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143.友達っす
しおりを挟む「あ、あのっ……なんか今帰るっていう言葉が聞こえたんっすけど?」
また転げそうになりながらもフレイ君達の元へ戻れば女神様は頷いた。
「はい。フレイは連れて帰ります」
「そんな……どうしてっすか?」
「もともと先程ズーさんが仰った事態により私があなたの中へのフレイの力に気付くことになりました。そして、フレイを締め上……話し合いのもとに私はこの失態の挽回にとフレイにツキさんの中にある力を回収するように命じたのです。なのに……ふふ」
「「…………」」
女神様めっちゃ怖いっす……。フレイ君もう一回謝ってた方がいいと思うっす。
みなまで言わず暗い笑みを浮かべる女神様にフレイ君はガクブル顔を青くし震えてしまっている。それでも、
「あ、あの姉様? でも、僕もうちょっとここにいた――」
自分の要望を口に出すフレイ君に俺は尊敬の念が絶えなかった。……が、
「自分の行動を振り返り私がそれを許可をするとでも?」
「…………」
言葉を遮られ、冷たくニコリと微笑む女神様にフレイ君はもう二の句を継げない。そんなフレイ君に今度は俺が! っと声を上げた。
「あ、あのじゃあまたフレイ君に会えたりは……」
そそそそそっとフレイ君に近寄りくっついて言う。そんな俺に女神様は残念そうに眉を下げた。
「……フレイは一応こんなのでも私と同じ神です。あまり私達神がこの場に留まり続けることは推奨されません。祝福や呪いと同じく周囲にどれだけの影響を及ぼすか計り知れませんので……」
チラリとボス達を見る女神様。
「それに、力を回収できたと言ってもその力は長年ツキさんの身に宿り共にいた力。その染み付いた力をすぐに、完全に消し去ることは難しいためもうしばらくツキさんはその力の影響を受けることになるでしょう」
「え?」
「もう一度走りに行っていればモーさん達の仰る通りになっていたかと」
「ひえ!?」
まじっすか!?
「とは言っても力の大半は失われていますので、あなたが恐れているような事態は起こりえませんし、起こる不幸の頻度も落ちることでしょう。ツキさんにはもう暫くご迷惑をお掛けしてしまうと思いますがご辛抱下さい。……そして、それだけ神の力は強力なものなのだとご理解いただきたいのです」
「……はいっす」
「……できればご迷惑をお掛けしてしまった分ツキさんの希望には添えるようにして差し上げたいのですがなにぶんフレイはこうなので……」
はぁぁ……とわざとらしく溜息を吐き、フレイ君に視線をやる女神様。そんな女神様にフレイ君はカッと顔を赤くし、噛みつく勢いで声を上げた。
「っな、なに!? 別にあとちょっとくらいここにいてもいいじゃん! 影響だとかそんなこと言って姉様だってたまにっ――」
「黙なさいフレイ。私はきちんと神としての職務を全うし、力を抑えてここに降りているのです。あなたのように下で力を使うことはありませんし、使うとしてもそう何度も何十回も使ったり致しません。なのにあなたときたらどうでしたか? あなたはまだ神として未熟、今回のことでそれはわかっていますよね?」
「っ」
やはり黙らせられるフレイ君はとても悔しそうだ。
「……フレイ君……。ボス……」
そんなフレイ君に助けを求めるようボスを見上げるも、首を横に振られる。
「流石に俺も神の事情はよくわからねぇから口出しできねぇよ」
「……」
チラッとレト兄やモー達を見てみるも同じく頭を振られた。
「はいっす……」
しょんぼりと肩が落ちた。
……さっきまで笑って怒って話してたっすのにいきなりお別れなんっすか?
「……フレイ君……」
名残り惜しくフレイ君を見れば、フレイ君も同じように俺を見ていた。
「……ツキさん、僕……」
「フレイ。これ以上は許しませんよ。私の言い付けを破り、初めから力を使い勝手なことばかりし、人の仲を掻き回そうと企んでいたあなたに同情の余地はありません。……まぁ、その企みは全て失敗していたようですが」
「っし、失敗なんかしてないよ! それに身近に潜り込んだ方が力を取り返し易いかなと思ったからでっ掻き回すつもりは――」
「どの口が言うのですか。さっさと接触し、今のように触れればよかっただけではないですか。ツキさんにならできたでしょう? それにそのチャンスは幾らでもありましたよね? 恋愛本を読むのは勝手ですけれど、現実にそれを求めるのはやめなさい。……あなたの空回りは見ていてこちらが恥ずかしくなってしまうほどでしたわ」
「なっ~/// 空まわ!? そ、そんなことないもん!! 僕上手くやってたもん! ていうか、見ないでよ!!」
「なかなか帰って来ないあなたが悪いのです」
「そっ!? だっ!?」
「下手な言い訳ほど見苦しいものはありませんよフレイ」
「~~っ!!」
……なんかまた姉弟喧嘩ぽいものが始まっちゃったっすね。
思わず呆気に取られた。――が、
「だ、だって!! ~~った、確かに久しぶりの現世だしちょっと遊んでやろうとは思ったかもしれないよ!? ツキさんチョロそうだしラックとの仲引っ掻き回して遊んでやろうとか思ったかもしれないよ!?」
……え?
「弟みたいとか言ってたから意地悪してやろうとかも思ったし僕に懐いてきてるのも馬鹿だなぁって思って丁度いい暇つぶしのおもちゃだと思って見てたけどさ!!」
…………ええ?
思わぬフレイ君からの攻撃に愕然とした。
「お、俺おもちゃっすか?」
「な? だから言っただろ? あいつ性格悪いって」
「……」
なんか涙出てきたっす……泣。
「でも全部失敗して、割食ってたの僕じゃん! おざなりに対応されて可哀想な扱いされてたの僕じゃん! ツキさんの不幸に巻き込まれてボロボロになってこき使われてたの僕じゃん! 空回りとかさ、そんなこと言うんならそんな怒らなくてもいいじゃんか! 僕すっごく可哀想だったでしょ!?」
フレイ君が叫ぶ。
不幸体質になった原因よりフレイ君が俺を馬鹿だと思っていたことの方が衝撃的で悲しい。いつものふわふわフレイ君の微笑みの下でそんなことを思っていたなんて……。いや、ボスからも言われていたし、たまに現れるブラックフレイ君になんとなくわかっていたが本人の口から直接聞くのと聞かないのとではダメージの大きさが違う。仲良くなれたと思っていたが、フレイ君にとって俺は玩具と変わりなかったのか……。
………………ホロリ。泣
「可哀想どころかとても痛快であったことは確かですが、それとこれとはまた別です。あとフレイ、全て自供してしまっていることに気付きなさい。人間をおもちゃと言うのもやめるべきです」
「っお、おもちゃは言い過ぎかもしれないけど暇つぶしに遊んでもいいじゃん! 僕は神だよ? 僕は偉いんだよ!?」
「はぁぁ……確かにあなたは神ですが、そんなこと許されるわけではないでしょう。どこでそんな間違った知識を入れたのですか。人にだってそれぞれ心があり、いくら神でも予想のつかない事をする生き物でもあるのですから油断してはなりません。……あと、とても傷つきやすい生き物でもあるのですから」
「姉様? どこ見て……!?」
「シクシクシク……(泣)」
「!? ツキさっ!?」
いいんっす。いいんっすよ。俺が一方的にお友達だとかお兄ちゃんになるとか思ってただけっすから。一緒に過ごして、フレイ君とだんだん心を通わせることができるようになったって日に日に喜んでたっすけどそれ全部俺が勝手に思ってたことなんっすからいいんっすよ。あ……違うっすね、こんな考えすら烏滸がましくてフレイ君には迷惑だったんっすかね……。
「シクシクシクシクシクシクシク……(泣)」
「あ、いや、ちょ、ツキさん? あの初めは……そ、そう! 初め! 初めだけだからそう思ってたのは! 今はというかもっと前からそんなこと思ってないよ? 違うよ!?」
「無理はしなくていいんっすよフレイ君……」
「いや、無理とかじゃなくて!」
フレイ君の話をうんうんと聞きながらやっぱりフレイ君は優しいな~とホロリと涙をこぼした。それを見てフレイ君がまた焦って「違うって!」と叫ぶがうんうんと頷くだけにとどめた。でないともっと泣いてしまいそうだ。
「ツキさん聞いてよ!!」
「うんうん……ホロリ」
「フレイの必死さ笑えるな」
「はぁぁ……根は素直な子なのです根は。なのにどうしてああも考えが足りず見栄っ張りで傲慢的な台詞ばかり吐く捻くれ者なのでしょうか。……結局は後悔するくせに……」
「だな」
ボスと女神様がなんか喋ってる。だが、俺は――
「ぼ、僕はもうツキさんを! と、友達だと思って……だからもっと一緒にいたくてっ……そう思ってて……っ僕……っ!」
「! フ、フレイ君!」
涙を湛えながらも友達だと、一緒にいたいと言ってくれるフレイ君に胸がきゅんっと心が立ち直った。そして泣き出してしまったフレイ君に俺も涙があふれて二人でポロポロ涙をこぼし抱き合った。
「……フレイ、初めてのお友達です」
「……あー、ツキもだな」
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