転移した世界で最強目指す!

RozaLe

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第十四話後譚 目指す

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 身長だけ見ても頭一つ分もの差があり、持つ武器と防具にも差があった。取り分け若いのに加え三等英雄である無名の男が、事もあろうか一等英雄に、しかもトーナメント三位の実力者に勝利してしまった。この結末に観客達は沸かずにいられるだろうか。俺が元の観戦場に戻ると、早速ケシュタルが話しかけて来た。彼もかなりの興奮状態というのが、満面の笑みでよく分かる。
「いやぁまさかここまでとは思わなかった!ここで観戦してるから良いとこの坊ちゃんかなんかかと思ってたが…そうか、君が噂のエルコラドの弟子か!」
 彼も耳にしていたらしい。しかし、さも当たり前の様にこの話が出てくる。知らない間に噂が広がり過ぎではないだろうか。その後ケシュタル以外にも声をかけられ続け一躍人気者に。俺にとってはいい迷惑だった。もてはやされる分には悪い気はしないが、いちいち声に応えなければいけないのはとてもストレスになった。これだから俺はあまり有名にはなりたく無かったし、人混みが嫌いだった。
『熱も冷めていませんがこれにて勇選会は終了致します。出場選手は各自自室で待機してください。また、エキシビションにて勝利なさったヒカル様は、本会合運営室へお越し下さい』
 運営本部から会合終了の合図によって、俺は人の波からやっと這い出す事が出来た。いまだ騒つく観客達ははぞろぞろ出口に押し寄せて行き、会場にはまばらに人が残るだけとなった。
「居なくなるの早いな」
 俺が急にがらんとした会場を見て呟く。それにケシュタルが手元で水晶をいじりながら言った。
「どうせまだ外で盛り上がってるさ。いぃや~面白い事もあるもんだ!んじゃあ俺も帰らせてもらうよ、早速映像の整理をせにゃならんからな。」
 彼は水晶を懐にしまい、会場から去っていった。俺はケシュタルの背中を見送り、廊下の曲がり角で姿が見えなくなるのを確認した後、運営のところへ急いだ。
 観戦場から歩いて闘技台の横を通り過ぎ、VIP席の最下層の真ん中、そこにガラス張りになってる窓のある部屋がある。そこがさっきから言われている運営室だ。窓の向こうには手招きをしたり、手を振っている人もいた。ドアを開けると、さっきの人影以外に何名かが話し合っていた。俺に気づくと、その一人のふくよかな男性が俺に歩み寄り言葉をかけた。
「ヒカル殿で間違いありませんか?私は会合運営の副長を務めるユーベン・タイフティと申します。あなたの実力を拝見いたしましたが、あれほど凄まじいとは思わなんだ。是非とも勇者パーティのメンバーになっていただけないかと!」
 彼は高い背が俺と同じになるまで腰を曲げ、強い口調で熱願した。俺はこの期待をどうすればいいか悩んだ。そこで俺は彼に一つ質問をしてみた。その受け答え次第でどうするか決める事にする。
「必ずやらなければいけないんですか?」
「いえ、本戦に出場されてはいませんので強制する事は致しません。しかし、どうやら此度の魔王は手強いようで、現在私達が選出した候補数名でも不安なほどです」
 魔王と言う言葉が出て来た。それがどれほどの脅威なのか知る由もないが、とりあえず強制参加では無いらしい。彼の中で思い描かれている編成は俺でも察しがつくが、本当にそこには俺が必要なのだろうか。
「それで俺の魔法が補填に適していると?」
 ユーベンに尋ねたところ、はい、と返事が来た。そして彼は続けてこのエキシビジョンの存在する本当の理由を語り出した。
「そもそもこのエキシビションという物は、あなたのような才覚ある者を見つける為にある物です。前回の勇選会でも幾人かエキシビションで選出されました。そして、そこから勇者へと成った者が一人います」
 俺がさっき聞いた話は、力ある者の下剋上と力の誇示だった。だが彼が言うには、力無き者の眠れる才能を見ているとの事だった。更に聞くと、その英雄になった人はレベルは低くとも基礎値の高い人物だったらしく、成長して勇者パーティでも一、二を争う力を示したと言う。
 その後もある程度二人の問答は続いた。そこで得た情報をまとめると、一つ目は魔王を倒すのにある程度の時間制限がある。制限時間は一年以内、それまでに倒さなければいけない。そうしないと瘴気なる物が大地を枯らしてしまい、誰も住めなくなりモンスターの巣窟と化す。二つ目に、例え勇者になっても普通の一等英雄の様に扱われる。ただ、周りの人物から頼りにされる事は増えるだろうとの事。最後に補足として、一年と言う期間は、仲間との絆を深めたり、レベルを上げるための期間だと言った。一通りの説明を受け、俺は一応の納得はした。
「分かりました…しかし、まだ返事ができません」
 それでも俺ははいともいいえとも言えなかった。確かに今まで目標はなかった、だからと言って、いきなり大き過ぎる目標ができるのも考え物だった。沢山の人に声をかけられるのはなるべく避けたかったのもあるが、何よりこのような大役に俺がなっていいのか、未だに気が引けていた。
「左様ですか。ならば宿舎を貸しますので、一晩考えるのも良いでしょう。アデリーン、鍵を」
 名を呼ばれた女性がはいと応えて動き出した、彼女は離れた所から俺に尋ねた。
「どこにします?やっぱり近い方がいいですよね?」
 俺がはいと答えると、十数個あるコルクの壁掛けに伸びた手は、何十と並ぶ鍵の中から一つ取った。差し出された鍵には401と彫られていた。
「地下にホテルのような宿舎があります。皆より下がる階は多いですが三階の奥の部屋よりも近いでしょう」
 アデリーンが気を利かせてくれた、確かにそっちの方が距離は短くて済むだろう。
「お気遣いありがとうございます」
「おっと、廊下の照明をつけなくてはな」
 鍵を受け取り宿舎への道を教えてもらい俺は部屋の外へ出ようとした、内開きなのを知らずに一度押し、あっと思って慌てて引いた。部屋を出るとまだ廊下が暗かったが、すぐに彼が点けるだろうと思い扉を閉めた。地下への階段は廊下を左に行けば突き当たりにある。左を向いて進もうとすると、目の前に大きな影が見えた。
「わあぁぁーーー!!」
 目の前から影が甲高い声を上げて向かって来た。怖いとは感じなかったが単純にびっきりしてのけぞった。
「うわっ、と、ちょぉっ!」
 しかも暗い廊下の中俺を強く押し倒し、そのままのしかかって来た。ゴテッと強めの尻餅をつき、ヒリヒリかジンジンか、軽い鈍痛が起こった。その時やっと廊下に明かりが灯った、そして俺に被さっている物の正体が分かった。水色の透明なぶよぶよした物。
「あ、あなたは…」
 その時、ガチャッと扉が開いた。叫び声か物音に釣られて出て来たのだろう。先頭にいたユーベンがその人に向かって気の抜けた声で言った。
「クリオネア殿、またいたずらですか?」
 さっき実際でも映像でも見たトーナメント二位の人、主に氷魔法を使う魔術師だ。
「えへへ…ちょっとやってみたくなって」
 メルはユーベンの方へ顔を向けて微笑んで見せた。ぼやぼやするの先に、ユーベンがメルの後ろへ目線を動かすのが見えた。
「おや、メンバー全員が揃い踏みとはどうされましたかな?」
 ピントを奥に合わせると確かに他にも人がいるように見え、ぼやける視界の中にはさっきまで戦っていたあの人の姿もあった。
「珍しくターラが会いたいって言うから来たんですけど、これは…」
「明かり付けないでって言うから何かと思ったが、またしょうもない事を…」
 二人の男の声がした。一人は若く、もう一人は年老いている。バトラとジラフだろうか。
「そうでいらしたか。そうですねー…隠す必要もありませし言っておきましょうか」
 考える風な素振りを見せ、ユーベンさんが改まって話し出した。
「ヒカル殿、私達の考えうる勇者パーティは、ここにいます六名と考えております」
 彼が言うには、スピットとターラは物理近接アタッカー、ジラフはタンカー、メルはヒーラー、バトラは遠距離アタッカー。そして俺は魔法での近接アタッカーだと言う。役割のバランスは申し分なく、皆が拮抗した実力を持っている。しかもやろうと思えばそれぞれ別の役割もこなせてしまうというほど技能は全員高い。
「ヒカル殿、貴方は経験のみが足りていません。そこで提案なのですが、彼らと共に行動し、様々なモンスターと戦い階級を上げて下さい。そうすれば殆どの状況に対応出来る様になりましょうぞ」
 ユーベンがわざわざ膝を付いてまで姿勢を低くし、また勇者パーティへの勧誘をして来た。
「言うなれば、最強への道か。お前は持つ潜在能力が高い、私たちを越す事もあり得るくらいにな」
 ユーベンの言葉に続いてターラが言った。ユーベンと同じように前へ出て膝を付いた。と、その後ろでスピットとバトラが耳打ちしているのが見えた。
「やっぱりアイツいつもよりテンション高いんじゃね?」
「だよな、明らかに口数多いぜ?」
「こそこそ話すな、聞こえてるからな?」
 横目で二人を睨みターラがドスを効かした。それで二人は何でもないです、と言うみたいにピンと背を伸ばして気を付けの姿勢をとった。小さくため息が聞こえ、再びターラあ俺に目をやった。今さっきの声とは対照的な声色で俺に問う。
「それで、どうする?乗るか?」
 話を聞いていて、悪い話だとは思わなかった。そもそも、俺が世界を渡る理由はそこにある。ただひたすらに強さを求める事、どんな人でも守れるように。それに確実に近づけるような話しを断るわけなかった。
「分かった、俺が最強になってやる」
「……その状態で言われてもな…メル、そろそろ退いてやれ」
「あそっか、ごめん」
 言い放ったは良いが、メルがずっと乗っかっているせいでカッコがつかない。ポヨンと跳ねてメルがやっと退いてくれて解放された。俺は立ち上がり再び宣言した。
「目指せ最強だろ?やろうじゃねーか!」
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