転移した世界で最強目指す!

RozaLe

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第十二話 勇選会

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 翌日が勇選会という日の夕方、やっと王都に到着した。今日の分の体力を使いきったと感じていた。しかし門を潜って目の前に現れたのは、とても緩やかな坂とそれに沿って作られた階段状も住宅地があった。どう見ても王都の宿までは考えたくも無い距離があり、軽く絶望した。
「嘘だああぁーー!!」
 王都トエント、噴火によってできたなだらかな坂の上に作られた王が直接統治するこの国唯一の都。ここで一番盛んな業種は英雄で、全ての主要地帯のほぼ中心に位置するのもそうだし、ここで予選を開くのもその為だ。開催する勇選会の結果に応じ、王が勇者パーティを編成するのだ。人口はマニラウとほぼ同じだが、倍くらい広いので人の多さはあまり気にならない。
 重い足を引きずり数十メートル間隔の段を一つ一つ登って行く、オッサンも今回ばかりは少し辛いように見える。無意識のうちに数えていた段数が34なった時、オッサンがこっちだと言った。それからは細いくねくねした道を歩いた。それから時間もあまり掛からずに宿に着いた。
「えっと?どこだって言ったっけ?」
 風呂上がりの俺はソファでくつろぐオッサンに言った。
「ここに来た脇道の先にまたあのデカイ登り坂がある、そこから大体10段登ったら会場だ。目につく場所だから見つけやすいと思うぜ」
 俺に目だけを向けて言った。勝手な物言いだが、オッサンはこの時首を動かすのも嫌だったんだろう。
「オッケー分かった。で、オッサンはどこ行くの?」
「それは言わねぇさ、俺の趣味の事だ、自分のいく先だけ考えとけ」
 と、昨日の夜に言われていた、言われたはいいが脇道が結構長く感じた。もう10分も歩いているのに細道を抜ける気配が無かったんだ。でも周りには会場に行こうとしている人たちが他にもいる、道は確かにこっちであっているはずだった。もう5分経ってようやく道を抜けた、上り坂は確かに昨日登った坂と同じ感じだ。少し見上げると分かりやすくドームになってる建物が見え、皆もそこに向かって歩いて行っていた。
 意味もなく段を数える事12段、ようやく会場となる『カピト都立ドーム』が現れた。この場所は富士山で言う宝永噴火口と同じ少し窪んだ部分に建てられた物らしく、先代の王が新しく建て替えたと聞いた。ドーム自体は何百年とここにあるが、比較的新しい構造になっていると言う。
 入り口では来客の整理をしていた。選手用窓口、観客用窓口、観客でも予約や招待を受けた者用の窓口の三種類。特に普通の観客用窓口は四つあった、それだけ人が集まるのだろう。今も朝早くだというのにかなりの数の人が集まっている。並んでいる者の中には鎧を着た者、武器を下げた者、背負った者も何人か見かけた。表情は真剣そのもので気は張り詰めている。だが、見た感じ数人しか居ない。これも朝だからだろうか。
「あら?君予約ですか?」
 受付人が俺を見て言ってきた。俺は首を振って否定し、オッサンから渡されてた招待状を差し出した。
「招待です、これを」
 受付の人に招待状を渡すと、それを見て眉が上がり話し方も早くなった。
「あー君ヴィザーの弟子か、やっぱりあの人来ないんだね…まあいいか、案内役員呼ぶよ」
 速度で言ったら二つ返事並みに早いやりとりだった。すぐに案内人が来て俺の場所に連れて行ってくれた。そこはAクラス観戦場と呼ばれる一番観戦しやすい場所だった。なぜ席と呼ばれていないのかだが、それはそもそも席なんてないからだ。どうせ盛り上がってみんな立ち上がるから、固定された椅子やテーブルは廃止されたらしい。さらに案内人はこう付け加えた。
「君の場合、Aクラス観戦場のどこで観ても構わないよ」
「え?」
 流石に困惑した、指定された区域ならどこでも構わないと。そんな高待遇で悪い顔はしないが、どんな国の王でも席は決められている。
「だって上からの通達だもん、Aクラス観戦場は予約者なんて額が高くて居たもんじゃないし、招待客はもう自分の場所を取ってるしで、どこでも良いってなったわけ」
 確かに床には丸い紫色のシールっぽいものが貼られている。もう人のいる所には無いが、それ以外の所ならどこでもいいと言うのだ。俺は動揺を隠して言った。
「さすがに大盤振る舞いすぎません?」
「俺もそう思うよ?でも言ったろ?上から指示されたって…まぁ、噂でよく聞くような奴が来たらそうもなるのかな」
 そこで俺は初めて耳にしたことがあった。
「まって?誰の噂?」
「ん?あんただよ、ヴィザーの弟子が快進撃!一ヶ月も経たずに三等にって結構有名だぞ?」
「はぁ!?」
 一体それの発端がどこかと言うと、四等英雄試験にて宝石を送ったと言うヴィザーの一番弟子その人から始まり、商人の耳に入り、各地に広がって行き、さらに実際にデータバンクを漁って見つける者も現れ、かなり話が広がっていると言う。
「うわぁーマジかー…」
 予想外の事が起きていて且つまだなりたくも無かった有名人になっていたから俺はうなだれた。
「良いじゃないか、有名になっても良い事結構あるぞ?」
「あんなに囲まれるのは好きじゃ無いんですけど」
 俺はあの時の問題児を思い浮かべて言った。フォローをしようとする案内人に対して自分の思いを簡単に言ったつもりだった。それに言葉を詰まらせて案内人が続ける。
「あー…じゃーちょっと災難だったね、顔が割れれば声もかけられるけど、俺は言いふらす事はしないぞ」
 今までの声量の半分になって案内人が言った。
「だと良いけど」
「まぁ、そう言う事で。俺は仕事あるからもう行きますね」
 案内人は言葉を残して去って行った。前のあの人と比べてしまっているのかもしれないが、彼が性格の良い人だというのは分かった。とりあえず俺は、人と人の間だが比較的広い場所を取った、始まるまであと数十分、その間にAクラス観戦場は少しずつ人で埋まり始め、結局隣とは人二人分も間がないくらいになった。そしていよいよ放送が入った。
『皆様!お待たせ致しました!まもなく試合が始まります!選手は熱い歓声を待っています!存分に楽しみましょう!』
「「オオオオ!!」」
 それは放送とは少し違うが、一気に皆が叫んだ。会場は震え、全身をビリビリとした感覚で包まれた。
『ですが、前回会合の反省とし、出場選手人数をかなり削減致しました。より早く、より盛り上がれる様にの配慮ですので、ご了承をお願いいたします』
 良かったと思った、聞いていた様に何日何週間と時間を食うわけではないようだ。想定していた小さな不安、と言うより不満の方が近いかも知れないが、それが消えてくれた。
 この会場はドーム型、しかし二階層に分かれていて、ここは一階。かなり高い天井に、広い観客場は二階にもあり、一つの闘技台があった。これは正方形で幅は大体25×25mで高さは1mだ。その他に、観客席の向かい側にはVIP席という特定の人物が観覧する場所があった。それらの中には、何人かがそれぞれ居て闘技台を見下ろしている。その中でも、ど真ん中の一つだけが丸く出っ張っていて、他より少し広くなっていた。そのVIP席を見ていると、次第に埋まり始め観客も湧き始めた。
「おお!トップ英雄だ!」
「メル様早く来ないかなー」
「やっぱりこんなに来るって事は…重要なやつなんだろうなー」
 あっという間に殆どのVIP席にパーティが入っていた。そしてあのど真ん中の席にも人影があった、あれが以前から聞いていた最強のパーティ『ウノン・カピト』だ。遠目だけどこうやってみると、なんだかキャラが濃い様な気がする。特に目につく人が二人、一人は般若みたいな狼の仮面をつけている。もう一人はなんだかクリオネみたいな半透明の何かの中に入っている。他は白髪で細身のお爺さんと若者二人だった。
「あれが、ウノン・カピトか…」
 俺はテンション低く呟いた、誰にも聞こえない様な声で言った。
「ん?なんだ?あいつらを見るのは初めてか?」
 と思っていたが、隣のおじさんには聞こえていたみたいで反応されてしまった。
「つーか、お前さんはあんまり知らん様にも見えるな」
(ああそうだよ、知らんで悪かったな)
 俺と身長は同じくらいのおじさんは、おもむろに自分の上着の内ポケットを漁り丸い何かを取り出した。
「んまぁいい、俺が近くにいて良かったな!教えてやるよ、これを見な!」
 そう言うとぐいと近づきその丸い何かを差し出した、それは淡く輝く水晶に見えた。言われた通りに覗いてみると、そこには映像が流れていた。ここから俺はその映像に引き込まれた。映っているのは弓を持った人と、大型のモンスターが対峙しているところから始まった。
「こいつは『彩弓さいきゅう』の異名を持つ弓使い」
 両者が同時に駆け出し、その人は背の矢筒から一本矢を取り出した。その矢は篦が異様に太く片方にしか刃がついてないが、その分刃も大きく鋭かった。
「彼の矢は特注品でな、なんでも出来る」
 すれ違う時に、その人は飛んで甲羅の様な部位をその矢で切り、モンスターの強固そうな甲羅は割れた。着地し再び矢を手にすると、それを甲羅の亀裂に沿って放つ。一瞬輝いたのが見えた時にはモンスターの背は爆ぜていて、モンスターは動かなくなった。
「それが鷹の目とも呼ばれる『バトラ・リキオル・ドーラ』」
 映像が変わり、今度は森林の中で太陽を見上げている。そこに陽を遮って猿のようなモンスターが一気に襲いかかってきた。
「モルマイトの大群、この数じゃあ勝てるかも怪しい。だがこの人なら屁でもない」
 白髪の男が背の槍を掴むと、後は血飛沫と斬撃の音がするだけになった。最後の一体を倒した所で映像は止まる。
「『幻槍げんそう』こと、『ゼーソル・ゼル・ジラフ』だ」
 次は煌びやかな氷の世界だった。一つだけ映像の端に動く氷塊が見えていた。そこから次第に視点が引いていく。
「それでこの人は、みんなのアイドル。その可愛さとは裏腹に…」
 ここで映り込んだ氷の中に小さなモンスターが閉じ込められ、半透明の何かの上でポヨンポヨンと跳ねている光景だった。それはあのクリオネに包まれたような人だった。
「世界一のレベル保持者、及び魔力世界一、『メル・クリオネア』」
 女性のようで背は小さそうだ。と、目線が合い、頬を染めて手を振った。
「これ、あなたが撮ってるの?」
「ああ、何個か同時に使うこともあるぞ?さあ次だ」
 使うと言うのはこの水晶の事だろうか。と、少し雑念が入った所でいきなりさっきの怖い仮面が映り込んだ。そこから少しづつギラついた異形の刀へ視点が移る。
「名はよく知られているが、その他の事は何も分かっていない。今や死の象徴、『死面しめん』の名を持つ」
 一人立つその人に向かい、火に包まれた触手が襲いかかった。だが何かが光ると共に姿が消え、一瞬触手の主であろうモンスターの顔が映るがすぐに歪み、気付けばモンスターは文字通りの細切れになり崩れ落ちた。
「奴が名は『ターラ・ブルーニー』。さあ、次が最後だ」
 木々の間から覗く月を、誰かが座って眺めている。
「パーティのリーダー、最年少にして最強の英雄」
 その人は今まで座っていた所から飛び降りた。
「今は仮に『戦子せんし』と呼ばれている」
 月明かりに照らされた彼の後ろにあるものは、夥しい数のモンスターの屍。最後に振り向いた顔は涼しく、傷はあったがどれも古い。
「名は『スピット・ロヴェル・ヴォイルーゴ』」
 そこで水晶は暗くなり映像が終わった。だが最後に彼は振り向いたし目線も合っていた。やっぱり撮っていたのは見つかっているみたいだった。
「とまあこんなもんだ、大体分かったろ?」
 その水晶を懐に戻しておじさんが言った。
「うん、ありがとう。だけどさー…なんで見せた?」
 おじさんにジトっとした目を向けた、急に寄って来るのも謎で少し怖かったのもあった。それに対しおじさんは心底ウキウキしたようにこう言った。
「布教さ!知ってほしいんだ!特にお前みたいなガキにゃあな」
 なんの曇りもない言葉だった。雰囲気で薄々分かっていたが、実際に聞くとガクッとする気分だった。
「俺はケシュタル・クラムバス。英雄のみんなをこうやって水晶に静止画や映像として残してるんだ。特に後世に残すべき英雄、然る所今のウノン・カピトなどウノンパーティだな」
 ウノンのつくパーティは各地方の最強とされるパーティだ。それを陰ながら撮影していた。
「それって趣味かなんかか?」
 未だにジト目でケシュタルに言うと、誇らしげに言われた。
「当たりめぇさ、だがやってる内に顔を覚えられてな、今じゃ仲の良い知り合いさ」
 それなら確かに誇らしくなるかもしれない。
「すごいな、てかどうやって撮ってんだ?」
「魔法の一つの視覚共有だ、複数使う時は重力操作の魔法と360度撮れるように水晶を設定してだな」
「すっげー手が込んでるな、それで見た所を切り抜いてるのか」
「そう言う事!なんだ、お前も魔法についていくらか詳しいな。気に入ったぜあんた」
 ケシュタルがまた心底嬉しそうに言った。自分自身も魔法をかなり使ってるし、俺の世界の魔法と仕様というか根本が違っても、全く違う訳じゃないから慣れれば全然理解できる仕組みをしている。
「俺は名乗ったよな、あんたはなんて名だ?」
 ケシュタルは俺に名を尋ねた。別に断る事もない。
「光だ、ここらじゃ珍しいんだっけか?」
「んん、そうだな、ハナモの人間の名に似てるな」
 やっぱりハナモ(この世界での日本)の名か、この世界でも日本に変わりは少ないようだ。
「まあ良い、会話が成立すりゃそれでいいさ。で、どうだ?もっと色んな英雄を見たくないか?」
 そう言ってケシュタルは再び水晶に手を伸ばしていた。
「え?いや、これで…」
「よし!じゃあまずはー…」
 話を切られてどんどん話し始めてしまった、この人も他人の話を聞かない。どうもこの世界のおじさんには「話を聞かない属性」があるみたいだ。勧めて来るは良いが話が長いしまもなく始まる試合に集中できない。俺は耳を強く塞いだ。分かりやすく渋い顔もした。しかし周りの人もこのケシュタルと言うおじさんを知っている様で、またやってるよと言いたげな呆れたような顔をしている。これが意味するは、止めても無駄、か。

 高い位置で眺めの良いVIP席、ジラフは除くが私含めたヴォイルーゴパーティは初めて立ち入る。そこでは皆が思い思いの行動をとっていた。リーダーは年齢相応のはしゃぎっぷり、ドーラとゼルは椅子に座り、メルはいつもの通りにユラユラと宙に浮いている。皆に緊張感は見られない、ここにいる全員が試合をすると言うのに。私はここにいても心が踊らない。私には大会より大事な試合が控えているから。して、奴はここに来ているだろうか。眼下に広がる人の海、私が指示したようになっているなら、奴はAクラス観戦場にいるはず。
「お!やっぱり居るぜあのおっさん!」
 ロヴェルがケシュタル・クラムバスを発見したらしい。
「本当か?ああ、見つけやすいな」
 それに反応したドーラが吹き抜けた窓から身を乗り出した。そしてすぐにクラムバスを見つけて少し身を引いた。
「うわー、早速人がいるよ?」
 続けてドーラが言った。私も捕まってしまった人に対して同情してしまう。
「ははっ、その人は災難だな、あの性格じゃアナウンスがあってやっと止まるぐらいだろ」
「だね、後何分?」
「10分切ったぞ?バトラ、準備は出来てるな?」
「当たり前、俺3試合目でしょ?まだ行かなくても良いさ」
 この者達には緊張が無いのか、余程の自信があるのか。ケシュタルは英雄がいる所に必ずいると言われるほどの男、居ないわけが無い。ケシュタルを探すとすぐに目についた。やはり周りは良い迷惑だ、彼が話しかけている相手は子供だった。子供か。
「Aクラスの場に子供はあいつ一人」
 視てみると、確かにあいつに黄金の霧がかかっている。今まで見えなかった物も見えた事で私の意は固まり、気は引き締まる。
 その時声が聞こえてきた、私があの子供を見た時からだ。周りを見ても声に反応している者は居ない、私だけに聞こえている様だ。そしてその声はこう言っていた。見つかってしまったか。コイツも望んでいなかったが、仕方が無いないと。
 私は窓からその子供を見下ろし声の主を見据えた。そして見えたのだ、奴に憑く光の獣が。奴も私を見て、最後にただこう言った。その言葉を信じよう。
『私と共に来るならば、その面の呪縛から解放される事も、或いは』
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