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第一章

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「朝でございます。王子様本日はお兄様達にお会いする予定が入っておりますので早く起きてくださいませ。」
とサクラがカーテンを開けながらベッドに寝ている俺に話し掛ける。
俺はその声とカーテンを開けられた事によって太陽の光が窓から入って来たので目がまだ閉じているのにも関わらず眩しくて仕方ない。
布団を顔まで上げて抵抗するがサクラは俺の布団を剥がし
「ほら!千!起きろ!」
と言う。俺の顔に向かって吠えるから俺は仕方なく起きるかと思い両手を枕がある方に伸ばして丸まった背中を伸ばしながら
「おはよう・・・サクラ、俺は一応これでも王子だぞ。」
と言い身体が気持ちよく伸びたので、先程までしっかり閉じていた目を開ける為に目を掌で擦りながらサクラに言うと頭上から溜め息が聞こえて
「はぁ~、王子らしく対応したいけれども仕方ないでしょ?起きない千が悪い。ほら早く起きないと本当に遅刻するぞ!」
と布団を未だに抱きしめて離さない俺に対して力一杯に布団を引き剥がそうと引っ張る。俺は寝起きというのもあって力がそこまで入らなかったからか布団を全部取られてしまった。
「くそ~!まだ俺は眠いんだ!!」
と叫んで両手両足をバタバタ大きな白い色を基調にしたキングサイズのベッドの上で暴れる。
「眠いかもしれないけど起きて!本当に準備しないと俺が怒られるから!!」
と膨れっ面をするサクラの顔をやっと開いた目で見る。

サクラは俺の執事兼俺の相棒だ。彼は化け狐だ。
出会いは俺がこの世界に生まれて6歳を迎えた頃に村長である爺様に連れて行かれた洞窟にサクラは封印されて居た。
俺が生まれ住み暮らすこの村ではまだ小さい時に化け狐と魂の契約をする習わしがある。
その儀式は厳しくまだ生まれて間もなく弱い力しか無い者は三日三晩40度の高熱に苦しみ化け狐の魂に負ければ逆に魂を喰われて殺される。
それでもこの村で生きていくには化け狐の器にならないといけないのだ。
俺はそんな化け狐でも一番歴史が古く封印を何重にもされたサクラの器になった。俺の他にもサクラの器になろうとした奴らが居たが皆喰われて死んだ。
サクラは村の中でも一番邪悪な化け狐で有名で他の村や国を襲っては壊滅させて来たのを先祖が自分の命と引き換えに封印したらしい。
それまで平和で生きてきた俺にはそんな話を聞いてももちろん理解出来ず、村長の爺様に連れられてサクラが封印されていた一つの洞窟に連れられて器になった。

村の端にある崖に沿ってその封印の洞窟はあり、大きな穴から黒い人影がどんどん出て来ていたのを未だに覚えている。その洞窟の入り口を見て思い出したのは両親と6個歳が離れた兄の姿だった。
両親は俺が連れて行かれる事は村の掟とは言え家族は俺との最後の別れかもしれないという気持ちもあったのだろう。泣きながら強く抱きしめ、兄は俺に「負けるな」と言い頭を力強く撫でてくれた。
俺はどうして家族がそんなに泣くのか分からなかったが爺様に連れられて家族に手を振りながら連れて行かされたのである。

洞窟に着いて爺様が
「お前はこれからここの洞窟に一人で入っていき牢屋の中に居る化け狐に話掛けろ。その後はその化け狐によって器になる方法は違う。ワシはここで三日間お前の帰りを待っている、お前はこの洞窟で高熱を出して苦しむと思うが全力で化け狐を押さえこんで来い。お前が三日後にこの洞窟から出てきたらお前は器になったという事で一人前として国に認められる。だがお前が死ねばそこまでだ。いいな?」
と言われるが当時の俺には死ぬとか器とかそういう難しい単語が理解出来なく、怖さも何も感じずにただ爺様の話を聞いていた。とにかく分かった事はこの洞窟の中に入り中に居る化け狐に会えという事だった。
俺は爺様に背中を軽く押されて大きな穴から黒い人影が出てくる洞窟に一歩踏み出す。
そこはひんやりと寒く人影が俺の足に巻き付くように触ってくる。俺はそんな人影に対して足先で払いながらフラフラと洞窟の壁を片手で支えながら中に入っていく。
途中で心細く不安になり洞窟の外を見ると爺様が小さく手を振ってくれた。その姿に少し勇気を貰って俺はどんどん中に入りチラッとまた洞窟の入り口を見たら洞窟の入り口はいつの間にか見えなくなっていた。
俺は急に心細くなり入り口に居る爺様の所に戻ろうとした。すると背後から
「あー、俺への生け贄の匂いがする。」
と大きな低い声が聞こえた。俺はあまりにも大きな声と誰も居ないと思っていたのに急な声に驚いてその場に尻餅をついた。
その声が大きいせいか先程から俺の周りに居た黒い人影が一斉に入り口の方に凄い早さで逃げた。俺はブワッと黒い影が顔に掛かり背中を地面に思いっきりぶつけて痛みで泣きそうになる。すると先程まで黒い人間の影で見えていなかった木で出来た牢屋が目の前に現れた。牢屋の真ん中にはお札が貼られそのお札を牢屋に刺す為の剣があった。俺はそのお札と剣をジッと見ていると
「お前が今度の俺への献上品だな?」
と牢屋の扉一杯くらいの顔が柱から大きな金色の吊り上がった目で覗き込むようにして背中を打って泣きそうになる俺の顔を見て言った。
「俺の姿が怖いのか?泣きそうになっているでは無いか!」
と俺の姿を見て言うが俺はその声に何を言っているのかと思いながらジッとその金色の毛をフサフサし大きな黒い鼻をヒクヒクした顔を見ているとそいつは牢屋に頭をくっ付けながらまた何かを聞いてきた。
「俺がそんなに怖いのか~恐ろしいか~そうかそうか腰が抜ける程の怖さを感じているのか~もっと怖がれそして泣き叫べ!俺が怖いと恐ろしいと泣き叫べ!その叫びが俺は大好物なんだ!もっともっと泣き叫べ!!!!!!」
とグワッと大きな口に尖った歯が牢屋から見えて獣の口の臭いなのか生臭い大砲のような空気が俺の身体を吹き飛ばすようにぶつかってきた。こいつがさっき爺様が言っていた化け狐かと俺は思いながら、空気の大砲に負けないように必死に崖の尖った所を掴んで飛ばされないようにする。化け狐はそんな俺の姿が面白いのかガハハハと笑いながら俺の姿を見る。
そんな姿に俺は少し苛立ちを覚えた。怖さよりもこんなに飛ばしてこようとする目の前の化け物がムカついてきた。俺は何もしていないのに何でこんな目に遭わないといけないんだと思って吹き飛ばそうとする風に立ち向かって牢屋にジリジリと這いつくばって近づく。
背中はさっきの痛みがまだあるけれども、それに耐えながら俺はギッと牢屋の中に居る化け狐の顔を見た。洞窟には太陽の光がほんのり入ってくるだけで牢屋の入り口にいる何色もの光を放つ風船型をした人魂が二つフワフワと空中に浮いていて洞窟は薄暗いがこの光のお陰で牢屋の姿とそのすぐ傍にある物が分かる。その光に反射させられてか金色の吊り上がった目が輝く宝石のようにキラキラとしていた。
俺はそんな宝石が気になって先程の苛立ちを忘れてその宝石を両手で取れるかなと思って思いっきり触った。
ブヨンとした感触が掌に広がりキラキラした宝石の光を取ろうとするが一瞬で黒い縁と金色の毛並みが勢いよく俺の掌を挟むようにして上と下から来て俺の手を撥ね除けて宝石を隠す。それと同時に
「ギャアアアアアアアアア」
という声が洞窟に響き渡った。俺は驚いて牢屋の中を見るとガタンガタン何かが転げ回りその振動と同じリズムで洞窟が大きく揺れる。グワングワンとトランポリンのように揺れる洞窟に俺は面白くて笑った。
すると先程の大きな声が涙声になって
「よくもお前俺の目に触ったな!!」
と叫ぶ。俺は分からなかったが掌を顔の前でパチパチして笑っている俺の姿が気に食わなかったのか化け狐は吠えるようにして言ってくる。しかし俺はその声よりも宝石が消えてしまった事に気が付いて探した。
「おい!聞いているのか?」
と言うが俺は無視して金色の吊り上がった目の宝石を探すが、化け狐は先程俺が触った痛みからか片目を閉じていた為もう片方は上すぎて手が届きそうにない。
俺はもう一つの宝石に手が届かない事に気が付いて「残念」と思いながら先程の感触を確かめるように掌を見てみた。掌は少し湿っていたが汚れてたり色が付いているという事は無かった。先程のキラキラは何だったんだろうと考える。その答えは考えても出てきそうにないが気になって仕方なかった。暫く掌を見ていると頭上から声が聞こえた。
「おい、お前声が出せないのか?」
と低い声が上から降ってくる。その頃には先程のトランポリンも消えて洞窟の中は静かになって俺と化け狐の呼吸音しか聞こえない。俺は掌から目線を挙げて化け狐を見る。
「お前にさっきから話しかけているが全く反応が無いがもしやお前は耳が聞こえないのか?」
と聞いてくる。俺はまだ幼く拙い話し方で
「聞こえてるし、話せる。」
と言った。化け狐は俺の声を聞いて、ホゥと息をつきながら
「お前は俺を見て半泣き状態だったな。俺が怖いか?」
「俺は泣いてないよ。」
「いいや、泣いていた。ここに来て泣かない奴は居ないんだ。お前もそうだろう?」
「何故泣くの?」
「俺の事が怖いからだ。」
「何で怖いの?」
「俺は今まで沢山の人を殺して喰ってきた、人々は俺の姿や声そして存在に恐怖を感じて泣き叫び俺はもっともっとその声が聞きたくて暴れて沢山の人を殺してきた。だから今もこの洞窟の外では俺の存在は恐ろしい化け物として知れ渡っているだろう?」
「ツラツラ何か長いこと言われても俺分からないよ。」
「頭が悪い奴だな。だから、外では俺の事を怖がっている人が多いという話だ!」
「それでどうして俺も怖がらないといけないの?」
俺の言葉に一瞬呆れたのか未だに片目を瞑りながら訳が分からないという顔をし、すぐに気持ちを切り替えてグワッと牢屋の柱に近づいて
「俺が怖いだろう!!!!」
とまた大きな空気の大砲をぶつけて来た。俺はさっき見つけた地面に少し窪みがあったのでそこに椅子に座るようにして座ってその空気の大砲に耐えた。
暫く俺に空気をぶつけて満足したのか
「ほら、怖かっただろう?」
と言ってくる。俺は空気の大砲のせいで呼吸が出来無かったのでやっと空気が吸えてフーと溜め息をつきながら
「怖くないよ。」
と言った。そんな俺がムカつくのか
「なんだと?」
と化け狐は聞いてくる。
「俺は何個も村や国を壊し人を沢山殺してきたんだ!そんな化け物を怖がらない奴は今まで居た事が無いし俺の噂は前にここで俺の生け贄になった奴らがペラペラと話して来て皆俺に会う前から泣きながら入って来たから知っているぞ!誤魔化して怖いという気持ちにならないなんて無理だぞ!」
「噂なら知ってる。さっき爺様から聞いた。でも怖くない。」
「なんでだよ!怖がれよ!!」
「怖くないんだもん。仕方ないよ。」
「・・・・お前外で実は虐められているな?絶対虐められているだろう。」
「いじめ?」
「仲間外れにされること。友達が居ないとかあんだろ?」
「友達沢山居るよ。仲間は村の人達が仲間。いつも兄さんと友達と一緒に遊ぶのが好き。」
「いや、お前の性格だ。嫌われているのに気付いていないんだろ。」
「嫌う?なんで俺を嫌うの?どうしたら嫌うが分かるの?」
「嫌うって言うのはこう、あれだよ攻撃されることだ。攻撃されて痛い思いをしたら嫌われている証拠だ。」
「俺痛いことされてないよ。昨日も皆で一緒に鬼ごっこしたよ。」
「その時に足を引っ掛けてきたり、例えば鬼をずっとやらされたりしたか?」
「されてないよ。昨日は俺が最後まで勝って一回も鬼にならなかったよ!」
「それもそいつらがワザとお前を鬼にしないで仲間外れにしていたのでは無いか?」
「違うよ。俺の兄さんが友達の中で一番早いけれど俺はたまたま逃げられて鬼にならなかったの。兄さんもお前は早いな~て言っていたよ。俺は友達の中では兄さんの次に速いんだよ!」
「そういう話を俺は求めていない。」
「求める?」
「聞きたいという事だ。」
「何を聞きたいの?」
「だから俺の事が怖いっていう事だ!」
とグワッとまた口を開ける。俺は何度も怖くないと言っているのに同じ事を聞いてくるので会話をするのが飽きてきて、そんな会話よりも早く先程の宝石が欲しくて堪らなかった。
俺はよいしょと立ち上がると化け狐の方に歩いて行き、牢屋の中に入った。
そんな俺にビックリしたのかさっきまで牢屋の柱にくっ付けていた顔を剥がし、ズリズリという音を立てて大きな身体を洞窟の奥に下がった。
俺はそんなのをお構いなしに目の前にあった大きな湿った鼻を見た。この穴には何があるのかと思い頭を思いっきり突っ込むと
「フゴッ!!な、なに、何をしているんだ!!痛い!!」
と叫ぶ声がする。俺は穴の中に行けないかと思って奥に行こうとする。そんな俺の動きが分かったのか化け狐が俺の事を引っ張り出した。
俺はグイッと大きな手によって穴から引き出されて持ち上げられた。
洞窟の奥は広いらしく天井がさっきよりも高くあり大きな化け狐が縦に座っても余裕があるくらいの広さがあった。
俺は化け狐の黒くて尖った長い爪が五本指先に着いていて掌は俺達と違ってプニプニとその辺の野良犬のような肉球があった。俺はそんな肉球に包まれながら化け狐の顔の前に持って行かれた。
「お前は何をしているんだ?」
と聞かれる。その化け狐の顔はさっきまで片目を塞がっていたのがもう痛みが無くなったからか大きく見開かれて居て頬には長い長い髭がぴょんぴょんと生えており頭上には二つの三角の耳が着いている。耳の中はピンク色でこの中もどうなっているのか化け狐に捕まっている状況なのに気になって仕方が無い。
俺は少しそこに近づけられないかと思って身体を捩らせるが化け狐の手は力が強く硬い壁のようでビクともしない。ただ俺が動いているのが分かるのか
「逃げたいか?」
と聞いてきた。俺は身体をまだ捩らせながら
「違う。」
と答える。
「じゃあ、何故逃げようとするんだ?俺が怖いからだろ?」
「違う。」
「じゃあ何だ?」
「その耳!」
「・・・・・は?」
「その耳の中が気になる!」
と言うと化け狐は言葉を失った。そして暫くして俺を下に降ろして耳を顔にペッタリと垂らしながら
「お前俺が怖くないのか?」
と聞いてくる。俺はさっきから同じ事言っているのになと思いながら
「さっきも言った。怖くない!」
と言うと更に化け狐の顔はショボンとした。
「今回の奴は俺の話を聞いて来なかったのかな。俺が怖くない訳がないんだ。」
「この洞窟の化け狐の話なら爺様に聞いた。でもお前を見ても怖くない!」
というとグハッと言ってその場に蹲ってしまった。俺は何か変な事を言ったか?と思い何で化け狐が倒れたのか分からず、ただ化け狐が横になって涙を流しているのをジッと見ていた。化け狐は怖いと言って欲しかったのかもしれないが俺は本当に怖くないのだ。宝石が気になったり今まで見た事が無い耳や鼻の大きさの中身がどうなのか知りたかっただけなのだ。俺はその素直な感情を拙く一生懸命これ以上化け狐を落ち込ませないように言うが、俺の言葉を聞く度に化け狐はどんどん小さく丸まっていく。そして俺の言葉と共に化け狐の身体が小さく最終的には大人二人は背中に乗れるくらいの大きさになった。俺はさっきまでの迫力から大型犬のような迫力にどう反応をして良いのか分からず、ソッと化け狐の背中を撫でた。化け狐はバッと起き上がり目に涙を溢れるくらい溜めながら
「もう止めろよ。俺に同情するな!」
「同情?」
「慰めること!!」
「慰めるが分からないけれど、化け狐が悲しいってしてるから。」
「お前が傷つけたんだろ。」
「俺何もしてないよ。」
「さっきまで俺のプライドを滅茶苦茶にしただろ?」
「プライド?」
「俺の事を怖いって言わなかった。」
「は?」
「俺の事を怖いって言わなかっただろ!!」
「なんでそんなに大きな声を出すんだよ。そんなに大きな声を出しても怖くないって言ってるだろ?とてもうるさいから静かに言ってくれよ。」
そう言うとまたパタリと地面に寝転がってしまった。
俺はどうしようかと悩む。こいつが寝てしまったら器になる方法を聞けなくなる。さっきまで宝石や穴に興奮しすぎて忘れていたけれども三日間で器にならないと外に出ても一人前になれないのだ。どうしたものかと俺は胡座をかいて座り悩む。暫くそうしているとボソボソと何かが聞こえた。耳を澄まして音を聞くとその音は化け狐の方から聞こえる。
「なに?」
と俺は仕方なく聞くと、まだ泣いていたのかグジュグジュと鼻水を垂らしながら
「お前の望みは何だよ。」
と聞いてきた。俺は目を真っ赤にして泣いている化け狐を見ながらこれの器になるのは嫌だな~、高熱が出て死ぬのもなと悩んだが爺様が外で待っている。そう思うと仕方ないという溜め息をつきながら
「お前の器になりに来たんだよ。爺様にそうしろと言われたんだ。」
「そうか。俺の器にお前も来たのか。」
と溜め息を化け狐も吐く。俺はそんな化け狐の姿をジッと見ていると化け狐はゆっくりと身体を起こして俺の事を見ながら
「お前俺の事怖くないって言っただろ?そんな奴は初めてだ。皆俺を恐れる。俺はそんな声が俺の存在を認められた気がしてその声を聞きたくて沢山の人を殺したんだ。」
「それで?」
「だから、お前も怖いって言うと思ったんだ。なのに言ってくれないから、俺の気持ちがズタズタだ。」
と落ち込む化け狐を見てこのまま落ち込ませていてもキリが無いと思い
「ねぇ!」
とこの世の終わりのような顔で落ち込む化け狐に声を掛ける。
「お前の名前は何だ?」
「・・・・は?」
「だーかーら!お前の名前だよ!いつまでも化け狐とかお前とかじゃ呼びにくいだろ?名前を教えろよ!」
「・・・・ねーよ。」
俺はポカンとした。名前が無い?こんなに有名な化け狐なのに?
「俺には名前が無い。」
「なんで?」
「知らねーよ!俺は生まれてこの方ずっと皆からは化け狐って呼ばれてたんだ!」
「兄さんが器になった狐も化け狐だぞ?」
「他のは知らないが、俺はずっと皆から化け狐って言われては恐れられていたんだよ!」
「ふーん。ねぇもしかしてそれだから怖くないんじゃないのか?」
「は?」
「だってそうだろう?あちこちに化け狐が居たらどんなに怖い事をしてもどの化け狐か分からないじゃないか!」
「確かにな。じゃあ名前が付けば俺を怖がるか?」
「ごめん、それは無い。おい!落ち込むなよ!でも、俺は怖くなくても他は怖くなるかもしれないじゃないか!」
と言うとさっきまで地面にのめり込むようにして落ち込んでいた化け狐の顔がパァと明るくなった。
「それは本当か?」
と身を乗り出して聞いてくる。俺は急に態度が変わった事にビックリしながら
「あ、あぁ。それはそうだと思う。例えばどっかでお前が暴れるだろ?そうすると村人が化け狐が暴れているぞ!て言ってもどの化け狐か分からないがその時は襲われているから怖くてもその後にどの化け狐かは沢山この村には居すぎて分からないだろ?でも名前があればお前の名前を聞いて怖がる人は多くなるよな!」
「なるほどな!お前バカだと思っていたが頭良いんだな!」
と言って喜ぶ化け狐がそうだ!と言わんばかりの顔で
「それで俺の名前は何だ?」
と聞いてきた。俺は何も考えていなかったので言葉が止まると化け狐が先程までの笑顔が段々無くなってきて
「さてはお前そこまでは考えていなかったな?」
と聞いてきた。
「仕方ないだろう?俺はお前に名前があると思っていたんだから。」
「じゃあどうするんだよ!これじゃあ俺はずっと怖いと思って貰えないじゃないか!」
と今度は膨れっ面をする化け狐に俺は何か無いかと探した。ジロジロと化け狐を見て俺はこいつの特徴が無いかと探す。
すると背中の腰辺りに桜の花びらみたいな形な跡があった。
「これどうしたの?」
「あ?それか?前にやんちゃした時に出来た傷だ。気にするな。それより俺の名前は考えたのか?」
「・・・・・サクラ、サクラ、うんお前の名前は今日からサクラだ!」
「サクラ?」
「うん!」
「ふーん、サクラか。良い名前だな!よし俺の名前は今日からサクラだ!」
「良かった~決まったね~!」
「あぁ!これで俺の名前は色んな所に広まって恐怖で満ちた名前にするぞ!」
とガッツポーズをするサクラを見ながら
「ここに居たら意味なくない?」
と聞く。サクラは名前を貰って嬉しいという表情をしていたのだが俺の言葉を聞いてまた落ち込んだ。
「そうだ、俺は封印されているんだった。忘れてた。」
とその場に膝から崩れ落ちる。
「封印ってどうやったら解けるの?」
「この村の王族の血だよ。その血で剣を抜くんだ。王族の血じゃ無いと剣にも触れない、だから王族の者を呼ぶしか無いんだよ。」
「王族か~、どんな奴らなんだろう。」
「身体の何処かに番号が入っている奴らだよ。」
「身体に?」
「そう、ここの村だけでは無くて他の村にもそういう王族は存在する。ただそれは魂が選ばれてなるのであってなりたいからなれる訳じゃ無い。だから生まれた時に身体に番号が入って居ればそいつは将来王族の仲間入りって事さ。」
「番号?そういえば俺の背中に5ていう数字なら入っているぞ?」
「5?て事は今回は五人兄弟という事か?」
「いや、俺には六つ離れた兄がいるけれど五人も兄弟なんて居ないよ?」
「違う違う。お前さては勉強してないな?」
サクラの言葉にギクッとした。俺は遊ぶのは好きだが勉強は大の苦手なのだ。
俺達は毎日丘の上で歴史についてや体術を学ぶ。俺は体術は好きだが歴史はとても苦手でよく昼寝の時間にしていて先生にもよく怒られているのだ。
俺の顔を見て図星かと頭を抱えるサクラは
「よーく聞け。お前はこれからしっかりと勉強しないといけない。お前は選ばれたんだ。昔それこそまだ国が右手で数える程しかなかった時代に赤ん坊がそれぞれの国に順番に生まれた。その赤子は大きくなると国の領土を取り合おうとする大人達を見て平和の為にと行動したんだ。それでも一人一人の個々の声では集団には潰されてしまう。そんな状況を回避する為に同じ考えの人が居ないか探し回った。人によっては恥知らずと罵られる事もあったと聞く。しかしそんな心ない言葉にも立ち向かって出会ったのが後に兄弟の杯を交わし兄弟になった奴らであった。そんな兄弟達は今後自分達が居なくなった世でもお互いの事を見つけられるようにと魂に印を付けた。それが番号だ。魂は時には二つに分離する事もある。そうした時に数字は一つ増えて生まれた順に身体に番号が自然と浮き上がってくるんだ。俺を封印してきたのもその王子の中の一人だ。当時の俺は怖いという名声が欲しくて暴れまくっていたら3という数字が胸に入った男に攻撃されて戦った後にここに封印された。それから、ここに何百年に一回は数字が入った者が来るが全員俺を怖がるから面白くて喰った。」
「へぇ~じゃあ俺の事も喰うの?」
「お前俺が怖くないんだろ?そうしたら喰ってもつまらないだろ?」
「そうなんだ。ねぇそれでさ俺を器になってくれるのか?」
「器?あぁ、お前さっき器になりに来たって言ってたよな。んー悩むな俺はお前を器にするのは不安しか無い。理由はお前がバカだからだ。ただお前が王族の仲間というのも捨てがたい、この名声を借りて俺の恐怖を広げるには絶好のチャンスだ。しかしな~」
とウンウンと悩むサクラを俺は黙って見ていたがコソッと
「でも、ここから出られなかったらずっとお前の恐怖の名前は広まらないぞ?」
「っあぁ!!確かに!!しょうがない、お前を器にするしか無い。悔しいが、俺の願いはただ一つだからな!仕方ない!よし、決めた。」
とサクラは言って腹を括った表情になる。
「おい!お前の魂の中心である心臓を見せろ!」
「抉り出すのか?」
「いきなり怖いこと言うなよ!お前俺より怖いな!抉り出すんじゃなくてただ今着ている服を心臓の所まで開けろって言ってるんだ!」
と言われたので俺は大人しく着ていた服を脱いで面倒だったので上半身裸になった。
「何で、そこまで脱ぐんだよ。予想外の行動しかしないなお前。」
と呆れながらも俺の心臓の部分に手を当てると
「お前の心臓の音に俺の心音を合わせていく。そうすると俺達は少しずつ空間が二人に出来てきてお前の心臓の中に俺の魂を入れる。そうすることでお前は器になれる。いくぞ良いな。」
と言って俺の心音を黙って聞き始めた。俺はサクラの心音を聞いている訳では無いので分からないがサクラは集中しているらしく金色の吊り上がった目を閉じてゆっくり俺の心音を聞いている。さっきまで気付かなかったけれども化け狐って人間みたいに座る事が出来るんだと思って俺は見ていると何か俺達のそれぞれの身体から光る糸が見えてきた。なんだこれと思って触ろうとしたが身体がビクとも動かなくて石みたいに固まってしまっていた。俺は動かない身体を動かそうとするが無理でどんどん光の糸が俺達を包んでいく。
そして繭の中に居るように包まれると周りは小麦畑のような金色の光の糸でいっぱいになり、俺はキョロキョロとまだ動ける目玉を動かして見る。すると前に居たサクラの姿が金色の光とサクラの金色の毛が混じり合いどんどん小さくなっていく。
そしてどんどん小さくなったサクラの身体はパッと消えてしまった。
俺はビックリしてサクラが居た場所を凝視することしか出来ず固まってしまった。
サクラが消えた。
どうしよう、器にならないといけないのにサクラが消えてしまったのだ。
俺は焦ったがまだ俺の身体は動かない。
どうした物かと考えていると金色の光が段々と放つ光の強さが弱まり段々と暗くなっていく、そうして光の糸はパサッと言う音と共に地面に落ちてしまった。目の前は真っ暗の洞窟しかなくサクラの姿は一切無かった。
俺はどうしようと頭を動かすと身体がいつの間にか自由に動ける事に気が付いた。
「サクラ?サクラ?」
そう言って俺はサクラの姿を探す。ここに来たのもサクラの器になるからであってサクラが居なくなってしまっては困るのだ。
そう思って必死に探していると心臓から俺の脳に直接声が聞こえてきた。
「俺はここだ。」
その声はサクラだった。サクラの声がどうしてか俺の心臓から伝わって脳に入ってくるのだ。不思議な感覚だが俺はサクラが消えて居なくなっていない事に安心した。
「サクラ居たのか~。」
とその場に座り込むと
「さっき言っただろう?お前の心臓に入るぞって!」
と怒る声が聞こえてくる。
「そうだっけ?」
「もうお前を器にしたの間違いなんじゃ無いかと思ってきた。」
と泣き声みたいなのが聞こえてきた。
「え?器?俺サクラの器になったの?」
「だーかーら!さっき言っただろう?さっきの儀式は俺達の器の儀式!そんで俺の魂がお前の魂に融合して俺の部屋がお前の身体の中に無いから心臓借りるねって言っただろ?心臓に近い程絆は強くなれるし俺も楽なんだよ!」
「へぇ、俺達絆が強くなれるの?」
「だって、お前の王族の力を借りないと俺の名声が大きく広がらないだろ?」
「そっか~それでこれからどうすれば良いの?」
「色々言いたい事はあるが少しずつ教えていくから良いか。まずはここから出る事が先だな。俺の姿ではこの門を潜る事は出来ないがお前ならこの門を潜って外に出られる。ただ、あの剣は抜かないと駄目だ。俺の魂はお前と融合したが俺の力は封印されたままだからな、封印を解いて俺の力を取り戻さないと意味が無い。だからまず剣の刃にお前は掌を切って剣の持ち手の所を握れ。」
そう言うので俺は封印の門をよじ登って封印の紙が貼られた所に行くと大きな俺の背より何倍も大きい剣が封印の紙を刺しているのが分かった。その剣にぶら下がり何年もここにあったのに全く錆びていない刃に俺は掌を優しく当てるとスッと切れて血がゆっくりと滲んできた。少し痛いがこれくらいの血で大丈夫なのだろうか?分からないが俺はその血が付いた掌で剣の持ち手に触る。そしてギュッと握ると俺の掌の傷がズキズキとしながら剣の持ち手の白い布に吸い込まれるのが分かった。
俺の血が剣の持ち手の白い布から剣の刃にスーと伝わっていく。
俺の血はそこまで伝わって行く程流れている訳では無いのに、お札に俺の血が少しずつ剣の先から血が滲んできて少しずつお札の色が変わってきてボウッという音と共に燃えて消えた。
すると剣がユラユラし始め俺の体重と重力もあるからかいきなりガシャンと地面に剣と共に叩き落とされた。
俺は思いっきり背中を地面に打ち、落ちる時に重くて手放した剣が俺の近くで横たわっている。
「何が起きたんだ?」
と呟くと
「お前の血を使って封印を解いたんだよ。おい、横たわってないで門を開けてみろ。」
とサクラが言う。俺はそれに従って背中を擦りながら門に近づいて力一杯門を引いてみた。
ゴゴゴゴゴゴゴという音と共に門が開き始めた。
「少し離れてろ」
とサクラが言うのでサクラが良いと言うまで離れて壁の影に隠れていると
バンッと大きな音を立てて門が一気に開いた。俺はビックリして固まってしまったが、門の中から勢いよく強い風が吹いて俺は洞窟の壁にへばり付きながら耐える。暫くその強風は続き、いつまで続くんだと思った時には少しずつ風の強さが優しくなりそして止んだ。俺は強風で目を瞑ってしまっていたのでソッと目を片方ずつ開けるとそこに立っていたのは一人の男性だった。
その人は180㎝ある父よりも高く198㎝くらいある。金髪のサラサラした髪に目は金色で鼻がスッと高く小さい、そしてスタイルもスラッとしていた。
「誰?」
と聞くとその人はフッと笑ったかと思ったら
「俺だ、サクラだ。」
と言った。声は先程まで俺の心臓から脳に伝わってきた声だったが、あまりにも印象が違うので本当か?と思ったがお尻にサクラの毛並みをした尻尾が出ていたのでサクラ本人だと信じることが出来た。
サクラは何とも奇妙な格好をしていて、俺達村の者は基本フードに狐のお面が着いた白い羽織り物を着ている。俺はその下はタンクトップとハーフパンツだ。大人の人達はTシャツや長ズボンを着ている。
サクラは大人達が着ているような服を着ているが尻尾が一本フワフワと後ろで動いていた。
「何で人型なの?」
兄さんが器になった化け狐も人型では無く大型の犬くらいの大きさの狐である。
俺のサクラもそうだと思っていたから人型で現れて驚きが隠せなかった。固まって何も言えない俺の姿を見てサクラは自慢げに
「これからの俺は新しい時代を創らなくてならない、だから普通じゃつまらない。だろ?」
と聞いて来る。俺は呆れて何も言えなかった。

俺達は暫くしてから洞窟を出た。
入り口に向かうと太陽の眩しい光が俺達に向かって差し込んでくる。俺は眩しくて目を細めて見ると爺様が入り口に立っていた。俺に気が付いて手を大きく振ってくれる。
俺は手を思いっきり振った。
爺様の横には爺様の化け狐が座っていた。

やっと目が覚めてきた。
サクラが出会った頃とは違って今は執事の格好をしている。

俺もあの日サクラの器になってからサクラに小言を言われながら歴史の勉強をし、元々体術は得意だったから同い年の中では成績がトップで卒業した。
それから村と繋がりがある国同士が召集を掛けて合って身体に番号がある者は一つの国に集まり顔合わせをすることになった。
皆が集まった国は1番の番号を持っている人の国だった。
国の境目には炎の波で入る前は灼熱の暑さに負けそうになったが、門の中に入ると涼しく国の真ん中ある城を中心に人々が家を建てて町中は笑顔で溢れている栄えた国だった。
俺は狐型になったサクラに跨がって村人の数人を付き人に向かったが化け狐が珍しいのか国の皆がサクラ達を見ては食べ物を恵んでくれてサクラは行く所行く所で食べ物を食べていて最終的には俺がサクラの背から降りて引っ張って歩くようになり国の皆がその姿を見て笑っていた。
俺達は何とか城に着くと城の門の所で一人の執事が出迎えてくれた。
城の中は静かだが天井にキラキラした宝石が付いた飾りがぶら下がっていて俺達はあまりの豪華さに驚愕していた。床もピカピカで俺達の住んでいる村とは全然違いこんな床の上を土足で歩いて良いのか分からなくてサクラと二人で俺達本当にここに来ても良いのか?と相談しながら中に入って行った。
案内されている途中でここまで一緒に付いてきてくれた付き人を執事は別の人を呼んだと思ったら別室に案内されて離れ離れになってしまった。
付き人は俺達と分かれる時に小さく
「頑張れ。」
と言ってくれた。
俺達の村とは真逆なこの空間に俺とサクラだけになって心細く、付き人と一緒に行動させて欲しいと思ったがこの城の執事は
「さぁ、参りましょう。他の国の王子様達が待っていらっしゃいますよ。」
と言ってどんどん城の奥に行ってしまう。俺と人型になったサクラは途中からギュッと手をお互いに握りしめて手を繋ぎながら執事に付いていった。
執事は大きな赤い扉の前で止まった。
その扉の端には色んな模様が入っていてこの国の何かの暗号のようなそんな模様が入っている。
執事は大きな扉の模様を一生懸命その場にしゃがみ込みながら見る俺達に
「その模様が気になりますか?」
と聞いてきた。俺はチラッと執事を見ると優しく微笑みながら話す執事にコクンと頷くと
「こちらの絵文字達はこの国のおまじないなのです。この扉の向こうではよく国に対して決め事や誰かを招いては話合いをしています。そんな中でも平和に物事がスムーズに進んで円満に決まり事が決まりますようにという意味を込めて最初にこのお城を建てたご先祖様が国一番の器用な彫り師に頼み描いたと言われています。」
「へぇーそんな昔からある扉なんですね。」
「はい、こちらの部屋は特別な方しか入れません。今他の王子達もこの扉の中であなた様をお待ちしていますよ。」
「緊張するな~他の王子にこれから会うのか。」
「大丈夫ですよ。私が全員ご案内致しましたが優しい方々で以前の王子達と比べたらとても和やかな空気だと思いますよ。」
「前回?」
と俺とサクラが聞く。
「えぇ、あーでもそちらのお国の方がいらっしゃるのは初めてですが100年前に一度ここで顔合わせをした際は皆さんの性格が合わなく大変でしたよ。」
「100年!?」
と俺は驚いた。この執事100年もここで働いているのか?見た目はまだ若くでもどこか執事の世界を知り尽くした貫禄はある。
この国だけじゃなくてこの世界では殺されない限りは生き続ける事が出来るが大体500前後で老衰する奴が殆どだ。また見た目も200を超えていくと力が無い者は老いた身体になっていく。力がある物はその力のお陰で若さを保てるがそうそう目にしたことは無い。
ただこの執事は力があるのか若いままで100年以上は生きているという事である。
謎な執事に俺は色々質問をしようとしたが執事にニコッと笑われてシーと人差し指を立てながら口元に持って来て静かにしなさいというサインを出されてしまったので何も言えなくなった。

扉を開けるとそこには5人の俺と変わらない風貌の人がソファや窓の外を見たりしていた。部屋は大きくて広く何個も寝そべられそうなソファが置かれていて天井にはまたキラキラした宝石が付いた電気が着いていた。
俺は一番最後だと執事に言われていたから気まずくてどう話掛けたら良いのか分からなかったが俺に続いてこの城の王様だと思われる人が入ってきて気まずい空気が変わったので安心した。
王様は俺達の前に立つと
「皆の者、今日は遠くから遙々この国に来てくれてありがとう。こうやって100年ぶりに王子達が誕生し何百年ぶりか数字が全部集まったのは奇跡だろう。」
と言った。俺の村の王子を殺したのはサクラなのでチラッと見ると俺の目線に気が付いたのか気まずそうに下を向いた。
「今日ここに呼んだのは皆も分かっているだろうが、顔合わせと兄弟の盃を交わす話合いをして貰う為だ。」
「盃だと?」
と青髪の男が言う。
「あぁ、ここの者は全員身体に数字が刻まれ選ばれた者達なのだ。そこで今からお前らの血液が必要だ、そしてその血を混ぜた酒をお前達は満月の日に飲まなくてはいけない。」
「えー僕、血なんて飲みたくないんだけどー」
と部屋の端で何やら顔に塗りたくっている男が言う。
「今初めて会った者の血などと思うかもしれないがこれは昔からある掟なのだ。理解して欲しい。」
「仕方ないですね、嫌ですが。」
と眼鏡を掛けた男が言う。
俺は次々と話す人達の顔を見ながら黙っていた。
「おい、さっきから俺の顔を見たりしてるお前・・・・」
と紫の前髪が目まで隠している男性が俺に話しかけて来た。
「えっ?」
と急に話かけられたので驚いていると
「お前は何で何も言わないんだ?」
「だって、掟なんだろ?じゃあ仕方ないよ。」
「お前掟と言われたら何でもするのか?」
「うん。」
「死ぬと言われてもか?」
「うん。」
「そんなのは口だけだな。どうせ実際そんな事が起きたら逃げるだろ?俺はそうやって何事も良い子で過ごす奴が一番嫌いなんだ。」
とボソボソ部屋の隅に三角座りをしながら言うので俺はそれまで扉の近くに居たが前髪男の前に行って
「お前が俺を嫌いなのは仕方ないが、俺の村では掟は絶対だし。力が認められなければ化け狐に殺されるという掟も俺は小さい頃に受けて今はドアの前に居るサクラの器になったんだ。いざという時に逃げるとか怖いとかそういうのが俺は理解出来ない。」
「ふーん。でもその死ぬ確率が低いから行けるんだろ?両親も安心して送り出せる。」
「確率?」
「死ぬ方が少ないって事。」
「あー、どちらかと言うと2人に1人は死ぬぞ!俺の友達は死んだ!」
「は?・・・・・・」
「だから俺の友達はその掟で死んだんだよ。遺体は無残に喰われててほぼ無かったけれども、あの時泣いたな。」
と近くにある窓を見ながら話すと前髪男は
「怖くないのか?」
と聞いてきた。
「何が?」
「死ぬのがだよ。」
「死ぬのは怖いさ、誰でもね。でも掟ややらなくてはいけない時はそっちに考えが行ってるから分からないんだよな~。な!不思議だよな!」
と言うと前髪男は俺を見ながら固まってしまって動かなくなってしまった。どうしたのかと思っていたならさっきの青髪の男が髪を何度も掻き上げながら俺らの所に来て
「ん~感動した!お前は男の中の男だな!!こいつが兄弟になるなら俺はなろう!!そして王子としてモテモテの日々を一緒に過ごそうじゃ無いか!!なぁ!兄弟!!」
と言ってきた。俺は急になんだよと思いながらそいつを凝視した。すると前髪男が
「俺、お前の良い子ぶっているの嫌いとかさっき言ったけどこいつのナルシストみたいの方が嫌いだ。訂正する。」
とボソボソと言った。それを聞いた青髪の男は
「なーんだって?俺がイケメン?フッ知っているさ!子猫ちゃん。さっきから怯えてそこに居るんだろ?さぁ、お前も兄の胸にドーンと飛び込んでこい!!さぁ!!」
と言うと前髪男は思いっきり青髪男のお腹を蹴り飛ばした。グハッと音が聞こえて部屋の隅から隅まで飛んでいってしまったので余程腹が立ったのだなと思いながら俺は見ていた。するとさっきまで黙っていた赤髪の男がガハハハハハと笑い出した。
「お前ら最高じゃん!最初はどうなるかな~と思って黙って見てたけど、俺はこいつらなら弟にしてもいいぞ!」
「弟だと?」
と眼鏡をクイッと上げながら言う姿と対称的にまだお腹を抱えて笑う赤い髪の男。
王様は少しヒヤヒヤした顔で両方を見ていて俺はどうしたものかと思ったがもうどうにでもなれと思いながら見守っている所にドアをコンコンと叩く音がする。
王様はその音を聞いて助け船が来たかのように足早にドアを開けるとそこには白髪頭のおじいさんが腰を曲げて木で出来た杖を片手に立っていた。
王様はおじいさんの姿を見ると
「やっと来たか~!こいつらもやはり血の気が多い、今すぐにでもどうにかしてくれ。」
と言う。おじいさんはその声を黙って聞きながら
「フゴフゴ」
と言った。全員おじいさんの言葉に止まる。俺も(何だ?)と思っておじいさんを見ていると口元が動いていて、何か口の中に入れているような様子だ。
「ねぇ、なんでおじいさん何か食べながら来たの~?」
とずっと部屋の端で今度は睫を引っ張っている男がブーブーと口で言うと
「おじいさんは歯が無いからこうやってフゴフゴしているが、この国一番の医師なのだ。これから先程言ったように皆の血をこのお椀に入れて行くから、1番から順に採っていくぞ。」
と言っておじいさんを部屋の中に入れておじいさんが持って来た鞄の中から深緑色の漆が塗られて出来た掌くらいのお椀を片手に俺達に言う。少しの血で良いと思っていたから俺はビックリしていたが、一番驚いていたのは前髪男だった。
「そんなに血を採ったら俺が死ぬだろうが!!」
と怒るがおじいさんの跡から入ってきた女性達が一斉に俺達を囲む。俺は怖くてサクラの傍に行こうとするが阻まれて男達と一緒に窓に向かって一列に並べさせられた。
そして一人ずつ端から数字を確認される。人によってある場所は違うようで、赤髪の皆を弟にしてやると言っていた男は1番で鎖骨にあり、2番目は青髪の男のナルシスト野郎で腕に大きく入っていて、3番目は眼鏡をかけた男は舌に数字があった、4番目は俺に最初に突っかかってきた部屋の隅に三角座りをしている男で左足のふくらはぎにあり、5番目は俺の背中の数字、6番目はここに来てからずっと顔に何か塗りたくっている男で耳裏だった。
これで全員の数字が分かり、一番から順におじいさんが近づいていく。1番の男は半狂乱になりながら
「俺からじゃ無くても下から行けよ!!」
と泣き叫ぶが時既に遅くおじいさんは小刀を手に持つと1番の男の腕をザクッと切る。
「ギャアアアアアアアアア!!いてーーーーー!!!!」
と叫ぶのを全く気にせずにお椀に血を溜めていく。その間1番は逃げようとするが女性達がガッツリ背後や横から身体が動かないように固めているので動けずに居た。
俺達はその様子に恐怖で言葉を失っていた。
暫く血を溜めておじいさんがお椀の中身を見た後に
「フゴフゴ!」
と言うと先程まで身体をガッチリ固めていた女性達が一気に力を抜いて手を離す。1番の男は話された後床で切られた腕を上に上げながらのたうち回っていた。
俺達はさっきまで弱そうだとか思っていたおじいさんが実は最強なんじゃ無いかというくらいの圧で俺達が動いて逃げないようにチラチラと視線をこちらに向けながら見てくるのに対してやられるのをただ待つしか出来ないという地獄を味わった。

全員の血が取り終わるとおじいさんは部屋を後にし、女性達も一緒に居なくなった。
王様は
「沢山の血を採ったから暫く休むと良い。」
と言って部屋を出て行ってしまった。
俺達は皆床に転がっていた。俺もあまりにもの量を採るので気持ち悪くなってその場に転けてしまったのだ。
息を整えたくても止血用として貰ったタオルから傷口がズキズキとする痛みと鼓動を感じる。誰一人起き上がる事が出来ない中一人が急に声を出し始めた。
「お前ら酷くないか?」
と言うのは2番目の男。先程まで髪の毛をサラサラ靡かせていた男で今はグシャグシャになって床に俺達と同様に倒れている。
「何が?」
と聞くと
「とぼけるなよ!!俺の番の時にお前らが俺が逃げられないように身体を固めて爺さんと一緒に血を採っただろう!!」
と怒りだした。
(あー。)
と思って2番目の男の時を思い出す。
2番目の男の時に刃物が怖くないと言わんばかりに格好付けて腕を出したのが何故かイラッと来て床で転げ回っている1番以外が無言で2番の回りに集結し身体をガッチリ固めて押さえたのだ。しかしそれには理由があって・・・
「お前、底なしの女好きだろ。」
と4番が言う。
ウンウンと俺達は頷く。
「な!失礼な!!俺はレディーファーストの男だぞ!!女性に優しくするのが俺なんだ!」
「それとこれと関係なくない?」
と俺が言うと
「違う!!どうして俺の時だけお前らなんだよ!」
と今度は涙を溜めて言うので6番が
「だからさ~お前が女好きだからずっと女性の事を見ながら鼻の下を伸ばしてただろう。あれを見ていて女性達にお前に近づかせるわけにはいかないじゃん。」
と言うので
「「「「確かに。」」」」
と全員が言う。
「ガッデーム!!」
と言いながら2番は怒るが起き上がれないらしく力無くしてそのまま床に力尽きた。
「でもアレだったよね4番の人も酷かったよね。」
と6番が言う。
「そうか?お前よりはマシな気がする。」
と4番は俺越しで睨みながら言うので6番が何故か俺の背中に隠れるようにしてピタッとくっついてきた。俺はおおおと思いながらやられたままで居ると
「そうかな~結構きゃああって甲高い超え出してたじゃん、今みたいにボソボソじゃなくて。」
「あ?お前馬鹿にしてんのか?」
「えーバカになんてしてないよね?5番?」
と聞いてくる俺は咄嗟に
「5番じゃ無いよ。」
と言っていた。4番と6番は、は?という不思議そうな顔をして
「俺の名前は千(せん)だよ。だから5番が名前じゃ無い。」
と言うと納得したような顔をして
「そういう事ね、5番て言う数字が偽物なのかと思った~。ていうか、千って言うんだ、名前。」
と6番が言う。
「数字は本物だぞ!」
と俺の背中に未だにくっ付く6番に言うと
「そんな大きな声出さなくっても聞こえるよ。千兄さんか、良いと思うよ。俺は希生(きなり)、兄さん宜しく。」
と怪我をしていない方の手で握手を求めてきた。
「希生だな!分かった、宜しく!」
と握手を返す。そんな様子を見ていた4番がボソボソと
「俺は楓(かえで)。」
と言ってきた。俺と希生は何だか嬉しい気持ちになって
「「楓兄さん!!」」
と呼ぶと顔を真っ赤にして
「やめろ。」
と言った。俺達は面白くなって
「3番の人の名前は~?」
と聞くと眼鏡をかけ直しながら
「俺は鏡夜(きょうや)だ。」
「「「鏡夜兄さん!!!」」」
と楓兄さんと希生と一緒に言う。鏡夜兄さんはムズムズすると言って身体をサスサスした。
「俺の名前は、ふ~ん知りたいか?そう、お前らの兄であるこの俺の名前は龍次(りゅうじ)だー!!」
「「「「・・・・・・・・」」」」
龍次兄さんに対しての感情は皆同じなのかシーンとする。何だろ、初めて会ったのにこのウザイという感覚は何なんだろうか、分からない。
「因みに一番上の兄の名は新一(しんいち)だ。宜しくな!弟達。」
と赤髪がまだ痛む腕を押さえながら言って来た。
「分かった。」
と言って鏡夜兄さんは頷くと俺達の方を見て何かを言いかけようとした時に新一兄さんが
「待って?ビックリした!!俺にもそんなに冷めた感じなの?冷たくない?俺今日から兄さんだよ?ビックリなんだけど!!」
と言って泣き出したので鏡夜兄さんがすかさずに
「冷めてもいないが、ふーんとしか思わなかっただけだ!泣くな!!ったく、この後だが俺はこれからの事で兄弟としてお互いを知る為にお互いの正体を明かすべきだと思うのだがどうだろうか?」
と言った。
この世界ではお互いの正体を明かすのは弱みを握られるのと同じ事で裏切られたりして攻撃された場合自分の不利になるような戦い方をされる可能性もあるので故郷の人物以外には明かす事は禁じられているのである。
どこの国も同じなのか皆顔を見合わせて言うべきなのかそれとも言わない方が良いのか分からず先程までの煩さは無くなり静かになる。
暫くして鏡夜兄さんが口を開いた。
「分かった俺から手の内を明かすよ。俺は千里眼、具体的には俺は遠くのある一定距離の物事が見える。ただ短所としては瞬発力が無いから相手が足が速かったり敵が遠く過ぎると見えない。」
「え?短所も言うの?」
と希生が言う。
「それを言わないと信用性が無いだろ?」
「えぇー、もしかしたら兄弟にならないかもしれないのに?」
「いや数字見て全員王子なのは事実だろ?それにもう下で酒を造る準備が出来て後は造るだけみたいだぞ。」
「うぇー、マジであれ飲むのかよ。」
とうへぇと、舌をあっかんべーというようにしながら言う希生に
「まぁ、仕方ないよ。」
と俺が言うと俺の背中にまだ引っ付いている希生が俺を見ながら
「だってぇーあれを兄さん飲みたいって本気で思ってるの?」
「でも仕方ないだろ、血だって採られたし。王子として数字が入っている以上は仕方無いと思わないと逃げられそうにないしなー。」
「千兄さん諦めが早いように見えて実は結構現実的なんだね。」
「うん、俺も逃げたいけれども村の人達が許してくれないよ。」
とコソコソ話していると鏡夜兄さんが
「おい!お前らコソコソ話してないでちゃんと自分の能力について話せよ!」
と怒る。その声に驚いたのかビクッと身体を飛び上がらせた希生が
「分かったよー。そんなに怒らなくても良いのに・・・。もう!俺の能力は冬!雪を作り出す事が出来るよ!自分の水分を凍らせて相手を凍らせる事が出来る、でも短所は凍る事に夢中になると他の敵に攻撃されたら氷だから壊されたら怪我所じゃなくて死ぬ可能性が高いって事。」
と口を尖らせながら言う。言い終わった後に俺の事をチラッと見るので
「俺は化け狐一族で、妖力は水。周囲の湿度や酸素に含まれた水やそこら辺の水を操って攻撃が出来る。ただ、俺はこの能力をあまり使っていないから分からない。」
「どういう意味?」
と希生が聞く。他の兄弟達も俺の顔を不思議そうに見る。
「そのままの意味だよ。俺は基本能力を使わないんだ、体力があるからどっちかと言うと拳勝負の方が合ってたりしてて・・・後は俺には魂の契約をしている化け狐が居る。」
「化け狐だと?」
と楓兄さんが聞くので俺はサクラがずっと静かにこの部屋に入ってから隅で立っているのを指さしながら
「そのお兄さん風な人がサクラ。サクラは化け狐で俺が6歳の時にサクラの器になった。」
サクラは急に指を指された上に皆が一斉に見るからブワッと尻尾を膨らませて驚いていた。何に驚いたのかと思っていたら楓兄さんが
「基本サクラで争いとか行くのか?」
と聞いてくる。
「俺の村は小さい村だから争いが出来る程戦士の数が居ないから基本戦さはしないんだ。でも、他国が攻めてきた時は村人全員で戦うよ。基本は守りの村だからね、だから小さい子でも戦えるように化け狐の器に6歳でなって器になれなかったらその時に死ぬんだ。皆のように戦いを体験した回数はとても少ないよ。・・・・俺の村人全員基本は器になった化け狐を連れて戦いに出るから自分の能力を使用しながら戦っている人が少ないんだ。」
「千兄さんの村って凄いね、戦いに出る年齢層が6歳の子から行くんでしょ?俺の国は基本は大人になってから戦争に行くから子供は女性と一緒に国の中の安全な頃にご高齢の人達と居るよ。」
「俺の村は希生みたいに人が居ないから高齢や女性とか関係ないんだよ。そうしないと人数が足りないし、女性達の方が血の気が多い人が多いから俺達男よりも活躍が凄いぞ。」
「え?女性?」
と急に声を出したのは龍次兄さんだった。
「お前この話合いに参加してたのかよ。」
とすかさず楓兄さんがツッコミを入れる。密かに俺も新一兄さんと龍次兄さんが話しに参加して来ないから聞いていないのだと思っていたので楓兄さんの言葉に全力で頷いてしまった。
「フッ!俺のこの傷ってもしかして勲章になるのかと思っていたら急に女性と言うから俺のこの怪我を心配し、俺に惚れた女性が居るのかと思ったのさ。」
と言うので鏡夜兄さんがイラッと来たのか蹴りをみぞおちに入れて龍次兄さんはその場でジタバタとしながら苦しんだ。俺は俺自身だけでは無くて村の事を細かく話すのがどこまで話すべきなのか村の人達が聞いたら怒るかもと思うと話題を変えたくてジタバタと苦しむ龍次兄さんに
「ねぇ、龍次兄さんの能力は?」
と聞いた。龍次兄さんは苦しみながら少し上半身を持ち上げ俺達を見るように
「ゲホゲホ・・・・俺の能力は風使いさ、俺は自由だから自由に風を吹かせる。そう!女性のスカートを捲るのも俺の自由!!」
と言い出したので俺はすかさずに
「ねぇ、皆真剣に話したんだからちゃんと言ってくれる?」
と言うとグハッとしながらまたパタリと床に倒れたので、何?と思っていると
「お前、俺達の暴力よりも結構エグいな。」
と鏡夜兄さんが眼鏡を直しながら言うので
「そうかな?」
と言うと
「無自覚なのが怖いわ、この中で一番怖いかもって思えるくらい怖いわ。」
と言われた。生まれて初めてそんな事を言われたが怖いという言葉に反応したのかサクラがキラキラした顔をしていたが俺は目で落ち着けと合図を出したら唇をキュッと噛んで一生懸命顔に出ないように我慢する顔をした。
「それでお前の能力の弱点は?」
と楓兄さんが龍次兄さんを睨むように言うと
「俺?俺の弱点はそうだな、強いて言うならこのイケメンさとこの懐の広さだと思うぞ?」
と言うので楓兄さんは完全に怒ったのか殺気立って睨むので龍次兄さんは流石に良くない空気に気が付いたのかハッとした顔をしてすぐに
「俺の能力は力加減が出来ない所だ。俺が少しの力で風の能力を使ったつもりが先日は一個の軍隊を全滅させてしまった。」
「お前怖すぎるだろ!」
と新一兄さんが言う。
「さっきまで女性のスカートを捲るとか言ってたけれどもやった事ねーのかよ!!」
「それは夢のまた夢、男は夢を追うから格好良く見えるんだぜ。」
「ここの中で誰もお前の事を格好いいなんて言ってないし思っても居ないぞ。」
「フッ新一兄さん、それよりも兄さんの能力が教えてくれ。」
「チッ仕方ねーな、俺の能力は炎。この国の周りにあるように炎を操れる事が出来るただ弱点は水とこの炎を扱うのは疲れるし体力がかなり削られるから本気の戦さじゃ無いとやる気が俺は起きないし能力を使った後は疲れて暫くはグッタリしないと無理なところだな~」
「へぇ、あの国の周りの炎って新一兄さんの能力なの?」
と俺が聞くと
「そうだよ~俺の自慢の炎を保存して自動で出せるように機械で出しているんだ、だから俺は力を常には使わなくても良いんだよ。」
「へぇー、兄さんって凄いんだな。」
「そうさ、俺は凄いんだ!お前らの一番上の兄さんは凄いんだぞ!」
と威張ってくるので全員が冷たい目で兄さんの事を見た、その目線に気が付いてまた泣き始めた。
「お前らここに来てから俺と龍次に冷たくね?お兄ちゃんビックリ!」
とジタバタして言う新一兄さんの姿に皆が笑った。
今日ここに来る時までどうなるのかと思っていたけれどもこんな兄弟なら面白い関係が築けるかもしれないと思うと新しい冒険が始まった気がしてフフッと笑った。

あの日から暫く時が経過して新月の日、俺達は兄弟の盃を正式に交わした。
その日から俺の生活は一変し、盃を交わした次の日に『花の都』という所に住むことになった。花の都は六つに別れた一軒家と大きな庭があり中心は兄弟が戦の為に毎日集まっては一緒に時間を過ごしたり戦さ前の戦士への指揮を決めたりする。ただ、基本戦についてはそれぞれの国や村のお偉いさん達が行うけれども一応それぞれの国の代表として集まって戦場に一緒に出ては現場の状況を纏めてお偉いさん達に意見を言うのが俺達の役割だ。また王子という理由から色んな人達と交流を持つようになった、兄さん達は楽しそうにしていたけれども俺はあまり好きじゃ無かった。
特に女と酒を飲んだり遊んだりするのは好きじゃ無い。

サクラに起こされて目を擦りながらモソモソとベッドから起き上がる。
昨日は兄さん達が酷く荒れていて俺は端でお茶を飲みながら兄さん達の話を聞いていた。
新一兄さんと龍次兄さんは根っからの女好きなのでチヤホヤされて鼻の下を伸ばしていたが鏡夜兄さんはいつも強いお酒を飲みながら一人で戦の歴が書かれた日記を読んでは次の作戦を考える、楓兄さんは人見知りなので女の人が近づくとスススと避けては部屋の端に居る俺の傍に来る。希生は女性達とメイク?という顔の落書きについて話をするのが好きらしく
「俺は女子会するから!兄さん達は入って来ないで!」
と言っては入れてくれない。まぁ、輪の中に入っても何の話か着いていけないから入る気はさらさら無いが。
ただ、俺達はいつかは結婚という結納を交わさないといけなくて子供をつくらないといけないらしい。俺はまだそんな考えは分からないけれども、先日村に戻った際に爺様からそう言われて積極的に女性達と会話をするようにと言われた。
ただ、俺は女性があまり得意では無い。特に香水を強く付けてベッタリくっ付いて来る女は苦手でサクラも同じらしく執事として俺の傍に常に居るが鼻を摘まむのをいつも我慢している様な顔で集まりに来ていた。

「おい!千!早く起きろ!本当に遅刻するって!!」
と俺に寝間着から着替え用の服装に着替えさせようとするサクラに俺は両手をゆっくり広げながら
「着替えさせて。」
と言った。サクラは呆れた顔をして
「お前いつまで子供のままで居るんだよ!毎日言っているが着替えくらい自分でしろよ!!」
と怒るので
「口の利き方が乱暴になっているぞ~爺様に聞かれたら怒られても知らないぞ~。」
と脅す。サクラは俺が器になってから爺様に徹底的に教育を受けて敬語も含めてだが人々を安易に襲わない事についても散々朝から晩までみっちりと学ばされた為爺様の事を師匠と呼び、洞窟の中であれだけ威張っていた態度も改まって今では大分丸くなったが時々俺のワガママさに怒る時は丁寧な口調が崩れて最近は乱暴な言い方に変わる。
最近は俺が居ない時は化け狐同士でコミュニケーションを取っていてそこから学んだらしく俺自身も初めて聞く言葉遣いに最初は驚いたが段々慣れて今では爺様を盾に言い返すようになった。

「師匠を出すのは止めてください!意地悪が過ぎますよ!」
とまた急に執事モードになるサクラは面白くて仕方がない。俺はそんなサクラを揶揄うのが日課だった。
今日もいつもと同じようにサクラを揶揄いながら洋服を着替えさせて貰って、いそいそと家の中にあるリビングに行く。俺は最初ここに来てからあまりにも大きな家に一人寂しさを感じていた。
最近はメイドや料理人という人達が来ては俺の食事を作って広間の大きな机にちょこんと置いてくれる。本当は皆で囲んで食事を取りたいが新一兄さんの王様からの命令で
「格差の線引きはするように。」
と怒られたばかりである。俺は村で育ったから知らなかったがどの国でも差別という行為や考えがあるらしく、『奴隷』(どれい)と呼ばれる人達が一定数存在している。その人達は勉強はさせて貰えず生活もギリギリでよく国の端に寄って住み時々街に出ては物乞いと言う物を恵んでくれるまでずっと両手を差し出して何かを貰えないかと必死に頼んでくる。
俺はここに来てすぐの頃そういう差別について知らなくて普通に持っていたリンゴを分けてやったら、こっぴどく兄弟達から怒られ新一兄さんのお父さんである王様にも怒られた。
兄弟達が言うには
「王子の一人でもそんな恵みをするといつ何時襲われて殺されるか分からない、また一人助けても恵みを求めている人達は多く居る。その人達全員を助ける事は不可能だ。」
と言われた。確かに新一兄さんの国だけでは無くて兄弟の国に行くと様々な人達に出会い、そしてその国の掟を知る。その掟に反したり守れない者は追放されて国の端に身を寄せて隠れるようにして生きる。その場所で生まれた子も同じ親の罪を被って人生を送らなくてはいけない。
「俺はその考えが理解出来ないし、したくもない。」
と実の兄である亜廉(あれん)にそう愚痴をこぼしたことがある。
亜廉は俺の言葉に怒ることなく
「お前にとってはこの村が全てだった。それが王子として他国に行くことによって知らない世界が見えて戸惑いもあると思うが、王子として戦士を引っ張る者として時には残酷な考えを持たないといけない。お前の平和主義的な考えは良いが、相手はお前と同じ考え方では無いんだ。そこには気を付けて考えて行動しないとお前が今度は殺されてしまうよ。」
と優しく言われた。俺はその言葉は理解が出来る、戦に行く時は同じ形の者なのにどうしてこんなに戦わないといけないんだろうと思って戦に出る。ただ王子になるまでは村の掟で『自ら戦を好まず相手が来たら村を守る為に戦う事』と言われて育ったのでそこまで戦に違和感を感じなかった。亜廉兄さんは俺のこの気持ちは一時の感情だしいつかは理解が出来ると言っていたが俺には一生掛けても無理な気がする。

そう考えながら美味しい朝ご飯なのに味気なくなった料理を黙々と食べてごちそうさまをする。村だったら一人で食べないし、この料理の味もきっと美味しいに決まっている。なのに王子になったら一人で食事をしないといけない。
サクラも一緒にご飯を食べてはいけないと言われる、俺はこの生活に凄く不満だった。

サクラが俺の最後の身支度を終えると
「今日は肌寒いのでこの羽織を着てください。」
と言って俺に薄いクリーム色の羽織を着せてきた。俺はされるがままに着て玄関を出るとそこには大きな桜の木が庭に沢山並べられてある。庭をどんな風にするかとそれぞれ王子達が自分の好きなように造る事が出来て俺はサクラの名前から桜の木を沢山植えて欲しいと頼んだ。この花の都では四季が無いので俺の家だけは一年中春の季節である。
今日もいつもと同じように桜が満開で見事な姿だった。
俺はその桜を見て気持ちを切り替えて化け狐の姿になったサクラの背中に乗って兄弟が待つ中心部に向かった。

中心部はそれぞれ俺達の家の入り口には門があり、庭のイメージが分かるように俺の場合は桜の木が門に被さるようにして咲いていて他の兄弟の門にも色々その兄弟がイメージした庭の一部が飾られている。
1番上の新一兄さんは、炎をメインにした大きな鳥を飼いたかったらしく自分の能力を使って鳥の形を造って門の前に一羽。そして家の庭に沢山居る。触っても熱くなく人懐っこい子も居れば人見知りの子も居て本当の生き物のように思える。
2番目の龍次兄さんは、門自体が俺達のような木で出来ているのでは無くてピカピカの鏡のような物で出来ている。龍次兄さんだけ建物が変で全体的に洋風なのは俺と同じだが、ピカピカのガラスの壁で所々は透明の壁なのだ。兄弟揃って龍次兄さんの家に遊びに行った時にあまりにものナルシストぶりで悲鳴をつい上げて玄関付近にある龍次兄さんの上半身裸になってポーズを決めている像には異様な気でも纏っているのかと思い全員で壊そうと行動したが龍次兄さんが本気で泣いて抵抗するので心の中で舌打ちして壊すのを止めた。
3番目の鏡夜兄さんは家自体が平たい屋根の和風な家で庭もコイが泳ぐ池があったり、カコンカコンて言う岩にぶつけながら水を流す竹のシーソー(ししおどし)があって静かな時の流れを池にある水で表現していた。池の水の為なのか兄さん曰く『風情』という理由から一年中小雨が降っている。
4番目の楓兄さんは、兄さんの能力を使用してか闇猫を沢山飼っている。どんな能力で維持しているのかは教えてくれなかったが、家の中は猫だらけであちらこちらに居ては庭では日向ぼっこをしている。
俺は家は洋風だが庭は桜の木で沢山にしてピンクで愛らしい花を見るのが好きでその木々を寝転がりながら見れるようにと芝生を造った。村に居た頃と変わらないような草達に囲まれて寝ながら桜を見るのは心が落ち着く。家は興味が無くて寝れればと思っていたがサクラが横からこういう部屋が欲しいだのトイレは洋式にしてくれだの口出しをするので全部任せたらお城みたいな大きな家になって中は2階建ての家になった。引っ越した時には家を見てあまりにもの大きさに驚いたが兄弟達はそれよりもどうして家と庭が一致していないのかと聞かれてそれぞれの好だと答えるとお前らしいと言われてそれ以上は何も言われずに皆綺麗な桜を見ては酒を飲もうと言い出して宴会を開く羽目になった。
6番目の希生の家は色とりどりの家で壁が原色の黄色だったり屋根がピンクだったり柱が水色だったりおもちゃの家みたいだった。
設計は全て希生がしたらしくトイレまで色つきだったので兄全員で
「これは無い。落ち着かない」
と話していた。キッチンもハートがあちらこちらに描かれていて女の子が好きそうな場所だった。庭もうさぎや猫、犬やハート型に葉が切られた木々が置かれていて門からはハートの石が玄関まで繋がっていた。
俺達はその石をズカズカと踏みながら入ったら希生に
「兄さん達は体重が重いから避けて入って!!」
と怒られた。理不尽な怒り方をされても弟だから仕方ないと最初は楓兄さんも希生に突っかかっていたが盃を交わしてからはそんな態度が無くなり俺自身も自然とそういう気持ちになるようになった。
爺様曰くそれは盃を交わしたことで血の結びが出来て本当の兄弟のようになったのだと言われた。これからも一緒に過ごしていけば家族のようになると言われて俺は納得した。

俺は門を潜ると中心部に着いた。
今日も門の所には庭にあるような立派な桜が立っている。
(今日も綺麗だ)
と思いながらサクラの背中に乗りながら中心部にある建物に向かうと一人の人が俺の門にある桜を見上げていた。俺は咄嗟にサクラに止まるように命じる。
さっきまで静かだった俺が急にサクラに止まってと言ったもんだから急ブレーキをかけて止まってくれたサクラは少し怒り気味で
「何ですか?忘れ物ですか?」
と聞いてきた。しかし、俺はそんなサクラに答えること無く門の近くに居る人に話掛けた。
「あんた、誰?」
そう聞くと透き通った水色の着物を着た白髪の若い男が俺の方を見た。
見た目は色白で線が細い、俺より年上なのかでも見た目が余りにも儚い体格に俺の体格が全然違うことを知る。
俺の問いに小さい桜のような口を開いて
「あまりにも桜の木が立派でしたので。」
と答えた。その声は優しく耳に残る程の気持ちよさを感じさせる。俺はそんな人に初めてここで出会ったので
「ここは王子が居ても良い場所だけれど、どっか迷って来ちゃったの?」
と聞いた。
花の都は王子の執事やそれぞれの国の王様や俺の爺様が選んでくれた雇われしか出入りが出来ず、一応雇われの人達の為の街への門があるが時々それを知らないや道に迷って来てしまった人も居るので俺は驚かないし兄弟は特に気にしないが他の警備している者が見つけた場合は処罰の対象とされて下手をすると死刑にされてしまう。
ただ、道を間違えたのに死刑にされるなんてと俺も思ったが花の都は守られる場所であるという掟から俺の国の人達も兄弟の国の人達も皆それは知っている、それなのにどうしてこの人はここに居るのだろうか危険と分かっている場所に間違えてきたのか俺達を殺しに来たのかどちらなのかと俺は考えながらその人の目を見ながら聞く。
その人は俺の目線をジッと見返しながら
「この土地に入ったのはたまたまでございます。新しく土地が加わりましたのでその挨拶にと王様達にご挨拶をしておりましたら、王子様という方達が居ると耳にしましたので挨拶をするべきだと思い歩いておりましたらこの門が開いていたのでこちらでは?と思い潜った所このような素敵な桜がありましたので見惚れておりました。」
とホウと頬を赤く染めるように桜を眺めながらその人は言う。
「そう。新しい土地ってこの間の戦で奴隷のように扱われてた所?」
と聞くと
「そうでございます。私の村は小さくあの世とこの世の狭間の場所で、村人達は妖怪の集まり皆退治されそうになったり居場所を無くした者の集まりで出来た村でございます。」
「へぇーそんな村があったなんて知らなかった。妖怪ってサクラみたいなの?」
と化け狐姿のサクラを指さして聞くと
「化け狐さんはいらっしゃいませんが海坊主さんや一反木綿さんがいらっしゃいますよ。後お豆腐屋さんの目玉おやじさんもいらっしゃいます。」
と柔やかに話す仕草は綺麗な花のように見えた。俺はこんな人がもし他の者に見つかって死刑でもされたらと思って
「王子は俺。他にも兄弟が居るから挨拶したかったら一緒に来て。一人でここをウロウロしてたら警備の人達に見つかって殺されちゃう。」
とその人の小さく細い指をした手を掴む。その手はヒンヤリと冷たく俺のゴツゴツした手では力加減を考えないと壊れてしまうような初めての感覚に戸惑いながらその手を掴んで歩こうとすると
「そうなのですね、知りませんでした。すみません。」
とションボリしてその場に立ち尽くしてしまった。俺は立ち尽くしたのに気付かずに引っ張ってしまったので痛い思いをさせてしまったかもと思ってすぐに手を離して
「ごめん!痛かった?」
と聞くと
「え?」
と聞き返された。
その時風が吹いて桜の花びら舞いその人の白髪の長い髪に絡んだ。
髪に絡まる花びらはまるで川に流れていく桜の花びらのように見えて髪が舞っていく姿も美しく感じた。
俺は初めての感情に心惹かれて見ているとその人が髪を手で整えながら
「すみません、風が強くて聞こえなくて。」
と言う。その姿が一層儚く美しい、俺は顔が熱くなるのを感じながら
「あ、ごめん。強く握りすぎたから痛めたかなと思っただけ。」
と言うと
「ご心配ありがとうございます。」
と言って口元に手を当てながら静かに肩を揺らしながら笑う。
その笑い方が、鈴が入った鞠が転がって中の鈴がコロコロと音を鳴らすようでますます俺は釘付けになった。
「ねぇ、あんた名前は?」
とつい口に出して聞いた。何も考えずにこの人を知りたいと思った。真っ白になった頭は働かない、ただ口が動いて声が出ていた。俺が今手を下げているのか足が地面に着いているのかも感覚が無くてどこか夢の中に居るような気がした。

「私の名前は好実四葉(このみ よつは)です。」
鈴のような声が風と共に俺の耳に届いた。
俺はボーとしながらサクラと四葉さんと一緒に中心部の建物に入る。いつものようにヒンヤリとした白い城の中に入る。
城の中に暫く入ると用事であると通行証を持った商人や王子に商品という名の武器や服などにブランド名を付けて欲しくて契約しに来る人が城の中ではごった返す。中にはその人に紛れ込んで物乞いの者も居る。俺はその人達をスルスルと避けながら四葉さんの小さくて細い手を握りしめながら王子が集まる所に行く。
四葉さんは俺に黙って着いてくる、俺は少し早歩きかもしれないと思いながら兄さん達に少しでも早くこの感情が何かを助けて欲しくて向かった。

王子の間に着くと俺は背(178㎝)を余裕で潜れる高さの扉を思いっきり開ける。
四葉さんの背もそれなりに高く俺より4㎝程低いので余裕で通れるだろうと考えながら扉の中に入る。
中に入ると部屋の中は2階立てのフロアが広がっていて一階は部屋が3つに繋ぐ扉と大きくて寝そべられる位の大きさの紺色のソファが4個、使われていない暖炉があり扉のすぐ左手にはカウンター付きのキッチンに冷蔵庫がある。2階の階段は扉から真っ直ぐ歩くと一番階下に届き赤いカーペットが敷かれ上に上がるとまた部屋が3つに繋ぐ扉がある。
上の階は弟三人組ので下の階は兄組である。
「兄さんおはよう。」
とソファで寝ながらローラーという名の小顔美顔器という最近希生が使っている道具をコロコロと顔にローラーのタイヤ部分を当てて転がして扉を潜って入ってきた俺に話掛ける。
「おはよう、なぁ兄さん達は?」
「今それぞれの部屋に入っているよ、何でも二日酔いだって。バカみたい。」
と言う弟の希生はチラッと横を見て四葉さんの姿を見ると
「その人誰?」
と聞いてくる。四葉さんが何かを言いかけようとしたけれども俺が遮るようにして
「さっき会った人で四葉さん。」
と言った。すると大きな声で
「兄さーーーん!!千兄さんが彼女連れて来たーーーー!!!!!!!」
と叫んだ。その数秒も経たないうちに1階の兄さん達の部屋と2階の楓兄さんの部屋からバタバタと慌てる音がする。サクラが近くにソッと立って四葉さんを守るようにして立つ。俺より高いサクラ(198㎝弱)にすっぽり隠れる四葉さんに音の大きさに不安になってサクラの顔を見上げると大丈夫という顔で見つめ返して来た。
暫くバタバタという音が聞こえた後にバン!という音が聞こえて扉が勢いよく開かれる。そのタイミングは4人とも同じでそして出てきた姿も一緒で扉を勢いよく開いたのは良いものの体調がとても悪いのか真っ青な顔をして扉にもたれかかりながら
「「「「千がなんだって?」」」」
と聞いてきた。俺はその姿に額に手を当てながら溜め息を着いた。その姿にハハハと笑う希生が
「そんで千兄さんは何でまた知らない男を拾って来たの?」
と聞いてくる。扉からと階段をヨロヨロとしながら近づいてくるゾンビのような兄達を余所に俺は希生に
「拾ってはいないさ。ただここに来たいって言っていたから連れて来ただけだよ。」
と未だに繋がったままの手に少し力を入れて話す。
兄さん達は俺の隣に立って居る四葉さんをサクラ越しで覗き込もうとするので、見られたら何か四葉さんが減りそうな気がして見られないようにしていると
「千、邪魔!」
と新一兄さんに退けられてフラフラの楓兄さんが俺の身体をガッチリと掴んだ。
俺は抵抗したくても酒臭い臭いで上手く力が入らず黙って捕まられていた。
新一兄さんと龍次兄さんと鏡夜兄さんが四葉さんに近づいてまじまじと見る。
「へぇー凄い美人さんじゃねーか。」
と新一兄さんが言うと他2人もウンウンと頷く楓兄さんを突き飛ばし
「もう良いだろ!!」
と言って四葉さんの前に立ち塞がるとサクラも同じように立ち塞がった。
「いてて・・・何でサクラも千と同じように隠すんだよ!」
と楓兄さんに言われるサクラが
「何となくそうしなくてはと思ってしまって、きっと千の行動が無意識に魂の繋がりで行動してしまうのかもしれません。すみません。」
と謝りながらそれでもサクラは俺と同様に四葉さんの前から動かなかった。
それを見かねたのか四葉さんが俺達の肩と背中をそれぞれポンポンと優しく叩くので振り返ると
「大丈夫ですよ、私は取って食われたりしませんよ。」
と微笑んで言ってくる。俺はその微笑みで少し安堵し場所を四葉さんと入れ替わると俺とサクラの前に立ってこちらに注目している兄弟達に礼をした。
「お初にお目に掛かります、好実四葉です。本日参りましたのは先日の戦で領土がこちらに加わりましたので、村の代表として挨拶に参った次第です。」
「どんな村なの?」
と希生が聞く、四葉さんは頭を下げていたのを上げて姿勢を戻すと優しく
「行き場を失った妖怪が集まる小さな小さな村です。」
「そうなんだ、それであんたはその村で何なの?」
と今度は楓兄さんが言う、キツイ言い方に少しムッとしたがそんな失礼な質問にも柔やかに
「私はそこで龍神をしております。」
「「「「「「「龍神!?」」」」」」
と俺も一緒になって驚いた。皆が何でお前も驚いているのかと目線で言ってくるが俺はそれよりもこの人が神様という事に驚いた。
「えぇ、私は龍神です。今は人の身体の形をしておりますが、夜だけ龍の姿になります。」
と四葉さんが言うと俺達は部屋の隅で円陣を組みながら新一兄さんが
「おい千!龍神様なんて初めてなんだけどどういう事?」
「知らないよ!俺だってさっき会ったばかりだもん!ていうか龍神様が来るなんてどうして千里眼で見えなかったの?」
「今日の俺は体調が悪いんだ、仕方ないだろ?ていうか希生もローラーなんかしていないである程度聞いとけよ。」
「だって~。千兄さんがそんな神様なんて連れてくるなんて思わないじゃん。」
「確かに。千にしては珍しい拾いものをしたな!さすが俺の弟だぞ!」
「龍次兄さん、本当に殴るよ?男からのウィンクなんてきたねーもんだろ。マジで千が可哀想だから止めてくれる?」
「楓兄さん言い過ぎだよ!まぁ僕も龍次兄さんからのウィンクはお断りだけど。」
とヒソヒソ話で話す。
「でもさ、本当に龍神様だから俺凄く守らなきゃって思うのかな?」
と言うとピタリと兄弟達の会話が止まる。
「おい、千どういう事だ?」
と鏡夜兄さんが眼鏡をクイッと戻しながら言う。
「だからさ、さっき桜の花びらに舞う四葉さんの姿を見たらこうさ目が釘付けになるというか時が止まった気がしてさ。俺それから変なんだよね、なんかフワフワしてて夢心地というかやっぱり龍神様だからあれなのかな?そういう癒やしみたいなのがあるのかな?」
と言うと兄弟俺以外全員が呆れたという顔で俺の顔を見る。
「なんだよ!!」
とムキになって言うと
「兄ちゃんビックリなんだけれどさ、千って初恋まだ?」
と新一兄さんが聞いてくる。他の兄弟も新一兄さんと同じ表情で見てくるので
「何?初恋?」
と聞き返すと皆が揃って深い溜め息を吐いた。俺はそんな兄弟達に何だよと言いながら話掛けても無駄だと言わんばかりに相手にしてくれなかった。
四葉さんは
「挨拶も済ましましたし、これ以上ここに居りましたら皆様のお仕事の邪魔になってしまうと思いますので。」
と言って扉を開けて帰ろうとしたので咄嗟に俺は四葉さんの後を追いかるように扉を開けて廊下に出た。
その扉が閉まるか閉まらないか位の時に
「恋だね」
と兄弟達が言っていたのを聞こえた気がした。

「あの、龍神様」
と足早に去ろうとする四葉さんに声を掛ける。すると四葉さんの足が止まり
「私の正体を知っても出来れば四葉と呼んで頂けませんか?」
「え?」
「私は皆さんが思うような立派な神ではありません。なのでどうか好実四葉として接して頂けたらと思うのですが。」
「わ、分かった。四葉さんがそう言うなら俺これからも四葉さんって呼ぶ。俺の名前は千。だから千って呼んで欲しい。」
「千さんですか?」
「呼び捨てで良い。俺も兄さん達と違って王子っていう感じでも無いし、どっちかというと村育ちだからか考え方が違ってて戸惑っている感じだし・・・」
とモゴモゴ言う俺を微笑みながら
「そうでしたか。それなら私達は同じ村出身という事で仲良しになれそうですね!」
と言う。俺はまた顔が熱くなって額に運動もしていないのに変な汗をかきながら
「うん。じゃあ今度四葉さんの村に行っても良い?」
と聞く。俺の心臓は何故か破裂しそうなくらいに動き耳の奥までその心音が伝わる。
「えぇ!もちろん!きっと千のような方がいらしたら村人達も子供達も喜びますよ。」
と言って帰ってしまった。
俺は四葉さんが去った後もそのまま動けずにずっと四葉さんが最後に角を曲がる時に手を振ってくれた場所に向かって1人でずっと手を振り続けていた。

俺が放心状態になりながら王子の間に戻ると皆で話合いが行われていた。
俺はもしかして戦の話合いか?と思って輪に加わる。机の上にあった白い紙には『千の恋が叶うかどうかについて』と書かれていた。
叶うには100円、叶わないに1000円掛けられていた。どういう事だよと俺は抗議したくても恋という事が分からないので何も言えなくなってしまう。兄弟達は俺の反応を気にせずにお互いにどちらにお金を掛けるかについて話合いが行われた。

なんとか今日一日の王子としてやらなくてはいけない仕事が終わって俺は朝見た四葉さんの事が気になってサクラに頼んで四葉さんの村まで足を運んだ。
俺も鼻が効く方だがサクラの方が何倍も鼻が効くので朝嗅いだ匂いを元に探して貰う。
すると一軒のお店の前でサクラの足が止まった。そのお店は薬の臭いが立ち込めていて玄関扉が引き戸になっていて玄関のガラス窓から中が見えた。
俺はサクラの背中から降りるとその扉から中を覗く、中はそれぞれの引き戸があって戸の上には薄茶色の年期が入って居るのかシールが白だった物が端が擦れ角が破れているのが見える。その天井には丸電球がポツンと付いていてそこに人の気配は感じられなかった。
夕飯の時刻を過ぎた今頃にいきなり伺っても良い物かと思いながら俺はドアを開けようか悩んでいたが人型になったサクラが
「ここまで来て悩んでいないで開けたらどうです?」
と言われて勇気を出して引き戸を開けるとガラガラと大きな何かボールを転がした音が聞こえる。俺はその音が大きくてソッと開けるべきなのか音を立てて開けても良いのか分からなくてガラと開けてはそっと扉に掛けていた手を離すという動作を繰り返した。
そんな俺の行動を見かねたのかサクラが
「全く!」
と言ってドアをガラガラと思いっきり開けて
「四葉さーん!」
と玄関扉から中に向かって叫んだ。
玄関扉を開けるとすぐ部屋に繋がる床があって机と売り上げ表と書かれた冊子が置いてありその横にはそろばんが置いてあった。また水色の籠が壁からぶら下がっていて、中にはそれなりにお金が入っていてそのまま剥き出しにお金が置かれていることにギョッとした。そして部屋に上がる所に襖があってサクラの声に応じてかソッと襖が開かれる。
そこに立って居たのは四葉さんだった。朝とは違って灰色と白を基調とした着物を着ている。髪は後ろで一つに結ってあって結び目が上にあるからか一見男性では無くて女性に見えた。俺はその姿にまたボウッと顔が熱くなって
「さ、さ、さっき村に行っても良いって言ってたから。」
と何度もつっかえながら話すと四葉さんは突然の訪問にも嫌な顔せずに最初はキョトンとしていた顔が一気に笑顔になり
「よく来てくれましたね!どうぞどうぞ、部屋は狭いですが上がってくださいな。」
と言って部屋に上げてくれた。
その部屋は畳の部屋だが狭く大人が4人入ると一杯になる程の狭さでキッチンは木が台で少し下の方がカビが生えたのか黒く滲んでいる。キッチンは俺の故郷である村の家と同じような大きさで襖を開けて右側には大人一人分の広さの廊下があった。
俺とサクラが上がるとサクラは思いっきり天井に頭をぶつけて
「イテェ!!」
と叫んだ。俺は脇腹を叩いて
(しっかりしろ!!)
と言うがその声に四葉さんは
「大丈夫ですか?怪我していませんか?」
と言って傍によって怪我が無いか気にしていた。俺はそれを見て良いなと思い
「サクラずるいぞ。」
と言うとサクラはニヤッと笑いながら俺を見た。まさか天井にぶつけたのはわざとなのか?と問い詰めたくなったが、さすがに俺も人の家で急にお邪魔しているのに喧嘩をする事は出来ないと思ってグッと堪えた。

部屋に上がってから四葉さんが大皿に沢山盛り付けた里芋やきんぴらごぼう、また炊き込みご飯をよそってくれた。俺達が来る事を伝えていないのにご飯がこんなにあるなんてもしかして四葉さんのご飯を奪おうとしてしまっているのか?と思って聞くと、次の日にも食べられる用に薪の節約で作り置きをしていると言われて半ば安心した。ただその心配よりも勝る程にご飯が美味しくて沢山食べて俺は久しぶりに『ご飯』という物を食べた気がした。俺はどんどん駆け込んで食べるので途中食道につっかえて苦しんだが、そんな様子も笑いながら対応してくれる四葉さんに王子になってから久しぶりに一緒にご飯を食べたサクラとの食事の時間はとても楽しくて一口一口進む毎にこの時間の終わりが無くなれば良いと思った。
それでも物事には始まりがあれば必ず終わりは来る物であれだけ沢山あったご飯も無くなってしまった。
無くなってから気が付いたが俺は明日の分もと言っていた四葉さんの分を食べてしまったのに気が付いて
「ごめんなさい!」
と言うと四葉さんはキョトンとして
「どうしたんですか?」
と言うので
「だって俺いっぱい食べちゃったから・・・。」
と空になった皿を見て言うとサクラも俺に言われて気が付いたのか箸を静かに落いて正座した。俺もサクラに見習って正座をすると四葉さんは口元に手を当てながら
「そんな事を気にしないでくださいな。千とサクラさんが来てくれて一緒にご飯が食べられて幸せなんです。だから遠慮なんてしないでください。」
と微笑みながら言ってくれた。俺達は同じタイミングでホッとして肩をなで下ろした。久しぶりに味のあるご飯を食べて王子になって俺の居た村以外でご飯を食べて美味しいと感じられたのは初めてだった。
「それよりも二人共美味しかったですか?」
と聞かれて俺達は勢いよく顔を上げて
「「はい!!」」
と答えると
「それは良かったです!」
と言って手を合わせて小さく喜ぶ姿はとても愛らしかった。

俺達はご飯を食べ終わって片付けを一緒にした。お皿洗いも村にいた時にやっていたので食事を作ってくれたお礼に俺は皿洗いをする。サクラは机の上を拭いて四葉さんは乾いたお皿を食器棚に戻していた。
するとゴーンゴーンと時計が鳴る。四葉さんが
「そうでした!!すっかり楽しい時間を過ごしていたので私のもう一つのお仕事があるんでした!」
と言う。俺とサクラは不思議に顔を見合わせて
「どんなお仕事ですか?薬屋じゃなくて?」
とサクラが聞くと
「薬屋は朝とお昼に行っていて、夜は龍神としてのお仕事なんです!やってしまいました~すみませんが今から村端にある丘に行かなくてはいけないのですが出かけても宜しいでしょうか?」
とすまなそうにして聞いてくるので俺が
「サクラ用意しろ。」
と言ってすぐに片付けを終わらせると俺達は急いで電気を消し戸締まりをし、四葉さんは玄関の扉の鍵を閉めると振り返って
「本日は本当に・・・」
と言ったので
「四葉さんここから走っても丘までは距離があるでしょ。だから化け狐型になったサクラの上に乗って、俺は足が速いからサクラと同じくらいの早さで走れるから気にしないで。」
と言って四葉さんの身体を軽く持ち上げてサクラの背中に横向きで座らせると四葉さんは落ちないようにサクラの身体を掴むとサクラが
「それじゃ出発しますよ。千行きますよ!」
と言って思いっきり前足で地面を蹴る。それと同時に俺も右足に力を込めて走る。
二人で走るのは久しぶりで最近では爺様の命令でずっとサクラの上に乗ることしか許されなくてウズウズしていたからこうやって自分で風を切って走るのが楽しくて美味しいご飯も食べれたし、久しぶりにこうやってサクラと走れるのも楽しくて夜空の星が一層に輝いて見えた。

丘に着くとサクラからゆっくりと四葉さんが降りた。
「酔ってない?大丈夫だった?」
と聞くと
「フワフワの毛でとても乗り心地が良かったです。ありがとうございます、それにお二人のお陰で間に合いました。」
と言って夜空を見上げる。俺達も連れられて星が一面と輝く夜空を見ると様々な色に光った丸くトゲトゲしたモノがフワフワと浮いては沈んでの繰り返しで丘に次々と集まって来ていた。俺は
「何?この光?」
と言うが四葉さんの声が無くて俺とサクラは不安になって四葉さんが居た場所を見るとそこには大きな龍が立って居た。
その大きさはサクラよりも大きく、そして真っ白の毛並みで黄色なのか黄緑なのか分からないが大きな身体には合わない瞳は慈愛に溢れた優しい目をしていた。
その目は四葉さんの目に似ていて立っている姿もどこか雰囲気が四葉さんそのものだった。この龍は四葉さんだと思ったが間違っていたらいけないと思って
「四葉さん?」
と聞くとゆっくりと龍は俺の方を見て頷いた。
四葉さんだ!と思った途端に俺達の周りには沢山の光に溢れて囲まれた。その光は暖かく触れるとどこか寂しさが心臓に触れたような気がしてすぐに手を引っ込めたが、それでも光の核以外の部分は心が暖まるような感覚がしたので核に触れないように撫でてやると俺の腕や身体をクルクルと回り始めた。その光達が俺の身体から離れていき龍になった四葉さんの傍に寄る。四葉さんはその光達を迎え入れるようにすると光達はフワフワとまた夜空に飛んで行く、光る風船のようなそんな光を見ていると急にブワッと強い風が起こった。
何事だと俺は周囲を見渡すとサクラも同様に周囲を見渡していた。
俺達は先程の強い風が起きた時に何かが俺等の間を通った気がしたので夜空を見上げるとそこには白くて大きな龍が雲を描くようにして光の風船を身に纏い天高く昇っていっていた。俺は
「すげー。」
と力強く空を駆け抜ける龍に感動しながら俺もいつかは空が飛べたら楽しいだろうなと思っていた。その気持ちがサクラに伝わったのか
「それは無理だろ。」
と言ってきたので脇腹に軽くパンチをした。痛がるサクラに
「今日のご飯美味しかったな!」
と言うと
「あれだけ飢えたようにお互い食べてたからな。」
「まさか全部無くなるとは思わなかったよね。」
「千はこれからどうしたい?」
「え?」
「俺はお前の心臓に居るんだからお前の感じている気持ちは分かる、お前がずっと寂しいという気持ちで毎日を過ごして居たのは知っている。ただあの場所ではお前の願いを叶えてあげることは出来ない。だけど、今日一緒に久しぶりにご飯が食べられて俺は楽しかった。千はどうだ?」
「俺も同じ気持ちだよ!!俺も本当に一人であんなご飯食べるより皆で食卓を囲む方が好きだな~なぁ、俺の気持ち分かるなら考えている事も分かるだろ?」
「兄様達に叱られても俺は知らないぞ。」
「へへっ、今度は俺達でお弁当作って一緒に食べて貰おうぜ!いつがいいかな~明日かな~明後日かな~」
とウキウキする俺を呆れ笑いをするサクラの姿を久しぶりに見た。その姿が王子になる前の自分に戻れた気がしてちょっと嬉しかった。

暫く四葉さんは光と共に空高く飛んでいたが光を何処かに連れて行ったのか一人で帰ってきた。
「お帰りなさい。」
と人型に戻って丘の上に立つ四葉さんに俺は声を掛けると
「ただいま戻りました。」
と振り返って答えてくれた。目には少し涙が溜まっているので
「四葉さん何かあったの?何で泣いているの?」
と聞くと
「子供達の別れが辛かったのです。」
「子供?」
「はい、先程の光達は子供達の魂なのです。子供達は上手に天に昇ることが出来ない子達が多いので時々こうやって天に昇るお手伝いをしているのです。これが龍神としての私のお仕事なのです。」
「すげーやっぱ四葉さんってすげー!!俺もいつか絶対一緒に光を天に昇らせてあげられるようになってみたい!!な!サクラ!!」
と興奮してサクラの方を見るとサクラはしょうがないなという顔で俺の顔を見て四葉さんは俺の考えが嬉しかったのか
「きっと出来ますよ。その時は一緒に頑張りましょうね!」
と言ってくれた。

俺達はそろそろ帰ることにした。
また中心部を通って俺達の家に戻る、俺は中心部に向かう門に身体の向きを変えながら四葉さんに
「ねぇ、今度はさ俺がさ弁当持って来るからまた一緒にご飯食べてくれる?」
と聞いた。四葉さんは二つ返事で返してくれて
「いつでもお待ちしておりますね!」
と言ってくれた。
俺達は四葉さんに手を振って中心部の門まで競争した。昨日よりも今日はとても楽しい事がばかりだ人生に色が付いたのは初めての感覚だった。俺とサクラは息が切れるまで走って家に帰った。中心部の門に着いて息切れでサクラと一緒に地面に倒れ込んで一緒に寝転がりながら夜空を見た。先程の子供達の光はもう無いが夜空に沢山の宝石が散りばめられていてとても綺麗だった。
俺達はどっちが先とも言わずに腹から思いっきり笑った。
明日もこんな日が続きますようにと願いながら俺は思いっきり笑った。
俺達の笑い声はきっと天高くまで昇ってきっとあの宝石達に届いているだろうと俺は思った。
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