イベリスは実らない

夕季 夕

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第12話 イベリスは実らない

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 もう9月だというのに、相変わらず日差しが強い。開襟シャツを着たところで、暑いことに変わりはない。それどころか、直接日が当たるせいで、余計に暑いんじゃないかと思う。頬を流れる汗をぬぐい、横髪を耳にかけた。
 教室へ向かう途中、クラスメイトとすれちがったので「おはよう」と声をかけた。私からあいさつをするのは初めてかもしれない。その証拠に、相手はポカンとした表情でこちらを見ている。それから、目をパチパチさせて驚いている姿がなんだかおもしろくて、私はひらひらと手を振った。

「それじゃあ、また教室で」クラスメイトは控えめに手を振りかえした。

 二学期初日の教室はガヤガヤしている。入ってすぐに、夏休みはどこに行ったとか、なにをしたとか、そんな話が聞こえた。
 自分の席に着いて鞄を下ろす。となりの席の子が疑問系で「おはよう?」とあいさつしてきたので、私も笑顔で返した。

「髪……だいぶ切ったんだね。なにかあったの?」
「ううん、なにも」

 ただ、切りたかっただけ。
 そう言うと、後ろから「お前、すげーな」と声をかけられた。振り返ると、こそこそとなにかを言っている女子グループと一緒に、少し日に焼けた三好純が立っていた。

「どう? このカッコ」

 胸元まであった濡羽色の三つ編みはどこにもない。
 髪を耳にかけるしぐさをすると、彼女は「似合ってる」と言って笑って見せた。
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