聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

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王子様は心配性

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 □■□

「ハルト!!」
「おお、カイン」

 慌てた様子で俺の部屋のドアを開け放ったのはカインだった。
 俺が落ち着いた頃を見計らって、ラウルが様子を伝えに行ってくれた。
 やはりすぐ会いに来たか、と俺は苦笑した。なんとなくそんな気はしたのだ。

「悪いな、情けないとこ見せちま……ってえ!?」

 言い切らない内に、がばりと抱きしめられた。
 なんだどうした。スキンシップ過多な王子だな。

「無事で良かった……!」

 その声が泣きそうに聞こえて、随分と心配をかけたのだと俺は反省した。
 縋りつくように手を回すカインの背を、あやすようにとんとんと叩く。

「ごめんな、心配かけて。自分でも倒れるとは思わなかったんだ」
「いや、こちらこそ、無理をさせてすまなかった。我々が期待をかけすぎたから、言い出せなかったんだろう。様子がおかしいと思った時に、すぐに止めるべきだった。君に何かあったらと思うと、生きた心地がしなかった」
「んな大げさな」
「大げさなものか!」

 がっしりと肩を掴まれて、強制的に目を合わせられる。
 その目がとても真剣で、冗談を言える空気じゃなかった。

「世界を渡ってまで、ハルトはこの国を助けようとしてくれた。その献身に答えられるよう、俺もできる限りのことをしようと決めた。ハルトが元の世界に帰るまでの一年間は、俺がハルトの全てに責任を持つ」

 いや、俺が自主的に渡ってきたわけじゃなくて、強制的に呼び出されたんだけどな?
 献身なんてつもりも全然ないし。生活の術にしようと思っただけで。無職のままでただ飯食らいってわけにいかないし。
 というか今しれっと『一年間』て言ったな。やっぱ結果を問わず、一年で帰してくれるつもりなのか。
 色々なことが頭を過ぎったが、そのどれも口には出せなかった。

「だからハルト。どんな小さなことでもいい。不安や不調は隠さないでくれ。要求もいくらでも口にしていい。可能な限り、俺が叶えるから」
「いやそれは甘やかしすぎだろ」

 さすがにこれは口に出した。
 なんてこと言うんだ。王子がそれを言うのはシャレにならない。大抵の願いは叶えられるだろ。
 嫌そうな顔をした俺に、カインはきょとんとした顔をしていた。

「聖女なんだ、多少わがままを言っても許されると思うが」
「お前は俺をダメ人間にする気か。いいよ普通に働いた分だけくれよ」

 言ってからはっとした。聖女の給金てどのくらいだ。
 何せ五人しか解呪してない。実質労働時間短すぎ。特殊能力手当とかで何とかならないだろうか。

「あの……あんま働けてないけど。これから、もっと人数増やせるように頑張るからさ」
「そういう無理はしなくていい」
「だけど」
「ハルト」

 カインが、ぎゅっと俺の手を握った。

「君がいてくれることは、我々にとって希望だ。だから、決して自分の身を軽んじないでくれ。ハルトに何かあったら、俺は一生後悔するだろう」

 重い。カインの一生残る傷になる覚悟は俺にはない。
 俺がまた倒れたら、この人どうなるんだろう。
 なんかやばそうだから大人しくしとこ。

「わかった。もう無茶はしない。ありがとな」

 笑いかけた俺に、カインも緩く微笑んだ。

「長話をさせてすまなかった。しっかり休んでくれ」
「ああ、そうする」

 ベッドに横たわった俺の額に、カインが手を当てた。

「おやすみ。良い夢を」
「……お、おう」

 キザだ。不覚にもちょっとどきっとした。
 乙女ゲーのスチルみたいなやつが見えた気がする。
 つっても乙女じゃないから、別に攻略しないしされないんだけどな、と思いながら、俺は目を閉じた。

 □■□

 カインの後にも誰か来るかなと思っていたが、予想に反して見舞いは来なかった。
 俺がゆっくり休めるように気をつかったこと、明日以降の解呪の儀をどうするかの相談をしていることを、看病に来たラウルに聞いた。
 一日五人はさすがに想定外だろう。申し訳なさから胃がきりりと痛んだが、言っても仕方ないので口にはしなかった。

 翌日。カイン、アルベール、アーサーの三人が、今後の方針について俺と相談するため、会議室に集まった。

「我々で話し合ったところ、解呪の受け入れは一日三人に抑えようということになった」
「三人!?」

 あまりの少なさに、思わず俺は声を上げた。
 一日三人限定って。どんな高級料理店だ。

「それはいくらなんでも少なすぎだろ。昨日は五人いけたんだから、最低でも五人まではいけるって」
「その五人目で倒れたんでしょう、あなたは」

 アルベールの言葉に、ぐうと喉の奥で唸った。
 そりゃその通りだけど。

「民の前で聖女が体調を崩せば不安を与えます。それに、無理をして翌日に響くようなら、一日に詰め込む意味もない。あなたが安定して日々こなせる人数が三人までだと判断したのです」

 アルベールの言うことは理解できる。
 でも、それじゃ、あんまりにも。

「三人なら、確かに安全だと思うよ。でも安全なラインで収めてちゃ、今後増やせる見込みもなくなるだろ。限界にチャレンジすることで成長するっていうか……なんかこう、できるようにならねえかな?」

 焦ったように言い募る俺に、アーサーが辛そうに顔を歪めた。

「ハルト。もどかしい気持ちはわかるけどさ」
「アーサーならわかるだろ!? 筋トレの負荷は増やしてかないと、昨日の自分より重い重量は持ち上げられるようにならないだろ!」
「それもそうだな!」
「アーサー!!」

 筋トレに例えた途端、ころっとアーサーが寝返った。ちょろいな。
 アルベールは青筋を立てている。アーサーのこういう振る舞いはよくあるのかもしれない。

「でもよ、ハルトが頑張ってくれるんなら、挑戦すること自体は別に悪くないと思うんだよな。オレたちがついてれば、無茶する前に止められるだろ?」
「そもそも無茶をさせないための人数制限なんですよ」
「男だったら、昨日の自分より強くなりたいだろ!」
「黙れ脳筋」

 すまんアーサー。俺の味方をしたばかりにひどい言われよう。
 アーサーは口ではアルベールに勝てそうにないので、俺はこの場でもっとも発言権のある人物を見つめた。

「カイン……」

 じっと見上げる俺に、カインはやや怯んだように見えた。
 こいつ俺に甘いっぽいから、泣き落とし的なやつでいけねえかな。

「頼むよ。無理はしないって約束するから。昨日と同じ、五人まで。やらせてくれないか。な?」

 顔の前で手を合わせると、カインは葛藤するように目を閉じて唸った。
 やがて眉間のしわはそのままに、溜息に乗せるようにして告げた。

「……民衆からの受け入れは、予定通り三人。残りの二人は、城の関係者から選出しよう。それならば民の前で不調を見せることはないし、中止になったとしても本来の順番には影響が出ないから、不満も抑えられるだろう」
「カイン!」
「ただし」

 歓喜の声を上げた俺に、カインがびしっと指を突きつけた。

「不調を感じたらすぐに言うこと。俺たちが止めたらやめること。休息日を設けること。これらは必ず守ってもらう。約束できるか?」
「ああ、約束する。ありがとな、カイン!」

 満面の笑みを浮かべた俺に、カインは眉を下げて微笑んだ。

「礼を言うのはこちらなのだがな」

 固い握手を交わして、無事俺の仕事内容が決まった。
 よっし、働くぞ!
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