かいがらさんちまとめ

かいがら

文字の大きさ
上 下
10 / 31
同盟ちゃんのお話

おはようと一日目

しおりを挟む
いつも通りの夢を見て、いつも通り目覚めて、いつも通りまた夢を見るのだと思っていた。
これからずっと、全ての夢を見ても尚、見続けるとさえ。
でも、いつも通り目覚めた眼前には

「……?」パチクリ

知らない猫耳が居た
と、取り敢えず、話掛けようかしら。あまり待たせるのもあれよね?えーと、なんて言おう

「……ぁ゛…」

わーお声が出ない。そりゃそうよね何日声出してなかったのかしら私

「うわっ!?喋った!!?」

目の前の猫耳がびっくりして後ろに飛び退く。失礼ねこいつ、私だって喋るわ

「こーれ、やっと見つけた第一村人何だからもうちょいさぁ…ごめんなさいねうちの猫耳が」

頭の後ろからぴょこっと小さな…何あれ、猫耳以上によくわかんないのが出てきたわね、…貝?みたいな

「それは…そうだけど、いやぁ中々にうなされてましたね少女よ、なしてこんなところ居るの?」

こんな所……そう言えばパッと見牢屋ね、ここ

「……わ…ぁ゛ら……な……ぃ」

あらとんでもない、屍人かしらねびっくりだわ、正直ここまでとは思ってませんでした私も

「……えと、…いつから」
「…まっで…す…ごし……ぇ゛え゛う゛ん゛…」
「あ、はい。了解。時間は捨てる程あるんで」

とりあえず発声練習ね…なんでこんな醜態晒さなきゃなんないのかしら

「あ゛ー…あ゛、ぁ゛…あ゛め゛ん゛ぼ゛あ゛か゛い゛な゛あ゛い゛う゛え゛お゛」
「…ぶっふ」
「お゛い゛そ゛こ゛、゛わ゛ら゛っ゛て゛ん゛じ゛ゃ゛な゛い゛わ゛よ゛」
「いやだって…ふふっ、何処の藤○竜也なの……」
「ド゛ウ゛シ゛テ゛タ゛ヨ゛ォ゛!!!!!」
「う゛っ゛さ゛い゛わ゛ね゛あ゛ん゛だ゛ら゛…」



「うえぎやいどがえおまづりだ…っと、まぁ…声は出るようになっだがしら……」
「なんか…お疲れ様。そんで、いつからこんな所に」
「ぞれがわがんないのよねぇ…気がついたらここでずっと寝てたの」
「ふーん……こいつ知ってる?」

頭の上に乗った変なのを差し出して聞いてくる

「……いやぁ…見だ事無いわね。一体何なの?ぞれ」
「レスさんでーす」

間からはみ出た触手を振って…アピールしてるのかしら

「こやつも記憶喪失だからなんか接点あるかと思ったけど…無いかぁ」
「あら、お互い大変ね…」
「いえいえ、こんなとこに幽閉されるよりかはマシっすよ」
「……そう言えばそうだったわね、ほんとどこなのかしらここ」

しっかり辺りを見渡すと、殺風景な壁に殺風景な床、そこの丁度真ん中に小さな柱が何本も経っていて、光はそれを挟んだ向かいにある扉からしか入らない。……監獄、そんな言葉が似合うような場所。そこにポツンと一人立っている猫耳と、ボロっちい布をお腹から下に掛けて座っている私。

……どうして、私はこんな所に

「…取り敢えず、一緒に来なよ。こんな所に女の子1人は危ないでしょ」
「あら…嬉しい事言ってくれるわね」

…よくこんなのを引き取る気になるわねこの子は、顔引きつって無いかしら

「でしょでしょ?よく空気読むの上手いって言われるから」
「そこの変なのに?」
「いやこいつはちょっと…」
「おい」
「でも…ごめんなさい、遠慮させて貰うわ」
「……どうして?」
「一つ、知っていることがあるの」

私は、ずっと前からここにいて。ずっとここに居たのには、理由がある。抜け出そうともせず、ひたすらに待っていた理由。

「……誰かを待っている様な気がする、何処の誰かは知らないけれど……きっと、ここに来てくれるはずだから」

「っ…でも、さっきも言ったけどここに女の子1人じゃ…」
「大丈夫よ、これまで何も起こらなかったから。きっとこれからだって、ね?」
「んぅ…みゅう、あーもう分かったよ!!私もここ拠点にしたら良いんでしょ!!はいここお家けってー!!」
「いや……貴女、正気?私が言うのも何だけどかなり住み心地悪いわよ?」
「いーいーの、こんな私よりもちっちゃい子ほっとけますかってんだい。ほら、ベッド出せ」
「へーへー、はーい場所開けてー」
「…?出すって、何処から」

すると、その変なのの口がパカッと開く。中を覗こうにも、私の体がそれを止めようと警鐘を鳴らす。
やめて、やめて!  やめて!!
でも、そう叫ぶのは体だけ、衝動は私を押し切って中へと瞳を向ける。
そこには何も無かった、光も、暗闇も、空気も、空間も。
何も無いはずのその中から二つの物が飛び出す。その体の大きさの何倍もの質量を持った寝具が
どっすん
部屋が揺れる
体に伝わる振動が、これが夢で無いことを自覚させる

「は…は……はぁ?」

思わずそんな素っ頓狂な声が漏れる。助けを求めるように横の猫耳を見ると、何も無かったかのようにベッドへ飛び込む姿が目に映った

「んー?あ、そっか見るの初めてなんだ。こう言うのだから気にしない方が良いよー」
「いや、いやいやいやいや絶対おかしいでしょこんなの!?物理的に物言いなさいよ!!?」
「大丈夫、直に慣れる」
「え、えぇ…?」

そんな感じで、私とこの猫耳…そういや名前聞いてないわね、が家に居候する事になった。にしても一瞬で寝たわねこいつら。……私も寝ましょ、こいつらが起きるまでは…良いでしょ



「あはははっ!ねぇ、お父様!ほら、お花描いたのよ!!」
「…おぉ、上手いぞ、__。将来は画家か」

…またこの夢ね。相変わらず、顔はモヤがかかって見えない。誰かの名前も聞こえない
だけど、とても、とても、心地よ

「おはようございまぁぁぁぁあす!!!!!!」

目の前に猫耳が居たわ

「お、おはよう…?えーと…」
「あ、そういやまだ名前言ってないっけ。んんっ、わたくしはシェルネ・……うん、シェルネだよ。よろしくね」
「えぇ、シェルネね、よろしく。私は……私…」

…あれ、私の名前って……

「まーた名前わかんないタイプか…よし、私が名前を付けてしんぜよう」
「…ごめんなさい、お願いするわ」
「やめといた方が良いよ(小声)」
「なんか言ったか?んー…じゃあ同盟って書かれた旗お腹に掛けてるから同盟ちゃんで」
「うん、やめときゃ良かったわ」
「でしょー?」
「おいこら名付け親だぞ貴様ら」
「それで…貴女達、これからどうするの?住むのは別に良いけども…こんな所居て楽しく無いわよ?」
「この辺の廃墟すんごい広いから、そこの探索が終わるまではしばらく同盟ちゃんを説得しよっかなって、探索終わっても響かなかったら諦めるけど…」
「……はぁ、あんた達もお人好しねぇ」
「ほんとお人好しよこいつ、私のことも連れ回しやがって楽しいぞこんにゃろ」
「そりゃ良かったわこんにゃろ。つー事で私達は外探索してくるけど…一緒に行かなぁい?」
「一緒に行かなぁい。待ってなきゃだからね」
「ちぇっ、いいもん、そのうち着いてきたくしたるからな!!行ってきます!!!」
「はーい、行ってらっしゃい」

そう言ってシェルネは檻をぬるんって抜けて行ったわ、ちょっと気持ち悪い。
全く…ふふ、こう言うのも、たまには良いわね
さてと、私はあの子達の帰りを待ちながらまた夢を…

ニシテモココスンゴイヨネー
ネーナンカオシロミターイ

…おっと、寝ましょ寝ましょ

デモマワリトンデモナイヨネー
コゲタアトミタイナノイッパイアルネー

……あー眠い、眠いわちょー眠い。途中で起こされたからちょー眠いわーはい寝ましょ寝ましょー

ン?ナンダコレケンミタイナ
コッチニモアッタヨーツイニナッテンノカナコレ

………良いから寝るの、寝るのよ私。すやー…

ア、オウカンオチテル


「ここだぁぁぁああ!!!!???」


そこからは早かった、直ぐにボロ布を振り解き、いつから歩いてないかわからない足に鞭を打って外へと駆け出す。あ、意外と足軽い。檻を潜って開きっぱなしの扉を抜けた

「んぉ?なーんだ、同盟ちゃんもやっぱり来るんじゃ…え」
「意外と寂しがりや…ぁぁあ!!???」

外に出て気になる事ばっかり言いやがった猫耳共が私の方を見て固まる

「はぁ…はぁ……え…?どうしたの?私……?」

久しく見た私の身体は



太ももから先が無かった


🚩


えー…簡単に状況を説明しましょう。
足が無かった。
で、みんなびっくり仰天で
シェルネが私の手を引こうとして触れようとしてもすり抜けちゃうの
3人ぽっち…あれを1人とカウントして良いのか分からないけど、こんなにも小さな阿鼻叫喚があるかしら。
ほら、落ち着いて。手を引かれなくても着いていくから
そんな訳で、一旦檻のある部屋に戻る事になりました

「緊急会議じゃおるぁぁぁあ!!!!」
「はいはい…もう、どうなってるのかしらこれ」
正直に言うと、私もかなりテンパってるわ。
皆あるかしら、気がついたら太ももから先が無かったこと
「えっ…ちょ、えぇえ!!?」
「落ち着いて、どーどー」
「いやだって目の前にリアル幽霊居るんだよ!?お化けだよお化け!?しかも自分でも気づいてないんでしょ!!?どゆこと!!!??」
「そんなの私が聞きたいわ…いつの間に死んでたのかしら私」
「にしてもよく今の今まで気づかなかったねぇ」
「本当にねぇ…しばらく自分の身体なんて意識してなかったから」
「感覚とかあるの?身体はすり抜けるけど…」
「一応…」
「飛べたりは?」
「しないわねぇ…」
「……よく地面に沈んでかないね」
「そこが変なのよねぇ…身体は抜けるけど足の…足のひら?だけ何故か地面に着いてるのよ。……見えないけど」
「幽霊の良い所全部潰れてるね」
「ほっときなさい」
「はぁ…気づいたら死んでるって何よぉ……いつからなのよ…」
「てかてか、今なんで飛び出して来たの?あんなに重たい雰囲気醸し出してたけど」
「あー…そう言えば言ってなかったわね、まぁサラッと説明するわ」

初めてこの事を人に喋るのは、少し緊張する
でも、不思議とこの子達には話しても良いかと思った

「これまでね、ずっと夢を見ていたの。誰かの視点で、誰かのお話を」
「誰かの…お話?」
「そ、その中で大きなお城があって、…燃えて、二振りの剣もあったわね、だから。もしかしたらここがその夢の舞台なんじゃないかと思って」
「ずっと夢見てたって傍から見ると二ー」
「しーっ!   ま、まぁ。とにかくここがその夢の中と同じ場所かもってこと?」
「そういう事ね、あんなこと言った手前あれだけど…私も着いて言って良いかしら?」
「勿論!  じゃあこれからの作戦けってー!   同盟ちゃんの夢の事の解明と勧誘、出来たら記憶を見つけよう!  っしゃ行くぞー!!」
「わー!」
「わーって何よ…」



「それで、剣って言うのは…」
「あ、これこれ。とんでもなく錆びてるけど…見覚えあるの?」
「うん、全くわかんないわ。錆びてるってレベルじゃないでしょこれ。ほぼ塊よ?」
「まぁどっかにお酢でもあれば錆も取れるかもしれないし、ほら持っとけレス」ドスドス
「待って乱暴乱暴あばばばば」
「お酢なんかで取れる代物かしらねぇ…」



「そう言えば、貴女達はどうしてこんな所に来たの?見たところ周りには廃墟しか無いけど…それに、私の所だって」
「いやーねー、話せば長くなるんだけど…」
「長いから三行で理解して」
「無理難題を強いてくるわね…頑張るけど」
「私王族
めっちゃ逃げる
この世界へ」
「えぇ、ちっとも分からなかったわ」
「だろうね」
「いやね、私別の世界でお姫様だったんだけど」
「その時点でもうやばいわね。え、私お姫様とお城の廃墟に入ろうとしてるの?どう言う状況?」
「そんでやんなったところにこいつが来てー」
「どもども」
「この世界へとやってまいりました」
「……別の世界の人ってこと?」
「いぐざくとりー」
「頭痛った…死んでるはずなのに」
「まぁそんな感じでこの世界にやってまいりました」
「同盟ちゃんはネズミ追いかけてるネコ追いかけてるシェルネ追いかけてたら見つけた」
「えげつないパーティしてるわねあんたら」
「ほんとやんなっちゃうよ、お父様とあのストーカー姉様達はよー…」
「最後の最後に見送ってくれたけどね」
「うっせっ、あんなんで今までの所業許してたまるもんですか。嬉しかったけどっ!」
「…あまり、家族に恵まれなかったの?」
「んー…お母様はとっても優しかったけどね?お父様と姉様達がまぁ酷い」
「姉様達は傍から見てても気持ち悪かった、特に下姉」
「おぉう…逃げ出したくなるってどんな家庭なのよ」
「だって明らかに私のキャパ越えたお稽古させて来よるんよあの人、ほんとふざけとるげなぁ!!」
「毎日死にそうな顔して帰ってきてたもんねぇ」
「それはそれは…ご愁傷さま」
「あ、同盟ちゃんの家族……は、そっか。記憶無いんだっけ、ごめんね?」
「良いのよ、一緒に取り戻そうとしてくれてるんだし」
「…きっと、良い家族だよ。なんの証拠も無いけどさ、優しいお母さんにかっこいいお父さんに」
「……そ、ありがと」



「にしても広いねぇ、大きいねぇ、まだお城にも入ってないのにけっこう歩いたよ」
「そうねぇ…いざ自分で歩くってなると、結構疲れる物ね」
「その足でも疲れるんだねぇ」
「一応ある事にはあるみたいだからねぇ」
「にしても…これ」
「めっちゃ崩れてるねぇ」

玄関…城門?は、日除けの為の天蓋のようなものが崩れ落ち、見る影もない程に瓦礫の山

「これはエントランスは諦めた方が良さそうねぇ」
「え、さっきから何その語尾が”ぇ”になる感じ」
「知らねぇ」
「知らないわねぇ」
「おっと、お前ら実は結構仲良しだな?」
「はーぁ、裏口探そっと、手分け手分けーあたし右ー」
「はいはーい、私左でー」
「……私は」
「上とか?」
「上!!?」
「まぁ適当にこの辺で」
「雑ねぇ…まぁ良いけど」
「そんじゃ行くぞ!!  レス隊員!!」ダダダダッ
「おーけー任せとけシェルネ隊員!!」ピョコピョコ
「あー…行っちゃった、じゃあ私も…いや瓦礫しかないじゃないここ…裏口……?あるの?」
辺りを見渡すと、
瓦礫、瓦礫、瓦礫、瓦礫瓦礫瓦礫瓦礫瓦礫瓦礫瓦礫…
「……一応見てまわる位はしましょうか」
待ってるだけなのもあれだしね
________
_____
__
いや無いわよ。
辺り一面瓦礫オブ瓦礫…まぁ知ってたけど
そもそも正面玄関の周りにあるとでも思ったのかしら、裏口ですら無いじゃないの
……はぁ、少し他の場所…さっきの道のりでも探検してきましょうか。……瓦礫しかないけど
とことことこ、うん、瓦礫、ガレキ、がれき。
空にはカモメが飛んでいて、すっかり寂れたこのお城以外にも、私が知っている物があって、少し安心した
うわっ、地面崩れてる……私も空を飛べたら良いのに
自由に、ふわーって、あの狭い牢獄から逃げ出したい…
……”あの”狭い牢獄ね。ふふ、そしたら、あの子は私を助けに来てくれた王子様なのね。思っていたのとは幾分か違うけれど、あぁ言うのも、思ったより悪くない。
あの他の世界から現れた小さな王子様と魔法の生き物が私の記憶を取り戻してくれるの、なんて素敵な絵本なのかしら。
そんな時に、お姫様が一人で取り残されるなんて
つまらないでしょう?
……柄にもなくクルクル踊っちゃったわね。流石にちょっと酔っちゃった。
にしても、中々遅いわね。調べる所もあらかた調べたし…
何をしようかしら…
……あ、これは食べられる草ね待って、何言ってるの私。そんなに飢えてたのかしら……。…暇ね
……何となく遠くを眺めると、ちょっとの違和感と潮の香り。
平和ねー、て言うかこの体でも匂いって感じるのね。
空ではさっきからカモメがにゃーにゃー鳴いている。ご飯でも探してるのかしら。確か、このお城から南に抜けた方向に海があるってどこかで見たわね…方角なんてわかんないけど、多分こっちが海なのかしら。高い建物も何も見えないし。……右も左も高い建物なんて無いわね…一体どう言う_

オーイドウメイチャーン!

おっと、私を呼ぶ小さな王子様がやってきたわね。
とりあえずドロップキックかましときましょ
「おんどりゃァあぃ!!!!」ポーン
「なにゆえにっ!!?」スカッ
「こんな瓦礫のオンパレードになんかあるとでも思ってんのかしらァ!!?わざわざ探し回ってあげたわよ15分くらいねぇ!!」スカスカ
「ごめんて謝るからその胸ぐら掴もうとするのやめてっ!!殺意が滲んでくる!!」
「はぁ…はぁ……駄目だわ全部すり抜ける。それで?何か入口的な物は見つかった?」
「うん、あっちに崩れてない扉が幾つか、取り敢えず中入ってみようよ!」
「よーし、でかしたわ。あとは…レスとか言ったかしら。あれ迎えに行かなきゃね」

…あの小ささで何かしら見つかるのかしらね


「……」
「……何やってるのよ」
「えっ?あ、丁度いい壺があったもんで入ってみたら抜け出せなくて」
「結構隙間あるようにみえるけど…」
「いや居心地的な問題で」
「居心地かー。さ、置いてこ」
「そうね、お城の中が気になるわ」
「待って、ごめん。ごめんって。置いてかないで?」


🚩


中へと入る、思ったよりも綺麗…じゃないわね、本当に陽の光入ってるのかしら…?そこは兵舎の様で、錆びてて使い物にならなそうな剣やら槍やらが沢山あって、部屋全体が土埃で汚れている

「「……思ってたのと違う」」
「まぁ…こんなものでしょう。外から見る分に、まだ潰れていない部屋があっただけ良かったわ」
「急に天井降ってきたりしないでよね…?なんか……身を守れるものが欲しい」
「身を守れる物ねぇ……ん、これなんかどう?」

そう言って、私はそこら辺に転がった一枚の大きな盾をシェルネへ手渡す。その盾も他の武装と同じく、殆どが錆びてしまって居るが、縁の一部だけ、メッキを塗ったように白く、今でも役割を果たそうとしている

「およ?なんでここだけ錆びてないの?」
「そこだけ材質が違うのよ、うーんと北の方にある科学なんてよく分からない物が発達した国で出来たプラスチックって言う素材でー」
「おー…随分と博識な事で」
「この前言った夢で知ったお話よ、本当かどうかは聞かないでちょうだい」
「ふーん?誰かの視点でーって言うあれか、それが本当だったら凄いけどなー…」
「あら、あまり信じて無いのね。案外当たってるかもしれないわよ?」
「だって人の夢の中なんて不確定も良い所だし、そもそも、夢は自分の記憶を整理する為の物でしょ?それで、誰かの視点で誰かのお話って事なら、元から知ってる事が、とてもそんな小さな身体で受け止められる様な量じゃ…」
「受け止められる量…ね、でも、それって生きてる人の話じゃない?…こんなになった私に、何か関係があるの?」
「うぐっ…ぐうの音も出ない程正論だ…」
「それにね、私は、あの夢の事、記憶の整理なんて簡単な言葉じゃ片付けられない物だと思ってるの、あんなにハッキリして……あんなに、心が揺さぶられて」
「……なんか同盟ちゃん中二病患ってない?」
「うっさい、目が覚めて体こんなので記憶飛んでたら嫌でも患うわよ」
_______
____
__
兵舎からお城の中へ入ると…兵舎ってお城と繋がってるものなの?ま、まぁ良いけど。中へはいると、左手に崩れた正門が見える。丁度あの奥みたいね。右手には大きな階段…は、また崩れてるわね、2階の廊下はまだ持ってるみたい、よく耐える子達。あと行けそうな所は…奥くらいかしら、幾らか部屋の数はあるみたいだし、虱潰しに回っていきましょ。
そんな提案をする前にシェルネ達は走って奥へ言ってしまっていた、せめて人が考えてる時間くらいは待って欲しいものよ、あの子の耐える力は2階の廊下以下ね。

「全く、しょうがないんだから」

おてんばな一人娘を持つって、こんな気分なのかしら。
案外、悪くないじゃない


🚩


走っていった方向へと、私も駆けていく。
「シェルネー?レスー、どこに行ったのー?」
走り出したのは良いのだけど、あの子足がとっても速いのね、一瞬で消えてしまったわ。
まるでかくれんぼみたいに廃城であの子を呼ぶ様は、年相応の女の子みたいね。

「…ここかしら」

一番初めに目に入った部屋は……確か、研究室。
色んな難しい資料がいっぱいで、来ていたのもこの国の研究者達や王様ばっかり。内装もあまり覚えてないけれど、場所は何となく解る

「シェルネー…?あんまり離れると迷子になるわよー」

自分でも気付かないうちに、母親みたいな語り口に変わっている。あの子達と一緒に居ると、どうも調子が狂ってしまう。それだけ、あの子達の影響を受けてるって事なのだけど…おかしいわね、まだ会って一日なのよね

「……ここには居ないかしら」

ある程度探し終えた所で、私の本来の目的を思い出す記憶を取り戻したい、あの災厄の後が知りたい。取り敢えず、そこら辺の、まだ壊れていない棚を調べる。
……割れていない瓶が幾つか、中に入った液体の色は疎らで、ほんのり光っている。一応収穫はあったかしら、さて、あの子達を探しにっ
もつれた足が薬瓶にぶつかり、中の光る液体が溢れる。
しゅわしゅわ
しゅわしゅわ
……床に穴が空いたわ…


🚩


次は……居ないとは思うけど、外から見て左の見張り塔。基本的には石造りで…うん、予想は出来てたけど階段はボロボロね。あの子が何処ぞの配管工並の壁キックをかまさないと上には行けないはずだし、ここにはもう用事は無いかしら。
踵を返して、場内へと戻ろうとすると、ふと、記憶の何処かに引っかかる物がある。
「確か…入口から右に25個、下から6番目の壁を……」

とすっ

ずごごご、ががががが

床の一部が外へ引かれて行き、中から下り階段が顔を出す。
続く道は真っ暗だけれど、崩れてはおらず、何か灯りでもあれば中を調べる事が出来そうだ。

「ほ、本当に…ここなのね、夢の中で出てきたお城って」

未だに半分疑って居たけれど、こんなピンポイントな場所に仕掛けが施されて居るなんて、ここだって言ってるような物じゃない。……まぁ、中に何があるかは覚えてないんだけど。
取り敢えず、今はあの子達を探すのが先ね。また何か灯りを手に入れたら来るわ


🚩


つい、足を運んでしまった。
場所的には…ここよね。大きな扉に、ここだけ少し廊下が広い。沢山の食事を一斉に出荷する為には、それなりに広くないと引っかかったりぶつかったり大変だものね。私は調理場の扉を開いた。
相変わらず、そこら辺一帯ボロボロだけど、何処か面影がある。大きなアイランドキッチンに、大きな冷蔵庫。……北の方の国が科学って物をを発展させて、本当に色々変わったわね。まぁ、発展する前の事を知ってる訳じゃないんだけど。

「シェルネー?あんまり出てこないと三味線にするわよー」

……出てこないか、仕方ない。一応お酢でも探しましょうか、お酢で取れるような錆でもないと思うけど……。腐ってたりしないわよね?お酢だし。
がさがさと棚と棚と棚を開けてみる、基本的になにかの異臭しかしないけど、こうして探さなきゃ何も見つからない。かなり拷問よこれ、懲役1時間と張るくらいには辛い作業をこなしていると、数枚の可愛らしい小袋を見つけた。少しだけほっこりしながらも、殆どの棚を開け終える。
……後は、ここだけね。1番きついであろう冷蔵庫。私はドアの取っ手に足を掛ける。はぁ…手が使えないって不便ね。転ばないように気をつけなきゃ、よっと
中からは思った通りの激臭がする。お酢は…あった、けど……最上段ね、て言うかなんでお酢を冷蔵庫に入れてるのよ…室温で良いわよ。
まぁ、完全な無駄足って訳では無かったわね。あの子達を探すのに戻りましょうか


🚩


廊下の奥に、手を振る猫耳の影が見えるわ。なんか…普通に見つかったわね。ダッシュで向かってラリアットをかましましょう
「どぅらっ!!!!!」ブン
「あっぶっ!!?なくはないけどびっくりするから止めてよね!?」
「あんたらぁ…私を置いてって何処で楽しく遊んできたのかしらァ…?」
「待って!!ちゃんと成果はある、ほら、板!ホラーゲームの定番!!」
「そんなかさばるもの持ってどこに行けってのよ…私の方は真っ暗な隠し部屋と…あ、お酢見つけたわ、高くて届かなかったけど」
「えっ…へー?」
「にやにやするの止めなさい、そもそも足じゃないと触れれないよこんちくしょう……でも、お酢よりも良さそうなの、見つけたわよ」
「えー?ほんと?」
「ほんとほんと、床が溶けて無くなるようなお薬」
「酸性だから溶けるとかのレベルじゃねぇ…」
「まぁそっちの方が錆が取れる可能性あるでしょ。ほら、取りに行くわよ」
「はいはーい、同盟ちゃんは色んな物見つけられてて良いなー、私なんて後は懐中電灯くらいだし」
「いや大英雄よ、取り敢えず誇っときなさい」
「あたしの槍は全てを貫く!」
「それ矛るよ、……いや何よ矛るって」
「自分で言ったんでしょ!?」
(この短時間で仲良くなったなぁ)


🚩


研究室、さっきよりも少し辺りが暗くて…早めにお風呂に入って、夜ご飯の支度をして…そんな時間に私たちはこんなカビ臭い部屋に来て棚を漁っている。

「同盟ちゃんこれー?」
「んー…暗くてなんとも、て言うか懐中電灯使いなさいよね」
「結構夜目利く方なので」
「貴女本当に猫なのね…」

そんな軽口を言い合いながら、シェルネは懐中電灯を付け、瓶を照らす。

「あー…多分、これかしら」
「おぉ!結構サクッと見つかったね」
「一応、念の為床に垂らしてみて?」
「おっけー!」

床に少しだけ、薬を零すと、さっきと比べ、一点に零した為か、深く、地面まで見える程に、薬品が床を溶かす

「……待って?」
「えぇ、幾らでも待つけど」
「これを、ぶっかけるのですか?」
「そうでしょ?」
「……見かけによらず大雑把な性格してはりますなぁ」
「あら、貴女も見かけによらず慎重派?なのね、どうせお酢なんかで溶けるような物じゃ無いんだから、溶けてなくなったらその時よ。さ、お願い」
「あぁたしがやるんですね…そっと」

言葉通りそっと薬品を一滴、盾の表面をしゅわしゅわ溶かす。意外にも、溶けたのは表面の錆だけで、盾本体の真っ白な金属が顔を出す

「さ、作戦せいこー!!」
「わーどんどんぱふぱふ」
「この調子だと剣もいけそうね、えー…レス?あの塊出してもらえるかし…」
「おっけ、はいあけまーす」

溶けた盾の表面には、小さな小さな傷があって、でも、その傷は文字と同じ形だから、きっと故意に彫られた物だと思う。
身体が火照って、なんの意味も無いであろう鼓動が早まり、頭熱くなるのを感じる。私は、そこに書いてあることを知っている。夢の中で?でも鮮明には思い出せない。何処かで、何処かで、抜け落ちた記憶が悲鳴をあげる。この名前は?この言葉は?

〖貴女の盾.アレア〗

「こ、れは…一体…」
「いよーし剣も上手いことってかかっこいいなこれ!?」
「便利なお薬、どうにか作れないかな」

シェルネ達の声が聞こえて、ふと、そっちを見る。

「貴女達…ごめんなさい、その剣」
「ん?同盟ちゃんも見たいの?はい、どーぞ」

手渡されたその二振りの剣、真っ先に鍔の裏を見る、そこにあると確信があったから。

〖貴女の剣〗〖アリア〗

1つずつ彫られたそれは、私を混乱させるのにはもってこいの物で、だけど、私は何処か落ち着いていて、寧ろ安堵すら生まれてきていて、ここが本当に夢の中であった国で、あの嫌な事の後に滅んでいて、そんな、無理やり蓋をしていた思いがこじ開けられる感覚。

「やっぱり…アリアは……この国は」

力なくしゃがみ込んだ私の目に、もう光なんて残っていないでしょうね

「…同盟、ちゃん?何か、思い出したの…?」
「いえ…やっぱり、ここは夢の中で見た国みたい。そして、この剣も、この盾も…最後を、知っている」

嫌でも声が凍てつく。嫌でも考えが凍りつく。嫌でも、嫌でも、嫌でも、この国の最後と、あの幸せだったあの子達の最後を想像してしまう。

「…同盟ちゃん、私はさ、その剣と盾の持ち主の事は全然知らない。けどさ、これまでずーっと自分一人で抱え込んじゃってた同盟ちゃんのお話を聞いて共感する事は出来るよ。嫌なら…今じゃなくたっていいけど、もし、頃合だなって、自分から話したかったら、いつだって聞くから。覚えておいてね?」
「……そ、ありがとう」


🚩


「…ここ?隠し部屋って」
「えぇ、こんな暗闇を歩いたら何回転ぶかわからなかったから、あんたが懐中電灯を拾ってて本当に良かったわ」
「いひひ、いやー穴に落っこちたり天井に襲われた甲斐があったよ」
「ほんとにそんなことがあったのね…どんだけ波乱万丈だったのよ…よく死ななかったわね」
「あたし天才だからねー、さ、進もっと」

そう言ってシェルネは懐中電灯のスイッチを入れ、暗闇の奥へと進んで行く。肝が胡座かいてるわねこいつ

「あっ、ちょっと、置いてくんじゃ無いわよー」

私も、てこてこ壁に手を付きながら階段を降りていく。何度か足を踏み外しそうになりながらも、前を行く猫耳を頼りに進んでいくと、少し広い部屋に出た。

「ん、行き止まり?」
「みたいね…お願いだから足並み揃えてよ……」
「ごめんごめん、有り余る冒険心に勝てず、つい」
「私もついノーザンライトスープレックスかましてやりましょうか……。何かあるかしら、この部屋」

この石造りの小部屋は、階段と同じく真っ暗で、シェルネがもつ懐中電灯の指す足元しか目に入らない。幽霊だったら夜目くらい効いても良いのに。

「まぁ隠し部屋だし何かしらはあるでしょうよ、…お、早速部屋の真ん中になにかある」

シェルネが懐中電灯を動かすと、確かに部屋の真ん中に何か祭壇のようなものがある。
近づいてみてみると、祭壇のようなものは中がくり抜かれており、そこには_

「…旗?」

白銀色の棒に、大きく巻かれた赤い布。懐中電灯の光が反射し、キラキラと部屋を淡く照らす。その煌めきに、思わず魅了され、手に取って広げてみると、そこには、同盟と大きく書かれていた。
そんな旗を見て、私が最初に思った事_





「…だっさ」


🚩


いやダサい、とてもとてもダサい。なんで同盟だけなの?いつ使うの?なんでこんな立派な祭壇ぽいものに安置されているの?そもそもこの旗このお城に幾つあるの?私のお布団替わりにもなってたわよね?なんでこんな立派にしたの?
ほら、シェルネ達もこっち見て固まってるじゃない。どう責任とってくれるのよこの旗は。

「はぁ…わざわざこんな隠し部屋まで作っておいてあるのが変な旗1本だなんて…そりゃあ固まるのも解るわ」
「……いや、…あの、同盟ちゃん?」
「…?何かしら」
「あの…手元をよーく見て貰えませんか」
「手元……?」

手元には相変わらずだっさい旗が握られている。
旗が握られている。
握られている……
握られて…

……握られている!?

「なっ、なんでこれ持ててるのかしら!?」
「知らないよ!?どう言う代物なのそれ!!?」
「わ、わかんないぃ、夢でもこんなの見た事ないわよぉ!?」

久しぶりに物に触れた様な気がしたとかそんなこと思おうとも思えず、辺りに軽いパニックが訪れる。本日二回目ね
一通り、やいのやいのと騒ぎ立て、やっと懐中電灯の照らす方向と共にパニックが落ち着いた。

「はぁ…この旗の謎は、私の記憶と共に解明していくって事で……」
「了解……はー、そろそろ上に戻ろっか。この旗のせいで、結構長い事居ちゃったね」
「本当よ…飛んだ疫病神ねこの旗……」
「とんでもない言われよう」
「実際そうだから良いの、さ、階段上りましょっと」


🚩


階段を上ると、隠し部屋に訪れる前と違って辺りが暗い…て言うか真っ暗ね、シェルネの持ってる懐中電灯の灯りでギリギリ足元が見えるくらい。いつの間にこんなに時間が経っていたのかしら。元々、お城の中は日の光があまり届かなかったけど……日が落ちるのって、こんなに早い物なのね。

「今日は、もう帰りましょうか」
「そうだね、もう真っ暗だし、無理して探索する必要も無いよ」

そんな訳で、私達のお城探訪の一日目が終わる。
私じゃない他の誰かに起こされて、他の誰かと道を歩いて、他の誰かと思いを共有出来て。
そんな幸せを、そんな、当たり前を、ずっと、ずっと夢見てた気がするの。
さぁ、明日もっ


「…っ危なっ!!」


シェルネが私の身を案じて飛んでくる。暗闇の中、感なのか猫耳の力なのかわからないけど、私へと、飛んでくる。
……良い、友達が出来た
でもね、


「あー…大丈夫よ、ほら」


私の手はあのだっさい旗を地面に着いていた。



うん、なんでこんな無駄にかっこいい言い回ししたのかしら。コケた所に丁度手に持ってた旗が地面に着いてセーフだっただけなんだけど、まぁ、持ってて正解だったわね。


「あぁ…さっきの旗。だっさい癖に良くやった」
「だっさい癖に、は必要ないと思うんだ私」
「ほんと、だっさい癖によくやったわ」
「ねぇ、そろそろ旗泣いちゃうって」
「にしても何に転んだのかしら…シェルネー」
「はいはーい」

シェルネが丁度私のコケた所に灯りを当てると、
そこには宝石などが一切嵌め込まれていない無機質な王冠があった。
そう、無機質な王冠が……
……はっ!

{そう言ってシェルネは檻をぬるんって抜けて行ったわ、ちょっと気持ち悪い。いや扉閉めなさいよ。
全く…ふふ、こう言うのも、たまには良いわね
さてと、私はあの子達の帰りを待ちながらまた夢を…
ニシテモココスンゴイヨネー
ネーナンカオシロミターイ
…おっと、寝ましょ寝ましょ
デモマワリトンデモナイヨネー
コゲタアトミタイナノイッパイアルネー
……あー眠い、眠いわちょー眠い。途中で起こされたからちょー眠いわーはい寝ましょ寝ましょー
ン?ナンダコレケンミタイナ
コッチニモアッタヨーツイニナッテンノカナコレ
………良いから寝るの、寝るのよ私。すやー…
”ア、オウカンオチテル”
『ここだぁぁぁああ!!!!???』}

”ア、オウカンオチテル”

……か、完全に忘れてたわ…だって足元消失してたり大変だったもの、仕方ない…仕方ないの…
そして、これはほぼ間違いなくこの国の王様の物ね。明らかに何か嵌りそうな位置がぽっかり無いんだもの、こんなおかしな王冠もこの世界に2つと無いでしょ。て言うか誰も真似しないでしょ

「と、取り敢えず…持っとく?」
「えぇ…取り敢えずね……」
「あ、あのー…同盟ちゃん?」
「はぁ…もう今日は疲れたわ、一旦戻りましょう」

気を取り直して、私達は帰路に着く。
今日は、気味悪いほど月の光が余り届かなくて、懐中電灯の明かりだけが私達の帰り道を照らす。真っ暗なのは慣れたと思ってたけど、案外、無いはずの身が強ばる。
暗闇の恐怖って言うのは、人間が元から持っている被食者の本能だなんて誰かが言っていたけれど、その話も、今は、凄く納得出来てしまう。

「…同盟ちゃん、暗いの苦手?」

真っ暗な中、もう聞き慣れてしまった声が、私の耳に届く。

「……大丈夫よ、元々明かりなんてしばらく見てなかったんだから、このくらい」

沢山の本当と、少しの強がり

「……えーと、この辺?」
「…何してるの?暗くて全然見えないけど」
「同盟ちゃんと手繋ごうかと、したっけ怖くないでしょ?」
「……触れないのに?」
「気持ちの問題!隣に誰か居るって思うとなんだか落ち着くじゃない」

久しく感じていなかった、自分の身を案じる単純な好意。
そんなちょっとした気遣いと、こんなちゃらんぽらんな猫耳が見せてくれた優しさ。
今日は月がかくれんぼしていて本当に良かった。
でなきゃ、もうとっくに真っ赤に実ったりんごみたいな顔と、
こんな気恥しさに気付かれた
しおりを挟む

処理中です...