ネット

さかにゃ

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いち

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夏休み。学生なら基本的に喜ぶ人が多いだろう。ただ、俺からしたらただの生き地獄だ。友達を作るのが下手な俺は、高校に入学してからの一学期中、友達を作れなかった。
「あー。まじ、やることねぇ。」
そう独り言を呟きながら、スマホで面白そうなゲームを探していた。
ふと、人気ランキングに目をやるとアバターを作ってネット上の人と交流するゲームを見つけた。そこで、俺は暇すぎたせいで変な考えに陥ってしまった。
(そうだ!ネカマしよう!!)
ネカマして、男を釣りまくってやろう!その後にネタばらしして、反応を楽しむ…。我ながらクズで面白そうな発想だ…。
俺は、そんな人として最低な任務を遂行すべく、アカウント作成へ向かった。

(んー。男ウケ良い女アバねぇ…。)

数分後。
「よっし!完璧!!」
もうそれは、ただ単に俺のドストライクな少女のアバだった。綺麗な黒髪ロングに、丁度良い長さの前髪…。多少、童顔気味な黒目の超絶美少女!!!
「完璧過ぎる…俺は天才か…。」
これは、もう釣れないはずがない。ユーザーネームは、菜乃花にしよう…。本名っぽくて、おっさんがよく釣れそうだぜ。
「ログイン!!」
ログインのボタンを押すと、早速ゲーム画面が出てきた。そのゲームはとてもシンプルで、まずは自分の部屋から始まる。掲示板というところで、色んな人と会話してその人の部屋へ行ったりして遊ぶらしい。
思ってた以上に、ゲーム要素は無いが掲示板という所がこのゲームの主体的な部分らしい。
(とりあえず、掲示板に書き込んでくるか。)
「どうも、こんにちは。今日このゲームを始めました(´▽`)仲良くしてくれる方、一緒にお話しましょ!」
こんなんで良いだろう。そう書き込むと、すぐにコメントがついた。
「んちゃ。よろしくね~(´ω`)菜乃花ちゃんは何歳かな?」
うわぁ。こいつ、いきなり年齢聞いてきやがった。こいつ釣ってみるか。
「菜乃花はね、10歳なんだよー!よろしくね、無名さん!」
口調まで10歳の女子に近づけてみた。これなら、勘づかれないだろう。
「そうなんだ。お兄さんと仲良くしよう( ^ω^)」
ふっ…。俺の完璧な演技に気づいていない。
「わーい!仲良くしよっ!お兄さんのお名前は?」
「黒くんって呼んで~( ^^ )」
黒くんと名乗った、胡散臭そうなやつがフレンド申請をしてきた。了承することで個チャというものが出来るらしい。
(了承っと。)
了承ボタンを押すと、すぐに黒くん(笑)から個チャがきた。
「フレンド登録ありがと~( ´▽`)ノ菜乃花ちゃんはえっちなこととか、好き?」
きたーwwwエロチャ求めてくるやつぅ~w
「えー?菜乃花よく分からなーい。黒くん教えて!」
まだ、純粋な少女のフリをしておこう…。
「そっかぁ( ^^ )菜乃花ちゃは、今、どんな服を着ているのかな?」
「ワンピースだよ!」
(適当)
「そうなんだ!可愛いね。写真とか送れない?」

写真…送れないし、とりあえず誤魔化しとくか。

「ごめんなさい!お母さんいるから、写真送れない!」
「お母さんいるのか!お母さんも一緒にスマホやってるの?」
ビビってやがるwww
「ううん!見てないよ!お母さんは、今ねご飯作ってる。」
「じゃあ、お兄さんがえろちゃってやつ、教えてあげる( ^^ )」
これは草。
「教えて!菜乃花は何すれば良いの?」
「俺が指示すること、してくれれば良いよ(´ω`)」
なんとなく、想像してたが、キモイなwww
「うん!分かった。」
「じゃあ、お母さんから見えないところに行ってね。」
「うん!移動したよ!」
「じゃあ、自分の胸触ってみて( ^^ )楽しいから!」
よっし、ここら辺でこのクズを成敗してやる!菜乃花ちゃんから、男にチェンジッッ!
「わーすごーい!きもちー!じゃねーよ!ばーーーか!10歳女子に何させようとしてるんや変態!俺は男だよw」
あ~実際にやってみると、地味に罪悪感w
チャット返して来ない気がするww
「は?うざ。〇ね。」
はい出た、暴言厨。
「暴言厨とか草。お前、さっきまでのキャラどこいったんだよwww黒くーん!」
煽りすぎか?と思いながらネットだから調子に乗ってしまう。まぁ、相手もクズだが大概、俺もクズだな。
「まじで、面倒だから。そーゆーの。暇人かよ。」
「お前も暇人だろwリアル充実してないからって、ネットでイキるなしw」
あっ、今の地味にブーメラン。
「お前よりは充実してるわ。」
「え?何で判断したんw?」
「お前と話すの面倒だわ、てか、ネカマとかきも。ブロックするわ。」

ブロックされました。

その表示で、俺と黒くん(笑)の会話は終わった。まぁ、約10分。地味な罪悪感と、何してんだろう…っていう感情だけで、特に充実感も何も無かった。

「あー…。何してんだろう。まじブーメランだろ。」

リアル充実してないのは、俺もなんだよなぁ…。


二学期の始め。あの経験から、そろそろ友達を作らないとヤバいと、感じた。
(とりあえず、俺の近くの席の人に話しかけよう。)
俺の席の後ろの人は…。あの、黒髪のメガネつけた、いかにも陰キャってやつか…。
まだ、ホームルームまで時間があるせいか、俺の席の周りにはそいつしか、まだ来ていなかった。
(よっし。)
「おはよう。今日から二学期だな。ちょっと、だるいよなw」
友達ではないが、クラスメイトならこれくらいの会話普通だろう。
「えっ…。あ、はい。そうですね。」
(暗ぇ。)
ただ、仕方ない!友達のいない俺はいくら暗いやつでも、仲良くならなきゃ、やってけない!
「夏休み何してた?」
「あっ…。えっと、ゲームしてました。」
「まじで!?俺もゲーム好き!スマホゲーとか何やってる?」
俺は、そう言って後ろの席のやつのスマホのホーム画面をじっと覗いた。
そこには、俺の夏休みの黒歴史であるあのゲームが入っていた。これなら、話す話題になる!こんな形で役に立つとは…。
「俺も、そのゲームやってる!フレンド交換しようぜ!」
「あっ…。はい。是非。」
「実は、俺、ネカマしてるんだよねーw」
「ネカマ…。ですか。楽しいですか?」
「んー?まぁ、そこそこねぇ。」
そうこう、話しているうちにフレンド登録画面に進んだ。
(近くの人とフレンド登録…。これで良いのか。)
「じゃあ、この近くの人とフレンド登録ってやつでいいよな?」
「あっ、はい。」
読み込みをしている画面がグルグルと回っている。
「なかなか、読み込まねぇな。」
「そうですね。」
グルグルが、止まった。
「お?終わったか?」
「そうっぽいですね。」
そこには、フレンド登録済のためフレンド登録に失敗しました。と書いてあった。
「ん?俺たちってもうフレンドになってたのか?」
この発言のあとに、はっ、となった。俺は、あれ以来ゲームを開いていない。ということは、フレンドは黒くん(笑)しかいないはずだ。ということは…。
「あっ…。」
「あっ…。」


俺の二学期デビューは、失敗に終わった。お互いの黒歴史を晒したボッチ2人は、無言で会話を終了しお互いのことには触れなかった。


そのあと、気まづそうにした黒くんこと、黒田くんは、卒業まで俺と目すら合わせず話すこともなかった。
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