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序章
基本姿勢はいのちだいじに
しおりを挟む食事が終われば、日帰りだという狩野を駅まで送っていくことになった。明日には別の県の査察に行くと告げる彼は、思ったよりもずっと忙しいのかもしれない。
その前にコンビニに寄ってくれ、という狩野のリクエストを聞いて、駅前のコンビニに駐車する。ついでに買いたいものがあるから、と作菜も車から降りる。
並んでコンビニに入ると、狩野はまっすぐコピー機に向かった。
それを横目に作菜は雑誌コーナーに行き、数あるダンジョン雑誌を眺める。パラパラと見てみるが、どれが良いのかさっぱりわからない。ダンジョン雑誌の隣にあるファッション誌の方に意識が行きつつも、どれが良いのか吟味する。
ダンジョンに関する書籍はたくさん出ている。防具や武器、歩き方、論文やちょっとした資料まで多岐にわたるが、初心者でも読めるものを選びたい。
しかし、今まで興味のなかったジャンル故にどれを選んだらいいのか迷ってしまう。
弟に聞くかな、と思いながら適当に記事を読んだがよくわからなかった。
「これ、オススメですよ」
ヒョイっと横から手が伸びて、一冊の雑誌を渡された。『月刊ダンジョン』というなんともストレートな雑誌だ。今、先端にいる冒険者!とキャッチーなんだかよくわからない文句とともに、二十代前半ほどの冒険者とは思えないスーツの似合いそうな青年が表紙を飾っている。
「ありがとうございます」
手に持っていた雑誌をラックに戻し、差し出された雑誌を受け取った。
それを購入して二人で車に戻る。駅はすぐそこだから歩いていく、という狩野のスーツケースと鳥かごを出すのを手伝いながら、この人とはまた会うんだろうな、と作菜はぼんやりと思う。
「連絡先、交換しましょうか」
荷物を出し終わると、さっとスマートフォンが差し出される。
「え?あ、はい!連絡先交換しましょう!」
ダンジョンのプロの連絡先を知れるというのはありがたい。しかし、男性と仕事以外で連絡先を交換するのは久しぶりすぎてちょっと動揺した。ダンジョンのプロとして、相談先になってあげよう程度の気遣いかもしれないけれど。
さっと連絡を交換し合い、父とも狩野は連絡先を交換する。
「それと、これを」
そういって渡されたのは、方眼紙に地図が描かれたものだった。
「ウィザー○リィ…」
名前だけは知っている古いゲーム方式。これだけで、ダンジョン攻略の過酷さを知ることができる
。
「オートマッピング機能なんてないですからねー。手書きです。手書き。ある程度攻略されたダンジョンなら地図は売ってますから、他のある程度攻略されたダンジョンに行くなら購入してください」
ありがとうございます、と地図を受け取ると、狩野はどこか軽かった口調から真剣な声色で話し始めた。
「ダンジョンでスキルが取れるのは知ってますね」
真面目な声に、作菜は素直に頷く。
ダンジョンwikiにも、書かれていたことだ。ダンジョンに潜る冒険者にとっては、常識的なことなのだろう。
「スキルを取る時に、魔法を選ぶこともできます。しかし、それよりも察知や感知系、または耐性系のスキルを先に取ってください。それが生死を分ける場合もあります。一度とれば、ダンジョンに入っているだけ察知や感知系のレベルは上がります」
ダンジョンに、現在進行形で挑んでいる人の言葉だ。
ダンジョンをクリアしたいという望みのない作菜が必要なのは、生き残れる能力になる。それを考えたら、先に敵や罠のことがわかるスキルは必須と言える。
「おすすめなスキルは?」
「害意察知、危機察知、気配感知、罠察知か罠回避はなるべく早くとった方がいいです。耐性も毒や麻痺など動けなくなるとやばいものは、なるべく早めに取る意識してください」
それだけ言うと、それではまた半年後の査察で会いましょう、と告げ狩野は去っていった。
「一先ずは、一段落したねぇ」
車の中で気が抜けたように作菜は言う。そうだな、と裕司が言葉を返す。
少し父親の雰囲気が暗いことに気がついた娘は、どう話を切り出したものかと悩む。
「悪いな」
短い言葉の中に、娘に厄介なものを押し付ける罪悪感と心配が込められている。怖いことに挑むことは分かっているし、なんで自分がと言う気持ちがないわけでもない。
「しょうがないよ」
しかし、できてしまったものは仕方がないのだ。例え祖父のワガママだとしても、ダンジョンが怖いと言う感情よりも他人が自分の土地に入ってくる方が不愉快という気持ちが上回ってる時点で、自分がダンジョンに入ると言う選択肢しかないのだ。
「まぁ、いざとなれば一階だけでちまちま魔物狩りしてればいいだけだし!」
ダンジョンの1階は、チュートリアルと言わんばかりに弱いモンスターしか出ないらしい。囲まれてボコられる心配もないため、安全にモンスター狩りができる。ただし、お金にはならない。道楽的にモンスターハントしている人も1階には多い。
典型的なダンジョンだと言っていたのだから、我が家のダンジョンもおそらくそうなのだろう。
「なんにせよ、いのちだいじに、だな」
「そーだよ。いのちだいじに、だよ」
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