいつらのことをネジが何本も飛んでいると揶揄したが、俺もそうなのかも知れないな……
「ワシはキミのそういうところ大好きやで。
そのドライなところは信用に値する。
キミもワシらと同じ匂いをもっとる。
どうや?
いっそのこと、ワシの下で働けへんか?
キミやったらええ政治家になれると思うで?」
「ご冗談を……
私みたいな者が政治家だなんて……
永松先生の大変さの一片を目の当たりにしてるだけでも凄いなあと感じておりますのに……
私には到底真似できません。
今のポジションで、たまに先生のお手伝いさせていただくのが丁度良いかと」
「そんなもんかなあ……
まあ、気が変わったら言うといでや。
なんぼでも協力するさかいな。
今回はほんまおおきに。
ご苦労さんやったな」
「何をおっしゃいます。
先生のお陰で友人が助かりました。
こちらこそありがとうございました」
深々と頭を下げると、俺は忘れずに札束をカバンに詰め込み、屋敷をあとにした。
屋敷のあった丘陵を下り、道路脇に車を停める。
辺りは少し薄暗くなっていた。
俺は大きく深呼吸して、普段の自分にシフトチェンジする。
ポーカーフェイスを装ってはおるけど、何回あの御大と会うても、ほんま疲れるわ。
ふと西の空を眺めると、宵の明星が輝いている。
金星……
ヴィーナスか……
愛と美の女神……
――本当の美とは、見てくれやない。
心の中にあるんやろなあ。
まあ、俺みたいな人間の心にはおらんやろうけどな。
直也、幸せみつけろよ……
河田、お前はそろそろ落ち着けよ。
俺はひとり苦笑いする。
ピロリロン ピロリロン
「もしもし!
面太郎、なにしてんねん!
早よこんかいな!
【邪邪苑】連れていけ言うたんお前やろ!
もうみんな集まってんねんぞ」
「あー悪い悪い、仕事が押してもうてな」
「早よ来いよ。
それから、お前ケーキ買うてこいケーキ!
なんや畠山と直也が会社のコ連れてきててな。
ほんまかわいいコらなんやって!」
「もうええから、河ちゃんちょっとスマホ私に貸し!」
「わあ、何すんねんマリ!
ストラップ取れてもうたやんけ!」
「うるさい。
ちょっとだまっとき!
なあ、またバ河ちゃんが暴走してんねん。
早よ来てやー。
女のコの間に陣取って、ガハハ言うて、今からケーキ注文したるとか、わけわからんのよ」
電話の向こうからは相変わらずテンションの高い河田の声だけが響いてる。
「それに……」
急にマリが小声になる。
「今日来てる女のコふたりやねんけど、ひとりは畠山くんの彼女みたいな感じやねんけどな……」
「なんや、あいつ……
彼女おんのにあんなに遊んでたんかいな!?」
「まあ、それはこっち来てから詰めたったらええ話やねんけど……」
「どないしたんや?」
「もうひとりのコなんよ。
今回、直也さんが体調壊してしばらく会社休んでたやろ?」
「そうやな」
「退院してからも、一週間ほど自宅療養してたやろ?
その間、畠山くんと畠山くんの彼女に連れられて、看病に付き合ってたみたいやねん」
「つまりはどういうこっちゃ?」
「面ちゃん、察しが悪いなあ。
直也さんのことが好きやからに決まってるやんか!」
「そうかあ。
で、直也の様子は?」
「まんざらでもないみたいなんよ」
「おおっ!」
嬉しさのあまり思わず心の底から声が出てもうた。
「それで俺にケーキ買うてこいと?」
「なんでそーなんのよ。
違うがな!
バ河ちゃんがテンション上がってもうてふたりの邪魔しよるから、バ河ちゃんの奥さん呼んてきてーな」
「あーそういうことか。
それやったらこのあとカヨちゃんに連絡入れて、すぐそっち行くわ」
「頼んだで面ちゃん。
じゃあな。
待ってるでー」
ハハハ……
なかなか面白い展開やなあ……
―― 20分後……
俺はカヨちゃんを連れて【邪邪苑】に到着した。
「ちょっと!
あんた!」
カヨちゃんの声が個室に響き渡ると、河田は一瞬固まった。
「な、なんでお前がここに……」
一気に血の気が引く河田。
マリは横で大笑いしてる。
「マリ!
お前!
俺を売ったな!」
「フフンッ」
マリは得意げに笑う。
「また二、三日家にも帰ってこんと!
どこほっつき歩いてるやと思ったら、こないなところで鼻伸ばしてからに!
今日という今日は許さへんで!
ちょっとこっちおいでー」
「違うんや、これには深い事情が……」
「うるさい!
言い訳は表で聞いたる!」
「ひえーっ!
誰か助けてくれー!」
河田はカヨちゃんに耳を思いっ切りひっぱられ個室を出ていく。
やがて叫び声は廊下の向こうへと消えて行った。
先程と打って変わり、場は静かになる。
「あっ!」
口を開いたのは畠山であった。
「河ちゃん先輩がおらんようなったら誰がここの会計するんですか?」
畠山は俺の方を見た。
「心配すな。
俺にまかせとけ!
お前らにお礼せなあかんおもてたしな」
「流石先輩やー!」
「ほんまお前は調子がええのう」
直也はペシッと畠山の頭を叩いた。
「マナちゃんもカナちゃんも、俺が体調悪いときに、家まで家事しにきてくれてありがとう」
直也は会社の女のコに頭を下げた。
「いや、うちは二日ほど畠山くんに連れられて行っただけやから……
ほとんどはカナがやってくれてましたから」
「え?
それじゃあほとんどの日、直也はカナちゃんとふたりきりやったちゅうんかいな。
直也、お前も隅に置けんやっちゃなあ」
俺は直也を肘で軽く小突いた。
「い、いや、なんもしてへんで」
直也が急に焦りだす。
「なんか怪しいなあ……」
マリが直也を覗きこんだ。
「あーもう!
わかったわー!」
観念した直也が口を割る。
「好きですよー!
大好きです!」
突然の告白に、顔を真っ赤にしていたカナの瞳から涙が溢れ落ちた。
「うれしい……」
「やっとかいな。
野田課長、遅いんですわ!
こんなええコ、ずっと待たせて!
二年ですよ二年!
うちらが入社してからずっとですからね!」
マナが笑顔で直也に説教する。
「あらーっ、なんか盛り上がってるやん」
「マッキー!
いつ帰ってきたんよー」
マリがマッキーに抱きついた。
「今日の昼ぐらいよ。
ちょっとこっちの役所で手続き残っててな。
面太郎ちゃんに連絡取ったら、みんなで
【邪邪苑】行くいうて聞いたんよ」
「俺も肉食わせてくれえ」
帰ったはずの河田が再登場した。
「あんたはキャベツだけ食べとき!」
「カヨ、そんなこと言うなよ、殺生やで」
ペシッとカヨちゃんが、河田の頭を叩く。
次の瞬間眼鏡が吹っ飛ぶ。
「眼鏡、眼鏡」
河田はやっさんのギャグを披露。
「みんな揃ったようやな。
グラスの準備はええか?
ルネッサーンス!」
ガハハハハハ
その日の宴は夜通し続くのであった。
小高い丘陵の坂道を頂きまで上がると、そこには白い壁に囲まれた広大な敷地が広がる。
まるで城か要塞か……
木造建築のその建物は威風堂々とこの地に構え、200年以上に渡り下界に住む者たちを見下ろしていた。
重厚な門の前に車を停車すると、外の空気さえも遮断していたその境界は、ゆっくり開かれていく。
いくつもの監視カメラやセンサーをくぐり抜けると、やがてそこには大きな池を中心とした日本庭園が現れる。
庭石や四季折々の草花に囲まれた車道を進み、駐車用に白線で囲まれた区画のひとつに車を停める。
屋敷の使用人に案内され、最奥の応接間の前で立ち止まる。
「先生、池様がおいでになられました」
「おう、開けたってやー」
障子の向こうから、この厳粛な空気におよそ似つかわしくない軽い声が返ってきた。
俺はまず廊下に正座し頭を垂れた。
「ご無沙汰しております」
「堅苦しい挨拶はええから、早よこっち入り」
応接間の大きなテーブルの向こうから手招きする人物こそがこの屋敷の主……
金融庁のみならず、各省庁にコネクションを持ち、警視庁捜査一課にも口出しできる男……
永松源蔵その人であった。
―― あれから一ヶ月……
そう、直也と河田の金を取り返し、金沢で詐欺姉妹が乗ったタクシーを見送ったあの日から今日でちょうど一ヶ月である。
俺は姿勢を正し、永松の前に促されるまま座る。
「今日はわざわざご苦労さんやな。
約束のもん渡そうおもてな」
永松が右手を軽く振ると、使用人がドンと俺の目の前に帯でまかれた札束を10個積み上げた。
「今回のお礼や。
うちのバカ息子がロマンス詐欺に遭うたって聞いたときは、ほんまどないしょうか思ったわ。
ワシら政治家は金も大事やけどスキャンダルが一番かなわん」
「おっしゃる通りですね。
足元を掬おうと手ぐすね引いてる輩はどこにでもいてますからね」
「その通りや。
未然に防げたちゅうのはキミに対しての大きな借りや」
この男、ただの権力者ではない。
誠実に付き合えば、ちゃんと恩を返す。
あくまでも、永松にとっての誠実であって、そこに善悪は関係ないのだが……
「あの姉妹な……
性格はアレやけど、見た目だけは良かったやろ?」
「おっしゃる通りですね。
性格はかなりアレですね」
直也に対して土下座したときのニヤリ顔を思い出し、少し嫌な気分になる。
「でな、ワシの知り合い筋に、メイドさんを探しとるヤツがおってのう。
姉妹のこと話したら、是非雇いたいと言いよってなあ」
金持ちの家にメイドとしてねえ……
にわかには信じられないな。
俺は、表向きは表情を変えず永松の話の続きを聞いた。
「あの飼い主やったら可愛がってくれると思うわ。
お陰でワシにはものすごい契約金が入ってきたわあ。
せやけど、メイドやいうても色々な仕事があるからなあ……
体より精神が心配やわなあ。
せいぜい壊れんようにせな……
ハッハッハッ」
やっぱりこの人はどこかネジが飛んでる。
なにがメイドや……
あのとき心から直也に謝っていれば、あるいは助かったかも知れない……
いや、永松の身内をペテンにかけた時点で遅かれ早かれ、ヤツらの人生は詰んでたのかもな……
地獄の一丁目に立ってたんは直也やない。
あの姉妹たちやったんや。
「それにしても、流石は池くんやな。
友人のピンチをキッチリと金に変えよった」
「友情とビジネスは別もんですから……」
さっきは、こいつらのことをネジが何本も飛んでいると揶揄したが、俺もそうなのかも知れないな……
「ワシはキミのそういうところ大好きやで。
そのドライなところは信用に値する。
キミもワシらと同じ匂いをもっとる。
どうや?
いっそのこと、ワシの下で働けへんか?
キミやったらええ政治家になれると思うで?」
「ご冗談を……
私みたいな者が政治家だなんて……
永松先生の大変さの一片を目の当たりにしてるだけでも凄いなあと感じておりますのに……
私には到底真似できません。
今のポジションで、たまに先生のお手伝いさせていただくのが丁度良いかと」
「そんなもんかなあ……
まあ、気が変わったら言うといでや。
なんぼでも協力するさかいな。
今回はほんまおおきに。
ご苦労さんやったな」
「何をおっしゃいます。
先生のお陰で友人が助かりました。
こちらこそありがとうございました」
深々と頭を下げると、俺は忘れずに札束をカバンに詰め込み、屋敷をあとにした。
屋敷のあった丘陵を下り、道路脇に車を停める。
辺りは少し薄暗くなっていた。
俺は大きく深呼吸して、普段の自分にシフトチェンジする。
ポーカーフェイスを装ってはおるけど、何回あの御大と会うても、ほんま疲れるわ。
ふと西の空を眺めると、宵の明星が輝いている。
金星……
ヴィーナスか……
愛と美の女神……
――本当の美とは、見てくれやない。
心の中にあるんやろなあ。
まあ、俺みたいな人間の心にはおらんやろうけどな。
直也、幸せみつけろよ……
河田、お前はそろそろ落ち着けよ。
俺はひとり苦笑いする。
ピロリロン ピロリロン
「もしもし!
面太郎、なにしてんねん!
早よこんかいな!
【邪邪苑】連れていけ言うたんお前やろ!
もうみんな集まってんねんぞ」
「あー悪い悪い、仕事が押してもうてな」
「早よ来いよ。
それから、お前ケーキ買うてこいケーキ!
なんや畠山と直也が会社のコ連れてきててな。
ほんまかわいいコらなんやって!」
「もうええから、河ちゃんちょっとスマホ私に貸し!」
「わあ、何すんねんマリ!
ストラップ取れてもうたやんけ!」
「うるさい。
ちょっとだまっとき!
なあ、またバ河ちゃんが暴走してんねん。
早よ来てやー。
女のコの間に陣取って、ガハハ言うて、今からケーキ注文したるとか、わけわからんのよ」
電話の向こうからは相変わらずテンションの高い河田の声だけが響いてる。
「それに……」
急にマリが小声になる。
「今日来てる女のコふたりやねんけど、ひとりは畠山くんの彼女みたいな感じやねんけどな……」
「なんや、あいつ……
彼女おんのにあんなに遊んでたんかいな!?」
「まあ、それはこっち来てから詰めたったらええ話やねんけど……」
「どないしたんや?」
「もうひとりのコなんよ。
今回、直也さんが体調壊してしばらく会社休んでたやろ?」
「そうやな」
「退院してからも、一週間ほど自宅療養してたやろ?
その間、畠山くんと畠山くんの彼女に連れられて、看病に付き合ってたみたいやねん」
「つまりはどういうこっちゃ?」
「面ちゃん、察しが悪いなあ。
直也さんのことが好きやからに決まってるやんか!」
「そうかあ。
で、直也の様子は?」
「まんざらでもないみたいなんよ」
「おおっ!」
嬉しさのあまり思わず心の底から声が出てもうた。
「それで俺にケーキ買うてこいと?」
「なんでそーなんのよ。
違うがな!
バ河ちゃんがテンション上がってもうてふたりの邪魔しよるから、バ河ちゃんの奥さん呼んてきてーな」
「あーそういうことか。
それやったらこのあとカヨちゃんに連絡入れて、すぐそっち行くわ」
「頼んだで面ちゃん。
じゃあな。
待ってるでー」
ハハハ……
なかなか面白い展開やなあ……
―― 20分後……
俺はカヨちゃんを連れて【邪邪苑】に到着した。
「ちょっと!
あんた!」
カヨちゃんの声が個室に響き渡ると、河田は一瞬固まった。
「な、なんでお前がここに……」
一気に血の気が引く河田。
マリは横で大笑いしてる。
「マリ!
お前!
俺を売ったな!」
「フフンッ」
マリは得意げに笑う。
「また二、三日家にも帰ってこんと!
どこほっつき歩いてるやと思ったら、こないなところで鼻伸ばしてからに!
今日という今日は許さへんで!
ちょっとこっちおいでー」
「違うんや、これには深い事情が……」
「うるさい!
言い訳は表で聞いたる!」
「ひえーっ!
誰か助けてくれー!」
河田はカヨちゃんに耳を思いっ切りひっぱられ個室を出ていく。
やがて叫び声は廊下の向こうへと消えて行った。
先程と打って変わり、場は静かになる。
「あっ!」
口を開いたのは畠山であった。
「河ちゃん先輩がおらんようなったら誰がここの会計するんですか?」
畠山は俺の方を見た。
「心配すな。
俺にまかせとけ!
お前らにお礼せなあかんおもてたしな」
「流石先輩やー!」
「ほんまお前は調子がええのう」
直也はペシッと畠山の頭を叩いた。
「マナちゃんもカナちゃんも、俺が体調悪いときに、家まで家事しにきてくれてありがとう」
直也は会社の女のコに頭を下げた。
「いや、うちは二日ほど畠山くんに連れられて行っただけやから……
ほとんどはカナがやってくれてましたから」
「え?
それじゃあほとんどの日、直也はカナちゃんとふたりきりやったちゅうんかいな。
直也、お前も隅に置けんやっちゃなあ」
俺は直也を肘で軽く小突いた。
「い、いや、なんもしてへんで」
直也が急に焦りだす。
「なんか怪しいなあ……」
マリが直也を覗きこんだ。
「あーもう!
わかったわー!」
観念した直也が口を割る。
「好きですよー!
大好きです!」
突然の告白に、顔を真っ赤にしていたカナの瞳から涙が溢れ落ちた。
「うれしい……」
「やっとかいな。
野田課長、遅いんですわ!
こんなええコ、ずっと待たせて!
二年ですよ二年!
うちらが入社してからずっとですからね!」
マナが笑顔で直也に説教する。
「あらーっ、なんか盛り上がってるやん」
「マッキー!
いつ帰ってきたんよー」
マリがマッキーに抱きついた。
「今日の昼ぐらいよ。
ちょっとこっちの役所で手続き残っててな。
面太郎ちゃんに連絡取ったら、みんなで
【邪邪苑】行くいうて聞いたんよ」
「俺も肉食わせてくれえ」
帰ったはずの河田が再登場した。
「あんたはキャベツだけ食べとき!」
「カヨ、そんなこと言うなよ、殺生やで」
ペシッとカヨちゃんが、河田の頭を叩く。
次の瞬間眼鏡が吹っ飛ぶ。
「眼鏡、眼鏡」
河田はやっさんのギャグを披露。
「みんな揃ったようやな。
グラスの準備はええか?
ルネッサーンス!」
ガハハハハハ
その日の宴は夜通し続くのであった。
2
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
黒瀬部長は部下を溺愛したい
桐生桜
恋愛
イケメン上司の黒瀬部長は営業部のエース。
人にも自分にも厳しくちょっぴり怖い……けど!
好きな人にはとことん尽くして甘やかしたい、愛でたい……の溺愛体質。
部下である白石莉央はその溺愛を一心に受け、とことん愛される。
スパダリ鬼上司×新人OLのイチャラブストーリーを一話ショートに。
恋い焦がれて
さとう涼
恋愛
小学校時代の担任教諭・佐野に七年ぶりに再会し、話の流れで佐野の恋人へのエンゲージリングを選ぶために一緒にジュエリーショップに行くことになってしまった二十歳の女子大学生・輝。
最初はそんなつもりはなかったのに、次第に佐野を意識してしまうようになり、自分でも困惑してしまう。
必死に自分の想いを打ち消そうとする輝。
だけど佐野も恋人との関係に悩んでいるようで、複雑な想いを抱え続けることになる。
そんな輝を見守る(ちょっかいをかける?)バイト先の店長。
さらに佐野の恋人は意外な人物で、輝は大混乱。
※ドロドロではなく純愛系を目指していますが、ビターテイストなお話です
※理想的で格好いいヒーローではありません(…すみません)
※調べながら執筆をしているのですが、無知なところも多々あるので、間違っているところがありましたら教えてください。ツイッターでも受け付けています。
https://twitter.com/SATORYO_HOME
商人の男と貴族の女~婚約破棄から始まる成り上がり~
葉月奈津・男
恋愛
「あなたとの婚約、破棄させていただきます!」
王立学院の舞踏会。
全校生徒が見守る中、商家の三男カロスタークは、貴族令嬢セザールから一方的に婚約破棄を突きつけられる。
努力も誠意も、すべて「退屈だった」の一言で切り捨てられ、彼女は王子様気取りの子爵家の三男と新たな婚約を宣言する。
だが、カロスタークは折れなかった。
「商人の子せがれにだって、意地はあるんだ!」
怒りと屈辱を胸に、彼は商人としての才覚を武器に、静かなる反撃を開始する。
舞踏会の翌日、元婚約者の実家に突如として訪れる債権者たち。
差し押さえ、債権買収、そして“後ろ盾”の意味を思い知らせる逆襲劇が幕を開ける!
これは、貴族社会の常識を覆す、ひとりの青年の成り上がりの物語。
誇りを踏みにじられた男が、金と知恵で世界を変える――!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる