87 / 150
86.興味ないんっす。けど…
しおりを挟む「――ん?」
街を探索し、しばらく経った頃、感じた視線に後ろを振り向く。ジーっと見られている、そんな視線を感じたのだが振り向けばそれはすぐに消えた。
「なんっすかね?」
姉さんの家を出発してからたまーに感じる視線。視線と言っても魔樹擬の時のような気になる視線ではなく、何か変な格好をしてしまっているか、何かついているのかと自分の服や頭をきょろきょろ見下ろし、叩き、確認してしまうような視線だ。だけど特に何もおかしな所はないように思う。なので首を傾げつつ一応視線を感じた元となる物陰を確認してみて、何もないことに再度首を傾げた後はまぁいいかと続きを歩き出した。
「んーそれにしてもほんと快適っすね」
買い食いで渇いた喉を潤すためにオレレジュースを一口。
プハー! このさっぱりさがいいんっすよね~。
街を見歩きはじめて結構時間が経つが、ここまでで前回街に来た時のように何も上から降ってこないし転びもしない(一回だけ転んだが)。これが食べたいと並ぼうと思った瞬間に急な混雑が発生したり、目の前で売り切れたりなどもしないし、人にぶつかったり馬の暴走にもスリにも合わない。すごく気楽に楽しく買い物ができている。街には人がたくさんいるというのにその人達にも何の不幸も起こらない。これが普通というものなのか。
「……そうっすよね……これが普通なんっすよね。あとでフレイ君拝んどこっす――あ!」
いいことを思いついた。
「フレイ君にも何かお礼にプレゼントしようっす!」
ちょうど今フレイ君はいない。なら内緒でプレゼントを用意して、日頃の感謝にフレイ君にお礼と共にプレゼントを渡そう。で、フレイ君なら食べ物だ。
「……って言ってもこの辺食べ物系何もないっすね。
いつの間にか人通りが減り、周りには住宅が多くなってきていた。
ちょっと戻らないとっすね。
「んー。こっちから行こっす」
スッと横道にそれる。普通に来た道を戻ってもいいが、どうせなら違う道から戻った方が楽しい。初めての道だが、引き返すように戻ればたぶん戻れるだろう。気分はちょっとした冒険気分。それにこういう場所に隠れた穴場の店があったりするものなのだ。たぶん!
「穴場~。お店~。いいお店ないっすっかね~。穴場ー。お店ー。――ん?」
ルンルン気分で歩いていると、前方にひっそりと壁に立てかけられた看板を見つけた。お店発見だ。ワクワクとしつつ駆け足で向かい、何のお店か確認する。――どうやら装飾品系のお店のようだ。
「……う~ん」
これはっす……
装飾系はちょっと違う。ボスも身につけないし、俺もあまり興味がない。なので残念ながらスルーだ。……が、
「…………」
チラリと窓越しに見えた店内の戸棚。そこに飾られてある指輪に足が止まった。そして、なんとなく自分の左手を見下ろした。……小指には当然ボスからもらった指輪が嵌っている。
『愛を誓うとかの意味があるらしいですよ?』
「……」
またなんとなく視線をその隣の指に移し、またまたなんとなくもう一度、窓からお店の中を覗いた。
真新しいそうなお洒落なお店だ。商品は乱雑に置かれておらず、綺麗にテーブルの上に並べられたり、飾り棚に飾られたりしている。温かな照明と木材の色を基調とした店内には落ち着いた雰囲気にちょっと上品な感じがある。お客さんはあまり見当たらない。……なのでちょっとこの中には入りにくい。
考えてみてほしいのだ。上品に見えると言うだけで一歩引いてしまうのに、そこに人がいないというだけでもう一歩引いてしまう。だって初めてのお店なのだ。今俺は一人なのだ。もし、中に入ったとしてお店の人と俺だけの状況を考えるととても気まずい。店員さんの視線が気になる。全然ゆっくり見れないし、すっごく緊張してしまう。ましてや声なんてかけられでもしたら――
「…………いやっす」
頭を振った。
……そもそも別に入る必要はないんっすからそんな入りずらい、ずらくないを考えなくてもいいんっす。ボスはあんまりアクセサリーとかつけない派っすし興味もないっす。俺も同じっす。次行こっす、次。
歩き出す。だが、数歩進んだ所で足が止まる。どことなく後ろ髪が引かれる感じ。先に進めず。もう一度足を戻し窓から店内を覗こうとすれば――
「……どうかされましたか?」
「ひゃふっす!?」
62
あなたにおすすめの小説
あと一度だけでもいいから君に会いたい
藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。
いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。
もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。
※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります
転生令息は冒険者を目指す!?
葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。
救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。
再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。
異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!
とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A
聖女召喚の巻き添えで喚ばれた「オマケ」の男子高校生ですが、魔王様の「抱き枕」として重宝されています
八百屋 成美
BL
聖女召喚に巻き込まれて異世界に来た主人公。聖女は優遇されるが、魔力のない主人公は城から追い出され、魔の森へ捨てられる。
そこで出会ったのは、強大な魔力ゆえに不眠症に悩む魔王。なぜか主人公の「匂い」や「体温」だけが魔王を安眠させることができると判明し、魔王城で「生きた抱き枕」として飼われることになる。
異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします
み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。
わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!?
これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。
おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。
※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。
★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★
★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★
【本編完結】最強魔導騎士は、騎士団長に頭を撫でて欲しい【番外編あり】
ゆらり
BL
帝国の侵略から国境を守る、レゲムアーク皇国第一魔導騎士団の駐屯地に派遣された、新人の魔導騎士ネウクレア。
着任当日に勃発した砲撃防衛戦で、彼は敵の砲撃部隊を単独で壊滅に追いやった。
凄まじい能力を持つ彼を部下として迎え入れた騎士団長セディウスは、研究機関育ちであるネウクレアの独特な言動に戸惑いながらも、全身鎧の下に隠された……どこか歪ではあるが、純粋無垢であどけない姿に触れたことで、彼に対して強い庇護欲を抱いてしまう。
撫でて、抱きしめて、甘やかしたい。
帝国との全面戦争が迫るなか、ネウクレアへの深い想いと、皇国の守護者たる騎士としての責務の間で、セディウスは葛藤する。
独身なのに父性強めな騎士団長×不憫な生い立ちで情緒薄めな甘えたがり魔導騎士+仲が良すぎる副官コンビ。
甘いだけじゃない、骨太文体でお送りする軍記物BL小説です。番外は日常エピソード中心。ややダーク・ファンタジー寄り。
※ぼかしなし、本当の意味で全年齢向け。
★お気に入りやいいね、エールをありがとうございます! お気に召しましたらぜひポチリとお願いします。凄く励みになります!
魔法学園の悪役令息ー替え玉を務めさせていただきます
オカメ颯記
BL
田舎の王国出身のランドルフ・コンラートは、小さいころに自分を養子に出した実家に呼び戻される。行方不明になった兄弟の身代わりとなって、魔道学園に通ってほしいというのだ。
魔法なんて全く使えない抗議したものの、丸め込まれたランドルフはデリン大公家の公子ローレンスとして学園に復学することになる。無口でおとなしいという触れ込みの兄弟は、学園では悪役令息としてわがままにふるまっていた。顔も名前も知らない知人たちに囲まれて、因縁をつけられたり、王族を殴り倒したり。同室の相棒には偽物であることをすぐに看破されてしまうし、どうやって学園生活をおくればいいのか。混乱の中で、何の情報もないまま、王子たちの勢力争いに巻き込まれていく。
【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。
カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。
異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。
ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。
そして、コスプレと思っていた男性は……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる