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二章

最終話 お子様キッス

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 与えられたのはキスではなく死だった。
 薄れゆく意識の中、掠れた声で精一杯に伝える。

「き、キスを……お願い……します」

 我ながら情けない。刺して来た男にキスを懇願する。この場に及んでみっともない。でも、もう他に……選択肢がない。キスをされて死ぬか、されずに死ぬか。

 死亡フラグはとっくに回避したと思っていた。
 結局、遅いか早いかの違いでしかなかったのかな。この世界に残っても、そう遠くない未来に死んでいた。

 初めから、勇者レオと向き合う以外に生存ルートはなかったんだ。


「すまない。せめてこの胸の中で安らかに」

 とても温かく、不思議と安心する。
 その手で刺したというのに心音はとても静かで穏やかさすら感じる。

 これから俺に起こる死は当たり前のこと。だから心配はいらない。そんな風に思えてしまう。

 もう、いいかな。と、いつもながらに最後のときを受け入れようとした時、顎をクイっとされた。

 あぁ、これは……。

「君の唇を奪う資格は、俺にはない。けれど、それを望むのなら……いくらでもさし出そう」

 唇と唇が一瞬だけ触れる、お子様キッス。
 キスって、こんなにも恥ずかしい気持ちになるんだ。

 もしかしたら俺は、汚れていたのかもしれない。
 なにかが浄化される不思議な感覚。

 お子様キッス。お子様キッス。お子様キッス。


「どうか、安らかに」

 ありがとう。レオ様。
 幸せな……最後でした。



 ──ピキ、パラパラパラパラ。

 視界にヒビ。上空に投げ出されるような今までにない演出。

 死んだのか、生きているのか。わからない。

 でも、たぶん……終わったんだ。
 なんとなくわかる。

「ありがとう。楽しかった」

 うん。最後の言葉は、これ。
 はぁ……バカヤロウだよな俺は本当に。色々と。


 でも、ありがとう。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

 ハッ! ここは……ふかふかベッドの上?

 どういうことだ? 8回目なのか?


 ま……しゅ……ま……ろ……。
 む……に……むに……。


 けしからん。けしからんぞ!

 むにむにむにむにむにむにむにむにむにむに!
 むにむにむにむにむにむにむにむにむにむに!

 ◆ ◆

 バタンッ!

「追い詰めたぞゴクアーク!!」

 う……そ? いつものパターンだ。
 いや、大丈夫。七回目とほぼ同じ状況。エリリンが来てくれるルートだ!!


《氷結ッ! 》

「なんのつもりだジャスミン?!」

 勇者レオの脚が凍った?! えっ? お姉さん?!
 あっ、こっち向いてニコってしてくれた!

《チェーンジェイルクロス》

「ぐはっ。姫?!」

 光の鎖が両腕を縛った?! ヒメナちゃん?!
 あっ、こっち向いてニコってしてくれた!

「はぁーい、レオ! これ見えるー?」

 エリリン!! 直径10メートルはありそうな巨大な剣が勇者レオをロックオンしてる!!

 な、なんなの?! なにごと?!
 あっ、こっち向いてニコってしてくれた!


「なんのお遊戯だ? こんな無駄な事を。エクスカ────」

「ストップです。レオ、後ろの時計を見てください」

 橙色の大きな時計。指針は59秒で止まっている。
 えっ、カシスちゃん?!
 あっ、こっち向いてニコってしてくれた!

 みんなニッコニコだぁ! なんだろこれ……どうなってるの?!


「うそだろ……?」

 一瞬で青冷める勇者レオ。きっとこれはやばいやつ!

「わたしの意思で止めてます。いつでもその命、取れます」

「ま、待ってくれ。俺が何したって言うんだよ? 冗談にしては……わ、笑えないぞ?」

 勇者と呼ぶにはあまりにも情けない表情。
 たぶん、この中で圧倒的に一番強いはずなのに追い詰められてる。

 追い詰められるのはいつだって俺だった。
 ふかふかベッドの上でその時を待つだけだった。
 でも、今は違う。突然のことで理解が追いつかないけど、なんかすごい事が起きてる!!
 

「レオ、取引をしましょう」
「取引……だと?」
 
 神妙な面持ちでジャスミンお姉さんが本題とばかりに声を出した。

「わたしたちね、未来から来たの」
「はぁ?!」

  「はぁ?!」

 あっ、やばっ。勇者レオとシンパシー起こしちゃった。

 テクテクテクテク。

 あっ、カシスちゃんが来る。お、怒られちゃう。

 ツンツンッ!
「静かにしてなきゃダメじゃないですか。まったく、あやのんはしょうがない人です」

 あっ、いつもの……太ももツンツンっ!
 まさかの、あやのん呼び!
 これは七回目のカシスちゃんだ!!

 つまりは、そういうことなの?!

 ◆


「一つ、アヤノちゃんの命を守ること
 二つ、アヤノちゃんの爵位奪還を手伝うこと
 三つ、このパーティーから抜けること」


「納得はできないが、命には変えられない。約束しよう」

「さすがレオね。いい物差しを持っているわね。さぁ、聖剣に誓いを立てなさい」

「誓いを、聖剣に誓いを……」

 その誓いは、唇を噛み締めながら立てられた。

  
 ◆ ◆ ◆

 かくして、俺は死亡フラグを回避した。

 振り返ってみるとくんかくんかすぅーはぁーしてばかりだった。

 ときにはツンツン。
 ときにはムニムニ。
 ときにはムギュムギュ。

 そしてペロッ!

 きっと、どれか一つでも欠けていたら死んでいたに違いない。ひとつひとつが奇跡を紡いだんだ!




 これから始まるのは美少女四人とのビューティフルデイズにしてアバンチュール。幸せいっぱい夢いっぱい!

 ──夢の異世界生活の始まりだぁ!
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