不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

文字の大きさ
52 / 150

51.やめるっす!

しおりを挟む



 妄想での俺は、生まれた弟と一緒にいつも笑って一緒に遊んでいた。弟は他の誰が怖がっても、嫌がっても離れず俺と一緒にいてくれて、頑丈で、何があっても怪我なんてせず、俺の不幸なんてものともせず笑顔を向けてくれる優しい子なのだ。そんな弟と、お母さんとお父さんのお仕事を手伝ったりして、弟のちょっとした我儘を聞いたり、悩んだりしながら楽しく暮らす妄想。フレイ君と一緒にいればいるほどフレイ君が昔、思い描いて願って、想像していた弟と重なる。……重ねてしまっていたのだ。


「……だから、んな話聞いたことねぇって」


「へへ……今の今まで忘れてたっす」


 ブスッとした顔を見せるボスにちょっと照れて頬を掻いた。ボスに聞かれるまでは本当に無自覚にフレイ君に理想を重ねてしまい、これもあれもだと喜んでしまっていた。それほどまで、フレイ君は俺の理想の弟だったのだ。別人だと言うことはわかっているが。


「……。……はぁぁぁ。……まぁお前がフレイにくっつく理由はわかった。……フレイになんか操作されてるわけじゃねぇんだな」


 しんみりとした空気と少しの沈黙の後、ボスは頭を掻き、大きな息を吐き出してそう言った。鋭かった目元も緩んでいる。


「え!? そんなの疑ってたんっすか?」


「普段のお前を知ってるからこそな。……けど、あんま気を許し過ぎんなよ。お前が思ってる以上にあいつは性格が悪いと思うぞ? あと、フレイが怪しい奴なのには変わりはねぇんだからな」


「出来るだけ気をつけるっす!」


「出来るだけかよ」


 元気よく頷く俺にボスは苦笑する。だってそれは仕方ないのだ。無自覚とはいえど、フレイ君を昔思い描いていた弟像と重ねてしまってグイグイいってたことは認める。だけどそれを自覚し、弟像とか関係なく考えても、フレイ君と一緒にいるのは楽しく友達で、本当に弟みたいに思ってしまっているのだから。


「俺、フレイ君のいいお兄ちゃんになれるように頑張るっす!」


「……はぁぁ、まぁ気をつけるの忘れなきゃもうなんでもいいわ」


 気合い溢れる俺にボスは呆れた目をする。


 俺、頑張るっすよ。もうフレイ君が罰を受けたり怪しまれることがないように俺がしっかり見守って注意、サポートするっす。だから――


「……あの、ボス? ……俺頑張るっす。頑張るっすから、だから……。……もうフレイ君を追い出すだなんて言わないでほしいんっす……」


 もじもじ、恐る恐る、視線を少し彷徨わせながらもボスを窺い言う。そんな俺に、ボスはピクリと片眉を動かした。


「……フレイ君、きっと傷ついてると思うんっす」


 フレイ君はここにいてきっと楽しいと思っている。黒いオーラを漂わしているが、遠い目をしたり疲れ切った顔をしてたまにブツブツ言ったりしているが、でも、俺とかモー達みんなと一緒にいる時楽しそうに笑っていることが多い。ボスに冷たくあしらわれたり、みんなの輪に入れない時も本気で悔しがっている。


「……フレイ君、馴染もうって、仲良くなりたいってすっごく頑張ってるっすよ? なのに、追い出すって言われるのは悲しいと思うっす……。フレイ君帰っても誰もいないって言ってたっすし……一人になるのは……一人に戻るのはすっごく悲しいことっすよ?」


「…………」


 だから怖がらせないであげてほしい。そんな悲しいこと言わないでほしい。一人は悲しい。一人は怖い。それがいつ訪れるかを考え続けることはとても恐ろしいことなのだ。


 そう思って言えば、ボスは罰が悪そうに顔を歪めた。


「…………悪い。そうだな。それは俺が悪かった。もう二度と言わねぇよ」


「! ボス!! はいっす!!」


 嬉しくなってボスに抱きついた。


 ボス優しいっす!


 よかった。これで相当なことがない限りボスがフレイ君を追い出すことも、それを言うこともなくなった。グリグリグリグリボスのお腹に頭を擦り付けていれば、頭上でボスが笑う気配がした。


「けど、その代わりしっかりあいつの手綱を握れるように本気で頑張れよ?」


「はいっす!」


 俺の頭をボスがポンポンと優しく叩く。それがまた嬉しくて、抱きつく力を強めれば、ボスも抱きしめ返してくれた。


「くふふふふ♪」


「何笑ってんだ? この甘えん坊が」


「ムッ甘えん坊じゃないっす!」


「今の状況見てから言えよ?」


「…………」


 ……あれ? 確かにそうっすね?


「ははっ! お兄ちゃんになるって言う奴が随分甘えたなお兄ちゃんだな」


「…………」


 ニヤニヤとした笑い声に何も反論できない。こう、なんだかボスに撫でられると条件反射のようにもっともっとと思ってしまうのだ。だが、確かにこれではダメだ。


 ……俺が目指すのはボスみたいな頼り甲斐のあるかっこいいお兄ちゃんなんっす。こんな甘えたなお兄ちゃんじゃ示しがつかないっす!


「…………」


「ツキ?」


 ボスから離れ、俺は真剣な顔をし、居住まいを正した。


「俺が目指すのは頼りになるお兄ちゃんっす。ボスの言う通り甘ったれはダメっすね」


「…………? あ……いや、待て、悪い間違った」


「そんなことないっす。ボスの言ったことは何も間違ってないっすよ!」


「違う、さっきのは言葉の綾でっ、別に甘えんのがダメってことじゃねぇよ!」


 いいや、と俺は首を横に振った。そんな俺にボスは諭すように言う。


「ツキ、一旦落ち着いてよく考えろ」


「?」


 落ち着いてないのはボスの方っす。


「あのな、別に兄貴だからって絶対な奴はいねぇんだよ。人は誰だって誰かに甘えたくなる時があるんだ。それが息抜きになったり、疲れをとることに繋がったりするもんだ」


「ボスもっすか?」


「俺は……まぁ、俺だって誰かに甘えたくなる時くらいある」


「! そうなんっすか!」


 甘えると聞いて想像した。


 誰かに甘え擦り寄るボス……。いつでもキリリッとしてて頼りになるボスがっすか? ……なんか想像つかないっすね……。いや、こんなことを思うのはダメっすね。


 想像できないからとそれを相手に押し付けるのは間違っていると頭を振った。ボスだって人間。疲れ知らずなんてことはないのだ。誰かに甘えること、それを否定してはいけない。だが、ボスは一体誰に甘えて疲れを癒しているのだろうか? そんな姿見たことないぞ?


「ボ――」


「ラックな」


「……ラックは誰に甘えてるんっすか?」


「……俺か? 俺は……甘えるって言うよりでる方が多いな……」


「愛でる? 愛でるって可愛がるってことっすか? 何を可愛がってるんっすか?」


「…………さっきみてぇにだよ」


「さっき?」


 なんか可愛がってたっすか?


 ボスの言っている意味がよくわからず首を傾げた。でもまぁ……


「……よくわからないっすけど、ボ……ラックはそれでいいと思うっす。いっつもすっごく頑張ってるっすし、いつでもかっこいいっすから」


「……そうか?」


「はいっす」


 ボスはみんなの頼れるリーダーでいっつもみんなのために頑張ってるすごい人。だからそういう誰かに甘えたり愛でたりなどとてもいいことだと思う。そしてそんなボスだからこそ!


「俺はやっぱりボスに甘え過ぎてるように思うっす。だから俺は今日限りでボスに甘えるのをやめるっす!」


「あ゛あ?」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】

ゆらり
BL
 帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。  着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。  凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。  撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。  帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。  独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。  甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。  ※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。 ★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

処理中です...