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54.……。 sideラック
(sideラック)
「……あ゛ぁ゛~マジうぜぇ」
「……まぁ元気出せよボス」
「「「うんうん」」」
「ウザさの原因、ほぼお前らだからな?」
ツキが眠っている医務室で、包帯だらけのレトや三馬鹿共を椅子に腰掛けながら俺は睨みつけた。
てめぇらのその目が腹立つんだよ。
「元気出せよ」と言葉では同情的な言葉を吐いてるくせに、何かを含んだような目を向けてく奴等に苛立ちは募る一方だ。それは非難か軽蔑か。しかもレト達だけじゃなく今回の騒ぎを知ってるほとんどの奴らが同じような目を俺に向けてくる。
俺はなんもやってねぇって言ってんだろ。
「おい、イーラ。ツキはどうなんだよ」
ベッドに横たわるツキを診ているイーラへと声をかける。
ツキがおかしくなって眠ってから丸四日。あれからツキは高熱を出してずっとベッドの中だ。その間、何回か目を覚ますことはあっても情緒不安定気味でいつものツキじゃない。そんなツキの側ではフレイが心配気にツキへと寄り添っていた。
「熱も完全に引いて今は落ち着いてるけど、また起きた時にどうなるかはわからないね。昨日みたいに取り乱すかもしれないし」
「……」
「ツキ君の様子を見る限り、何かの心理的外傷でこうなってるんだと思うけど理由がわからない限り……」
「……そうか……」
そう言って意味深な視線を向けてくるイーラを無視して俺は椅子から立ち上がり、眠っているツキに近づいた。それに対し、フレイ以外のこの場にいる五人の警戒する視線が俺に突き刺さったが、それすらも無視して俺は泣き濡れるツキの頬に手を当てた。ツキは拭いても拭いてもポロポロと涙を流しながら眠っている。
「はぁぁ……」
なんでこうなったかなぁ……。
ーーー
――四日前
「ツキ! おいどうした!!」
「っ離れてっす!! 離れてっす!!!」
泣き叫ぶように離れろと暴れ、俺から逃げようとするツキに、なんでこんないきなり錯乱し始めたのかわからず困惑した。こんなツキ初めて見た。
「おいしっかりしろ!! ツキ!!」
「うあ゛ぁぁあ!!! ごめんなさいっす! ごめんなさいっす! ごめんなさいっす!!」
「くそっ!」
何度名前を呼びかけても叫ぶだけでツキは一向に落ち着く気配を見せない。それどころか嫌だ嫌だとぶちぶちと毛が抜けることも厭わずに自分の髪を引っ張り頭を振りながら小さく小さく隠れ縮こまろうとするツキに、慌ててその腕を掴んで押さえにかかった。それはどこか怯えているようにも、何かから目を逸らそうとしているようにも見えた。
「ツキやめろ!! それ自分が痛ぇだろうが!」
「いやっ! やっ!!」
「や! じゃねぇんだよ!」
バタンッ!
「ボス!! どうしたんだ!!」
「「「ツキ!?」」」
「! ちょうどいいところに来たお前ら! ツキ抑えんの手伝え! あと誰かイーラ呼んでこい!!」
力の限り暴れ、俺の腕から身を隠しつつも逃れようとするツキを必死に抑えつけていると、レトとモージーズーが部屋の扉を開けやってきた。
このツキは尋常じゃねぇ。医者のイーラならここの奴らのメンタルケアとかもやってるしなんとか落ち着かせることができるかもしれないと思った。だから呼んでこいと言ったのに誰も動かない。
「「「「…………」」」」
「? っおい!」
レトもモー達も愕然としたまま動かず何も言わない。いや、レトやモー達だけじゃなく、その後ろからゾロゾロとやってきた連中すらも同じように固まって一向に動こうとしねぇ。
この非常事態に何やってんだよ!!
「やっ! やっ! 離してっす! 離してっす!!」
「ダメだ! ツキ一旦落ち着け!」
「やぁ゛ーー!!!」
「くそっ!」
なんだこれ!! ほんとどうなってんだよ!!
尋常じゃないツキの様子にどんどん焦りが募る。手を離そうにも離せば何をしでかすかわからないため容易に離せない。
「あ゛ぁ゛ぁぁあ!!!」
「おい!! お前ら早くしろよ!!」
「……あ……あぁ、わ、悪い」
「「「…………」」」
扉の前でいつまでも突っ立って固まってる連中に怒鳴れば、漸く全員動きだして俺の加勢に入りだす。けど、どこか青ざめ絶望しているかのような表情が気にかかった。
……もしかしてこいつらなんか原因知ってんのか?
もしそうなら一刻も早く問いただしたいところだが、今はツキだ。俺はレト達にツキを押さえるのを任せ、ツキと目を合わせるようにツキの前へと回る。
「ツキ、もう大丈夫だ。落ち着け。な? 大丈夫だ」
「あ……あ……ッッうわぁ゛ぁ゛ーーッッ!!」
「うぉっ!?」
「あぶねっ!!」
さっきよりも暴れるツキにレトとモーが慌てて押さえる手に力を入れた。ツキは余計に嫌、嫌と涙を溢れさせてしまう。
くそっダメか……。いつものツキならこれで大人しくなるんだけどな。
説得が失敗して、ツキの暴れが増したことでさっきよりもレトの表情が暗くなって、モー達も何か言いたげだ。
……これは先にレト達から話を聞くべきか? けどツキが……
「――ちょっとどいて! はぁっはぁっ、ツキ君大丈夫っ!?」
「! イーラ来たか!!」
どうするべきか考えていた時、部屋の前で屯っている連中を押し除け、息を切らしたイーラがやってきた。早ぇ。それだけ誰かが急いでイーラを呼びに行き、連れてきたんだろう。
「ツキさん!?」
「フレイ?」
イーラのすぐ後ろからやってきたフレイに微妙な気分になった。フレイのことは気に食わねぇが、(ムカつくことに)ツキのお気に入りだ。追い出さないとも約束したし、何かに使えるかもしれないと考えを切り替えた。
「おいイーラ、ツキのこと診れるか?」
「……パニックを起こしているみたいだね。どうしてこんなことに……」
イーラはサッと部屋の惨状を確認し、レト達を見た。するとレトを含むその場にいた全員が複雑そうに頷き、イーラも表情を暗くした。
……こいつもなんか心当たりがあんのか?
「とりあえず落ち着かせないといけないけど……この錯乱様だと少し難しそうだね。何があったかは聞いてたけど、まさかこんなことになっているなんて……」
そう言ってイーラが俺を睨む。
……なんで睨むんだ?
「ちょっと鎮静剤とってくるから待って……ってあれ? 大人しくなってるね?」
「は?」
ツキを見てみると、今さっきまでの暴れようが嘘のようになくなって、レト達に押さえつけられながらシクシクと小さく泣いていた。
「ツキ?」
「ビクッ!! うわぁぁぁーーーん!! やっす!! やぁっす!!」
「うおっと!」
「危ね!!」
「…………」
さっきまで大人しく泣いてるだけだったツキが俺が近寄って声をかけた瞬間また暴れて泣き出した。これは……
「……ボス。ちょっとこっち来ようか。というかツキ君から離れようか」
「…………」
笑顔で手招きするイーラの言う通り、そっとツキから離れ黙る。そうするとすぐにまた、ツキの暴走が落ち着いてシクシクとした泣き方になった。
「「「「「…………」」」」」
なんともいえない空気が部屋に漂った。
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