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第一章
06話 魔術決闘Ⅰ-2 【1/2】
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「球早すぎて、見えないなっ」
「何言ってんだ! お姉ちゃんのこと、応援しろよ!」
少年に喝を入れられるのは、黒髪の幼女のシュクだ。少年は絶対的自信のある眼で、ラーミアルに意識を注いでいる。
「お姉ちゃん、頑張れー!」
子犬が親しい人間に甘えるような鳴き声で、叫ぶ。尻尾が生えていたら、確実にぶんぶんと振り回しているだろう。
そんな熱烈な小さい応援者を横目に、シュクは試合の戦況について思案をしている。
[両者とも相手が様子見をしている状態に見えるな。‥‥‥しかし、スーゲは余裕そうだが、負けないという自信でもあるのか?]
高速に舞う、6個の炭色に燦爛する球。それらと、刀が擦れ、空気の振動が観客席まで伝わってくる。ラーミアルは俊敏に受け流しながら、慎重に間合いを調整しているようだ。
ふと、周囲に広がる歓声の中に、シュクは耳を傾けた。それは、丁寧に解説する内容の会話であった。
「スーゲ騎士って言ったら、王都の二等騎士の一人。基本的に職務の執行で、戦闘は少ないがやっぱり強いぜ!」
「いやいや、ラーミアルって娘も負けてないぞ! あの刀裁き、逸品もんだぞ! 剣ではなく刀というところも味があってイイ」
2人組は満喫するように、熱弁し合う。
「おいおい、あの娘、スーゲ二等騎士を押してるぞ!」
「いやまて! スーゲ二等騎士も余裕そうだぜ」
2人組は手に汗握る状況を大声で実況する。誰も彼らの会話を気にしていないようなので、問題なさそうだ。
シュクは再び中央に意識を集中させた。ダークブラウンの瞳で、顔に手を当てながら勝負を見守る。
幼女の短く整った髪。それの靡く回数は、段々と増していく。
+++ +++ +++
天にある陽の座標は、まだ高い。
一本の刀を巧みに操り、目にも留まらぬ速さで乱舞していく。ラーミアルは脅威の進攻をして、スーゲを切迫する。
「なるほどー、キミ―これでもついて来れるんですか。兵士を飛び級して、騎士になれそうですね。しかし、私には追い付くことはできませんが」
「褒めていただき感謝します。しかし、そろそろ本気を出す気にはなっていただけましたか?」
「キミ―、それはまだだねー」
スーゲは一歩も引く気配で口を開いている。距離を測りながら、互いに会話をしていく。スーゲは球を駆使し、間合いを取りながら好機を覗う。それに対し、ラーミアルは猶予を与えないように刻刻と攻める。
「キミ―、これならどうだい?」
すると、スーゲはラーミアルを細目で睨みつけた。そして杖を軽やかに振る。
――スーゲの周囲の空間に光輝が放出され、瞬間的に霧消した。
「もう、準備運動は終わりだ。キミ―、本番を始めるよ」
厭みたっぷりな笑顔で杖を上に掲げた。その先に舞っていた球たちが集合する。そして、重々しい球が10個ということが確認できた。
スーゲの頬からは、僅かに汗が落ちる。
「どうだいキミ―? これで今までの余裕が見られなくなると思うと残念だよ」
「いえ、私もこれより本番とさせていただきます」
「フゥッン、精々強がるんですね、キミ―」
10の数の球は、指揮により連携の取れた動きでラーミアルの進行を遮断する。重圧感のある大きい鉄塊は、急速により間を空けずに襲撃を行ってくる。
直撃すれば生死の境を彷徨うことになるであろう。その激しい往来を、寸分違わずに躱す。
ラーミアルの動作は球の軌道の看取により、研ぎ澄まされたモノになっていた。それにより、数が増えたことによる弊害を全く感じさせない。
現状の動きは、格段に速さが伸びている。10、7、5メートルと電光石火の勢いは止まらない。
すると、ここにきて始めてスーゲの足元が動いた。それまで、地から離れない両足は前後左右に小刻む。
既に、先程までの余裕は顔から消え、心の奥の感情が表に出てきた
「キミー、ちょこまかと鬱陶しいね」
スーゲは苛立ちの声を上げた。眉間に皺がより、周囲で飛び回る虫を払う顔になっている。10つの黒球の扱いが、熟練者の指揮者から腕が落ちた者へと変わる。腕を大きく振り続け混乱、翻弄されているようだ。
ラーミアルは、3から5メートルの間合いを取りながらスーゲの攻撃に集中する。何度も鼓膜を突き刺す金属音が響く。
「スーゲ騎士長、そろそろ本気を出しては、いかがでしょうか?」
「キミ―、うるさいですよっ!」
スーゲの焦りは、汗という形で流れた。大量の額から落ちる汗を拭い、杖を乱暴に振り回す。対するラーミアルは、汗を殆どかいていない。彼女の日々の鍛錬の成果が、はっきりと理解できる。
ラーミアルはじっくりと潮時を狙う。
スーゲの荒い足取りによる、乱れた球の数々。
一瞬の隙――ラーミアルの目蓋は大きく見開かれた。瞬時のことだが十分だ。力強く地面を踏み込み、スーゲの懐に一気に入り込んだ。
その瞬間、始めの攻撃時に防御されたことが脳裏に過った。
[このまま攻めても守られるだけ。それなら]
と、ラーミアルはステップを調整し、タイミングをずらす。
そして、一筋の閃光が黒色の服を突き抜けた。そう悟るのは誤っていない。しかし、刃の尖端は服に掠り傷さえもつけられていない。透明で頑丈な壁がスーゲとラーミアルの間にあるような。
「やはり、防御系の魔術は付与されていますか」
「うるぅさぁぁあーーーいぃっ!!」
怒号が響く。
「はなぁれぇろぉおーー! キィミィィイイーー!!」
真っ赤に塗られた顔で憤怒する。雄叫びを上げ、球を操り、ラーミアルを強引に後方へ押し返した。
凄まじい衝突は刀のみで防ぎ、ラーミアルの身体は激走する球に運ばれる。その距離、15メートル。空中で軽やかに態勢を整え、幻想的に着地する。
そして、ラーミアルは刀を下に構え、スーゲの様子を覗う。
「キミィー、私は子供相手に負けてイイはずがないのだよっ! 騎士が‥‥‥騎士が負けるハズゥがぁないっ!!」
王国を代表する騎士――その誇りはスーゲにとって何物にも代えられない至高。その品位があろうことか、子供に脅かされている。
彼の怒りの原因は単純だが、真意は他にあるようにも感じられる。
スーゲは鋭利な眼力で睨みつける。ラーミアルは動じない面持ちで視線を返す。
「キミ―、もう謝罪は受け付けない。イイねっ?」
「はい」
スーゲは杖を使い、無造作に宙をなぞった。そして、周囲の空間に4つの光が放出される。瞬間的な強い光源は、戦場一帯を呑み込んだ。
「キミー、これならもう余裕を見せられないでしょー!」
高笑いをしそうな表情で、両腕を大空へと上げるスーゲ。それに釣られるように、ラーミアルも首を動かした。
「これは出し惜しみしていられませんね」
10、20、・・・・・・、50
その数、推定で50個。空を炭色の球体に占拠されている。この場を飛行する鳥がいれば、それらを避けるのは苦労するであろう。
ラーミアルは状況を迅速に把握すると、自分自身に囁いた。
「キミー、行きますよ」
スーゲは、「ハァハァ」と息を漏らし、頬には大量の汗が流れている。長距離を走り終わった後のように、体力の消耗が激しい顔つきだ。
杖をラーミアルに荒々しく向け、
「イケェッ!」
と、司令をする。それとともに、強烈な速度で突撃する50個の球。
数多い球を目視したラーミアルは――目を閉じ、刀を鞘に納めた。
「キミ―、諦めたのかね? でも、もう遅いのだよ」
ラーミアルは微動だにしない。客観的に見れば、諦めた人間。しかし、彼女の表情は違う。腰で眠る生命に語りかけるような。そんな穏やかな感じだ。
柄を握る手は、その時を待つ。
「キミー、私の配下になってもらうよぉー!」
球体はラーミアルを逃がさない牢獄のように包囲した。
そして――寸秒も早く轟音とともに金属音が反響した。身体を震わせる激しい音波。四方を囲む炭色の壁によって、ラーミアルの姿は遮られた。
「フフッ。これは手荒な真似をしてしまいましたねー。これでは、配下になることは難しくなりましたね」
不敵に浮かぶる笑みは、最初から予定した通りと言わんばかりだ。
闘技場は静寂に包まれている。
「キミー、勝敗は決まったんじゃないかな?」
「えっ? はっ、はい! 勝者はっ!」
審判の兵士は、慌てるように甲高い声を上げた。
「何言ってんだ! お姉ちゃんのこと、応援しろよ!」
少年に喝を入れられるのは、黒髪の幼女のシュクだ。少年は絶対的自信のある眼で、ラーミアルに意識を注いでいる。
「お姉ちゃん、頑張れー!」
子犬が親しい人間に甘えるような鳴き声で、叫ぶ。尻尾が生えていたら、確実にぶんぶんと振り回しているだろう。
そんな熱烈な小さい応援者を横目に、シュクは試合の戦況について思案をしている。
[両者とも相手が様子見をしている状態に見えるな。‥‥‥しかし、スーゲは余裕そうだが、負けないという自信でもあるのか?]
高速に舞う、6個の炭色に燦爛する球。それらと、刀が擦れ、空気の振動が観客席まで伝わってくる。ラーミアルは俊敏に受け流しながら、慎重に間合いを調整しているようだ。
ふと、周囲に広がる歓声の中に、シュクは耳を傾けた。それは、丁寧に解説する内容の会話であった。
「スーゲ騎士って言ったら、王都の二等騎士の一人。基本的に職務の執行で、戦闘は少ないがやっぱり強いぜ!」
「いやいや、ラーミアルって娘も負けてないぞ! あの刀裁き、逸品もんだぞ! 剣ではなく刀というところも味があってイイ」
2人組は満喫するように、熱弁し合う。
「おいおい、あの娘、スーゲ二等騎士を押してるぞ!」
「いやまて! スーゲ二等騎士も余裕そうだぜ」
2人組は手に汗握る状況を大声で実況する。誰も彼らの会話を気にしていないようなので、問題なさそうだ。
シュクは再び中央に意識を集中させた。ダークブラウンの瞳で、顔に手を当てながら勝負を見守る。
幼女の短く整った髪。それの靡く回数は、段々と増していく。
+++ +++ +++
天にある陽の座標は、まだ高い。
一本の刀を巧みに操り、目にも留まらぬ速さで乱舞していく。ラーミアルは脅威の進攻をして、スーゲを切迫する。
「なるほどー、キミ―これでもついて来れるんですか。兵士を飛び級して、騎士になれそうですね。しかし、私には追い付くことはできませんが」
「褒めていただき感謝します。しかし、そろそろ本気を出す気にはなっていただけましたか?」
「キミ―、それはまだだねー」
スーゲは一歩も引く気配で口を開いている。距離を測りながら、互いに会話をしていく。スーゲは球を駆使し、間合いを取りながら好機を覗う。それに対し、ラーミアルは猶予を与えないように刻刻と攻める。
「キミ―、これならどうだい?」
すると、スーゲはラーミアルを細目で睨みつけた。そして杖を軽やかに振る。
――スーゲの周囲の空間に光輝が放出され、瞬間的に霧消した。
「もう、準備運動は終わりだ。キミ―、本番を始めるよ」
厭みたっぷりな笑顔で杖を上に掲げた。その先に舞っていた球たちが集合する。そして、重々しい球が10個ということが確認できた。
スーゲの頬からは、僅かに汗が落ちる。
「どうだいキミ―? これで今までの余裕が見られなくなると思うと残念だよ」
「いえ、私もこれより本番とさせていただきます」
「フゥッン、精々強がるんですね、キミ―」
10の数の球は、指揮により連携の取れた動きでラーミアルの進行を遮断する。重圧感のある大きい鉄塊は、急速により間を空けずに襲撃を行ってくる。
直撃すれば生死の境を彷徨うことになるであろう。その激しい往来を、寸分違わずに躱す。
ラーミアルの動作は球の軌道の看取により、研ぎ澄まされたモノになっていた。それにより、数が増えたことによる弊害を全く感じさせない。
現状の動きは、格段に速さが伸びている。10、7、5メートルと電光石火の勢いは止まらない。
すると、ここにきて始めてスーゲの足元が動いた。それまで、地から離れない両足は前後左右に小刻む。
既に、先程までの余裕は顔から消え、心の奥の感情が表に出てきた
「キミー、ちょこまかと鬱陶しいね」
スーゲは苛立ちの声を上げた。眉間に皺がより、周囲で飛び回る虫を払う顔になっている。10つの黒球の扱いが、熟練者の指揮者から腕が落ちた者へと変わる。腕を大きく振り続け混乱、翻弄されているようだ。
ラーミアルは、3から5メートルの間合いを取りながらスーゲの攻撃に集中する。何度も鼓膜を突き刺す金属音が響く。
「スーゲ騎士長、そろそろ本気を出しては、いかがでしょうか?」
「キミ―、うるさいですよっ!」
スーゲの焦りは、汗という形で流れた。大量の額から落ちる汗を拭い、杖を乱暴に振り回す。対するラーミアルは、汗を殆どかいていない。彼女の日々の鍛錬の成果が、はっきりと理解できる。
ラーミアルはじっくりと潮時を狙う。
スーゲの荒い足取りによる、乱れた球の数々。
一瞬の隙――ラーミアルの目蓋は大きく見開かれた。瞬時のことだが十分だ。力強く地面を踏み込み、スーゲの懐に一気に入り込んだ。
その瞬間、始めの攻撃時に防御されたことが脳裏に過った。
[このまま攻めても守られるだけ。それなら]
と、ラーミアルはステップを調整し、タイミングをずらす。
そして、一筋の閃光が黒色の服を突き抜けた。そう悟るのは誤っていない。しかし、刃の尖端は服に掠り傷さえもつけられていない。透明で頑丈な壁がスーゲとラーミアルの間にあるような。
「やはり、防御系の魔術は付与されていますか」
「うるぅさぁぁあーーーいぃっ!!」
怒号が響く。
「はなぁれぇろぉおーー! キィミィィイイーー!!」
真っ赤に塗られた顔で憤怒する。雄叫びを上げ、球を操り、ラーミアルを強引に後方へ押し返した。
凄まじい衝突は刀のみで防ぎ、ラーミアルの身体は激走する球に運ばれる。その距離、15メートル。空中で軽やかに態勢を整え、幻想的に着地する。
そして、ラーミアルは刀を下に構え、スーゲの様子を覗う。
「キミィー、私は子供相手に負けてイイはずがないのだよっ! 騎士が‥‥‥騎士が負けるハズゥがぁないっ!!」
王国を代表する騎士――その誇りはスーゲにとって何物にも代えられない至高。その品位があろうことか、子供に脅かされている。
彼の怒りの原因は単純だが、真意は他にあるようにも感じられる。
スーゲは鋭利な眼力で睨みつける。ラーミアルは動じない面持ちで視線を返す。
「キミ―、もう謝罪は受け付けない。イイねっ?」
「はい」
スーゲは杖を使い、無造作に宙をなぞった。そして、周囲の空間に4つの光が放出される。瞬間的な強い光源は、戦場一帯を呑み込んだ。
「キミー、これならもう余裕を見せられないでしょー!」
高笑いをしそうな表情で、両腕を大空へと上げるスーゲ。それに釣られるように、ラーミアルも首を動かした。
「これは出し惜しみしていられませんね」
10、20、・・・・・・、50
その数、推定で50個。空を炭色の球体に占拠されている。この場を飛行する鳥がいれば、それらを避けるのは苦労するであろう。
ラーミアルは状況を迅速に把握すると、自分自身に囁いた。
「キミー、行きますよ」
スーゲは、「ハァハァ」と息を漏らし、頬には大量の汗が流れている。長距離を走り終わった後のように、体力の消耗が激しい顔つきだ。
杖をラーミアルに荒々しく向け、
「イケェッ!」
と、司令をする。それとともに、強烈な速度で突撃する50個の球。
数多い球を目視したラーミアルは――目を閉じ、刀を鞘に納めた。
「キミ―、諦めたのかね? でも、もう遅いのだよ」
ラーミアルは微動だにしない。客観的に見れば、諦めた人間。しかし、彼女の表情は違う。腰で眠る生命に語りかけるような。そんな穏やかな感じだ。
柄を握る手は、その時を待つ。
「キミー、私の配下になってもらうよぉー!」
球体はラーミアルを逃がさない牢獄のように包囲した。
そして――寸秒も早く轟音とともに金属音が反響した。身体を震わせる激しい音波。四方を囲む炭色の壁によって、ラーミアルの姿は遮られた。
「フフッ。これは手荒な真似をしてしまいましたねー。これでは、配下になることは難しくなりましたね」
不敵に浮かぶる笑みは、最初から予定した通りと言わんばかりだ。
闘技場は静寂に包まれている。
「キミー、勝敗は決まったんじゃないかな?」
「えっ? はっ、はい! 勝者はっ!」
審判の兵士は、慌てるように甲高い声を上げた。
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