不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター

文字の大きさ
54 / 150

53.嫌な記憶 

しおりを挟む



「ボス?」


「…………」


 ボスが固まってしまった。目をまん丸くして固まってしまった。


「…………ツキ。お前それマジで言ってんのか?」


 あ、動いたっす。


「はいっす」


「…………」


「…………」


「…………」


 ……なんか、気まずいっすね……。


 頷いたもののボスは今度は俯いて固まってしまった。部屋もシーンとしていてすごく居心地が悪い。なんとかこの状況から抜け出そうとモゾモゾと動いてみるも脱出はできず、ボスも動いてくれない。どいてほしいなんて言える雰囲気でもなく、ましてや押し除けるのもなんかダメなような気がした。だが、この体勢はもっとダメなような気がするし、早く逃げなければと思った。……こう、なんだかゆらゆらと立ちこめてくる重い圧、空気というものをボスから感じるのだ。


「ボ、ボス? あの、ちょっと退いてほしいんっすけど……」


「…………」


 ……。……勇気出したっすのに無視されたっす(泣)。えーと、じゃあどうすれば……あ!


 この状況を打破する一つの方法を思いついた。


 モージーズー! この空気壊して下さいっす!!


 必殺人任せ!!


 シーン……


「…………」


「…………」


 ……っほんっとあいつらこういう時には全っ然こないっすね!! モー、ジー、ズー!!!!


 心の中でいくら叫んでも三人は来てくれない。こんな時にやってきてくれるとすればモー達しかいないのに。あの能天気なノリでこの空気をぶち壊してほしい。何故、こういう時に限って全然こないのか! 


 もう誰でもいいっすから助けてっすー!!!


「……はぁぁぁぁあ」


「ビクッ⁉︎」


 重い重い深い溜息。そんな溜息を吐いた後、ボスは俺の首元に顔を埋めた。


 な、なんすか? なんかすっごく緊張するんすけど……。


 さっきまでの気まずい感情はもうない。ないが、今度はまるで急所を押さえられたかのような緊張感に体が固まった。やはり助けてほしいモージーズー、レト兄、イーラさん! フレイ君!! ……と、内心で叫んでいれば、ボスは吐き出すよう乾いた笑みをこぼした。


「…………ハッ……ほんとツキ、お前は生意気だよな?」


「ボ、ボス?」


 そして――


「くそとぼけた面晒して、んな時に雰囲気壊す思考して……――俺を見ず、他の男のこと考えてんじゃねぇよ」


 俺の首筋へと歯を立てた。


「い゛っ!!」


 い゛っだぁぁぁあ!!!


 言葉では「い゛っ」しか出なかったが、心の中では思いっきり叫んだ。それほど思いっきり噛まれたのだ。めちゃくちゃ痛かった。かったじゃなくて今もすごく痛い。けど痛すぎて声が出ない。


 絶対血でたっす!!


「……なぁツキ」


「ぅぅ……はいっす」


 痛みに目には涙が滲んでる。そんな目で見てもわかる。ボスの口元には血がついている。


 やっぱり血出たんっすね。だって痛かったっすもん……。


「……散々思わせぶりな態度とりながらムカつく笑顔で恋愛とは違う好きだとか意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞてめぇ。っふざけんな」


「ボ――はむンっ?」


 真剣で、どこか悔しげなボスを見上げていれば、俺の口が何かに塞がれた。ほんとの目の前にボスの顔がある。


 ……一瞬のようで長く感じた時間。ゆっくりとボスが俺から身を浮かせると、それと同時に口元の何かも離れていった。


「ツキ、愛してる。お前が何を考えての言葉かは知らねぇけどな、その嘘くさい笑顔をやめろ馬鹿が。……ずっと昔から好きだったんだ。いい加減俺のものになれ、ツキ」


「……」


 ボスが何かを言っている。だが、それよりも目に映るボスの口元の赤がすごく鮮明に映った。……ドクドクと心臓が大きな音を立て始める。


「ツキ? ……やべ、ちょっと強く噛みすぎたな」


 ボスがさっき自分が噛んだ俺の首元に手を持っていきそこを拭った。……その手にも赤いものが付いていた。


 赤……


「悪りぃ。結構強く噛みすぎたかも。血ィ出ちまってるな」


 血……?


 血と言われてまた、ボスの口元の赤に目が行く。自分の口の中がほんのりと鉄臭かった。そうしてやっとわかった。


 ……もしかして俺……今ボスとキスしたんすか?


「――ヒッッ!!!」


 キスをしたのだとわかった瞬間、息の仕方がわからなくなった。


 嫌っす嫌っす嫌っす嫌っす嫌っす!!!!!


 恐怖と共に、思い出したくなかった過去の記憶が蘇る。真っ暗闇の中、ドス黒い血を垂れ流しながら地面へと横たわるボスの姿。


「あ……ぁあ゛ッッ!!!」


 怖い怖い怖い怖い怖い嫌嫌嫌嫌嫌嫌!!


「っツキ!?」


「っっうわぁぁぁぁあ!!!!! ごめんなさいっす! ごめんなさいっす! ごめんなさいっす! ごめんなさいっす! ごめんなさいっす!!!」


「ツキ!? っおい!!」


 悲鳴のような叫び声が自分の口から飛び出した。ボロボロと涙が溢れ出る。遠くの方でボスの声が聞こえるが、必死に手を伸ばしてその声追いやった。いつもは大好きで大切な声なのに今は嫌で聞きたくない。必死に耳に手を当てた。見たくなくて必死に目を瞑った。


 離れてっす離れてっす離れてっす!!嫌っす怖いっす、嫌っす、俺に近づかないでっす、もう離れていなくならないでっす!!。


「うあ゛ぁぁぁ……ッッあ゛ぁ…………っ!!」



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

裏乙女ゲー?モブですよね? いいえ主人公です。

みーやん
BL
何日の時をこのソファーと過ごしただろう。 愛してやまない我が妹に頼まれた乙女ゲーの攻略は終わりを迎えようとしていた。 「私の青春学園生活⭐︎星蒼山学園」というこのタイトルの通り、女の子の主人公が学園生活を送りながら攻略対象に擦り寄り青春という名の恋愛を繰り広げるゲームだ。ちなみに女子生徒は全校生徒約900人のうち主人公1人というハーレム設定である。 あと1ヶ月後に30歳の誕生日を迎える俺には厳しすぎるゲームではあるが可愛い妹の為、精神と睡眠を削りながらやっとの思いで最後の攻略対象を攻略し見事クリアした。 最後のエンドロールまで見た後に 「裏乙女ゲームを開始しますか?」 という文字が出てきたと思ったら目の視界がだんだんと狭まってくる感覚に襲われた。  あ。俺3日寝てなかったんだ… そんなことにふと気がついた時には視界は完全に奪われていた。 次に目が覚めると目の前には見覚えのあるゲームならではのウィンドウ。 「星蒼山学園へようこそ!攻略対象を攻略し青春を掴み取ろう!」 何度見たかわからないほど見たこの文字。そして気づく現実味のある体感。そこは3日徹夜してクリアしたゲームの世界でした。 え?意味わかんないけどとりあえず俺はもちろんモブだよね? これはモブだと勘違いしている男が実は主人公だと気付かないまま学園生活を送る話です。

聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています

八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。 そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。

【完結済】虚な森の主と、世界から逃げた僕〜転生したら甘すぎる独占欲に囚われました〜

キノア9g
BL
「貴族の僕が異世界で出会ったのは、愛が重すぎる“森の主”でした。」 平凡なサラリーマンだった蓮は、気づけばひ弱で美しい貴族の青年として異世界に転生していた。しかし、待ち受けていたのは窮屈な貴族社会と、政略結婚という重すぎる現実。 そんな日常から逃げ出すように迷い込んだ「禁忌の森」で、蓮が出会ったのは──全てが虚ろで無感情な“森の主”ゼルフィードだった。 彼の周囲は生命を吸い尽くし、あらゆるものを枯らすという。だけど、蓮だけはなぜかゼルフィードの影響を受けない、唯一の存在。 「お前だけが、俺の世界に色をくれた」 蓮の存在が、ゼルフィードにとってかけがえのない「特異点」だと気づいた瞬間、無感情だった主の瞳に、激しいまでの独占欲と溺愛が宿る。 甘く、そしてどこまでも深い溺愛に包まれる、異世界ファンタジー

魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます

オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。 魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。

処理中です...