美少女戦士はもう無理だって!

marry

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エピローグ 終章だニャン♡

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「はあ……」

 こたつに突っ伏し、ワルツは深いため息をついた。

 もちろん、お決まりのフライドチキンは、口に咥えたままである。

「どうしたのよ。
 ため息なんてついてさ。
 あんたらしくもない」

 私はミカンを剝いて、パクリと口に放り込んだ。

「雪乃先輩、なにのんびりとミカンなんて食べてるんですか」

 顔だけ上にあげ、ワルツは口を少し尖らせた。

「フライドチキンを咥えながら、こたつでダラダラしてる人に言われたくはないわねえ」

 言い返しながら、私はもう一つ、ミカンを口に入れた。

「なかなか、この温州みかんは甘くておいしいわね。
 一袋10個で298円。
 かなり、お買い得だったわ」

 私はミカンの袋を持ち上げ、ウンウンと満足気に頷いた。

「だから~。
 そんなことより、私の話を聞いてくださいよ~」

 ワルツはプーッと頬を膨らませ、ぶーたれる。

「何言ってるのよ、あんたが居着いてから、うちの家計は大変なのよ。
 私は今、安くて美味しいミカンに癒やされているの!」

 そう……

 あれからワルツは、うちの家に居候することになった。

 家賃はちゃんと頂いてはいるんだけど、この子の食欲のお陰で、結局、大赤字なのよね。

 まあ、フレンディに呼び出される度に【ワンクチュアリ】で頑張っているみたいなので、それはご褒美ということで、請求はしないようにしているけれど。

「聞いてくださいよ。
 フレンディったら、人使いが荒いんですよ~。
 このあいだだって、【魔魂(まだま)】の封印だなんだって、一晩中、私を引っ張り回したんですよ」

「ハハハ、それなら私も経験あるわよ。
 オホーツク海までの旅に招待されたことがあったわよ。
 それも日帰りで。
 ねっ?
 ヤマト?」

 バツが悪くなったヤマトはサッとこたつに潜り込んだ。

「でも~。
 美少女戦士に憧れてはいたけれど、まさかこんなに大変だったなんて……」

「文句ばっかり言わないの。
 勉強もスポーツも仕事も、それにヒーローだって全部一緒。
 ひとの目に触れる華やかな時間はほんの一瞬。
 残りの9割9分9厘は陰の努力なのよ」

 これは、マッキーからの受け売りだ。

 私も以前、ワルツと同じようなことを【ファンタジスタ】でマッキーに言われたことがあった。

 考えると、マッキーって凄く大人よね。

 だって、私にその言葉をかけたときって、今のワルツと同じぐらいの歳だったんだもんね。

 つくづく尊敬するわ。

「そんなもんですかねえ……
 はあ~……」

 再びワルツはこたつの上に突っ伏した。

 そのとき、リビングの片隅に光の扉が現れる。

「ほら、ワルツ。
 お友達が来たわよ」

 私は人差し指でワルツの頭にツイツイと合図した。

「ワルツ!
 大変だ!
 怪獣が現れた!
 出陣だ!」

 光の扉から飛び出したフレンディは、足をバタつかせるワルツを掴み、引きずっていく。

 あれから、何回この光景を目にしたことか。

「まだ、おやつの時間なのに~っ!」

「行ってらっしゃ~い。
 今日の晩ごはんは、おでんだからね~。
 戦いが終わったら、寄り道せず、まっすぐ帰ってくるのよ~」

 私は微笑みながら、ゆっくりと手を振った。

「せんぱ~いっ!
 いや~っ」

 ズルズルズル……

 フライドチキンを咥えたワルツは、光の扉へ吸い込まれていった。

 -- あれから数時間……

「今日は遅いわね。
 何かあったのかしら?」

「せんぱ~い……」

 ワルツの声が聞こえた気がした。

 もはや私は母親の心境である。

 さらに10分……

「ひょっとしたら、今回の敵は強いんじゃ?」

 ヤマトがボソッと呟いた。

 そのとき、庭先に人影と猫影?が……

「雪乃ちゃん!」

「ルージュ、それにフウテンも」

 そこには、既に美少女戦士にフォルムチェンジしたルージュとフウテンが立っていた。

「なんだか、ワルツちゃんが呼んでいる気がしたのよ。
 それで、急いで飛んできちゃったわ。
 ワルツちゃんは?」

「まだ戻ってこないの。
 いつもなら、お腹空いた~って帰ってくるぐらいの時間は経ってるのよ」

「それは心配ね」

「フレンディには、何かあったらすぐに呼びに来てね、とは伝えてあるんだけど……」

「雪乃ちゃん準備しておきなさい」

 マッキーに言われ、私はすぐに庭へ飛び出した。

「ヤマト~ッ!」

「あいよ~っ!」

 ヤマトは私に【猫ニャンステッキ】を向けた。

「ニャンニャンレインボーパワー!
 セットアップ!」

 胸の宝石が光り、白い衣装が私を包み込む。

 腕には白いグローブ、足には白いブーツ。

 そして頭にはネコ耳カチューシャ。

 両手を天に掲げると黒いローブが舞い降りる。

「ニャンノアール!
 悪い子は…
 おしおきだニャン♡」

 バッシーン!

「雪乃~!」

 私が変身を終えると、ちょうどフレンディがリビングに飛び込んできた。

「準備はできてるわよ」

「へっ?」

 フレンディは不思議そうな顔をした。

「ワルツがピンチなんでしょ?」

「そうだけど、なんで呼びに来る前にわかったの?」

「まあ、そういうことよ。
 言葉では説明できないシンパシーってものがあるの」

 ルージュがニヤリと笑った。

「さあ、急ぎましょ!」

 私はフレンディより先に、光の扉に飛び込んだ。

「眩しいっ!」

 一瞬目をつむったあと、すぐにまた目を開ける。

 そこには光の道が広がっていた。

 私は急いでその空間を駆ける。

 ……トンネルを抜けると、そこは雪国だった……

「ノアールちゃん、ちょっと、私たちを置いていかないでよね」

 ドタドタと私の後ろからルージュたちが顔を出す。

「ワルツちゃんのことになったら、ほんとにもう」

 ルージュがフフフと笑う。

「ごめん、ごめん」

 私は頭をポリポリとかきながら、ルージュたちにあやまった。

「それにしても寒いわね。
 この国はこんなに雪が多いの?」

「違うんだよ、原因はアイツさ!」

 ルージュの投げかけに、フレンディはサッと前方を指差した。

「ワルツ!
 なんであの子、変身してないのよ!」

 私の視線の先には、白い毛で全身を覆われた大きな獣に、首を掴まれ、吊し上げられているワルツの姿が映った。

 イエティ?

「ワルツ~ッ!」

「ちょ、ノアールちゃん!?
 落ち着きなさい!」
 
 私は、後先考えず飛び出した。

「もう、ほんとにあの子ってば……」

 うしろから、ルージュのボヤきが聞こえた気がするが……

「せいやぁっ!」

 バッコーンッ!

 私のドロップキックがイエティに炸裂した。

 不意をつかれたイエティはワルツを手放し、後方へゴロゴロと転がり、大木に頭を打ちつけた。

「ゲホッ、ゲホッ」

 ワルツは両手を雪面につき、咳き込んでいる。

 私はワルツを抱えて、ルージュが待つ小高い丘まで飛んだ。

「あんた、なんで変身してないのよ!」

「だって、雪男が出たっていうから、まずは偵察って思ったら、木の上から足を滑らせちゃって、アイツの頭の上に落ちちゃったんですよ~」

「か~、ほんと、あんたバカ~?
 とりあえず、すぐに変身しなさい」

「は~い」

 なんだか締まらない正義の味方である。

 以前、不満をもらしていた【ボーンカプセル】はもう使用していないようである。

 ワルツは胸のペンダントを強く握り締め、天高く両手を広げた。

「ワルツ・マジック・メタモルフォーゼ!」

 キラリンッ!

 ペンダントが輝いた。

 その刹那……

 雪上には、黒い犬耳カチューシャに真っ赤な仮面。

 真っ白なマントを身に纏った、美少女の姿があった。

「夢ある限り戦いましょう!
 この体、燃え尽きるまで!
 お天道様が許しても、この美少女仮面ポわんトリンが許しません!」

 ワルツが……

 いや……

 ポわんトリンが名乗りを上げた。

「決まったんだか、決まってないんだか……
 とりあえず行くわよ。
 ノアールちゃん!
 ポわんトリンちゃん!」

 ルージュの合図で私たちは雪面を蹴り高く飛び上がる。

「スーパーッ」

「イナズマ~ッ」

「キ~ック~ッ」

 バッコーンッ!

 私達のトリプルキックがイエティを捉える。

「こんな寒いの、私はもう嫌!
 ノアールちゃん、ポわんトリンちゃん。
 一気に行くわよ!」

「「了解!」」

 ルージュがイエティに【猫ニャンステッキ】を向けてハート型の光線が放たれる。

「悪い子でも……
 抱きしめるニャン♡
 そんなあなたにフォ~リンラ~ブッ!」

 ピヒャ~ッ

 ビヨヨヨヨヨ~ン

 拘束されたイエティは宙に浮く。

「悪い子は……
 おしおきだニャン♡
 ニャンダフル~シャイニ~ングッ!」

 ノアールが叫ぶと、【猫ニャンステッキ】の先から、聖なる金色こんじきの光がイエティに放たれ、眉間を貫いた。

 ピッキーンッ!

「まだよ!
 ポわんトリンちゃん!
 とどめよ!」

 ポわんトリンはイエティに【犬ワンステッキ】を向ける。

「ポわんトリン・フラッ~シュッ!」

 ポわんトリンの叫び声とともに、【犬ワンステッキ】の先端からピンク色のイナズマが放たれ、イエティの胸核を貫いた。

「イエティ~ンッ」

 ボカ ボカ ボッカーンッ!

 イエティは氷の粒となり、粉々に吹き飛んだ。

「「この世に悪の栄えたためしなし……
 ……ニャン♡」」

「ニャンノアール!」

「ニャンルージュ!」

「これにて一件落着……ワンッ!
 美少女仮面ポわんトリン!」

 私たちはビシッとポーズを決めた。

 ギャラリーはヤマトとフウテンだけだったけれども……

 やがて吹雪はやみ、きれいな夕陽が山々を照らし出す。

「やれやれだわ。
 ほんとに世話の焼ける子ね!」

「だってえ……
 だってもへちまもない!
 あんたはすぐに油断するんだから!
 助けに来るのはこれっきりだからね」

「なんでですかあ~。
 先輩ってば、こたつでミカン食べてるだけじゃないですかあ」

「あんた、冗談も休み休み言いなさいよ!
 私がどれほど心配したか!」

「そうよ、ワルツちゃん。
 あんまり、雪乃ちゃんに心配かけちゃだめよ」

「先輩私のこと心配してくれてたんですか?」

「ちょ、ちょっとだけよ」

「じゃ、じゃあ、これからも手伝ってくださいよう」

「またすぐに甘える。
 それとこれとは別!
 自分で頑張りなさい!」

「けち……」

「なんか言った?」

「べ、別に」

「ほんとに、あんたって子は!
 さっさと帰るわよ!
 今日の晩ごはんは、おでんだからね。
 お風呂も沸かしてあるから、家に帰ったら、さっさと入るのよ!」

「は~い」

 頬を膨らませながらも、ワルツは私の腕に自分の腕を絡めてくる。

「それじゃあ帰りましょうか」

 マッキーが私とワルツの背中を軽く叩いた。

「ねえ、雪乃先輩。
 少しでいいから手伝って」

 腕にしがみつきながら、ワルツはまだ諦めない。

「だからダメだってば」

「なんでですか!」

「ダメなものはダ~メ」

「けち~」

「ほら、ワルツちゃん。
 そのぐらいにしときなさい」

「だってえ、マッキーさん。
 雪乃先輩があ……」

 私たちは、光の扉をくぐり、家路に着いた。

 その光景を、怪しく見つめる、一匹のコウモリ。

 やがて、何かを確認し終えると、コウモリは東の空へと消えて行った。

 ワルツの戦いはまだまだ続く。

 まあ、たまに助けてやらなくもないんだけどね。
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