極悪令嬢は清楚系美女になりたい!!

おひるね

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二章

五十四話

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「アヤノちゃんがユニフォーム交換をしたい理由は……わかるのよ。神秘の泉で見てるから。だからね、言える事が一つあるの」

 それは不意に、逆膝枕で鼻をむにむにと太ももに押し付け堪能している時だった。

 10分ループは200回を超えていた。このままずっと、この時間が続くのかと思った、そんな時だった。

 返答をためらいつつ、逆膝枕で息を荒げる俺をよそにお姉さんは続けた。

「アヤノちゃんが毎回嬉しそうに着てる、このキャミソールはエリリンの服。本当のわたしのキャミソールじゃないの。……に、偽物なのよ」

 少し恥じらいながらも、俺を諭すようなトーンで話すお姉さん。偽物と言われても、いまいちピンとこない。なぜなら俺は、大満足しているからだ。考えるとドキッとしてしまう。何度目かわからないユニフォーム交換。俺は今、それを纏っているのだから。

 逆膝枕で荒げる息はさらに荒くなった。そんな様子に気付いたのか、お姉さんは少し強めの口調でさらに続けた。
 
「本物ではなくて偽物で満足していいの? アヤノちゃん。あなたは本物のキャミソールを手に入れるのよ。だからもう、ここには来ちゃダメ」

 なんとなくわかっていた。70回目のループの際に、死の淵を奇跡で乗り越えてから今のいままで、溺愛されていた。でも、これはいけない事。お姉さんの優しさに甘えるかたちで俺は知らんぷりをして甘え続けていたんだ。

 そしてついに、溺愛タイムの終わりを告げるように『もう、来ちゃダメよ』と、懐かしい言葉をもらってしまった。

「いいんだ。お姉さんが着てたんだからこれは本物!!」

 逆膝枕越しに声を大にして言ってやった。素直な、正直な気持ちを。

「違うわ。わたしがパジャマとして使ってるキャミソールはもっとヨレていて色褪せているわ。アヤノちゃんならわかるでしょ? それがなにを意味するか」

 ドクンッ。確かにさっきまでまったくもって興味のない話だったはずなのに、心が揺らぐのを感じた。


 偽物……本物……。でも、だからって……。


「こ、これが本物だ。フェロモンだパルファムだ友情の証だ!!」

 ちょっと何を言いだしちゃってるのか自分でもわからない。

「ううん。アヤノちゃんは変態さんだもの。もうわかってるはずよ。答えを見つけてる。いいの? この、エリリンのキャミソールで満足しちゃって? 本当にそれでいいの?」

 うっ…………。さらにワンランク上のアーマー。そりゃ欲しいさ。身につけたいさ。でも……。

「この世界は偽物。依存しちゃダメよ。アヤノちゃんには、本物の世界を。本物のキャミソールを手にしてもらいたいのよ。だから……もう……。来ちゃダメ」

 確かに、このアーマーにはジャスミンお姉さんの歴史がない。あるのはエリリンが着てきた歴史。

 偽物……。かもしれない。

 本物のアーマーにはお姉さんの歴史が詰まっている。繊維の一本一本に時が刻まれているんだ。

 だからってこの世界のお姉さんとバイバイをするのか。さよならをするのか。それこそ偽物じゃないか。

 キャミソールが好きなんじゃない。お姉さんが好きなんだ。でも、本物が欲しい。……違う。そうじゃないだろ。自分が嫌になる。

「違うんだ。キャミソールが好きなんじゃなくて、お姉さんが……好きなんだ!!」

 言ってしまった。恥ずかしくて逆膝枕がやめられない。お姉さんの顔を見れない。

「わたしもアヤノちゃんのことは好きよ。神話級魔法に選ばれ、勇敢に立ち向かっているんだもの。人として、尊敬しているわ。だから本当の意味で力になりたいの。こんな……欲望を満たすだけの時間なんて……ダメよ。意味がないもの。先はないのだから」

 悲しそうな声色で話すお姉さん。精一杯の告白に対しての返事なのかと思うと少し切ない。
 きっと、好きの意味が伝わってないのだろう。でも、これでいい。結局は女の子同士なのだから。

 奇跡でも起こらない限り、このループのお姉さんと次へ進める事はないと思っていた。でも、一つ気付いた事がある。それは毎週月曜日だ。

 何かが起こるとしたらその日。そのとき、その瞬間。

 ◇

 俺がチロル家にお泊まりしたのは出会いから三日目。あれは水曜日のこと。そして日付けが変わり木曜日朝方に旅立った。

 仮に朝四時だとすると、木金土日。3日と20時間。

 ふかふかベッドで目覚めるのを仮に午後一時と仮定する。一晩明かし、買い物へ行き帰って来た。今は大体午後九時くらい。

 経過時間は1日と8時間くらい。

 死を経由しないならチロルちゃんが月曜日を迎える迄は残り2日と12時間。分換算すると……3600分。

 つまり、360回目くらいの10分ループでちょうど一週間。チロルちゃんに月曜日が来る。


 この事をお姉さんに言おうかどうか、太ももに鼻を埋め真剣に考える。……やっぱり言えない。確証がない事で期待させるわけにはいかないんだ。

 俺がこの世界に来る事でしか生きることができないんだ。10分ループのお姉さんは。絶対に言えない。万が一、期待を裏切るような結果になったら……。

 あと160回。飽きさせず乗り越える。だから俺は言うんだ。わがままを。たくさん。

「いいの! そんな事はどうでもいいの!! それより耳掻きしてよぉぉ!! おねがぁぁぁい!!」

「もうっ、真面目に話してるのよ? ねぇ、アヤノちゃん。ほんとに──」
「じゃあっ、耳掻きしてくれたら考えるっ!!」

 話をさえぎるようにグイグイいく。とにかくあと160回だ。

「まったくもう……。じゃあ約束できるならしてあげるわ。耳掻きが終わったらちゃんと話を聞くこと。いい?」
「もちろんだよぉぉ! やくそく!!」

 当然破る。耳掻きが終わったら次の事をする。

「絶対だからね? じゃあここにコロンってして。耳掻きしてあげるから……って、綿棒も耳掻き棒もないわね」

 逆膝枕から顔をくるりと回し、耳をお姉さんに向ける。掻く物がないのはわかってる。用意した言葉を当たり前にぶつける!

「指でいいよぉ!!」

「えっ?!!」

 それはもう、驚いたような声で時が止まったようにお姉さんは固まってしまった。指で耳掻き。果たしてそれは耳掻きと言えるのか。でも、今はそれしかないんだ。

 あと160回。なんとしても……なんとしてでも!!


 ──さぁて、その次は何しようかなぁ~。えへへ。

 
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