転生してもお菓子屋さんを目指します〜私とお嬢と勇者さん

木野葛

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プロローグ

死亡事故は突然に

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 事故の確率を考えながら道を歩いている人はどれだけいるだろうか。
 当然私も仕事帰りに道を歩きながら事故のことなんか考えずに、女の子がべったり腕を組んで歩くリア充な高校生カップル爆発しねーかな、なんてすれ違った他人に悪意にもならないこと考えつつ帰路を歩いていた。
 普通に歩いていただけなのに、高校生カップルとすれ違った瞬間、ピカッと足元が光り気がつくと真っ白な空間が目の前に広がった。

 ?????

 なぁに?これ~??????

 明らかに異空間。
 なんか突然意味不明な事態に思考がまとまらない。
 ぽかーんと口を開けたままぐるぐる辺りを見渡して、ええ~?と声を上げたところで声をかけられた。

「北野さん、北野亜美さーん」
「はーい」

 病院の呼び出しみたいな呼ばれ方をされたから、咄嗟に返事を返す。
声の聞こえた方を見れば、スーツ姿で土下座した誰か。

 ええ~?????

「この度は大変申し訳ございませんでした」

 うん、何が?

「北野亜美さんは勇者召喚に巻きこれて、お亡くなりになりました」
「は?」
「勇者召喚に巻き込まれてお亡くなりになりました」
「…………あ?」

 いや、そんな死亡通告されても…。

「このような事態は神も予想しておらず…魂がこちら側に引き摺り込まれてまして、正直なところそちら側に魂を返すこともできず、転生はこちらの世界でと言うことになります」

 そう言って顔を上げたのは年齢がイマイチ分からない男性だった。中背中肉で特徴がなく、会話をしても十分後には容姿を忘れてそうな人。

「あの…状況がいまいちよくわからないのですが…」

 勇者召喚に巻き込まれて死亡ってどういうこと~?巻き込まれて一緒に召喚がよくあるパターンでしょう!

「そうですよね…分かりませんよね…」

 しみじみスーツの人は噛み締めるように言うと、まあどうぞといつのまにか設置されていた白いアンティーク調の猫脚の椅子とテーブルに誘う。

「あ、私、神の使いです」

 そう言って差し出されたのは天使と書かれた名刺。
 天使かー…。
 お茶をどうぞとティーカップには紅茶が淹れられていて、お茶請けには何故かジンジャーマンクッキーが綺麗に並べられている。

「北野さんは、ここに来る前に少年とすれ違ったと思うのですが…」

 居たな、リア充カップル。

「その彼が勇者でして…北野さんがすれ違った瞬間召喚されました」
「はあ、それでそれが私にどんな関係が?」
「すれ違ったことで、北野さんも召喚されたんですよね…その、半分だけ」
「半分だけ」
「はい、縦にこう……右半分が召喚陣の中に入ってまして…」

 そっとジンジャーマンクッキーを持ち上げると、男は縦にパキッと割った。
 わぁ、わかりやすーい。クソが。
 突然縦真っ二つになった女とか、新たな都市伝説創っちゃったな…。

「後四十年以上、北野さんは寿命があったことも問題で…」

 そっか…。割と長生きできたのか…。

「それで、お詫びとしては何ですが…こちらでいい感じに転生してもらいたいとこちらとそちらの神で話し合いまして」
「いい感じとは?」
「貴族か王族ではどうでしょう!税金使って豪遊しつつ、指先一つで使用人を動かす華やかな人生!」
「魅力に思えません。ってか豪遊って絶対途中で首が跳んじゃうルートですよね…?」
「では商家などどうでしょう!?そちら技術を持ち込んで、俺Tsueeeee!ができますよ!」
「いえ、私ただのパティシエ見習いなんで…俺つえーできるほどの技術も知識もな……ところで召喚元ってどんな世界なんですか?」
「剣と魔法のファンタジーです!」
「ラノベかな」

 ンーと唸りながら暫し考える。

「魔物とかいます?」
「います」
「いるか~」

 強力な武器…魔法…使い切れる自信なんてない。こちとらただのお菓子屋さん(見習い)だぞ。

「安全地帯が欲しいですねェ。欲を言えば、安全な寝床、綺麗なお風呂とトイレ、キッチン」

 排泄物外にぶん投げるファンタジーちょっと…ご遠慮願いたい。
 貧弱な現代日本人なので衛生インフラ美味しいご飯が無いと泣いちゃう。

「分かりました。そのようなスキルをプレゼントしましょう。後ご希望は?」
「え、良いんですか?」
「はい、よほど無理な要望でなければ」
「じゃあ、収納と鑑定で!」

 定番スキルがあればなんとか生きていけるでしょ!

「あ、あとできれば、そのネット通販できたらありがたいな、と…」

 いや、さすがに無理かな。無理だよね。
 暇潰しできるものと安全な食材を手に入れたいってのは難しいかな。

「そこら辺は善処します」

 善処かー。無理ってことでしょ…。
 
「はー、これでも二十数年頑張って成長したんだけどなぁ…」

 ため息混じりに呟きながら、ジンジャーマンクッキーを食べる。
 う、美味いじゃん…。

「申し訳ありません…それで転生先なんですが、王侯貴族が嫌なら男爵家のジャン君五歳。孤児院のエイミーさん九歳。辺境伯の屋敷で働くメイド見習いのノラさん十二歳から選べます」
「待て待て待て!転生って憑依タイプ!?生まれ変わるじゃなくて、体を乗っ取るタイプの異世界転生!??無理無理無理無理ィ!断固!拒否する!!!」
「あ、その辺は大丈夫です。本人合意は得てます。彼ら現時点で既に死亡確定してまして、残った体をそちらで言うリサイクルと言うか…」
「あの、赤ちゃんからスタートは無理ですか…?」

 さすがに赤の他人の体乗っとって人生再スタートは辛い。
 しかも詫びなのにリサイクルてどういうことですか。

「赤ちゃんに転生すると、体と魂が馴染まず死産、赤ちゃんときから北野さんの意識が残って強制赤ちゃんプレイ、ランダム転生なのでヤバい国に奴隷として生まれ変わるなどの可能性もなきにしもあらずでして…」
「乗っ取らせていただきます!」

 あまりにも転生ルートは博打過ぎる。

「ちなみに貴方に体を献上すると徳が溜まって良い家に生まれ変れると話したところ、みんな喜んで献上してくれました」
「そっかー」

 死亡確定の自分の体よりも転生後の安寧かー…。
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