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ダンジョン学校編

適性検査

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「時間は厳守してくれ」

 小野川が厳しい声で言う。
 見かけで判断するのは良くないが正直なところ、一緒にダンジョンに入ってこの二人に命を預けるとか怖いな、と作菜は思った。

「次に遅刻したら運動時間を遅刻したものに増やすぞ。わかったら適正検査を受けてもらう」

 くるりと背を向けた小野川の背中を追い、ぞろぞろとみんなで歩き出す。
 小声で神田と佐藤(推定)がこそこそと「こわぁい」「スッゲーきつそー」と言い合っているのが聞こえた。
 とりあえず、背中を預けたくないと言う気持ちが強まる。そう思ったのは作菜だけではないのか、山崎はさりげなく二人から距離をとり、東山は眉間にしわ寄せ、小川が嫌そうに二人を見る。
 作菜もさりげなく二人から距離を置きつつ、小野川の後を追った。

 西館二階の狭い部屋に、苗字ごとに入っていき視力と聴力検査をそれぞれ行う。聴力検査を行うため、静かにしていろと言う言葉通り、口を開きたそうな佐藤や神田を無視して押し黙りながらそれぞれ自分の番を待つ。
 学校で受けた視力検査と聴力検査と同じ検査を作菜も受け、小野川の指示によって次の検査を行う教室へ向かう。全員の検査が終わると運転適性検査に似たテストを受ける。
 運転適性検査の場合、性格や癖を知ることができるが、おそらくこの検査もそうなのだろうと作菜は考えながらテストに回答していく。

 最後に体育館のようなフローリングの広い空間に行き室内履きのスポーツシューズに履き替える。ここでは、学校で行う運動適性検査と同じ、立ち幅跳びや上体起こし、時間往復走や五分間走などを二人組になって行なった。
 似た体格同士のものが組むことがいいと言うため、強制的に身長の似ているゆるふわ少女と作菜が組むことになる。

「佐藤萌夢です!よろしくお願いしまぁす」

 化粧をしっかりした愛らしい顔はニコニコと人懐っこそうに微笑んでいるが、妙に違和感を感じて首を傾げそうになりながら「野上です。よろしくお願いします」と挨拶を返す。
 最初に作菜が適性検査を受ける。当然のように記憶にある学生時代よりも結果が悪い。

「え、すっごぉい!思ったより全然動けてるー」
「佐藤さんは…オブラートっていう言葉知ってます?」

 心底無邪気に言っていることがわかるのだが、大人気ないとはわかりつつグーで殴りつけたくなった。
 うわぁ…と言いたげな東山と目が合う。そんな視線をくれるならこの場所変わってくれない?と言いそうになるため、さっと視線を外しながら「次佐藤さんどうぞ」と告げる。

「はぁい。頑張りまぁす」

 人のことをとやかく言ったんだから、お前も少しはやるんだろうなァ、という殺伐とした気分で見ていると、チラリチラリとこちらを見ていた周りの人の表情も徐々に変わってくる。
 マジで?お前マジで?と言わんばかりの雰囲気だ。
 瞬発力を測る時間往復走や上体起こしなどはそこそこ良いものの、持久力を測る五分間走がひどかった。三分もしないうちにどんどん姿勢は崩れていき、最後の一分は完全にひいひい言っている。

「…短距離型ですね」
「そうなんですぅ」

 荒い息を整えながら佐藤が答えた。それを見ながら分厚い八つ橋に包んだ感想を述べ記録をつけつつ、中学校女子平均ってどれぐらいだろうと検索したくなる衝動を抑えた。
 それぞれ結果を小野川に提出すると、昼休憩となった。
 食事をとって十三時から座学が始まる。
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