優しさだけでは付き合う事が叶わなかったので、別の方法で口説く事にしました♪

おひるね

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19話

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 ブブー。杉山からメッセージか。

《もう授業始まってんぞ!!》

「むぅ! きんし!!」
 突然ちほが怒りだした。ぷんぷくりんとしている。

「はぁ?」
「一緒に居る時はダメ!! スマホきんし!!」
 今にも俺からスマホを取り上げようとする勢いだ。
 おいおい、冗談だろ……。とりあえず杉山に返信するか。


《すまん。大丈夫だから、気にするな!》っと。

 よし。送信っ──めっちゃ俺のスマホを覗き込んでる。いや、プライバシーとか無いんですかね。ほんと。

「次、スマホ出したら許さないからねッ!!」
 お、おい待てよ。覗き込んで言う事はそれか?
 杉山だぞ? ダメなのか。……圧倒的経験不足。いや、しかし。これが普通なのか? 彼女が居た時のない俺にはわからない……。


 怒って居たかと思えばすぐにニッコリ。どこまでが本気なのか、計算なのか。
「早くいこッ!」
 俺を何処かに連れて行こうとする。小さな見た目に反してとても強引な子だ。

「行くって何処にだよ」
「わかんない! けど落ち着くとこがいいなぁ」


 ──ここは静かな廊下。生徒達は皆、授業を受けている。足音すら響く、静かな静かな廊下。俺たちの声は響いていたのだろう。

 授業中の先生が教室から出てきあ。どこか誇らしげな顔で、こちらに向かってくる。

「そういう事なら奥の準備室を使いなさい。今日のところは大目に見るから!」
 事もあろうか、このおっさんはウィンクをして来た。 そして恐らくは準備室であろう鍵をちほに渡した。

「ありがとうございます」
 ウィンクこそシカトしたが、ちほが先生と言葉を交わすところを初めてみた。相変わらず冷たい様子だが……。

 お礼を言われ、一瞬、停止する先生。

「……!! 今日と言わず、明日も明後日もいいんだからな! あはは!」
 なんか調子に乗り始めました。


 ……先生の言葉は色々と引っかかる。

 考える俺に追い討ちをかけるかの如く、耳打ちをしてきた。
「八ノ瀬、頼んだぞ!」
 俺の肩をポンっポンっと叩きニコッとする。
 意味がわからない。頼むって何を。
 しかし、こうも非日常を何度も突き付けられると不思議な事に驚きも薄れる。

 きっと、これが〝日常〟なんだ。と、狂気じみた錯覚を受け入れる事でしか自分を保てなくなる。

 俺だけ蚊帳の外に居るのは明白だ。当事者で一番近い場所に居るはずなのに。
 これは罰だな。他人に興味を持たなかった事への罰。大して知りもしないのに二見ちほにいみちほと付き合った。
 白石攻略の〝糧〟程度にしか思っていなかったのだから仕方がない。

 ……やめよう。考えてしまうと泥沼に嵌りそうだ。



「じゃ、ごゆっくり!」
 またもやこの言葉だ。そう言うと先生は教室に戻って行った。


「えへへ。ごゆっくりだって! いこいこー!」
 ……ごゆっくりと言われて嬉しそうにするのはやめなさい。しかし彼女の笑顔を見ると、落ち着いた気分になる。


 ──俺は小さな手に引かれ、準備室へ向かった。
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