聖女召喚に応じて参上しました男子高校生です。

谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】

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説得しましょう、そうしましょう

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 書庫を出ると、カロが後ろから小走りで来て、途中まで一緒に行くことになった。

「なぁ、カインの過保護になんか心当たりある?」
「過保護、かどうかはわからないけど。あまり目の届かないところに行ってほしくないのかも」
「それを過保護というのでは……」

 だって国内ですらラウルという名の監視つけてるじゃん。
 一回さらわれてる手前なんとも言えないけどさ。

「突然いなくなってしまうのが怖いんだよ。アベル兄様のように」
「……アベル兄様?」
「僕とカイン兄様の間にはもう一人、第二王子がいたんだ」

 おお! 気になってた第二王子! まさかここで話が聞けるとは。
 でも、『いた』ってことは。

「その人って、今は……?」
「……アベル兄様は……」

 カロが寂しげに目を伏せた。人形のような長い睫毛が震えて、俺はぎくりとした。
 まさか。

「旅に出たまま、帰ってこないんだ」

 ずべ、っと漫画のようにずっこけた。いや、うん。生きてるならいいけどね。
 ただの放蕩息子かい。

「ごくたまに珍しい土産物や手紙を寄越すから、元気でやっているとは思うんだけど。王族、っていうのがどうも肌に合わないらしくて。全然城に戻ろうとしないんだ」
「それはもう……放っておけばいいのでは……」
「でもカイン兄様はね、気にしてるんだよ。自分が厳しくしすぎたのかもしれないって。責任感の強い人だから、自分のせいでいなくなってしまったと思ってるのかもしれない。僕はどちらかというと、カイン兄様じゃなくて、父様のせいだと思ってるけど」

 おや、と目を瞬かせてカロを見る。この天使のような少年が、誰かのせい、などという言葉選びをするのは珍しい。
 視線に気づいたカロは、にこりといつもの笑みを作った。

「だからカイン兄様は、ハルトが戻ってこないことが怖いんだよ。例えそれがハルトの意志だとしても」

 俺は口をへの字に曲げた。
 それはつまり、魔王が俺を手籠めにすることだけを心配しているのではなくて。
 俺が魔王の条件を呑んで、人々を救う選択をするかもしれないと思っているわけだ。
 だから、自分の力が及ばない国外で、俺が交渉事をするのが気に食わないと。
 それはちょっと、なんというか。

「信用ねぇな俺」

 不機嫌そうに呟いた俺に、カロがくすくすと笑い声を漏らした。
 しまった、心の声が口に出ていた。
 赤い顔で口元を手で覆う俺に、カロは完璧な角度で見上げながら微笑んだ。

「カイン兄様の説得、頑張ってね。ハルト」
「……おう」

 小悪魔め~。

 □■□

「却下」
「アゲイン!!」

 カインにミシェルから教えてもらった転移魔法用の魔石の話をしてみたものの、またしてもにべもなく断られて、俺は悔しさに会議室の床を叩いた。
 そんな俺を苦笑したアーサーと溜め息を吐くアルベールが見下ろす。せっかく集まってもらったのに。

「なんでだよ! 安全確保した上でなら問題ないだろ!」
「魔石による転移は完全ではない。より強い魔力で妨害された場合、うまく作動しない可能性がある」
「えっそんな電波妨害みたいなのできんの? ジャミング的な?」

 なんてこった。今度こそ完璧な策だと思ったのに。
 いやでも、それが理由なら。

「なぁ、それってアルベールが作ったやつでもダメ?」
「は?」

 突然水を向けられたアルベールは、間抜けな声を漏らした。ごめん。

「だって、アルベールは国で最高の魔法師なんだろ? そのアルベールが作った魔法具なら、魔王でも簡単には妨害できないんじゃないか」
「それは……」

 カインが言葉に詰まる。自分が信頼している魔法師に対して、無理だとは言いたくないのだろう。
 たとえ相手が魔王でも。
 けれど、アルベールは魔王の呪いを解けていない。アルベールならば魔王の魔力に対抗できる、とも言えない。
 ただ俺も考えなしにこんなことを言い出したわけではない。

「俺はよくわかんないけどさ、魔法って割と緻密な操作が必要なんだろ? 魔王って、あんまり細かいことが得意な感じしなかったんだよな。単純に力でぶつかったらあっちに分があるかもしんないけどさ。道具みたいに、事前に細かく仕込んでおけるやつなら、魔王もすぐには対処できないんじゃないかと思って……ど、どう?」

 何せ専門外なので、全てが想像でしかない。どきどきしながらアルベールを窺うと、意外にも真剣に考え込んでいた。

「一理あるかもしれませんね」
「マジで!?」
「空間魔法というのは、魔法の中でも更に緻密な魔力操作が要求されます。魔王は転移魔法が使えますので、苦手ということはないかと思いますが、他者の妨害をするとなれば別です」

 あっそーいや使ってたわ。冷や汗が流れたが、アルベールがいい感じにまとめてくれそう。

「転移魔法を途中で妨害すれば、中途半端に発動して大事故に繋がる可能性があります」
「大事故?」
「見知らぬ場所に飛ばされたり、体の一部だけが転移したり、といった事態です」
「ひえっ」

 バラバラ死体ができあがるかもしれない、ってこと!?
 グロ! ホラー!

「魔王はハルトに執着しているようですから、彼の身に危険が及ぶようなやり方はしないでしょう。それに、道具を作成するとなれば、阻害魔法を更に阻害する罠を仕込んでおくことも可能です」
「できるのか?」
「理論上は」

 カインとアルベールが視線を交わす。
 やってみなければわからないところはあるだろう。俺もダリアンのことをそんなに知ってるわけじゃない。こっちがいくら策を講じても、無駄かもしれない。
 けど、これはアルベールへの信頼にも関わることだから。カインなら、きっと。

「……わかった」

 深く溜息を吐いて、カインが了承の言葉を口にした。
 よっしゃ!
 思わずガッツポーツした俺の肩を、アーサーが笑顔で叩いた。

「魔法具が出来上がって、狙った通りの効果が望めそうなら、魔王城へ行くことを許可しよう」
「サンキューカイン!」
「ただし、絶対に日帰りだからな。朝帰りは許さないからな」
「わかってるって父さん」
「真面目に言ってるんだ!」

 えっギャグかと思った。門限に厳しい父親じゃん完全に。

「まぁまぁ、カイン殿下。ハルトだって成長してるんだ。儀式でも三回に一回くらいは倒れなくなっただろ? 魔王から自力で逃げるくらいできるって」

 アーサーの助け舟に、俺は大きく頷いた。
 そうなのだ。地道な体力づくりが功を奏したのか、日課とする内に慣れてきたのか。
 最初の内は五人目が終わると必ず行動不能になっていた解呪の儀式だが、最近では五人目が終わっても歩けるくらいに余力が残っている日がある。倒れてしまった場合でも、回復が早くなった。
 俺は確実に成長している。その内ダリアンからもダッシュで逃げられるようになる。多分。きっと。

「大丈夫だ、カイン。俺は絶対、お前のところに戻ってくるから。黙っていなくなったりはしないよ」

 約束する、と拳を突き出した俺に、カインはくしゃりと相好を崩して、同じように拳を突き出した。

「約束だ」

 こつり、とぶつかった拳に、二人して照れくさくて笑った。
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